複雑・ファジー小説

Re: シークレットガーデン 〜小さな箱庭〜【敵の本拠地へ】 ( No.154 )
日時: 2017/09/12 12:18
名前: 姫凛 ◆x7fHh6PldI (ID: PCEaloq6)

第六章 闇と欲望の国-敵の本拠地へ編-






「ここが…ドルファフィーリング本社…」
「おっきー…」

ルシア達の目の前にデンッと佇む建物。ドルファフィーリングの本社ビルだ。雲よりも高い建物、全体図を下から見ようとすれば、首の骨が折れる。
現にルシアも見上げすぎて首が痛いと、さすっている。

「魔王城…?」

ふと、シルが呟いた。
確かに分厚い黒い雷雲に覆われた黒い本社ビル、岩肌の枯れ果てた台地、枯れ草すらも生えていない。敵の本拠地というこも相まって、なおさら魔王城と感じさせるのだろう。

「みんなの反応から察するに、とても大きくて禍々しいしいオーラの建物なのかな?」

目の見えないヒスイは、仲間たちに尋ねてみた。それにリアは「んー…。それで当っちゃ、当ってるけど…違うといえば、違う…?」と頭を悩ませている。ヒスイもどっちなの? と首を傾げる。
ま、とりあえず入ってみようぜ、という事で自動ドアを通って、いざドルファフィーリング本社へ。

「ようこそいらっしゃいました。ドルファフィーリング本社へ」
「ど、どうも…」

入ってすぐに出迎えてくれたのは、魔物でも怖い顔の親父でもなく、受付の綺麗なお姉さんだった。しかもとびっきりの営業スマイルで、出迎えてくれた。

「入ったはいいけど、これからどうするの?」
「戦じゃ〜」
「率直に過ぎるだろ! 却下」
「え〜、じゃあ、他に良い案ある人、手〜挙げて〜」
「「………」」

皆、無言である。

「ないのかよっ! 先が思いやられる、PTだよ…、まったく」

「やれやれ」と手のひらを横に広げて頭を振る、ランファにチョップ!

「イタッ!?」
「調子乗んな」
「ブーブー!!」

リアとランファが睨み合いをしている間を通ってヒスイが、受付の方へ

「あのすみません」
「えっ、ヒスイ!?」

驚く仲間たちをよそに、受付のお姉さんとの話を進める。

「社長にお会いしたいのですが」
「アポはありますか?」
「いえ。ないです」
「少々お待ちください。社長に聞いてみますので」

受付のお姉さんは電話の受話器を取り、ボタンをポチポチ。ぼそぼそとこちらに聞こえないように会話し、数分後

「社長が会われるそうです。社長室へは、あちらにあります、エレベーターからどうぞ」

受付のお姉さんが手のひらの先で指す方向にあるのは、縦長の四角い箱のような乗り物。…あれがエレベーター? 田舎暮らしだったルシアにはとっては、初めて見る乗り物だ。

「ありがとうございます」

と受付のお姉さんにお礼をいってぺこりと頭を下げ、仲間の元へ戻って来る。

「ヒスイさん、すごーい!」
「ふつうっか!」
「もっちと、武力行使的なことしたかったのに〜」
「…危ないこと…だめ」
「ランファは血の気が多いんだね」
「…いや。ただ暴れたいだけどと、思うよ?」

あはは…と苦笑い。
社長はビルの最上階にある。早速、エレベーターに乗ってみよう。

「おぉ…さすがドルファフィーリングのエレベーター。本社のだからさらに違う」
「セレブ感がすごいな。足元に引いてあるの、白熊の毛皮だぞ」
「マジ!? 中身は!?」
「…食べた?」
「怖いよ、シレーナ!!」

さすか天下のドルファフィーリング。エレベーターにだって抜かりなく高級感溢れる造りとなっている。本社ビルのなら、なおのことだろう。
壁が黄金で出来ているのはもう当たり前とし、天井には無数のダイヤモンドが散りばめられたシャンデリア、背後の壁は窓ガラスになっており夜には、仮面の国の素敵な夜景が見られる仕様だそうだ。
超高層ビルにもかかわらず、最上階へはものの五分で到着し、そんな早い時間で着くのにあの耳鳴りなど不快感を一切感じさせない。
何処をとっても非の打ち所がない造りとなっている。


—と本社エレベーターを絶賛していると、最上階へ着いたようだ。

「ここに…ドルファの社長がいる」

自然と唾を飲みこむ。
エレベーターのドアの先にいるのだ、全ての根源。 人々に繁栄と娯楽を与えているように見せて。その裏では、人を人だと思わない冷徹で残虐的な行為を繰り返していた、ドルファフィーリングの社長。
このドアの向こう側に、敵のボスがいるのだ。

—ドアはゆっくりと。それほども時間もかからず、開いた。

「ようこそ、我がドルファフィーリングへ。ルシアそして…そのお仲間さん達」

真っ先に視線に入ったのは、長い銀髪に鋭く振り上がったツリ目の三十代半ばといったところの男。
男は冷たい微笑みをルシアに向ける。

「あ…貴方がドルファの社長。あれ…どうして僕の名前を…?」
「私はバーナード。貴様の事はずっと昔から知っているさ」

ふふふと不気味に笑っている。ボソッとランファが「シャッチョサンってもしかして、ソッチ系?」などと抜かしていたが、ここは無視の方向で行こう。

「ルシア。貴様は本当に愉快な仲間を連れている」
「?」
「人柱の娘を三人」

シレーナ、シル、ヒスイを順番に見つめ

「あの断罪者の一族の末裔」

リアを見つめ、最後に

「特異点」
「——ッ」

ランファを見つめる、ゾクリと背筋を凍らせる、冷たい視線。

「特異点? …なのことランー「今は言えない」

絞り出すように言うランファ。体が小刻みに震えている。武者震い? いや違う。恐怖で震えているのだ。

「やはり知らぬのか。特異点の存在も己の出自のことも」

カカカと嘲る、バーナード。キッと彼を睨み付けながらルシアは尋ねた、何が面白いのかと。

「貴様は己がなんの種族か知っているか」
「僕はヒュムノス」

と言った瞬間、また嘲笑うバーナード。

「滑稽だ、自らの種族すら知らない愚か者とはなっ!」
「な、なにが—」
「教えてやろう、貴様はあのようなひ弱なヒュムノスなのではない、メシアだ」
「な、メシアだとッ!?」
「知っているのリアさんっ!!?」

「知っているもなにも…」と口ごもるリアに代わり、バーナードが「知らぬ方が可笑しいのだろう」と答えた。

「古の時代。まだ世界が誕生したばかりの時代。
 光から生まれ、誕生と繁栄を司る、女神"ナーガ”
 闇から生まれ、死去と混沌を司る、邪神"ギムレー”
 光と闇は相容れない存在。神々よる争いは必然なこと。
 女神と邪神は、何百年も何千年も何億年もの間、争い続けた、が力を消耗するだけで決着には至らなかった。
 このままで力尽き負ける—と感じた女神は、残り僅かの力を使い、フュムノス、ドラゴンネレイド、壊楽族(かいらくぞく)、リリアン、ユダ、そしてメシアの五つの種族を生み出し、共に戦ったことでなんとか邪神を封印出来た—かに思われた」

ここで一度、バーナードの話が途切れた。
周りの仲間達にを見てみると、皆何故か、ルシアと視線を合わせようとしない。

「—が、裏切り者のせいで、その封印は完璧な物とはいえなか

Re: シークレットガーデン 〜小さな箱庭〜【敵の本拠地へ】 ( No.155 )
日時: 2017/09/11 10:16
名前: 姫凛 ◆x7fHh6PldI (ID: 5xmy6iiG)

「—が、裏切り者のせいで、その封印は完璧な物とはいえなかった」
「裏切り者? 誰が…」

ルシアが首を傾げると、バーナードはニヤリと笑い

「貴様の父親だ—」
「えっ。父さんがっ!?」
「貴様の父親は、邪神の持つ、永久にも近い寿命と世界を支配できる圧倒的な力に魅入られ、闇に堕ちた。
 我が物にしようと邪神を己の体に取り入れ、その結果。奴は強大な力と永久の寿命を手に入れた」
「父さん…が…そんな…」

幼い頃に父と母の両方をなくし、今まで妹のヨナと貧しくも仲睦まじく暮らしていたルシア。
おぼろげに残る、幼き日に見た父の記憶。
父の大きくて偉大な背中に少しでも早く追いつきたくて、何度駄目だと言われても狩りへ行く父の背中を追いかけて行き、途中でバレて叱られて、お前も一緒にやるか。と、大きくて暖かい手のひらで頭を撫でられた、記憶の中に僅かに残る父の姿。
バーナードが言っていることが本当の父の姿なのだとしたら、この記憶の中にいる父はいったい—誰なのだろうか。

「ちがっ。おじい—「黙れ。小娘」キャッ」

何かを言いかけたランファの足元に鋭く尖ったナイフが突き刺さる。

「貴様の父が裏切ったことに痛く悲しまれた女神"ナーガ”様は我らユダ族に命じられたのだ」

ゴクリと唾を飲みこむ。

「—貴様ら、メシアの一族を皆殺しにしろとっ!」

バーナードの後ろにあった壁が横に回転する。

「——ッ」
「ヨナ!!?」

回転した壁には、分厚い縄でぐるぐる巻きに縛られたヨナが。
気が付くと、右側には「殺殺殺殺殺殺殺」と機械的に呟く少女が。
左側には「ギャハハハハッ」南の森でシレーナ達フュムノスの娘達を攫った、ザンクが。
背後。エレベーターの前には「………」無言の圧。殺気を漂わせ仁王立ちする紅き鎧の騎士が。

「会いたかったぜ、ルシア〜? ギャハハハハッ」
「お、お前は…ザンクッ!」
「ぁああ…ああ…」

あの時の恐怖がよみがえる。
シレーナを守るように彼女の前へ片腕をを伸ばし、ザンクに向けて剣を構える。

「殺殺殺殺殺殺」
「まだここに居たんだ…」

言葉の通じない少女と目の見えないヒスイ。
少し前まではナナの元で、殺し屋のような仕事をさせられていたヒスイ。「殺殺殺」としか喋れない少女もまたドルファフィーリングの雇った殺し屋。
同じ殺し屋同士、何か思うところがあるのだろうか。

「………」
「やっぱり、お前もドルファの奴だったんだな」

殺気に満ちた視線で紅き鎧の騎士を睨み付け、今にも襲い掛かりそうな雰囲気で剣を構えているリア。
何故。彼はこれ程までに紅き鎧の騎士を憎んでいるのだろうか。
リアと紅き鎧の騎士の因縁とはなにか。

Re: シークレットガーデン 〜小さな箱庭〜【敵の本拠地へ】 ( No.156 )
日時: 2017/09/11 09:17
名前: 姫凛 ◆x7fHh6PldI (ID: 5xmy6iiG)

目の前にはバーナードと、ぐるぐる巻きに縛られたヨナ。
背後には無言で殺気を放ち、仁王立ちする紅き鎧の騎士。
左右には嘲けり血を欲する狂犬ザンクと、「殺殺」と喋りフードで顔を隠した少女。

「ど、どうしようルシア君!?」
「ここは慌てず、冷静に…」
「って言われてもなー。完全に囲まれちゃってるし」
「やっとここまでこれたのに…また、だめなの?」
「どうすれば…」
「…ルシア」

背中合わせに仲間達と一か所に集まり固まる。ルシアに助けを求めるように皆、見つめるがここは敵の本拠地。完全に囲まれていて逃げ場など何処にもない。
バーナードが腕を振り上げ「ここで終わりだ、ルシア!」と言ったのを合図に、武器を構え今か今かと待っていた、二人が一斉に襲い掛かった。

—こんなところで死んでしまうの。やっとここまで…ヨナがすぐ目の前にいるというのにっ!

死を覚悟したルシアの命の灯を女神さまはまだ消えさせたりしない。

「お兄ちゃんっ」
「ッ娘!?」

ヨナがバーナードに渾身のタックルをおみまい。まさかヨナがタックルをしてくるなんて一欠片も思っていいなかったバーナードは一歩二歩と後ろに後退る。
ひるんだ一瞬の隙をついて、ヨナは机にある長細の引き出しの下に隠すよいに設置してある、赤いボタンを頭突きでスイッチをいれた。

「——ッ!!?」

二秒後。部屋の中央、ルシア達が立っていた足元の床が大きく開かれ引力には逆らえない。
下へ落下するまで残り時間 三秒。

「このっ餓鬼!」
「キャア!」
「ヨナッ!」

弾き飛ばされて床に倒れるヨナを助けに行きたいと脳は体に命じるが、宙に浮いている状態では体の動作を上手く扱えない。気持ちばかり焦り、上手く思考が働かない。
下へ落下するまで残り時間 二秒。

「やっとここまで来れてまた会えたのに! ヨナー! ヨナー!!」

悲痛の叫び声。手を伸ばせば、その肌に触れられる。後もう少し、もう少しだけ手を伸ばせば、取り戻せるのにっとやるせない思いで胸がいっぱいで苦しい。
下へ落下するまで残り時間 一秒。

「ヨナ…待ってる」
「ッ」
「お兄ちゃんが…助けに来てくれるの…待ってるから…ね?」

弱々しく、けれども兄を心配かけまいと健気に笑う妹の笑顔。それが最後に見たヨナの顔だった。
下へ落下するまで残り時間 零秒。

「ヨナ…ヨナ…ヨナーーーーーーー!!!」
「フッ」
「バーナード!! 絶対にお前からヨナを取り戻してみせ——」

ルシアの悲痛な最後の叫び声は閉まる床の音にかき消されてしまったが、ヨナにはその思いはちゃんと伝わっている。「待ってる…待ってるから…」と一人静かに大粒の雫を流すヨナ。

「チクショーが!! 殺しそびれたぜッ!!」
「殺殺殺殺っ!!」

ルシアを殺せなかったことを残念がる二人にバーナードは冷たく言い放つ。

「奴らの行き場所など検討がつく。先回りし今度こそ息の根を止めろ」

と言った後に「次はないと思え」と付け足す。生の無い瞳。冷徹で残酷な瞳。ドルファでは社長、バーナードの命令は絶対。失敗など許されない。次はないというのはつまりそうゆうこと。

「言われなくともぉ!!」
「殺殺殺殺殺」
「御意に」

それぞれ返事をすると、それぞれの持ち場へ急ぎ向かう。ルシアとの最初で最後の勝負が待っているから、楽しみでしょうがないのだ。
どう可愛がりいたぶってやろうか、どう絶望させ精神を壊してあげようか、ルシアを先に殺すか、それとも大事な仲間を先に殺すか、考えるだけでわくわくしてくる。どちらが勝っても負けてもこれが最後。
なら楽しまないと損でしょう。

「待て」

バーナードに呼び止められたのは紅き鎧の騎士だ。

「貴様、何故攻撃しなかった。あの程度の雑魚、お前ならば簡単にしまつできるだろう」

ルシア達を殺せと命令されたときただ一人、仁王立ちのまま動かなかった紅き鎧の騎士。いや最初から一人だけ武器を抜いていなかった紅き鎧の騎士。
彼女の実力ならば武器を一振りするだけで、ルシア達など一掃できただろう。でもしなかった。

「王よ、お言葉ですがあの者達を過信しすぎでは」
「ほう?」
「奴らはいずれ、貴方様をも超える存在。あまり過信し油断なさらないように」

首を刎ねられるのも時間の問題ですよ。と、紅き鎧の騎士はぼそり独り言のように呟くと、瞬間移動魔法を使い、自分の持ち場へと移動した。
広い部屋の中にぽつりと残されたバーナードは笑い出しだ。渇き狂ったように笑い出した。

「フッフハハハハハッ! メシア風情が私を超え怯えさる存在になりえるだと…?」

そんなことなど万が一にもあり得ない、とバーナードは心の底から思っている。だって彼の種族、ユダ族こそが世界で最強の種族。他の種族などユダ族からすれば、お飾りもしくはカスの塊程度の存在だ。
見下してきた他の種族に負けるなどありえない。あるはずがない。…だけど

「それも、それで面白いか。…なぁ、メシアの姫よ—」

メシアの姫と呼ばれた少女は、窓の外にある黒い雲の先、ずっと遠く、遠い場所に旅立った大切な家族のことを想い無言で答える。
その答えは、肯定とも否定ともとらえられる答えでした—








-敵の本拠地へ編-終