複雑・ファジー小説
- Re: シークレットガーデン 〜小さな箱庭〜【賢者たちの隠れ里】 ( No.157 )
- 日時: 2017/09/12 12:17
- 名前: 姫凛 ◆x7fHh6PldI (ID: PCEaloq6)
第六章 闇と欲望の国-敵の本拠地へ編-スキップ物語
草木が枯れ果てた台地。雷雲の黒く分厚い雲で覆われ、頂上を見ようと見上げると首が痛くなるような高層ビル。
「ここが…ドルファフィーリング本社…」
ぼそりとルシアが呟やく、首が痛いな…とさすりながら。誰かが魔王城?と言っていたいるようだが、確かにそうともとれる見た目かもしれない。
一応、敵の本拠地なのわけだから。でもごく一般的と言っていいのか、普通にエリートサラリーマン達が出はいりしている会社とも言えるし見える。
とありのままを目の見えないヒスイに伝えると呆れられ、首を傾げられた。それはそうだろう、言っている本人が分かっていないのだから、当然の返答といえよう。
入口程度でしりもじしているようでは駄目だ。ドルファのにはこれまで沢山の煮え湯を飲まされてきたのだ、そのツケを今日はらって貰わなければいけないのだ。
もう誰も悲しまなくて、苦しまなくていいように。
いざ—ウィーンと横に開くガラス製の自動のドアをくぐり中へ入ると……
「ようこそいらっしゃいました。ドルファフィーリング本社へ」
邪が出るかはたまた、地獄の番犬ケルベロスがお出迎えかっ、と身構えていたがなんのこっちゃない、営業スマイルが素敵な受付のお姉さんでした。
拍子抜けだ。一戦交える気満々だった為、皆あっけらかんとして棒立ち状態。どうしよう…めちゃくちゃ恥ずかしいんだけど、とルシアに視線が集中するが睨まれたってしょうがない。だって皆、ドルファに来るのは初めてなのだから。
目が見えないのはある意味ラッキーか。ヒスイが受付に向かい、お姉さんと
「社長にお会いしたいのですが」
「アポはありますか?」
「いえ。ないです」
「少々お待ちください。社長に聞いてみますので」
いった感じのやり取りをして社長へ会えるようにしてくれた。
「「普通っか!!」」と仲間たちからは突っ込まれたが、いいのです。普通で。むしろ平和的に解決するならそっちで解決した方がいいに決まっているのだ。
無駄に豪華絢爛なエレベーターに乗り込み社長室へ。
「ようこそ、我がドルファフィーリングへ。ルシアそして…そのお仲間さん達」
出迎えたのは綺麗に伸ばされた銀髪ストレート。鋭く振り上がり凶器のようにも感じるツリ目の三十代半ばといったところの男性だ。
男は冷たい微笑みをルシアに向け、ニヤリと冷たい笑みを浮かべている。
彼の名はバーナード。ドルファフィーリングに社長で悪の親玉みたいな人。ルシア達を一人一人吟味するように見つめ、そして最後にルシアの方を向くと
「貴様は自分が何者なのか知っているか—?」
知らないとルシア答えるとバーナードはカカカと嘲けり、世界の理を語り始めた。
「古の時代。まだ世界が誕生したばかりの時代。
光から生まれ、誕生と繁栄を司る、女神"ナーガ”
闇から生まれ、死去と混沌を司る、邪神"ギムレー”
光と闇は相容れない存在。神々よる争いは必然なこと。
女神と邪神は、何百年も何千年も何億年もの間、争い続けた、が力を消耗するだけで決着には至らなかった。
このままで力尽き負ける—と感じた女神は、残り僅かの力を使い、フュムノス、ドラゴンネレイド、壊楽族(かいらくぞく)、リリアン、ユダ、そしてメシアの五つの種族を生み出し、共に戦ったことでなんとか邪神を封印出来た—かに思われた」
ここで一度、バーナードの話が途切れた。
周りの仲間達にを見てみると、皆何故か、ルシアと視線を合わせようとしない。
「—が、裏切り者のせいで、その封印は完璧な物とはいえなかった」
「裏切り者? 誰が…」
ルシアが首を傾げると、バーナードはニヤリと笑い
「貴様の父親だ—」
「えっ。父さんがっ!?」
「貴様の父親は、邪神の持つ、永久にも近い寿命と世界を支配できる圧倒的な力に魅入られ、闇に堕ちた。
我が物にしようと邪神を己の体に取り入れ、その結果。奴は強大な力と永久の寿命を手に入れた」
幼い頃に父と母の両方をなくし、今まで妹のヨナと貧しくも仲睦まじく暮らしていたルシア。
おぼろげに残る、幼き日に見た父の記憶。
父の大きくて偉大な背中に少しでも早く追いつきたくて、何度駄目だと言われても狩りへ行く父の背中を追いかけて行き、途中でバレて叱られて、お前も一緒にやるか。と、大きくて暖かい手のひらで頭を撫でられた、記憶の中に僅かに残る父の姿。
バーナードが言っていることが本当の父の姿なのだとしたら、この記憶の中にいる父はいったい—誰なのだろうか。
「貴様の父が裏切ったことに痛く悲しまれた女神"ナーガ”様は我らユダ族に命じられたのだ」
ゴクリと唾を飲みこむ。
「—貴様ら、メシアの一族を皆殺しにしろとっ!」
この言葉を合図に隠し通路に隠れていた
前方、バーナードの後ろにはぐるぐる巻きに縛られたヨナ。
左にはギャハハハハッと嘲け剣を構えたザンク
右には殺殺殺…と言っている弓を構えた少女
背後、エレベーター前には無言の圧。そして殺気を放つ般若の面を付けた紅き鎧の騎士。
囲まれた。完全に。逃げ場を失ったルシア達。
やっとここまで来れたのに—
諦めて死を受け入れるのしかないのかと思ったその時—
「逃げて—お兄ちゃんっ」
ヨナの活躍により、ルシア達が立っていた床が開から逃げ道が。
ルシアはヨナも一緒に逃げようと、手を伸ばすがヨナ首を振り、涙でくしゃくしゃな笑顔で「お兄ちゃんが…助けに来てくれるの…待ってるから…ね?」と落ちてゆく兄を見送った。
次にルシア達が向かう場所などバーナードには見当がついている。ならば先回りさせせればいいだけのこと。
確実に殺せ—と部下と言う名の捨て駒に命令する。捨て駒は各々返事をすると持ち場へ、移動する。
「待て」
バーナードに呼び止められたのは紅き鎧の騎士だ。
「貴様、何故攻撃しなかった。あの程度の雑魚、お前ならば簡単にしまつできるだろう」
ルシア達を殺せと命令されたときただ一人、仁王立ちのまま動かなかった紅き鎧の騎士。いや最初から一人だけ武器を抜いていなかった紅き鎧の騎士。
彼女の実力ならば武器を一振りするだけで、ルシア達など一掃できただろう。でもそうしなかった。
「王よ、お言葉ですがあの者達を過信しすぎでは」
「ほう?」
「奴らはいずれ、貴方様をも超える存在。あまり過信し油断なさらないように」
首を刎ねられるのも時間の問題ですよ。と、紅き鎧の騎士はぼそり独り言のように呟くと、瞬間移動魔法を使い、自分の持ち場へと移動する。
広い部屋の中にぽつりと残されたバーナードは笑い出しだ。渇き狂ったように笑い出す。
「フッフハハハハハッ! メシア風情が私を超え怯えさる存在になりえるだと…?」
そんなことなど万が一にもあり得ない、とバーナードは心の底から思っている。だって彼の種族、ユダ族こそが世界で最強の種族。他の種族などユダ族からすれば、お飾りもしくはカスの塊程度の存在だ。
見下してきた他の種族に負けるなどありえない。あるはずがない。…だがもしものことがあれば?
「それも、それで面白いか。…なぁ、メシアの姫よ—」
メシアの姫と呼ばれた少女は、窓の外にある黒い雲の先、ずっと遠く、遠い場所に旅立った大切な家族のことを想い無言で答える。
その答えは、肯定とも否定ともとらえられる答えでした—