複雑・ファジー小説
- Re: シークレットガーデン 〜小さな箱庭〜 ( No.119 )
- 日時: 2017/01/31 11:16
- 名前: 姫凛 (ID: sxkeSnaJ)
「闇病……。 いえデスピル病だったね
噂には聞いていたけどまさか…本当に人間がバケモノになるなんて……」
歯を噛みしめ顔を逸らす。ヒスイの眉間にはシワがよっている。
「私……バケモノに…?」
シルもまた己が時期に人ならざるバケモノになる事実にショックを隠せないようだ、
声は震え 顔からは血が引け青ざめた表情をしている。
その場は凍り付いたように重たく息苦しい空気だ。二人はあまりの衝撃事実に言葉を失いそれ以上は話さなかった。
「そんなことっ!僕がさせません!!」
重たい空気の中、ルシアが声をあげた。
「……ルシア」
「……」
二人はまだ哀しみに満ちた顔をしている。
彼女達は知っているようだ。デスピル病には特効薬など存在しない、一度かかったら最後、治すことなど絶対にあり得ないということを…。
だがルシアは知っている。デスピル病は不治の病と呼ばれていたのはまやかしだということを!
「デスピル病は治せるんです!
でも……治すためにはシルさんが僕を受け入れてくれる気持ちが必要なんです」
「…ルシアさんを……受け入れる?」
デスピル病はある意味するところでは心の病気、
患者の心の中に直接入り心に / プリンセシナへ突入し 最下層にある
シークレットガーデンに潜む 悪/敵 である魔がい物を倒すことでデスピル病は完治することができる。
だがシークレットガーデンへ辿り着くためには、患者との信頼関係が必要不可欠。
なぜなら、患者の闇 すなわち誰にも見られたくない心の傷 忘れ去ってしまったはずの過去を思い出すこととなるからだ。
「前にやったときはもうっ必死だったから、強引にやったんです。
この方法でしか友達を救えないって思ったから……」
助ける為だったとはいえ強引にシレーナの心の闇を除いてしまったことを未だ後を引きづるルシアにパピコは
『そんなことはございません!どうがご自分を責めないでくださいまし』
『パピコさん…』
『シレーナさまはご自分の意思でご主人様を受け入れたのですよ?』
『……それでもいい気はしないよ』
『ご主人様…』
誰かの心の闇を覗くなどたとえ固い絆があったとしてもやってはいけないことだとルシアは考えている。
誰にだって見られたくない / 知られたくない過去など持っている物なのだから…。
「……いいよ」
「シルさん!?」
色々思考を巡らせているとシルが静かに答えた。
「他の人なら嫌だけど、シルビアが認めたルシアさんなら…いいよ」
静かにそう言うとシルは力尽きたように体をぐたりとさせ動かなくなった。
デスピル病の第一段階 深い眠りについたようだ。
彼女の顔は生気が抜けた青ざめた表情だったが、口元は笑っているようだった。
「……シルさん。絶対に助けます!」
ルシアはシルをお姫様抱っこの形で持ち上げ、ヒスイと共に近くの宿へと向かった。
宿に着きチェックインを済まし、シルをベットへゆっくり優しく寝かせる。
『ご主人様。ブレスレットをシルさまの胸の辺りへ』
『…うん』
頭の中にパピコの声が聞こえる。
パピコの言う通りに、ブレスレットををシルの胸のあたり持っていけば入れるのだろう。シルのプリンセシナへと。
「じゃあ始めるね。…シルさん」
「………」
シルから返事はない。返ってくるのは静かな寝息。
胸がゆっくり上下に動く。はたから見ればこの少女は眠っているだけのように見えるだろう。
だかデスピル病患者である彼女にはもう二度と目覚めの朝を迎えることは無い。
次に目覚めの時がきたとすればそれは、人ならざるバケモノだから…。
「大丈夫。シルさんの傍には私がいるから」
「うん。ありがとうございます。ヒスイ」
ルシアはヒスイへ礼を言ってすぐに
「行きます!」
シルの胸へブレスレットを持っていく。シルの胸から ブレスレットから眩い光が発せられる。
光は次第にルシアを包み、飲み込み、そして光の中へと消え去った。
「行ってしまいましたか…」
部屋に一人残されたヒスイは、そっとベットに横たわるシルの手を掴み
「貴方は愛されているんだね…」
と言いそして
「私も愛されたかったな…」
と静かに呟いた。その瞳には一滴の涙が零れ落ちた。
- Re: シークレットガーデン 〜小さな箱庭〜復帰! ( No.120 )
- 日時: 2017/02/03 11:09
- 名前: 姫凛 (ID: 13XN7dsw)
『ヒヒ〜〜〜ン』
『メェ〜〜〜』
『モォウ』
「−−−−−ッて牧場!!?」
晴天の空。
青々と生い茂る草木。それをむしゃむしゃと頬張る 馬 羊 牛 などの動物たち。
ここはどこをどのような角度から見ても牧場としか言い様がない場所だった。
「ご主人様〜♪」
「あっ パピコさん」
羊群れがいる方向から、大きな妖精のような羽をもった妖艶な女性。
パピコがまた例のごとく不気味な笑みを浮かべ 手をふりながらルシアの方へと向かってくる。
そしてやってきた瞬間
「あっ パピコさん。……じゃ、ねぇーですよ!」
「…へ?」
早速 お怒りモードだ。
何故パピコが怒っているのかわからないルシアはきょとんとした顔を下している。
そんなのおかまいなしと、パピコは続ける
「ホントにもぉなんなんですかっ ご主人様! 守備範囲広すぎだっつーの!!
私の身にもなってほしいものです」
???
ルシアの頭の中はクエッションマークしか浮かんでこない。
このままでは話が進まい。仕方ないの本題を切り出すことにした。
「ねぇ パピコさん」
「はい?」
「シレーナの時は真っ暗で何もない部屋だったのに、シルさんは牧場なの?」
「…へ。あ あぁ…はい。ご主人様はご存知なかったのですね」
「…?」
「プリンセシナは人の心が創りし世界。
なのでその人物にもっとも思い出深い大切な場所などが反映されやすいのです」
(いきなりですがここからは-ルシアside-)
そうか だからシレーナのプリンセシナは森が舞台だったんだ!
でもだったらシルさんにとって最も思い出深い場所が牧場って事に…?
辺りを見渡してみると、食料不足問題時代と呼ばれている現在からは考えられない豊かな場所だな…ここは。
吹く風が気持ちいい。
草原に寝転んでみると、草のいい香りがする。
日差しも気持ちいし油断したらこのまま眠ってしまいそうだ…。
「んー」
「私達の新居もこんなのどかな場所にいいですね〜」
パピコさんも僕の横に寝転ぶ。
新居かぁ…そうだね。こんな素敵なところならきっと…ヨナも喜んで…
「ってまったりしてたら駄目だよ!!」
「ご主人様?」
そうだっ ヨナ! …の前にシルさん!
僕はシルさんを助けるためにシルさんのプリンセシナに入って来たんだった。
どうしてひなたぼっこしてお昼寝しようとしてたんだ……僕は!!?
「チッ(作戦失敗ですか…)」
あれ…?
今 パピコさんが作戦とかなんとか……いやまさかね。そんなことあるわけないよねっ。
パピコさんはちょっとめんどくさいところがあるけど、基本いい人だしね。
「パピコさん。頼みがあるんだけど」
「はいはいなんでござますかぁ〜♪」
「今回も調べてくれないかな?」
今の僕がシルさんの心の中へ何処まで行けるのかを…。
パピコさんは一瞬嫌そうな顔をしたように見え…たような気もするけど、僕とシルさんの絆度を調べてくれた。
「……む」
パピコさんの表情が曇る。
あぁ…やっぱり。なんとなくは感じていた予感が的中したみたいだ。
「ハッキリ言っていいよ」
「ご主人様…。では 遠慮なく」
嘘 偽りなくパピコさんは答えてくれた。
やっぱり僕とシルさんとの絆度では到底 シークレットガーデンへ辿り着くのは不可能らしい。
それもそうだよね。僕たちはドルファ主催の競馬大会に出場するために寄った町でシルさんと初めて出会って
いろいろあって友情を深めたつもりだったけどシルさんはそこで別れて、コロシアムで久々に再開したばかりなんだから。
衰弱しきってた彼女に優しく手を差し伸べた 僕なんかに自分の全てを / 心の中をさらけ出せるわけがないんだよ。
「…シルさん。ごめんなさい」
「ご ご主人様!そんなこの世の終わりのような顔をしないでくださいましっ」
パピコさん…。
僕を励まそうとしてくれる貴女の気持ちは嬉しいです。
でも…僕が今治さないとシルさんは二度と目を覚まさなないんだから。
「あーのーですね〜〜!!
シルさまはまだ デスピル病を発病していないんですよ?」
「…うんそうだね。今治さないとシルさんは二度と目を覚まさないんだよね」
「だ〜〜か〜〜〜ら〜〜〜!!
まだ発病してないので猶予は残されてますってば!!」
「…へ?」
まだ猶予が残されている…?
「じゃ じゃあっもしかしてシルさんはまだ!?」
「生きてます。 と言うのはおかしいかもしれませんけど、まだ幾分は大丈夫でございます」
そうか…良かった。
安心したら足がぐらついてその場に膝を付いて座り込んだ。
「ご主人様!?」
慌ててパピコさんが僕に駆け寄る。
本当に良かった。シルさんが今すぐにどうにかなってしまうわけじゃなくて…本当に良かった。
でも少し猶予があるってだけで、彼女が未だ死の淵に立たされていることには変わりないんだ。
「パピコさん!」
「はいっ!?」
「シルさんとの絆度で行けるところまで行こう!
少しでも早く 彼女を苦しみから救ってあげたいんだ!」
「ご主人様♪素敵です。(そのお言葉が私に向けられたものでないのが残念ですが…)」
人の心の闇を覗き見る行為にはまだ躊躇がある。
でも僕がやらなければ、シルさんは意思のないバケモノとなってしまう。
罪悪感はあるけど…。ごめんなさい。
シルさん。貴方を救うため 僕は貴方が絶対に誰にも見られたくない心の闇を見させてもらいます。
「ご主人様とデート、キャッ♪」
「……」
「もうっ照れ屋なご主人様ってば 可愛いっ」
パピコさんといるとなんか締まらないなぁ〜。
僕とパピコさんは第一階層と書かれた扉の前に立ち、扉に手をかざすと音もなく小さな光を発して僕らを包み込んだ。
- Re: シークレットガーデン 〜小さな箱庭〜復帰! ( No.121 )
- 日時: 2017/02/03 11:12
- 名前: 姫凛 (ID: 13XN7dsw)
第一階層
視界を覆っていた 体を包み込んでいた
光が消えて見えてきたのは、先ほどと同じ風景 同じ牧場だった。
とりあえず僕たちはあたりを探索してみることにした。何もわからない状況だからね。
しばらく牧場内を歩いていると
『うんしょ うんしょ…』
大きなバケツを持った女の子が手前の方向から歩いてくるのが見えた。
重たいバケツなのかな?女の子は右に左にってあっちこっちにゆらゆらしながら歩いている。
白いワンピースを着た女の子。誰かに似ているような気がする…。
「あっ もしかしてシルさん!?」
そうだっ あの女の子は小さいシルさんだ! 顔になんとなく面影が残っている。
「何をしているのでじょう?」
「聞いてみよう」
「はい♪」
小さいシルさんに近づいて行き
「こんにちは」
『…こんにちは』
軽く声をかけてみた。
いきなり知らない人に話しかけられて、小さいシルさんは警戒しているみたいだ。
僕は警戒を解くために優しく話ける。
「ねぇ何をしているの?」
『えと…おうまさんたちにあげる おみず…くみに』
「へぇ お家のお手伝い?偉いね」
『…そんなこと…ない』
まだ警戒心は解けないみたいだ…。
まぁそうだよね、いきなり知らない人に話しけかられてすぐに打ち解けたら危ないよね…。
どうしたら打ち解けられるかな…? んー、そうだ!
「僕も手伝うよ」
『…え なんで?』
「だってそれすっごく重たそうだよ? 僕が持ってあげるよ」
小さいシルさんは少し考え込んだあと
『‥…はい』
小さな手を差し出しバケツを渡した。
受け取ったバケツは見た目以上に重かった…。よくこんな重たいもの、あんな小さな女の子が持ててたなぁ…。
「うぅ」
『…だいじょうぶ?』
「う うん。へーきだよ?」
本当は全然平気じゃないけど…。腕と足がプルプルだよ。
「…っ えっとどこまで運べばいいのかな?」
『あっち!』
小さいシルさんは赤い小屋が見える方向を指差し、そこへ向かって走って行っちゃった。
「あっ 待って」
「ファイトです!ご主人様っ」
「う、うん」
なんか安請け合いして失敗したかも…。
ちょっと泣きたくなってきたけど、引き受けたからにはしょうがない。
僕は何度かこけそうになりながらも、赤い屋根の小屋に向かって歩きだした。
「よいしょ…よいしょーーっと!」
数分後なんとかたどり着いた。
『ありがとう、お兄ちゃん』
「はは… どういたしまして」
「お疲れ様です。ご主人様」
つ、疲れた…。
もう体銃がバキバキだ…。今日は筋肉痛確定だな…これは。
『ヒヒーン』
『あ シルビア!』
小さいシルさんの元に白い子馬が近づく。シルビア…そうかあの子が。
「ま 子馬ですか?」
『うんっ。わたしがうまれたひにこの子もうまれたんだよ』
「じゃあ 君たちは姉妹なんだね」
『わたしがおねえちゃんで、シルビアがいもうとなの』
『ヒヒーン!』
シルビアは大きな声をあげる。そうだよって小さなシルさんの意見を肯定してるみたいだ。
二人は本当に仲が良いんだね。二人を見てたらフレアを思い出してきたよ。
あいつ元気にしてるかな…? 宿屋のおばさんに迷惑 かけたりしてないかな…? くすっ。
『゛−−−゛ご飯よ』
『あっママだ!』
え…? 今
『じゃあね、おにいちゃんたちー ばいばいー』
「待ってシルさっ」
止める間もなくシルさんは走り出し、あっという間に見えなくなってしまった。
「どうかなさいまし?ご主人様?」
「…いや」
今確かに゛−−−”って……聞き間違いだったのかな?
[ギギギギィ]
遠くから次の階層への扉が開くいた音が聞こえてきた。
ちょっと気にはなるけど、今は先に進むしか出来ない。この場に留まっていてもこれ以上得るものはないみたいだし…。
僕らは第二階層と書かれた扉を探し出し、扉をくぐり抜けた。
- Re: シークレットガーデン 〜小さな箱庭〜復帰! ( No.122 )
- 日時: 2017/02/03 11:16
- 名前: 姫凛 (ID: 13XN7dsw)
第二階層?
目を開けなくてもわかる。
暖かい日差し 動物の鳴き声 青々とした草木の香り
「また牧場だね」
「そうでございますね」
第二階層もまた牧場だった。シルさんはどこにいるんだろ?
シルさんを探そうとまた牧場を探索しようとしたその時
『きゃああ!!?』
『だ、誰かたすけてくれー!!』
「「っ!?」」
女の人の悲鳴と男の人の助けを求める声が聞こえてきた。声はそう遠くない、近くだ!
「パピコさん!」
「はいっ!」
僕たちはすぐに声がした方へ走って行った。
「あれはまがい物!?」
プリンセシナに巣喰うバケモノ まがい物が農家のおじさんのような格好の男の人とその奥さんらしき女の人に襲いかかっていた。
『た…たすけ』
『…ぁああ』
「グルル」
意思のないバケモノ。あいつらには知性も理性もない、あるのは喰うという本能だけ。
あの人たちを助けないと! 僕は考えるよりも先に剣を抜き
「はぁぁぁ!!」
「グギャァァァ」
まがい物を真っ二つに切り裂いていた。
「はぁ…はぁ。 大丈夫ですか」
『ぁ…ありがとうございます』
『た…助かったのか…私たちは…』
二人は緊張の糸がほつれ安堵の表情をしている。良かった二人共 怪我とかはないみたいだ。
そうだ。あの二人ならシルさんがどこにいるのか知ってたりしないかな。
「あのすみません。 シルさんがどこにいるかご存知ないですか?」
『シル…さんですか?』
「えっとあそこの牧場の女の子なんですが…」
『あぁ。″−−−″ちゃんのことね』
あ…まただ。またあの違和感を感じる。
『なんだ。あんた知らないのかい?』
「?」
「あの子、少し前に行方不明になったそうなんですよ」
「えっ行方不明!?」
「ええ。今は森緑の騎士団の方々が探しているらしいけど…」
「まだ見つからないらしいよな」
「そんな!?」
第一階層と第二階層の間になにがあったんだ!?
シルさん、どこへいってしまったんだ。とにかく第三階層へ早く行かないと!
いや第一階層と第二階層の間の階層?
う〜〜ん、僕だけじゃわからないや。ここはパピコさんに相談してみよう。
「教えてくださってありがとうございました。
じゃあ僕らはこのへんで…」
『あ?あぁ。助けてくれてありがとよ』
『本当にありがとうございます』
二人と別れてすぐにパピコさんに聞いてみる。
「第一階層と第二階層の間にあった出来事って見ることはできないのかな?」
「…できないことはありませんよ」
「えっ そうなの!?」
良かったならすぐにでも見に……行こうと思ったけどパピコさんの表情が浮かない。
「もしかして…絆度が?」
「はい…。この記憶はシルさまにとっては最も見られたくない記憶の一部なのでしょう。
ですから内容がカットされていたのです」
「そっか…」
僕はまだシルさんに信用してもらえてない。
絆度が足りない今の状態ではここらへんが限界ということなのか…。
「でもでもぉ、絆が深まればこっちのもの♪
意図的に消された、幻の扉も出現するというものです」
「幻の扉?」
パピコさんいわく、幻の扉とは本来は存在しないもの / ありえないもの らしい。
深い絆で結ばれた者同士だけだ出現させて、開くことができる扉らしい。
「ささっご主人様。お帰りの時間でございますよ」
「うん…わかった」
体が光に包まれていく。
「シルさまとご主人様の絆が深まり、幻の扉が出現しましたらまた 愛のラブコールにておせらせ致しますね〜♪」
と言っていたパピコさんの言葉を最後に僕の意識はプツンと、電池の切れた機械のように 途切れ視界は真っ暗になった。
(-ルシアside-終)
- Re: シークレットガーデン 〜小さな箱庭〜復帰! ( No.123 )
- 日時: 2017/01/31 11:16
- 名前: 姫凛 (ID: sxkeSnaJ)
「……ん」
「ルシアっ」
「…ぁ ヒスイ?」
目を覚ますとそこはシルのプリンセシナへ向かった時と同じ場所、宿の部屋だった。
ルシアはベットにもたれかかるような体制だった。駆け寄って来たヒスイの手を借り椅子へと腰を移す。
「どうだった?」
「…じつは」
ルシアはかいつまんで要点だけをヒスイへ伝えた。
「そうだったんだ…まだ治すことは出来なかったんだ…」
「…うん。でも絶対に僕が治してみせるよ!」
「ルシア」
「…あ そういえばもう朝なんだね…」
カーテンでしめられた窓からはうっすらと朝日と思われる日差しがさしこんでいる。
「そうよ。ルシアがあっちに行ってからもう 十時間くらいはたっているかな?」
「そ、そんなに?」
プリンセシナでは外の世界のような時間の概念がない。
外でいかに時間が経過しようとプリンセシナでは全くと言っていいほどに時間は進まない。
「あそこに長くいすぎたら、浦島太郎状態になっちゃうな」
「ふふっそうなんだ?」
「「あははっ」
ルシアとヒスイは顔を見合わせ楽しそうに笑い出す。
先程までずっと長く苦しい戦いが続き 身も心も磨り減っていた二人にはつかの間の休憩だ。
だがその休憩もすぐに終わった。突然の来訪者によって
「クワー!」
「うわっ!?」
「きゃっ!?」
閉じていたはずの窓が突然開き、大きな鷹が部屋の中へ入り込んできたのだ。
「鷹!?なんでこんな街中に鷹が!?」
鷹はルシア達の頭の上を一周回り机の上へ着地した。
どうやら敵意などはないようだ。鷹は左足をルシアの前へ差し出した。
「え…なに? あ 手紙が」
鷹の差し出した足には一通の手紙が括り付けらていた。
「伝書鳩ならない、伝書鷹?」
「さ、さぁ…?」
不審に思いながらもルシアは鷹から手紙を受け取り読んでみることにした。
手紙にはただ一言だけ
[ルシアー、ヘルペスミー!飛行船で、仮面の国へゴー!]
とミミズがはったような汚い次で書かれていた。
「どなたから…なんと?」
目が見えないヒスイはルシアに尋ねる。
手紙を読んでルシアは思った…。このつたない感じはたぶん
「…ランファだな」
「ランファ?」
ヒスイは首をかしげる。
「はぐれた僕の仲間の一人なんだ。いつも騒がしい女の子で…」
「元気いっぱいな子なんだね」
「あれは元気すぎるというか…なんというか…」
あははっと二人はまた笑う。
「…仮面の国へ行くの?」
不意にヒスイが真剣な顔で言った。先程まで見せた笑とはかけはなれた氷付いた怖い顔だ。
「もちろん」
「どうして?罠かもしれないよ?」
「それはないですよ。
もし罠だとしたら、もっとしっかりしてるシレーナやリアさんを差出人にするだろうし」
そもそも伝書鷹で手紙を送ったりしませんよ。…と苦笑いしながらルシアは続けた。
だがヒスイの表情は硬いままだ。
「くぅー」
待ちぼうけをくらっている、鷹がバサバサと翼を羽ばたかせながら鳴く。
「あぁっ ごめんね。ランファには明日の便ですぐに行くから待ってて、伝えてくれるかな?」
鷹はクワッと大きくひと鳴きすると翼を大きく広げ、入ってきた窓から外へ向かって飛び立って行った。
「…ねぇ」
「あっ シルさん 起こしてしちゃいましたか?」
目を覚ましたシルはゆっくりとべっとから起き上がり
「私も一緒に行っていい?」
とルシアに尋ね続けて
「私もお願い!」
ヒスイも一緒に行きたいとルシアに尋ねてきたのだ。
「でも僕らの旅は…」
「助けてもらったお礼まだしてない」
「私も何かお手伝いがしたいの!」
「でも…」
自分の旅は命の危険が伴うもの。女の子を旅に巻き込むことに躊躇するルシアだったのだが
「「お願いします!!」」
二人の押しの強さに根負けし
「わかった。わかりました!これからよろしくお願いします」
「やった」
「ふふ」
二人が旅の新たな仲間になることを了承したのだった。
「でも今日は二人共ゆっくり休むんだよ?絶対ですからね」
「「は〜い」」
こうして三人は新たな新天地 仮面の国へ向けて各々準備と体を休めるのだった。
・
・
・
宿の外では。
「…はい。計画どうり彼らは仮面の国へと向かうようです。
カジノへ向かわせれば良いのですね?…了解いたしました」
何者かが木の陰で何者かと連絡を取り合っていた。
連絡を終えると何者かは、何事もなかったように宿へと戻り平然と過ごし傍から見れば、誰もアノヒトが裏切り者だとは気がつかないだろうう…。
-シルの封じた過去編-終