複雑・ファジー小説

Re: シークレットガーデン 〜小さな箱庭〜【六章執筆中】 ( No.143 )
日時: 2017/08/31 09:22
名前: 姫凛 (ID: PGYIXEPS)

『………』

あれは…リンクさん? それに…お父さんと確かオルトマンさんだったけ? お父さんとアルトさんの『お母さんの事件』と言っていた黒人の男の人。どうして、三人が此処に? それにここは何処なんだろう…。

三人は無言のまま部屋の中央に置いてある細長くて白い布が覆いかぶされた…机かな、ベットのようにも見える…あれはなんだろう。上の方にはロウソクと十字架が置かれている。


『準備は良いですか?』とオルトマンさんが訊くとお父さんは無言で頷いた。それを確認すると、オルトマンさんはゆっくりと、覆いかぶさっていた白い布を持ち上げました。


「……あの女の人は?」

白い布中にいたのは綺麗な女の人でした。色白でリンクさんのような綺麗な黒髪の女の人が眠っていました。

でもその女の人は少し青白く生気を感じられなかった。…そうかここは

『………っ!』

お父さんはヨタヨタとよろめきながら寝ている女の人に近づいて行き、愛おしそうに彼女の頬を優しく撫で

『アリサァァァ!! どうして、死んでしまったんだァァァァ!!』

—大きな声で泣き、叫びました

ここは霊安室だったんだ。女の人はもう、生きてはいない、死んでいるんだ…。
そしてたぶん、お父さんの反応から察するに、あの女の人は…リンクさんの……。

「…ご主人様」

パピコさんが心配そうな顔をし僕をの見つめる。僕は今、どんな顔をしているんだろう…。そんなにパピコさんを心配させるような表情をしているのかな。

「ごめん、もう大丈夫だよ。この階層はこれで終わりなのかな」

これ以上、パピコさんに要らない心配をかけたくないから、と苦笑い。でも察しのいいパピコさんにはすぐにばれてしまったらしい、パピコさんは小声で「無理はなさらないでくださいまし」と言われちゃった。

「そうでございますね。次の階層へ参りましょう♪」

優しいパピコさんはいつも通りの高めのテンションで話してくれる。僕も見習わないと…な。あんな風にいつ、どんな時でも笑えて、元気に振る舞えるように。

—僕たちは次の階層へと続く階段を下りていった。





【第六階層】



リンクさんプリンセシナに来てからもう第六階層目だ。始発点はもう見慣れたと言ってもいい、リンクさんの家だ。暖炉の炎が暖かい…。

『〜〜〜♪』

キッチンの方からリンクさんの鼻歌が聞こえきた、覗いて見ると第五階層よりも少し背も伸びて大人っぽくなったリンクさんがお鍋をかき混ぜていました。

「前の階層から、少し時間が経っているのかな」

「何を作っているのでしょう…食欲を誘う香りですね、ご主人様♪」

「うん、そうだね。この匂いは…カレーかな?」

少し鼻にピリリとくる辛い匂い、それにお鍋の周りにある玉ねぎ、人参、じゃがいも、そして極めつけに大量の香辛料が置いてあったら決定だよね。

『お父さん…ずっと部屋にこもりっきりだけど、大丈夫かな…

 ご飯は私が用意してるからいいとしても、お風呂ちゃんと入ってるかな? そもそも着替えとかしてるのかな。
 
 もぉー、世話のかかるお父さん! 数年間も同じ家にいるのに顔見てないってどうゆうことよって話しよね!?』

「はいっ!」

あ…。リンクさんの迫力に気おされて思わず返事をしちゃった。

「もうっご主人様ったら、可愛いんですから〜♪」

うう…恥ずかしい…。

「それにしても…心配だよね。数年間も部屋に閉じこもるって…」

「そうですね…何があったのでしょうね?」

うん…とパピコさんと話していたら、リンクさんが『出来たっと! さ、あのろくでなし親父の元に持って行ってあげますか♪』と言いながらお皿にご飯をもってその上にルーをかける。あっ、やっぱりカレーだったんだ。


お父さんの部屋の前までやって来てコンコンとドアを叩く。

『お父さん、ご飯持ってきたよ』

部屋の中から弱弱しく男の人の声が

『アルトか、いつもすまない。今やらなくちゃいけないことがあるから、ご飯は後でいいか』

『う、うん…別にいいよ、食べてくれるなら』

『そうか、すまいな。あ、そうだアルト』

『なに?』

『あとでいいから地下室に来てくれないか? お前にも見てもらいたい…いや、これはお前にも見届ける権利があることなんだ』

『は? 地下室に? …わかった。片付けがあるから、それが終わったら行くね』

『待っているよ』と最後に言っていたお父さんの言葉は聞かずに、リンクさんは背を向けて、キッチンの方へと戻って行く。

—そして世界はまた氷づいた。


「…アルチさんにも見届ける権利があること?」

お父さんは地下室で何をするつもりなんだろう…? 胸騒ぎがする…良くないことが起こるような気がしてならない。


「パピコさんっ!」

「ええ! 言われなくとも愛のテレパシーで分かりますとも! 次の階層へ行きましょう、ご主人様!」

愛のテレパシー…というものが何なのか、僕にはよくわからなかったけど、伝わっていたのは良かった。
僕とパピコさんは急いで、次の階層へと続く階段を駆け下りて行きました。



—まさか、またアレを見ることになるとは思わなかった…



Re: シークレットガーデン 〜小さな箱庭〜【六章執筆中】 ( No.144 )
日時: 2017/08/31 10:42
名前: 姫凛 (ID: PGYIXEPS)

【第七階層】




始まりはやっぱり地下室。始めて来る地下室。電球が切れかけているのか、チカチカと点滅する部屋の中を囲うように置かれた沢山の本棚、床には赤い液体で描かれている、魔方陣のような物と等間隔に置かれたロウソク。…その炎は赤でも橙でもなく、青白い。なんだか、恐怖を誘う。

ギィと後ろのドアが開けられて、『お父さん、来たよ』と少し不満げなリンクさんが入って来た。
部屋の中央にいたお父さん。…あれさっきまではいなかったのに。

『やぁ、よく来てくれたねアルト』

『何? その話し方』

リンクさんは少し変なテンション…変な喋り方をするお父さんにゆっくりと近づいて行って隣に座った。

『アルト、これから面白い実験を見せてあげるよ』

『面白い実験?』

と言うとお父さんは面白い実験の内容を丁寧に教えてくれた。
地面に書かれているものは、錬成陣というもので、中央に置かれている灰で作った山のような物に、リンクさん親子、二人の血を垂らせば"錬金術”と呼ばれる面白いものが見れる…と。


「パピコさん…あの錬成陣って…まさか」

「………」

パピコさんは無言だ。パピコさんの無言は肯定と言う意味、そうだ、僕はあの錬成陣を前にも見たことがある、幼馴染のシレーナのプリンセシナで、あれは…あの錬成陣はっ!

『さ、始めようか、アルト』

『……うん』

「駄目だ! リンクさんっ、その錬成陣は—!!」

僕は止めようとした—けど二人に僕の声は届かない。これは過去の出来事をなぞるだけ、僕達は過去に体験したリンクさんの記憶を追体験しているだけなのだから—

二人は灰に自分の血を垂らし、お父さんが胸の前で手を合わせ、錬成陣に手を置くと、あの…気持ちの悪い、黒いウニョウニョした手が沢山、うじゃうじゃ現れ、錬成陣の真ん中に大きな目玉がパチリ。

『これで君にまた会えるね…アリサ……』

『ッ!? お父さっ!』
















視界が真っ暗になった…ような気がした。





此処は何処





真っ白い 空間 何もない




人も 音も 何もない



僕は誰—?




私は誰—?







『よぉ、元気してるか』

「ッ!?」

不意に声をかけられた。誰もいないと思っていたのに。振り返ると、そこには真っ白な少年? かけられた声はあどけない少年のような声だった。
でもそこにいるモノが人の形をした、異質のナニカだ。人間じゃない。

「君は何者?」

『お〜、よくぞ聞いてくれました!!

 俺はお前たちが世界と呼ぶ存在

 あるいは宇宙 あるいは神 あるいは真理 

 あるいは全 あるいは一』


この少年は何を言っているんだ…? 分からない。頭の中がぼんやりとして、思考が働かない。


『それにしても、追体験でこの世界に来る奴なんて初めてだぜっ』

「……?」

『あり? 堕ちたショックで記憶まで落っことしちまったか? ゲハハッ』

嘲る白い少年。彼は何を言っている…僕は誰—?


『私は…誰?』


『俺はお前だ』


『え?』


バーンッと僕の後ろに合った巨大な石の扉が開かれる、中にはあのギョロリとした目玉とウニョウニョの無数の手。

『ようこそ、人殺しの馬鹿野郎』

『え?いやぁァァァァァァァ!!!!』

「なんだこれ!? 放せ! 放して!!」

無数にある黒いウニョウニョは、僕の手足、体を掴み扉の中へと引きずる込もうとしている、必死に逃げ出そうと、振り払おうと、もがいてみても効果はまるでない。
ついに僕は扉の中へ引きずり込まれて、バッタンと扉は閉じた。

『くくくっ。良い旅をってか? ゲハハ』

微かに白い少年の笑い声を聞いたような気がする。

頭の中に物凄いスピードで流れ溢れる、情報、膨大の知識。空っぽの頭の中が満たされ同時に、オーバーヒートしてしまいそうだ。
僕の体がどんどん壊れていっているような気がするんだ。
膨大の知識を与える代りにと、自分の手貸をもがれているような感覚がする、いやその感覚すらも失われようとしているような…。

—怖い。


恐怖。死を恐れる、恐怖心。

「このまま…死んじゃうの—?」

誰も救えないまま…死ぬ。

「ご主人様ーーーー!!!」


薄れゆく意識の中、懐かしい声を聴いたような気がする。
意識の中でずっとそばにいてくれて励まし続けてくれた、女の子。大事な仲間の—

「パピコさん—!!」

思い出した、そうだ、彼女の名前はパピコさん。プリンセシナの案内人で、後ろ向きに考えがちな僕をいつも励まし、支えててくれたお姉さん。

「帰って来てくださいましっ! ご主人様ーー!!」

「そうだ、僕はここで死ねない! 僕には待っている人たちがいる、助けたい人がいるんだーー!!」


体が痛い


もう自分の体じゃないようだ


けど、そんなの関係ない! 僕は力いっぱい、限界なんて超えてやれ!


「うわぁぁぁあああ!!」













「ご主人様!」

「はぁ…はぁ…はぁ」


帰って来た…? 起き上がるとすぐにパピコさんが駆け寄る、その瞳は涙で濡れている。また心配かけちゃったな…。

—手足はちゃんとあった。自分の意思で動く、動かせる、大丈夫だ。

「パピコさん、ごめんなさ「もうっご主人様のばかぁああ!!」

泣きつくパピコさんを優しく抱きしめてあげる。よしよしと頭も撫でてあげて。
パピコさん、心配かけてしまって本当にごめんなさい。


『ぁ…あああああああっ!!』

「「ッ!!?」」


突然あがった少女の悲鳴。この声は、リンクさんの声だっ。
パピコさんに気を取られていて気が付かなかった…。

『はぁ…はぁ…はぁ…』

目玉が飛び出しそうなくらいに目を見開き、息を荒げ、『フンッ』と何度も、何度も、鉄パイプを振り下ろす、リンクさん。…その下には黒い毛むくじゃらのナニカの死体が横たわっていた。黒い血で真っ黒だ……リンクさんの頬が返り血で真っ黒だ。

『ッ!!』

リンクさんは何度も、鉄パイプを振り下ろす。でももう、いいんだよ! 黒い塊はもうすでにこときれている。もう殴り付ける必要ない、なのにリンクさんは振り下ろし続け


『アハハ…アハハ……、終わったよ、父さん』

狂ったように笑う彼女の視線の先には…

「ッ」

メガネをかけた男の人……だったと思われる肉片。パァンと内部から破裂したような肉片、でもかろうじてそれが誰なのかわかった、だって…リンクさんお父さんがかけていたメガネをかけているんだもの……。

『……全部、終わったんだよ? ねぇ…なんで何も言ってくれないの?
 
 褒めてよ。よくやったなって、昔みたいに頭を撫でて褒めてよ。父さん…』

愛おしそうにお父さんに語り掛けるリンクさん。だけどそれにお父さんは答えない、答えられない。何度体を揺すっても、もう二度とお父さんは起きないし、リンクさんの頭を撫で褒めてくれることはないんだ。

—胸が締め付けられるように痛い。


『なんで…なんで…なんでなのよ!! 父さんっ! 起きてってば! 父さん!』

遠くの方から、ギィィィと次への階層への扉が開く音が聞こえた。

「…ご主人様」

「行こう」

『お父さん! お父さん!』と何度も愛する父親だったモノを揺さぶり泣きつくリンクさんの声を背に聞きながら僕とパピコさんは最期の階層へ続く階段を下りて行った。


シレーナの時と同じなら、多分リンクさんが殴っていたのは…。

そしてリンクさんのお父さんは彼女を守るため…。


—すれ違う親子の想い。


僕が繋がないといけないんだ、すれ違ったままじゃいけないんだ。



Re: シークレットガーデン 〜小さな箱庭〜【復活/六章執筆中】 ( No.145 )
日時: 2017/08/31 12:10
名前: 姫凛 (ID: PGYIXEPS)

【最下層 シークレットガーデン】




「ついた…けど寒っ!?」

リンクさんのシークレットガーデンは極寒の銀世界、猛吹雪が吹いてなんの防寒もしていない僕としては立っているのもやっとな場所だった。
あちらこちらに、雪や氷で出来た憎が建っている。女の子が好きそうなウサギやキツネの像…でも何故か全部頭がない。最初からないんじゃなくて、ちゃんと作ってから誰かが意図的に壊した…そんな感じがする。


[来てしまったんだね]

「……リンクさん」

声がする方をみると、巨大な氷の柱の中にうずくまるような体制で凍らされたリンクさんと氷の柱の前に立つもう一人のリンクさん。

「閉じ込められた理性(本体)と、それを守る本能(エゴ)ですか」

「理性と本能?」

「そうでございます。人間は、誰しも強い思いをお持ちです。でも誰もが本能の思うがままに行動したら世界はハチャメチャ、だから理性が本能を押さえるのですよ。

 私も、本能のままに生きられたら、今すぐにでもご主人様を押し倒して…」

—うん。それは勘弁。

なるほど。パピコさんの言いたいことは大体わかった。ちょっとわからない、わかりたくないこともあったけど…。


[見たんでしょ? 私の過去、全部]

「…うん」

[だったら言わなくてもわかるよね?]

リンクさんの言いたいことそれは—

「死にたい—?」

人体錬成。錬金術の禁忌、絶対にやってはいけない術。死んだ人はもう二度と生き返らない、そんな世の理を無視し、覆そうとした人が生み出した禁断の術。

失った妻。もう一度、奥さんに会いたくてリンクさんのお父さんは、人体錬成を行った。よりにもよってリンクさんを巻き込んで。

—術は失敗に終わった。生み出されたのは、リンクさんのお母さんじゃなくて

[ただの化け物だった—]

静かにリンクさんは語る。あの時、僕が知らない、なにがあったのかを—


[父さんが真理の扉を開いて、私も真理の間に辿り着いた。

 真っ白な世界に、真っ白な人…のようなナニカ。

 あいつは、『俺はお前だ』と言った、黒いウニョウニョとした無数の小さな手が私を掴み扉の中へ引きずり込んだ。

 嗚呼、このまま死ぬんだな— って思ったら父さんの声が聞こえてきたような気がして

 …ね、気づいたらあの地下室に戻ってた。目の前にはあの女に似た、化け物がいてさ、私、思わず傍に転がっていた鉄パイプで殴っちゃった。

 誰かを殴るのは初めての体験だった。あれは人じゃないけど、ね]

「あの女に似てたから…? 君は—」

[そうだよ! 私は自分の母親を殺したんだよ!!

 自分の母親に嫉妬して! 勝手に憎んで、そして殺したんだよ!!

 あんたにわかる? この気持ちが!]

「ッ」


リンクさんが怒れば、怒るほど吹雪が強くなる。立っていられなくなるほどに、寒さで意識も持っていかれそうだ。


[憎い—! 憎くてたまらない。 この世界にあるもの全て、憎たらしい!

 世界を憎む、私が…一番、醜くて…憎いよ…ァ…ハハハ…]


乾いた笑い声。そうだよね、自分が一番良く分かっているんだね。だからこそ、自分が許せない。自分のしてしまったことを、認めたくなくて、認められないから自分を許してあげられないんだ。


「確かに君はお母さんを殺してしまったかもしれない。…でもお父さんは?」

ゆっくり、ゆっくりと、彼女を刺激させないように近づいていく。


—でも吹雪がそれを許さない。

[……お父さん?]

伝わる。大丈夫、彼女に僕の声は届いている。


—足がピキピキと凍っていく…感覚がなくなり、動かなくなっていく。それでも僕は歩みを止めない、止めたら駄目なんだ。


「なんで、君のお父さんは死んだんだ?」

[それも…私…が…]

「違う! 君はお父さんを殺してない! お父さんは君を守ろうとしたんだよ!

 その言葉すらも忘れてしまったの—!?」


[お父さんの……最期…の言葉……]


『アルト! まだお前はこんなところで死んじゃいけない!! 生きるんだアルト!

 私と…アリサ…お母さんの分まで、生きて…生きてくれ!!』


シークレットガーデンに流れたお父さんの最期の願い。


「そう生き残ってしまったお父さんは、自分の持てる全てをささげ、リンクさん……君を助けたんだよ」


[…そんな、なんで…私なんかのために…お父さんのバカ…大バカなんだから…]

大きく膝から崩れ落ちるリンクさん。彼女の瞳からは大粒の涙が滴り落ちている。リンクさんの心が落ち着いたことで、吹雪も弱まってきたみたいだ…。

「帰ろう、リンクさん。現実のせか—」

—それは一瞬の出来事だった。一瞬の事すぎて、最初僕には何が起きていたのが全くわからなかった。理解できなかった…。そんな僕の愚かさが招いた事だった。

パリッリーンと砕け散る氷の柱。リンクさんの…シークレットガーデンが…パリッリーンと砕け散った…。


「ご主人様!」


数秒後…パピコさんの声でやっと僕はなにが起きたのか認識した、でもまだ理解できていない…。


[ァアアアアアアアアアアああああああああああ!!!]


数秒後…リンクさんの悲鳴、いや…断末魔でやっと…やっと理解できた、なにが起こっている、いたのかを—



『パピコさん、もしシークレットガーデンが壊れたら、その人はどうなってしまうんですか?』

『死にます』

『え?』

『事実上の死を迎えます。心を失った空っぽの存在、俗にいう植物状態というものでござますね。
 生きていると言えば、生きてるのでしょう。でも空っぽの存在は本当に生きていると言えるのでしょうか?』


前にパピコさんと話した会話がフラッシュバックしてきた。シークレットガーデンが壊れたら、死ぬ。
目の前で粉々に砕け散った、リンクさんのシークレットガーデン。

「じゃあ、彼女は…」

もがき苦しんでいたリンクさんはもういなかった。代わりにそこには、砕けた氷の欠片の破片が飛び散っていただぇだった—

「そんな…どうして…」

リンクさんは自分の過ちを認めた、受け入れて新しい一歩を踏み出そうとしていた、なのにどうして…

「どうして、こんな結果になっているんだよ! なんでなんだよ、パピコさん!!」

「……」

パピコさんは無言。分かっている、今の僕はただパピコさんに八つ当たりしているだけだって、でも、でもだってこんなのって!!

「リアさんになんて言えばいいんだよ!? 『頼む』って言われたのに!!」

—助けられなかった事が悔しくて…なにも出来なかった自分が不甲斐なくて…涙が止まらない


僕の体が白く暖かい光に包まれていく。強制終了。終わった、アルト・リンクさんは死んだ、僕のせいで。


目が覚めたら現実の世界だった、僕はみんなにプリンセシナであったこと、そしてリンクさんを救えなかったこと、全て包み隠さずに伝えた。

「くそうっ!」

と机をたたくリア。ランファは大きな声で「わんわん」泣き叫けぶ。シレーナは優しく微笑み「おかえりなさい」と言ってくれた。

「ありがとう…でも今はその優しさが痛い。心に突き刺さるように痛いよ、シレーナ…」

僕はシレーナの胸を借りて泣いた。涙が枯れても泣いた、泣き続けた。




決してこの気持ちを忘れないように



この想いを忘れちゃいけない



僕達はこの哀しみを乗り越え 前へと進まないといけない



だけどあと少しだけ 少しだけ このまま泣かせてください




さようなら アルト・リンクさん—

















-アルトの封じた過去編-終