複雑・ファジー小説
- Re: シークレットガーデン 〜小さな箱庭〜【復活/裏カジノ執筆中】 ( No.147 )
- 日時: 2017/09/04 10:24
- 名前: 姫凛 (ID: I4LRt51s)
第六章 闇と欲望の国-裏カジノ編-
アルト・リンクが亡くなってから三日経ちました。この三日間、ルシアはろくに食事もとらずに三日三晩ずっと泣き続けていました。
目の前で消えた命、救えなかった命、後悔の念がルシアを支配する。
植物状態となってしまったアルトの処理は、慣れているからとリアが担当しました。"慣れている”とは…背筋がゾワリとする言い方だったが、アルトを失った悲しみが強かった為、それを聞く元気もなかった。
コンコンとドアが軽く叩かれた。「はい」とか細い声で返事をすると
「ルシア…朝ごはん…持ってきた…よ」
「…シレーナ」
手に持つおぼんの上には卵粥が。シレーナはこの三日間ずっと、部屋に閉じこもったままのルシアを心配して朝昼晩、毎日三食ご飯を作って持ってきてくれているのだ。
「…ごめん、シレーナ。今日も…いい「だめ」え?」
「今日もご飯はいらない」と断ろうとしたルシアをシレーナが叱る。シレーナはお粥の乗ったおぼんをルシアの前に置くと
「…今日で…三日目。もう涙…枯れてる。…もう…自分を許して…あげて?」
優しくルシアの頭を撫でてあげる。ルシアはその手を払いのける。
「駄目だよ、シレーナ…。だって僕は…リンクさんを…」
「大丈夫…ルシアのせい…だと…誰も思ってない…から…」
「それでも僕はッ!!」
シレーナはルシアの口に人差し指を当て黙らせた。優しく微笑み、レンゲでお粥を少しすくってから、ルシアの口へ運び。
「お粥くらい自分でっ」
「だめ……あーん」
「うー」
いくら幼馴染だといっても、これはさすがに恥ずかしいよ…とか思いつつもシレーナがレンゲを口元から離してくれないので仕方なくぱくり。
「…ぁ。おいしい」
「…でしょ?」
ふふっと笑うシレーナ。あ…この笑顔久々に見たような気がする…。三日ぶり、待ち合わせ場所で再会したぶりに見る、シレーナの笑った顔。
やっぱり彼女の笑顔を見ると、どこか落ち着くような、胸の中でモヤモヤしていた何かがスッキリと洗い流されていくような気がするのは何故だろう。
とてもいい気分になる、不思議で、素敵な笑顔だ。
「…下でみんな…待ってる」
「うん。わかった、お粥食べたら行くね」
「…うん」
「あ。待ってシレーナ!」
部屋を出ようとするシレーナを呼び止め、改めて伝える「ありがとう」と—
シレーナはふふっとほほ笑んだ後部屋を出て行った。
部屋に一人残されたルシアは、久々に食べるお粥を、ガッガッと途中むせつつ、全部食べた。
食べ終わり、食器類を宿屋のおばさんに手渡すと階段を下りて仲間の元へ駆け出した。
ついてみるともうみんな準備万端の状態で
「お、やっと主役のお出ましかっ」
「社長出勤ですか、コノニャロ〜」
いつも通り、ふざけてルシアをからかう、リアとランファの二人。
「おはよう」
「もう大丈夫?」
いつも通り、優しくて真面目な、シルとヒスイの二人。
「…ん」
ソファーの片隅にひっそりと座り、頷いているシレーナ。
いつも変わらず、いつも通りにルシアを出迎えてくれた。
「みんな、心配かけてごめんなさい!」
まずは心配をかけてしまったことへの詫びを…と思って謝るルシアなのだったが
「んじゃ、行くか」
「え?」
「行くってどこに?」
「んー。とりあえず外にだな!」
「りょーかいであります!」
「…ん」
「………」
ルシアの預かりしかる所で結束力を高めていた、仲間たち。リアを中心とし、ルシアよりもなんかいい感じのパーティーに見えるのは気のせいだろうか…。
主人公を平気で置き去りにして行こうとする、仲間たちを追いかけてルシアも泊まっていた宿を飛び出して行った。
「ギャー!!」
「えっなに!?」
宿を出てすぐに聞いたのは誰かの悲鳴だった。悲鳴が聞こえた方向を見てみると
「ほら金だぜ、オラァ!」
蛇柄のジャケットにサングラスのチンピラ風の男が、瘦せこけた老婆に乱暴を働いていたのだ。
「金目になりそうもん、全部持ってけらー!」
「「へーい!」」
「エーンエーン」
「やっ、やめちょくれ! 家には幼い子供が…「知るか、ボケ!」…ぁあっ!?」
「お母さんっ」
老婆だと思っていた女性は、瘦せこけて老婆のように見える、若い母親だった。
必死に男にしがみついたが、意味はなかった。骨と皮しかない女性の力では、五体満足、健康体の成人男性になんて、勝てるわけがなかったのだ。
「またカジノの連中か」
「カジノ連中…?」
「あそこにある、巨大な建物の人たちだよ」と上の方を指さすランファと一緒に見上げてみると
「な…に、あれ…は」
宙に浮かぶ、円盤型の建物? といっていいのか、そんな巨大な黄金でできた宇宙戦ともいえそうなものが、貧民街から離れ、煌びやかに輝いている街のど真ん中にありました。
「あのキンピカはなにかある証拠! そうに違いない!」と言うランファのただの勘に従って、あの建物へ近づいて行ってみることに…。
「僕達がさっきまでいた貧民街とは全然、違うね……」
「すっげー! キンピカだらけー」
「周りは裕福そうなご老人ばかり…上流階級の貴族様ばかりだよ」
「貴族の…街?」
「貴族の街って胸くそ悪い臭いしかしねー…」
「………」
町にあるもの全てが金ぴかの黄金で出来ているゴールドタウン。またの名を黄金郷。
水を噴き出す噴水ですら、水ではなく金貨を噴き出すのだ。ここはまさにお金持ちの街。お金持ちのためだけの街と言えよう。
「ド、ドロボー!」
「え?」
だがそんな街でも事件は起こる。
「どけどけー!!」
「待ちなさい!」
若い青年が貴族の老人のバックをひったくりしたようだ。それを黒いサングラスに黒いスーツを着込んた、全身黒の黒づくめ達が追いかけてゆく。
「あれは…貧民街の奴か」
「……銀行…強盗?」
「バックからお金がはみ出ているみたい、あ。何枚か落として行ってる」
「あれ拾ったら、あたしのものになるのかな」
と傍観している仲間たちに一言!
「いやっのんきに眺めてる場合じゃにでしょっ!? あとランファ、拾ったお金は持ち主にちゃんと返してあげないと駄目だよ!!」
「え〜〜」
「落とし物を拾ったら1割貰えるってのあるよね? ……あの札束を拾ったら何割になるんだろ」
「シルさんっ!?」
意外とお金が好きだったシル。もぉ〜とルシアが牛のように鳴きながら二人に説教じみたことをしていると
「ふぉっふぉ、あの男逃げ切りますかね?」
「ほぉっほぉー、それとも撃ち殺されますかね?」
ルシア達の近くにいたご老人達の話し声が聞こえてきた。賭け事でもしているのだろうか…なにを対象に?
「どうですかね。ここはおひとつ賭けてみませぬか」
「いいですね。ではワタシは逃げ切る方に100万」
「それではワタシは撃たれる方に100万賭けましょう」
「あのお爺さん達、人の命で賭け事しているの!?」
「ええーーマジでぇぇええ!!?」
ルシア、ランファ、シル達が驚いていると
「ここではそれが普通。ごく当たり前の日常って奴なんだよ」
「…ヒスイ…さん?」
仮面の国に来てからずっと様子がおかしくて、ずっと黙り込んでいたヒスイが口は開いた。
ここではこの光景が当たり前と言うヒスイ。飛行船内を杖なし歩けていたことと言い、この街の事情に詳しい、彼女はこの街の出身なのだろうか…?
「ハァッハァ」
大金の入ったバックを抱えた青年がルシア達の方へ駆けて来る。
「よっと」
「なにっ…う、わあああっ!?」
とっさにリアが青年の足に自分の足を引っ掛けて彼を転ばしたのだ。駆け付けた黒服達はリアを睨み付け「チッ。余計な事を…」と言いながら青年を抱きかかえる。
「ふんっ。捕まったんだから、それでいいだろう」
「チッ。そいつを連れてけ」
「嫌だー!! もうあそこには戻りたくない! あんなの、人間の行うッ事じゃない! 助けて、誰か、俺をあの地獄から助けてくれーーー!!」
青年の最期の叫びも虚しく、彼は引きずられるようにして巨大な円盤型カジノの中へと連れていかれたのだった。
彼で賭け事をしていたご老人たちは、「ほっほ。これはこれは…」「まさか二人ともはずれてしまうとは驚きですな」と吞気に笑うだけだ。
青年がカジノの中へ引きずり込まれた、姿を見てもなにも思わなかったらしい…。
「見て! あのマーク!!」
ランファが指さす方向をみんなで見てみるとそこに書かれていたものは
「…ドルファフィーリング」
立食パーティーではルシア達を睡眠薬入りのジュースで眠らせ、誘拐・監禁。
コロシアムではシルを景品にした。朝からズも深からず、因縁を持つ大企業ドルファフィーリング。通称、ドルファ。
「…またドルファ」
「つくづく、俺らと縁があるね〜。さっさと切り捨てたいところなんだけど」
「あそこに看板があるよ。えっと何々…【ドルファ四天王、ナナが経営するドルファ二大娯楽施設のカジノへようこそ】…だって」
「ナナっ!? ナナさんって確か…コロシアムでヒスイを助けてくれた…人だよね?」
「………」
「…ヒスイ?」
ヒスイの様子がここにきてさらのおかしくなった。小刻みに震えているようだ。…まるで何かに怯えている小動物のようだ。
「ヒスイさん、どったの? 元気ないよ?」
「ラ、ランファ、空気読んで!!」
「ん?」
空気を読んで、察してと言ったところでこの子にそんな高難易度なこと出来るわけがない。
そんな器用なことが出来るのなら、最初からしている、というものだ。
「貧民街での件もあるし、どのみちドルチェには一発殴っておきたいし、乗り込むぞ、カジノ!」
「おー!」
「お。おー?」
「………」
ルシア達はいざ、黄金の階段を上り宙に浮かぶ円盤型カジノへ乗り込んでいくのだった。
「"—全てはあの方の計画通り”」
- Re: シークレットガーデン 〜小さな箱庭〜【復活/裏カジノ執筆中】 ( No.148 )
- 日時: 2017/09/04 10:33
- 名前: 姫凛 (ID: I4LRt51s)
「「……わぁ」」
黄金で出来た外壁同様、黄金で出来た内装。金を主体にしダイアモンドが散りばめられた、シャンデリア。
壁にはどこかの貴族・王族だろうか、髭を生やした偉そうなご老人の肖像画。
周りに置かれたフラワーアレンジメントはどれもゴージャスで、置いてある全てが造花ではなく生花だ。
床は赤いペルシャ絨毯。
カジノには大きく分けて3つのゲームに分類される。
一つ目はテーブルゲーム。
ルーレットやトランプゲームなどのテーブルでおこなうゲーム。クラップスなどのダイスを使用するゲームも含まれる。テーブルには、ディーラーがいるのが一般的で、最もゲームの種類が多い分野だ。
二つ目はゲームマシン。
スロットマシンやビデオポーカーなどのカジノゲームは、ゲームマシンに分類される。ゲームマシンとは、一般的に、個人で機械を相手におこなうカジノゲームのことをいう。ゲームマシンの場合、カジノ従業員などがついていない。一台一台がコンパクトであるため、一つのカジノ内で最も台数が多いかもしれない。
三つ目はランダムゲーム。
ランダムナンバーゲームともよばれる。ランダムゲームとは、カジノ内のテーブルなどに置かれているチケットや紙などにかかれているものがゲームとなっていて、個人でおこなうようになっている。キノなどのカジノゲームはランダムゲームに分類される。
スポーツブック(ブックメーカー)などのようにカジノ従業員がいる場合もある(ただし、スポーツブックは通常はカジノゲームとは呼ばない。英語でも「Casino and books」という言葉のように、カジノとは別の独立した区分である)。
ルシアが訪れたカジノには、一回のゲームで大金が動くといわれる「バカラ」、中盆(なかぼん)が、茶碗ほどの大きさの笊(ざる)であるツボ(ツボ皿)に入れ振りられた二つのサイコロ(サイ)の出目の和が、丁(偶数)か、半(奇数)かを客が予想して賭ける「丁半(博打)」、回転する円盤に球を投げ入れ、落ちる場所を当てる「ルーレット」、賭博(ギャンブル)を目的とするコイン作動式のゲーム機「スロットマシン」などが置かれていた。
「すっげ! キンピカだよ! キンピカだらけだよね、ねぇ!!」
上京したての田舎娘さながらに、目を輝かせてはしゃぐランファ。ここは敵の本拠地。少しでいいから落ち着いて、もしくは黙ってて! …と心の中でルシアは願ったが、どうやらその願いは聞き届けられなかったようだ。
「結構沢山客がいるんだなー。ゲームも色々種類があって充実してるようだし」
「リアさん、カジノとか興味あり?」
「賭け事はわりと好きだぜ? 昔はよく、あいつらとやったな〜」
「あいつらって…?」
「親友」
「そっか。いいね、そうゆうの」
「だろ♪」
昔の思い出を語り懐かしむリアとシル。
互いに大事な友を失った同士、なにか通じ合うものがあるのだろう。
「………?」一人、辺りをきょろきょろと見回しているシレーナ。なにをしているのかと、ルシアが聞いて見ると、
「…入って来る時に見た、お金持ちの人…いない」
と言われて改めてカジノ内を見てみると
「あ…本当だ」
カジノにいる客は、とても裕福そうに見える恰好をした者は誰一人いなかった。どちらかというと、観光客のような見た目だ。
寝ぐせのような遊ばせた髪の毛、どこかのテーマパークにいるネズミのTシャツ、よれよれしわしわのズボン、こんなにラフな恰好の奴は観光客の他にいないだろう。
「やっぱり、VIPはVIP専用の部屋にいるのでは?」
と言いながらシルはリアの方を見る。
「ん〜、まあ確かにこうゆうお高いカジノって通常フロアとVIPフロアとで分けていることが多いかな。
会員制とか、上玉の常連客とかで行けるフロアが違うとか、そんなもんだろ」
「へぇ〜…ってそれじゃあ、僕たちナナさんに合えないよね!?」
例え相手がドルファ四天王であっても、一応年上なので敬意を払うルシア。
そしてせっかくここまで来たのに、まさか出入り口で足止めをくらうとは思っていなかった面々は「どうしよう、どうしよう」と動揺していると、ヒスイが「少し待ってて、私に考えがある」と言って黒服を捕まえて何か会話をし始めた。
「……」
「………」
「……かしこまりました」
離れているのと、カジノ内に流れるBGM,効果音のせいで、会話は聞き取れなかったが、最後に黒服が「かしこまりました」と言ってヒスイに頭を下げている所だけは聞こえた。
ルシア達の元に戻って来たヒスイは
「許可が下りたよ。行こう」
と言って背を向け、黒服の方へ歩き出す。
リアが誰に言うわけでもなく、ぼそりと「臭いな」と呟いた言葉を聞いたルシアは、なんだかヒスイがどんどん遠へ行って消えてしまいそうな気がして怖くなってきた。
黒服、ヒスイの跡を付いてどんどんカジノの奥へ進んでいると、黄金で出来たマーライオンが置かれた行き止まりに到着した。
ここに何があるんだろう? …とルシアが思っていると黒服が開いているマーライオンの口の中に指を入れると、カチッとスイッチのような音が鳴り、ガガガと歯車が動き回る音がすると思ったら、行き止まりだと思っていた、壁が下に沈み新たな道が出来た。
「すごい、隠し通路?」
「おぉーすごっ!!」
「へぇ〜。さすがドルファってわけだ?」
「……どうぞ奥へ。オーナーがお待ちしております」
「行こう」
ヒスイの跡に続けて隠し通路の先へと進む。灯りのない廊下。真っ暗闇の廊下。
—最初に感じたのは嗅覚。
奥へ奥へ進めば進むほど、あるに臭いが強まる。鉄のような、鉛のような、鈍い臭い。嗚咽のする臭い。
—次に感じたのは聴覚。
「ギャアアアアア!!」
悲鳴。断末魔。腹の底から湧き上がる、死への恐怖。生への執着。
—最後に感じたのは視覚。
「………なに…これ」
舞台の上に立たされ殺し合う者達。見たことのない生物と闘かわされている男達。それを見て愉しみ、大拍手を贈る、宝飾品を身に着けたご老人達。見た目から分かる、上流階級の貴族様達。
「…人間が賭けられている…の?」
「コロシアムに続けて…ここでも…なの?」
「金持ちっていうのは、悪趣味な奴が多いな」
「こわいよ…ルシア」
「大丈夫…大丈夫だよ。ランファ…」
吐き気のする光景に、嫌悪感がするルシア達に傍にいた黒服が
「そうでございましょうか?」
「え?」
「彼らは当カジノで多大な借金をつくり、返す当てのない者達です。なら、その体で代金を支払ってもらうのは、当然の対価でしょう?」
「なんだよ、それ!」
ルシアが黒服に一言、言ってやろうとしたその時
「うう…ああああ……あああああ」
「きゃあ!?」
ランファの前にもがき苦しみながら、若い男が息絶えた。
「残念。こちらは猛毒ベリーでした」
「おや残念。外れれてしまいましたか。ほっほ」
「あの人は…」と息絶えた若い男が歩いてきた先には、カジノに入る前に銀行の青年を対象とした賭け事をしていた、ご老人の一人だった。
「ではチップを回収させていただきます」
「うむ。では次のゲームといこうかの。ほっほ」
ご老人は黒服と一緒に他のゲームへ移り、男の死体は黒服が雑に扱い引きずって奥へ連れて行く。
「あの人は…どうするんですか?」
とルシアが黒服に聞くと、黒服はさも当然と言うように「猛毒ベリーを食べたのですから、生きているわけないでしょう? ゴミはゴミ箱へぽいっですよ」ふんっと鼻で笑う。
「くそがっ!」
「ここではこれが普通なの…?」
「そう。これがここでの日常」
「ヒスイさん…」
「ここではお金こそが全て。お金が無くなった人は、自分の命を売って死んで逝くの」
「そんなの…そんなのって!!」
「さあ、オーナーがお待ちです。どうぞ、こちらへ」
やるせない思いがあるが、今のルシア達にはなにも出来ることなんてない。ただ現実を受け止めるだけだ。
凶行を楽しむ貴族達の狂った笑い声、借金を抱え己の命を賭ける事しか出来ない男達の悲鳴、嘆き、断末魔を聞きながら、奥へと進んで行く。
今度は虎の像が置かれた、行き止まり。また黒服が虎の開いた口に指を入れると、カチッとスイッチのような音が鳴り、行き止まりだった壁が下がり新たな道が現れた。
「……また隠し通路」
「VIPフロアの次はなにフロア?」
「VIPより上の金持ちが通うカジノ? 人間の次は何を賭ける気だ」
「ルシア…」
「ゴクリ」
「…………」
黒服、ヒスイの跡に続けて奥へと進んで行く。また灯りのない廊下。真っ暗闇の廊下。
目的に辿り着いたのだろう、先の方に光が見える。眩しいと瞼を閉じると
「アアアッ、アアアアアアア!!」
悲鳴だ。また誰かの断末魔だ。
—見たくない。きっと今瞼を開ければ、自分は後悔するだろうう。でも見なければいけない、現実は受け入れるためにあるのだから。
ゆっくりと重たい瞼を開けると
「—ッ!!」
「ああ…ああ……返して…返してくれ…私の」
卵上の丸い大きな機械の中に入った男が目を見開き、涙を流し何かを求めるように腕を伸ばし、何かを掴もうと探している。
…それがいくつもあるのだ。
「ようこそおこしやす。妾のカジノへ」
「あ。貴方は…」
卵上の機械に、驚愕しているといつの間にやらドルファ四天王が一人、氷華のナナが目の前に立っていた。白い睡蓮が描かれた扇子を広げ、半分顔を隠している。目元が緩んでいることから微笑んでいるのだろう。
「アンタがこの狂ったカジノのボス」
「ええ。お初にお目にかかります。妾はナナと申しますえ、よろしゅうしてくださいまし」
ナナは優雅に頭を下げお辞儀する。
「して。どうでした? 妾のカジノは? 楽しんでいただけたでしょうか」
「ああ、吐き気がするくらい楽しめたよ。悪趣味で非人道的なカジノをな」
「ウフフ。面白いお兄さんやこと」
軽口を叩き合う二人。
「あ、あの。ここは…?」
二人に割って入るようにシルがナナへ質問する。あの卵のような機械はなんなのかと。
ナナは微笑みを崩さすそのまま平然と
「ここは裏VIPフロア。記憶を賭けてゲームを行う場所ですえ」
「…記憶?」
「そう。美味しい物を食べた。美しいものを見た。新しい家族が増えた。
楽しくて幸せなで大切な記憶、それを賭けてのゲームどす」
「なんでそんなものを?」
「フフフ。お嬢さんには分かりませんえ。人間の持つ記憶がどれほど甘味な味なのか」
「ますます、悪趣味だな」
ウフフと意味深に嘲る、ナナ。そして
「そうや。せっかく来たんやし、ここは一つゲームでもやりまへん?」
「ゲーム…?」
「ここはカジノ。カジノはカジノらしくゲームで決着をつけましょうや」
「決着…って?」
「とぼけても無駄ですえ? ユウを殺しておいて」
ユウが死んだ…? ルシアとヒスイの胸がざわつく。コロシアムで戦った、ドルファ四天王が一人、ウサ耳のユウだ。彼が死んだ? 闘って倒したけど、殺してはいない。ルシア達以外の誰かがユウを殺した?
「どうです? 逃げなはりますか?」
「なら条件があります」
「おいっ、ルシア君」
リアが止めに入るが、大丈夫だからと
「僕達が勝ったら、貧民街の人たちを虐めるのをやめてください!」
「虐めている? 妾が? なんのことやら」
「とぼけてもむだ、むーだなんだからね!」
とランファがナナを指さし続けて
「あたしのこの! くりりん可愛いおめめがしっかりと、見てたんだから!
あなたの黒服たちが貧民街のおっちゃん、おばちゃんからお金になりそうなものを強奪しているの!!」
と言ってみたが「見ただけでは証拠になりませんえ」とばっさり切られた。
「……カジノを閉鎖して」
「シレーナ!?」
「なんや、お嬢さん?」
「…こんなカジノがあるから…みんなおかしくなるの。…だから」
「悪の根源から断つ!」
「…うん」
「ウフフッ」と嘲る、ナナ。「何が可笑しいんだ」とリアが訊くと
「ええどす。ええどすよ、あんたらほんまに面白い。
妾が負ければ、このカジノは閉鎖しましょう。妾が勝てば…」
ゴクリと全員が唾を飲む。
「そなたらの命、妾の贄とせん」
「…え!?」
「贄って…生贄ってことだよ…ね?」
「なまにえ?」
「それは違うよ。ランファ」
「お命頂戴するって事だろ」
「あっそっちね! ……ってええええ!!?」
勝てればそれでいいが、負ければ死ぬ。デスゲーム。ウフフとルシア達を嘲るナナ。
「ドルファ二大娯楽施設のカジノとコロシアムを潰そうってんや、それくらいの代償は当然やろう?」
沈黙。いきなり自分の命を賭けろと言われて、出てくる言葉などない。
「わかりました」
「「「ルシア(君)!?」」」
「はぁ…やれやれだ、まったく」
考えに考え抜いた末にルシア出した答えはイエス。
「ごめんみんな、勝手に決めちゃって…。でもこのままここを放っておいたらいけないと思って…」
「それは…確かにそうだけど」
「…私はどこまでもルシアについて行く」
「ありがとう、シレーナ」
「ま、決めちゃったもんは仕方ないとして、ルシア君。
君、ギャンブルってやったことあるの? 全然イメージがわかないんだけど…」
「………」
無言の肯定。
「はぁー…やっぱり…」
「おうおうテメェ、どのツラさげてみなさんのお命、売ってんだこらぁ?」
「うう…ランファが怖い。た、助けてリアさーん!!」
「仕方ないなー」
「リアさん!」
「君には色々と世話になってるし、ギャンブルは得意分野だしね」
「ありがとうございます! リアさんっ」
と、なんやかんやでギャンブルが上手そうなリアに決定。
「お兄さんが妾の相手かえ?」
「なんだ。不服か?」
「いいえ。楽しめそうで、嬉しいどす。ウフフ」
では奥へとナナに案内されるがままに、さらに奥へと進んで行く、奥には吹き抜けになって月の光が差し込む舞台へと続く階段とテーブル・イス。
ナナとリアは階段を上がり舞台の上へ。舞台の上には沢山のカメラが置かれていた。ナナ曰く、不正防止の為らしいが、実際のところはどうなのだろう。
どうぞと言われてイスに座る。ルシアは下から大きなモニターを通じてゲームを見届けることになった。
- Re: シークレットガーデン 〜小さな箱庭〜【復活/裏カジノ執筆中】 ( No.149 )
- 日時: 2017/09/05 11:05
- 名前: 姫凛& ◆eLkrjSIK9U (ID: 4rycECWu)
「で、ギャンブルの種類やけど…ダブル神経衰弱でどうですかえ?」
「真剣白刃取り? それならあたしにも出来るー!!」
ハイハイーと手を挙げるランファを「それっ違うから、神経衰弱だから!」と諫めつつ視線をナナの方へと向ける。
神経衰弱と言えば、ジョーカーを除く一組五十二枚のカードを使い、伏せた状態でよく混ぜ、重ならないように全部テーブルや床に広げる。まず、ジャンケンをし、負けた人からスタートする。
プレイヤーは好きな二枚をその場で表に向ける。
二枚が同じ数字であればそれらを得ることができ、もう一度プレイできる。二枚が異なる数の場合、カードを元通りに伏せて次のプレイヤーの順番となる。
すべてのカードが取られるまで行い、取ったカードの枚数が多いプレイヤーの勝ちとなる。子供から大人まで楽しめるポピュラーなゲームだ。
—だけど名前に"ダブル"とついているのが気になる。
やはりなにか裏があるのか、裏カジノだけに。
「その名の通りデックを二つ使用するんどす。普通の神経衰弱なら、数字が同じなら当たり。ですがこれはマークも同じやないと、当たりとは認められません。
つまり、総カードは倍の百四枚で当たりはたったの一組だけなんどす」
「なるほど。確かにおもしろそうだな。いいぜ、それでやろう」
「ふふふ…決まりどすね」
—ゲームが始まった。命を賭けあったデスゲームの始まりだ。
黒服がテーブルの真ん中辺りに立、新品のカードを二箱用意する。ドルファの玩具メーカーが作ったトランプで世界で一番売れているトランプ。
ドルファの経営する、孤児院の子供達にも大人気のトランプだそうだ。
その孤児院の子供達は何処からかき集めて来たのだろう。
「先手はどうぞ、お兄さん」
「それはどうも、お ば さ ん」
「うふふふ…」
頼むからあまりナナを挑発しないで欲しいと思うルシア。でもその思いはリアまで届かない。
初手で悩んでいても仕方ないと、リアが最初にめくった二枚は、ハートの四とダイヤの四。
「どっちも四だけど、このルールじゃ当たりじゃないわけだ?」
「その通り。次は妾の番どす」
やっぱりこのゲーム難しすぎない? 当たりが一枚切りということは、運で当たりを引ける確率は百三分の一しかない。そうすれば、すでに開かれたカードを覚えるしかないわけだけど…百三枚ものカードを覚えきれるわけがないよ。
「ダイヤのキングに…スペードのエース…あれがハートの二で……あの角がクラブの…」
駄目だ。頭痛くなってきた—。普通の一般人程度の記憶力だと、ルシア程度で限界だろう。
「あ。ダイヤの四って最初の方にリアが引いた奴だ」
「どこだったっけ?」
「…覚えてない」
「ん〜〜〜〜〜??」
仲間たちがカードの場所を記憶の書庫から探している合間に、リアは「確かここだったよな」とあっさりダイヤの四を引き当てた。
当たりなら続けて引ける。ダイヤの七、クラブのキング…外れた。「クラブのキングはもう引いてはなったな?」とナナがクラブのキングを引き当てた。
—ゲームはどんどん進んでゆく。
「す、すごい! 接戦だよ。リアさんが十八枚。ナナが二十二枚。リアさんってすごいね、ルシア君!」
「………」
「どうしたの?」
「え…あ、うん。さっきから二人ともノーミスだな…と思って…」
「そういえば、そうだね。それが?」
「……もしかして、覚えてる」
「シレーナもそう思う? 僕も、リアさん達…一度引いたカードの場所全部覚えているような気がするんだ」
「うっそ!? 百三枚全部の場所をっ!?」
仲間たちが見守る中、リアは次のカードを開く。
「ハートの五…これは見たな」とまたあっさり開いてカードを当てる。
「やっぱり、開いたカードの場所全部覚えているんだよ!」
記憶力は互角、後は一度開いたカードを引けるかの運の勝負だ。残りは二十八枚。リアは三十六枚。ナナは四十枚で以前も接戦。
ここからが本当の戦いと言えよう。残りのカードの枚数が減れば減るほど、それだけ当たりやすくなる。きっと—ゲームが動く。
「うふふ。やりはりますね、お兄さん。こないな、いい勝負になったのは初めてどす」
「そんな。…光栄だ」
「妾も気を引き締めへんと…当たりやね。…おや、これも当たり。これも見たことあるねぇ……おや? 十枚連取! 幸運の女神さまは妾に微笑みなさったようやね。ふふふ」
「リアさんとの差は十四枚。ここに来てこの差はもう…」
「リア、負けちゃうの?」
「ランファ…。大丈夫、大丈夫だよ。リアさんにはなにか考えがあるんだよ、きっと」
悲しげな顔をするランファ「大丈夫」と何度も言うルシアだが、その言葉はランファにではなく自分に言い聞かせているものだ。刻々と迫りくる死への恐怖でどうにかなってしまいそうだから—。
「—あ、と外れや。どうぞお兄さん。次、当てないと妾が勝ってしまいますえ? 頑張ってなぁ?」
と嘲るナナを無視してリアはカードのをめくる。
—が
「あ」
「外した…?」
「………はい、当たり。これで過半数五十四枚が出たので妾の勝ちどす」
負けた。リアが負けた。負ければ—
「おば…いや、ナナ様」
「はい?」
盛り上がっていた場がしらけ静かになる。
「もう一戦、もう一戦だけお願いできませんか! こんな、たった一回の勝負だけで命が消える…死ぬなんて!
俺にはまだ、やらなければいけないことがあるんです!!」
リアが泣き叫んでいる。泣き叫び、床に額をこすりつけている。いわゆる命乞い、土下座をしているのだ。
「俺も貴女と同じで、開いたカードを全部覚えていたんです! こんな負け方…死んでも死にきれねぇ!!
どうか…どうか…あと一戦だけ! お願いします!!」
ナナは恍惚の表情を浮かべうふふふ…と笑っている。
「ええどすよ」
「ナナ様!? なにを…」
「だってその方が面白いやない。次負ければお兄さんには、生き地獄を味わってもらおうかね。
死にたくても死ねない、永遠に続く悲痛と苦痛の生活を—うふふふ…」
「ああ。いいぜ、もう一戦してくれるのなら、なんだって」
—負ければ生き地獄。それを条件に、二回目のゲームが始まった。
「では、今回も先手をどうぞ」
「ありがとうございます」
(ナナside)
—ウフフ。この勝負も妾の勝ちで決まっとるどす。だって—伏せカードの半分、五十二枚なんのカードが分かっているんどす。
このトランプ、一見流通している普通の正規品と変わらないけど、実は個人的に作ったラインで製造している別のトランプ。正規品とは一つだけ違うところがある。一定以上の温度で模様が浮き出るんどす。
こうやって並べた後、冷めるまでニ三分、浮き出た模様は残り続ける。細かい変化だしすぐ消えるからばれっこない、妾はそれを覚えているというわけどす。
負ける要素など微塵もたりともありんす。ダブル神経衰弱にしたのは、難易度を上げてラッキーパンチを防ぐため。
カードの中身が分かれば、ポーカーでもババ抜きでもまず勝てる。覚えるのは苦労したけどリターンは大きかった。
お兄さん…あんたのその体、頂きますえ。
ダイヤの六にダイヤの六。当たり…どす?
「ドルファのトイメーカーってのは随分と金を持っているんだなー」
「…なにが言いたいんどす?」
「だってドルファの時価相場っていくらだよ」
「……さぁ、いくらやろうかね」
「一つ忠告しといてやるよ、自分の背負ってるもん賭けるときは、それなるの覚悟持ってやれよ」
は? なにを言っている。妾の背負っているもの—ハッ!!? まさかこいつ、イカサマに気づいた!?
確かにドルファ本社自らイカサマカードを作っていると、知られれば会社が傾く不祥事どす。
「…フッ」
—ッ!? どこまで気づいたいるんどす。計画の模様を見つけられた? いやもしかしたら、デバフと言う可能性も…。駄目どす! こうなったら、妾の番で一気にカードを開いて回収するしか…。そして普通のデックとすり替える。
これしかない。妾の番に。妾の番になったら。妾の番になったら、妾の番になったら……妾の!!
「リ、リアさん…」
「「ざわざわ…」」
「……これで五十四枚。俺の勝ちだ」
「は?」
下を向くと、カードの過半数、五十四枚が開かれていました…。
「なんで」
「くふふっ。あんたがもう少し用心深かったら俺の負けだったよ。だって—
裏の模様がさっきと同じじゃねぇーか。あんたがもう一組別の模様が浮かぶデックを擁していれば、お手上げだったよ」
は—覚えてというんどすか!? もしそうなら、こいつは…一回目のゲームから模様を認識していたということになる。知らぬふりをしてゲームを続けていたことになりんす。
負けた後悔しがっていたのも、演技。でもそれにしたって、模様が出るのはほんのニ三分のこと、その間に全ての模様を覚え、かつ、その後開かれたカードの中身と模様を結び付ける。そんなことが人の子なんぞに、可能なわけ!?
「さ—」
「ヒッ」
「代償を支払ってもらおうか—?」
(ナナside終)
勝った。正直なにがどうして勝てたのかよく分からないが、ゲームはリアの勝利だ。
「やった!!」
「リアさんが勝った!」
「イエーイ!」
「……よかった」
「………」
リアの勝利を喜ぶ仲間たち。彼らに向かってリアも手を振ってこたえる。
「まだ…どす」
「あ?」
「まだ、妾は負けてはおらぬ!!」
ナナを言葉を合図に、カジノの通路から大勢の黒服達が現れ、ルシア達を囲んだ。
「そんな、勝負はもうついたのに!?」
「黒いのがうじゃうじゃ…まるでゴ—「それ以上は言っちゃダメ——!!」
- Re: シークレットガーデン 〜小さな箱庭〜【復活/裏カジノ執筆中】 ( No.150 )
- 日時: 2017/09/05 14:46
- 名前: 姫凛 ◆x7fHh6PldI (ID: 4rycECWu)
武器を持った黒服達に囲まれた逃げ道を失ったルシア達。ここはもうカジノではなく、戦場だ。
「全兵につぐ、この者達を……殺すじゃ! 生きて返すなーー!!」と叫んだ、ナナの言葉を合図に黒服隊が一斉にルシア達に襲い掛かる。
「やっぱりこうなるの!?」
「みんなー。気をつけて!」
「言われなくとも、わかってるよー」
「……回復する」
ルシア達はみんなで協力しながら、黒服達と応戦する。
舞台の上に立ったままの、リアとナナ。リアは腰に下げている剣を抜き、構えた。
「うふふ…あんたが妾とやるんどすか?」
「ああ、不服か?」
「ふふっ。妾も随分とまぁ…なめられたもんどすなぁ!!?
"オメガブリザード"」
ナナが腕を伸ばし扇子を水平にすると、猛吹雪が吹き荒れ無数の氷の刃がリアを襲う。
「—ッ!」
防御の体制をとり、攻撃を耐え抜いた。
—だが、氷の刃を受けた腕や足がピキキと少しずつ氷始めている。
「ふふっ全身氷漬けのオブジェになるのも時間の問題のようやねぇ?」
「はっ。それはどうかなっ」
「—っ、生意気な。これで終わらせてあげるわ。"アイススパイク”」
ナナが扇子を斜めに切るように振るうと巨大な氷の槍が現れリアめざし、一直線。
「———ッ!」
巨大な氷の槍はリアを直撃。
「リアさーーーん!!」
ルシアの叫び声も、もうリアには届かない…
「うふふ…うふふふっ!! 妾の勝ちどす…「それはどうかな?」なっ—」
「リアさん!」
と思われたリアがナナの後ろに立っていたのだ。まさか、あの攻撃をかわされた? 体が半分凍った状態で、かわし妾の背後をとったじゃと…。なら次の攻撃で今度こそ息の根を—と新しい氷の槍を作り出そうとしているナナに対して
「遅んだよっ! おばさんっ」
「きゃあああ—!!」
そのまま振り上げた剣を振り下ろした。ナナは吐血し、膝から崩れ落ちた。
リアとナナの戦いはリアの勝利で幕を閉じた。
「…ぁ…ぁ…おのれ」
斬られた部分からぼたぼたと血を落とし、ふらふらとした足取りでナナは立ち上がる。まだやるかっとリアは剣を構える…が
「これで…勝ったと思わなんし。勝負はこれからや…」
なにを言っていると…首を傾げるリア。だがその答えはすぐにわかった—
「—ッ数が多すぎる!」
倒しても倒しても、わらわらと湧いてくる黒服達に苦戦しているルシア達。
「…ルシア」
「ヒスイ? …どうした、の?」
—ぷすりと体に何かが突き刺さる音
—かちりと骨に何かが固いものが当たる鈍い音
—熱い。体の一部が灼けるように熱い。
恐る恐る、下を見てみると
「…え」
ルシアの心臓にナイフを突き刺さっていた
「くはっ!!」
「ルシアーー!!」
「…どうして」
「なんでこんなことするの」
「どうゆうつもりだ、ヒスイ!!」
仲間たち、元仲間たちからの視線を一身に受ける少女が一人。
彼女の名前は、ヒスイ。盲目の少女 ヒスイ。そして—
「妾の僕のヒスイ」
「—ッ」
全て演技。ルシアと和の国で会ったのは偶然でもなんでもない、必然のこと、今日この日の為に、ルシア殺害計画の為の事だった。
仲間だと思っていたのはルシア達だけ、ヒスイは最初から
「…貴方達を仲間だなんて思ってない」
「テメェ!!」
「待って! リアさんっ…」
ヒスイに斬りかかろうとした、リアを瀕死のルシアが止めた。シルに抱きかかえられ、シレーナの回復魔法を受けて何とか延命しているルシア。
刺された場所から血が中々止まらない。今にも泣き出しそうなランファ。
「…ヒスイ。もう嘘なんてつかなくて…いいんだよ?」
「私は嘘なんて…」
「僕は知ってるよ? ヒスイは…子供が大好きでとっても優しい女の子だって」
「それは全部、貴方達を騙すための演技。本来の私はただの殺戮人形よ」
「それこそ嘘だよ、ヒスイ」
「なにを…言っているの…私には貴方の言っていることがわからない。わからないわ」
ルシアの純粋で真っ直ぐな瞳に見つめられ、ヒスイは後退る。
「それにもう一つあります。ナナさん」
「妾?」
「あなた…は、ヒスイさんの……ですよね」
「なにを…言っておるんどす? 妾にはなんのことやら、さっぱり」
「そのロケット」
「—ッ」
「ずっと不思議でした。着物と言う服には不釣り合いなロケットペンダント。
でも…今確信しました。ロケットペンダントの中には…」
「うるさい! なにをしておる、ヒスイ! さっさとそやつを殺—ッ!!」
何処からか飛んできた弓矢がナナの心臓を貫いた。
「ナナさまーーー!!?」
ヒスイがナナの元へ駆け寄り抱きかかえる。
「あそこに誰かいるよ!」
とランファが指さす方向を見ると…いた、奴が—
「…あいつはっ」
「…あの野郎はっ」
般若の面を被り顔を隠した紅き鎧の騎士。ルシアの最愛の妹、ヨナを攫った犯人。憎き相手。
奴が吹き抜けになっている天井の上にいた。手には弓を持っている。弓を放ちナナの心臓を貫いたのは奴だろう。
「………」
「待ち上がれ!!」
「待って…ヨナを…」
二人の声も聞かず、紅き鎧の騎士は颯爽と夜の闇へ消えて去った。
「ナナさま」
チェーンが切れ首から下げていたロケットペンダントが床に落ちた。拾い手に取るヒスイ。
「中、見たいんやろ」
「…え。でも…「ええよ」
カチッとロケットペンダントの蓋を開ける。中に入っていたのは一枚の写真。生まれて間もない赤子の写真だ。
「これは…「あんたや、ヒスイ」…え?」
写真に写る赤子の正体はヒスイだった。ナナはヒスイの頬に手のひらを当て
「生まれたばかりやった…あんたを手放して…かんにんな。…かんにんな」
「ど、どうゆう…こと…ですか、ナナさま」
「あの男にあんたのことを知られるわけにはいかんかった……あんたまで…あの男のいいように使わせとうなかった…ごんな…ヒスイ。
叶うことなら…あんただけでも…幸せに…な—」
ヒスイの頬から暖かい手のひらがゆっくりと床へ。
「アアッ——アアアアアッアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
カジノの中にヒスイの声にならない悲痛の叫び声が響き渡る。
「ヒスイ」
「そんな…ことって…だってナナっヒスイさんのっ!!」
「ドルファ…酷い。こんなのって酷過ぎる!!」
「でもこれが、ドルファのやり方だ」
ドルファにとっては負けた駒などいらないのだ。生かす価値すらないのだ。
"負けた者には清く死を—”それがドルファの鉄の掟。全てはあのお方の為に。あのお方に捧げるのだ。
「許せないっ、ドルファ!!」
「…ルシア?」
刺された箇所から血が止まらず、シルに抱きかかえられて、シレーナの回復魔法でやっとのこと延命していたはずのルシアが大きく立ち上がった。
「ちょ、寝てないで大丈夫!?」
「うん! なんだか元気になってきた!」
「いや、心臓刺されてたんだよ!? 今まで生死彷徨いかけてたんだよ!?」
「でも、大丈夫になった!」と言い張るルシアに黙っててと言い、医者兼看護師であるシレーナが刺された心臓部分を内診してみたのだが…
「ない」
「シレーナさん?」
「…傷がない」
「うそ!?」
ないのだ。ヒスイに刺された傷がないのだ。着ている服は血で真っ赤に染まり、床もルシアの血で血だまりが出来ているのにかかわらず、ルシアの体は無傷なのだ。
「(これが…メシアの再生能力)」
誰かが、ぼそりと呟いた。その声は余りにも小さく誰の耳にも届かなかった。
「行こう、みんな!」
「行くって何処に? お家に帰るの?」
「違うよ、ランファ。ドルファフィーリングの本社にだよ」
「ああ〜本社ね。…って」
「「えええええぇぇぇぇ!!?」」
仲間たちが一斉に驚きの声をあげる。それでもルシアの瞳には正義の炎がメラメラ燃えている。
「…私は行く」
「ヒスイ!」
こときれたナナとの別れを終えた、ヒスイがルシアの元へ近寄って来る。でも数メートル離れた所で足を止める。
嘘をつき仲間のふりをして近寄り、そして裏切ったのだ。今更どんな顔をして合えばいいと言うのだ。
「ナナさまの…いいえ、母の仇を取る。…貴方達とはここでお別れ…「しゃーないな」…え?」
元仲間たちに別れの挨拶を告げようとしたヒスイの言葉を、彼女の後からついて来た、リアが遮った。
「ルシアとヒスイだけじゃ、心配要素しかねぇーじゃん。仕方ないから最年長のお兄さんもついてってあげますよっ」
「もちろんあたしも行くもん! だめって言われてもついて行くもんね!!」
「わ、私だって行くよ!」
「…ケガしたら大変」
「みんな…。うん! 行こう、ドルファフィーリング本社へ—!!」
また新たな目的地へ進む仲間たちの背中を見つめるヒスイ。そんな彼女の肩をぽんっと叩く者が
「…元仲間なんて、つまらないこともう言うなよなっ」
それはリアだった。目の見えない彼女にはその顔をは見えていないが、今の彼の顔をはまるで悪戯っ子のような無邪気な笑顔だった。
それを感じ取ったのかヒスイはくすりと小さく微笑んだ—。
「今までの借り全部ひっくるめて返してもらわないとなー」
ドルファフィーリング本社への道中、一番先頭を歩いていたリアがぽつりとつぶやいた。
「ドルファにはいっ〜〜ぱい煮え湯飲まされたもんね〜〜」
と続けて背伸びをしながら言う、ランファ。
「……誘拐、監禁」
投獄されたときのことを振り返る、シレーナ。
「私はコロシアムの景品にされたしねー」
コロシアムでのことを振り返る、シル。
「私は母を殺された…」
先ほどの出来事を思い出す、ヒスイ。
「………」
「どったの? ルシア?」
一人難しそうに考え込む、ルシアの顔を覗き込む、ランファ。ルシアはあ、えっとね…と言ったあと
「流れ的に言えば、僕はヨナを攫われたなのかなって…」
なんてねっと苦笑い。
「ああー!」
とランファの後に他の仲間たちもきっとそうだ! そうに違いないと納得。
「全ての悪の根源はドルファなんだよ!」
「…そう仮定すれば、リオンを殺したのもドルファってことに」
「きっとそ〜だ〜!」
「「打倒、ドルファ!!」」
「み、みんな〜〜〜!!?」
士気があがり、駆け足でドルファフィーリング本社へ向かう仲間たち。主人公置き去りにして。
待って〜〜と仲間たちを追う主人公、ルシア。
ドルファフィーリング本社でルシアは知る事となる
自らのの出自のこと
ドルファフィーリング本社でルシアは出会う事となる
倒すべき強敵
そして探し求めていた者に—
-裏カジノ編-終