複雑・ファジー小説
- Re: シークレットガーデン 〜小さな箱庭〜 ( No.107 )
- 日時: 2014/06/02 16:39
- 名前: 姫凛 (ID: C/YHgPFP)
「この気配と臭い…。まさか、召喚獣っ!?」
「…しょうかんじゅう?」
ファヌエルから発せられる独特の異臭を嗅ぎ、ヒスイは眉をゆがめた。ルシアはきょとんとした表情でヒスイを見つめ首をかしげる。
それを見たムラクモはファヌエルに剣を構え
「死んで間もない人の子の魂を人工的に作りだした器に入られた魔物の事です」
「グボォォォォン!!」
ファヌエルはムラクモに向かって飛びかかるが、それを軽々と避け県の先をファヌエルへと向ける。 が、鉄のように固い皮膚で跳ね返されてしまい傷一つ付ける事が出来なかった。
「…また人の魂か」
あの荒くれ者、ザンクが使役するアルミサイルもまた、うら若きフュムノスの娘たちの魂を喰らう事で作られた魔物だ。
胸が締め付けられるように痛い。ドルファにとって、人の命などただの道具でしかないのだろうか…。
「ぼーとしたら、駄目!」
「っ!!」
「グホォォォ!!」
意識がそがれたルシアに向かってファヌエルが大きな口を開け、食らいつこうとした。
ヒスイがすぐに危険を知らせてくれたため、ルシアは間一髪かわすことが出来たが
「じ、地面がっ!!」
「食べられたっ!?」
ファヌエルはルシアの代わりに地面の一部を食べ、大きな水しぶきを上げながらまた深く沈み、次のターゲットに狙いを定める。
「(さすがユウだ。躾がいい…)」
強気者を目の前にしムラクモの闘争本能が疼く。
「フハハハッ。まさかこんなチャンスが転がってくるなんてね。叢、ヒスイ、この二人を同時に殺せるなんてボクはついているね」
ユウは特別席からゆったりと高みの見物でリングを見ている。
「それに、甘くておいしそうな……ドルチェ付きだしね」
と言いながらグサッと人の肉で作られたケーキにフォークを刺す。それを不気味な笑みを浮辺、一口で耐えらげた。
「…ユウ様。あの男がどうかなさいましたか?」
静かにひっそりとユウの隣に立っていた執事が口を開いた。
「君はまだ知らなくていい事だよ」
まだ口にケーキが残っているが、モゴモゴとしながら不機嫌そうに言った。
「はっ、失礼いたしました」
「(ルシア…ね。あいつもここで殺しておかないと。希望の勇者なんてこの世に入らない…)」
執事に聞こえないようひっそりとブツブツと、言った後ユウは血で出来たジュースを一気飲みした。
- Re: シークレットガーデン 〜小さな箱庭〜 ( No.108 )
- 日時: 2014/06/04 13:45
- 名前: 姫凛 (ID: /ighEAMi)
ポタンッ
「…………」
「……ヒスイ?」
ヒスイは神経を研ぎ澄まし静かに佇んでいる。ヒスイの行動を不思議に思ったルシアは、何をしているのかと聞こうとしたが
「シッ!」
とムラクモにとめられた。
「ヒスイさんは水の音を聞いているんですよ」
「水の音?」
「ヒスイさんは目が見えない分、そのほかの語感が通常の人の倍に発達しているんです」
「語感が…発達?」
説明されてもよくわからないと首をかしげていると、ムラクモは小声で此処は彼女に任せましょう。と言った。ルシアも取り敢えず、わかった。と頷いた。
「グアァァァァァァ!!」
「わっ、きたっ!」
ファヌエルはヒスイめがけて大きく飛び上がり、襲い掛かる。だが水の音を聞き、ファヌエルの動き、行動パターンを把握し何処から襲い掛かってくるか予測しわかっていたヒスイは、動じずスゥーと刀を抜き
「ッ!」
カシャ
ファヌエルとすれ違う一瞬で斬り捨て、水の中に落ちる瞬間で刀を鞘にしまった。それはたった二秒間の出来事だった。
ルシアは時が止まったような感覚になった。己も観客も誰もかもが呼吸も動く事も叫ぶことも忘れ、固まってしまった。まるでそれは時が止まってしまったようだった。
硬直した時計の針を動かしたのは、ユウの吐血音だった。
「グハッ!」
「ユウ様っ!?」
ハッと我に返り皆、声を出すことを思い出し歓声や悲鳴がコロシアムを飛び交う。
特別席を見ると、苦しそうな表情を浮かべるユウの姿があった。
「えっ?なんでっ!?」
ヒスイが倒したのはユウが召喚した、バケモノ。ユウ自身には何も危害を加えていないのに何故、彼は吐血し苦しそうな声をあげているのかと言うと、
「術者と召喚獣は一心同体。召喚獣が敗れれば、術者にもそれなりのダメージがあります」
「……ぁ」
「グゥ……」
苦しそうな声をあげユウはまた、吐血した。
それを見て少し良心が痛むルシアだったが、武器から手を放し地面に落としたムラクモの姿を見て、今自分がしなくてはいけないことを思い出し、剣から手を放し地面に落とした。
「な、なんとっ、ユウ様が敗れたーーー!!?」
「「ざわざわ……」」
「どうした司会者。一人は敗れ、二人は武器を置いたぞ」
「ぐぬぅぅぅ……ゆ、優勝者は……」
「ま、まてっ…ボクはまだ…っ!!」
吐血しながらも苦しみながらも、試合続行を申し出るユウだったが、ルールは絶対。司会者は渋々、
「盲目の剣士、ヒスイだーーー!!新チャンピオンの誕生だーーー!!」
「「お……おぉーーー!!」」
最初はユウが敗れたことに動揺していた観客たちだったが、新チャンピオン誕生に喜び
「ヒスイ!ヒスイ! ヒスイ様ーー!!」
温かい歓声をヒスイに浴びせた。
「…あ、ありがとう」
少し赤く頬を染め、ぎこちないながらにも可愛らしい笑顔でヒスイはコロシアムにいるすべての人々に向け、手を振った。
「……あれ?ムラクモ…さん?」
この喜びを分かち合おうと、ルシアは傍にいるはずのムラクモに声をかけようとしたのだが、どこを探してもムラクモの姿がなかった。
代わりに伝言があった。どうやら急用が出来たらしく、此処からは別行動をとるらしい。
ルシアはせっかく仲良くなれたのに…少し寂しいなと思った。
アリーナコロシアム地下
コロシアム関係者のごく一部しかその場所を知らない、極秘の地下室。この場所には大量の火薬や爆弾が隠されている。
何故、コロシアムの地下にそんなものが隠されているのかは…。
「ハァ…ハァ…」
腹を押さえ足を引きづり、苦しげに呼吸しながらユウが地下へと降りて来た。
「まだ…だ、ボクはまだ、負けてなんか、いない」
諦めの悪い青年は、地下に隠してある爆弾の中で最大級の破壊力を持つ、とある兵器の前で立ち止まった。
「これだ…このスイッチを押せば……コロシアムごとあいつらを……フフ…アハハ……ぁぁっ」
壊れた青年はすべてを巻き沿いにし自滅をはかろうとしたが、彼の腹には一本の大剣が…貫通していた。
振り返ると、仲間だと呼ばれていた過去の戦友の姿が。
「む、むら……」
「敗者に用などない」
「ぐぅ……あぁ…ぁぁぁ」
ゆっくりと青年は崩れ去り、死んだ。かつての友から大剣を抜き去ると、
「すべては、王の望むままに……」
その場を立ち去って行った。友の目には一滴の水が流れていた。
-コロシアム編-終