複雑・ファジー小説

Re: シークレットガーデン 〜小さな箱庭〜【賢者たちの隠れ里】 ( No.159 )
日時: 2017/09/13 09:57
名前: 姫凛 ◆x7fHh6PldI (ID: PCEaloq6)

第七章 賢者たちの隠れ里



ドルファフィーリング本社、社長室でバーナードから自らの出自の真実を知らされたルシア。
自分はもっとも平均的な能力でもっとも多くの数がいると言われるヒュムノスだと、ずっと信じ込んでいた、信じ込まされていたのに本当は違った。それは大嘘だった。
本当の種族は、厄災の子、メシアだったのだ。世界を自分のものにしようと、自分を生み出した女神、共に戦った仲間達、全てを裏切った、罪深きメシアの一族。
裏切った張本人とされるのはまさかのルシアの父親だった。幼い頃のおぼろげに残る父の大きな背中。あれは…なんだったのだろう。こんな父が欲しかったという願望が映し出した幻だったのだろうか—?
父も死に、バーナードに完敗し逃げ帰った来た、今のルシアに真実の裏に隠された真実を知るすでなどない。

ドルファフィーリング本社の地下に広がっている地下水道。
点滅する電球の灯りしかなく辺りは薄暗い。気温は低く少し肌寒い。ジメジメと湿気が多い、周りの壁には苔ばかりだ。
足元の泥と拗ね辺りまでの水が歩みを邪魔する。歩くたびにペチャッペチャッとあまり好い気のしない音が鳴る。
ここへ落下してからどれだけ経過しただろう。数時間? それとも数日だろうか。時間を確かめるすでがないため、己の体内時計に頼るしかない。ただひたすらに出口を目指し無言で前へ歩き続けるそれだけ。
いつものように陽気にふざけたりなど誰もしない。皆疲れきった顔をしている。
落とされてからずっと歩き続けているのだ、それも致し方ないのだろう。


「ねぇ、これからどーするの」
「………」

最初に沈黙を破ったのはランファだった。
始めの頃は空気の読めない発言ばかりしていた、ランファだったがルシア達との冒険で大きく精神的に成長し今では空気が読めるようになれるまで成長したのだ。

「そうだなー」
「………」

次に口を開いたのはリア。彼も最初はお調子者の青年といった雰囲気をしていたが、ルシア達との冒険で自分がこの中で一番最年長なのだという事を改めて認識し、俺がこいつらを導いてあげないとっと気持ちを改めた。

「この洞窟っぽいとこ、どこまで続いてるのよ…」
「………」

文句をいうように言ったのはシル。ドルファのせいでパクホー伯爵を殺した犯人として濡れ衣を着せられ、幼いその首に三億という賞金をかけられてとても口に出来ないような辛い人生を歩んできた少女も今では普通に笑い文句を言える、生活を送れるようになった。

「うっ、苔の臭いが…」
「………」

苔の臭いにむせているのはヒスイ。健常者でも歩きにくい泥道。杖を使いながら歩く彼女だとさらに歩きづらいことだろう。
シルがそっと、肩を貸し助け合いながら前へ歩く。ドルファに人生を滅茶苦茶にされた者同士、なにか通じ合うものがあるのだろう。

「歩きづらいよー」
「出口なんてあるのかな」
「苔の臭い苦手…」
「んー……」
「………」

それぞれ文句を言いながら、助け合いながら前へと進んで行く仲間達とは対照的に、ずっと黙り込んだまま、足は前に進んでいるが心は止まったまま。前へ進むことを諦めてしまった少年が一人。

「……ルシア」
「……なに?」

少女が少年の名を呼ぶ。少年が少女のいる後ろを振り返ると

バチンッ!!

「わぁ〜お……」
「あちゃ〜」
「あれは痛い」
「すごい音…なにが?」


地下水道全体に響き渡る、平手打ち。仲間たちもドン引きだ。
叩かれた少年、ルシアの頬には真っ赤な紅葉が。

「な…なにするの…シレーナ」

ルシアに平手打ちしたのはシレーナ。無言でルシアを見つめたまま静かに

「ルシアは逃げてる」
「逃げてるッ? 僕がっなにから!?」

図星を突かれて自然と声が荒ぶる。物静かで大人しいシレーナが怒った姿を見るのは初めての事。どうするのが正解なのか、どうすればいいのか分からない仲間たちはただオロオロしながら二人の様子を見守る事しか出来ない。

「ヨナちゃんから…現実から…」
「僕は逃げてなんかないっ!」

ドルファフィーリング本社での出来事を思い出すと、怒りで我を忘れそうになる。自分の中にいる黒い邪悪な黒い感情が爆発してしまいそうになる。
爪が食い込み血が流れるくらいに力強く拳を握りしめ、壁を殴り付ける。まだ少し残る理性がそうさせるのだ。間違っても、この怒りをシレーナに向けないように。

「やっと…やっと会えたのに! あともう少しだったのに! あともう少しでヨナを助けだすことが出来たのに! あともう少しでっ!」

バチンッ!!

血塗れの拳で壁を殴り続けるルシアの頬をもう一度、シレーナは平手打ちした。今度は先程よりもずっと強く。

「それが逃げてる」
「……どうゆう意味だよ。シレーナの言いたいことが解らないよ」
「あの時…ルシアが自分と引き換えにしてヨナちゃんを助けたとしても……ヨナちゃんは喜ばない」
「どうして…? だって、あんなところにいるよりもずっと!」
「……ルシアがいないから」
「ッ!」

早くに両親を亡くし、兄と妹の二人で貧しくとも協力し合って楽しく暮らしていたあの日々の思い出がよみがえってくる。
大量に狩れた日なんかは、ヨナの大好物のメロンを買って帰り二人でささやかなパーティーを開いて楽しんだり、隣町にある本屋に新しい本が入ったと聞けばヨナの為に新しい絵本を買いに行く。
いつもヨナの為にヨナの為にと頑張っていたら、ある日ヨナがいつもありがとう。大好きなお兄ちゃんへと手紙をくれた日があった。貰った手紙は今でも肌身離さず持っている。僕の宝物だから。
僕にとってヨナは命に代えても守りたい存在。大切な家族だから。

「…でもっ僕は災厄の種族でっ!」
「ん〜〜〜」
「ッリアさん?」

言い争いをしていた、ルシアとシレーナの間を考える人よろしくのポーズで歩き回っていたリアが通りすぎる。あまりに深刻な面持ちで考え込んでいるため、逆に心配になってきた。

「どったのリア? そんな難しそうな顔して…似合ってねーむぎゅっ」

ランファの頬を両手でむぎゅっと抑えてタコさん顔。唇を突き出した表情にしてやり

「君にだけはい・わ・れ・た・くないな〜」

と爽やか笑顔。

「むぎゅ〜むぎゅっ」
「あはっ。君にはそのぶちゃいくな顔がお似合いだよっ」

腕をぐるぐる振り回しすランファの攻撃をかわしつつ、頬を押さえる手は離さないリア。
傍から見れば仲の良い兄妹のようでとても微笑ましい光景だ。

「リアさん。難しそうな顔して考え込んでいるんですか?」

ま、それはそれとして。先ほどの話しへ戻ろう。リアはん? あ〜。と上を向き一度自分の中で話を整理する。
数秒後、ルシアの方を向き

「あのバーナードとか言うおっさんがいってたこと、どーも胡散臭いなーと思ってな…」

バーナードの言っていた事…ルシアの出自及古の時代にあったと言われる女神と邪神に神々による大戦争の事だろう。
田舎育ちのルシアは知らなかったが、この世界に暮らす者なら例え幼子でも知っている。有名なおとぎ話だ。
その話を今更胡散臭いとは如何程だろう。

「んー……」

腕を組みリアはまた難しそうな顔して考え込み始めた。
仲間達は皆首を傾げ顔を見合わせる。
待つこと数刻。

「ああっ、わかった!」

突然リアが大きな声をあげた。

「ど、どうしたんですかっリアさん」
「思い出したんよっ!」

リアさんは言うが早いか、ルシアの両肩を掴み

「そうなんだよっ違うんだよ、本当の歴史はそうじゃなかったんだ!」

喉に引っかかった小骨が取れたときなみに大喜びで大興奮のリア。掴んでいるルシアの肩を前後に揺らしまくる。気持ち悪い…酔いそうだ。

「リ、リアさん…なにを思い出し…たんですか…?」

もはや虫の息である。

「そう。俺は見たんだ。真実をっ! あの遺跡でっ」
「あの遺跡?」

リアが肩を揺らすのをやめてくれた。あぁ…気持ち悪かった。…と一安心していると、今度はリアの顔が目の前いっぱいに!! 近い。キスでも出来そうなくらい近いっ。
わぁ〜と周りの年頃の乙女から声があげる。あれか、見る角度によれば、しちゃっているように見えるという現象ですかっ。

「なぁ…ルシア」

近い。でもリアの顔を至って真剣だ。ふざけているようには見えない。
だから恥ずかしさを押し殺し、ルシアもリアを真っ直ぐ見つめる。

「お前は真実を知る覚悟があるか?」
「…真実を」
「真実ってのはいつも自分に有利になるような物ばかりじゃない。
 知りたくななかった、知らない方が良い真実だってある。
 それでもお前は真実を知りたいか—?」
「………」

ゴクリ。つばを飲み込む。
真実は残酷なりとはよく言ったものだ。バーナードから知らされた真実よりもさらに残酷な真実があるのか…。
だけど、それでも

「それでも僕は知りたいです。自分の事。父さんの事。そして僕達メシアの一族の真実。
 もう自分だけ知らずに生きるのはごめんです! 教えてくださいリアさんっ!」

たとえどんなに残酷な真実であったとしても、もう目を逸らし逃げたりなんてしない。
受け入れてみせる。ルシアの中に新たに宿る覚悟の炎。

「あ…いや…そのー」
「…?」

どうしたことだろう…リアの様子がおかしい。冷や汗をかき、目がバタフライ(泳いでいる)している。

「見た場所は思い出したんだけどな〜……内容は忘れちった、てへぺろ」

ウインク&舌をぺろりと出してごめんねっと謝るリアに皆でせーのっ!

「「「えええええぇぇぇぇぇぇぇ!!!」」」
「テメェよく偉そうなこと言ってたなコンニャロウメー」

殴りかかるランファの拳はさらりとかわし、頭をチョップ!

「イタッ!」
「そんなへなちょこ攻撃なんて当たるかっ」
「コノー」

追いかけっこを始めるランファとリア。本当に二人は仲が良んだな…とほっこり、している場合ではなく

「あのー! リアさんが思い出した遺跡ってー!?」

内容は忘れたと言っていたリアだが、見た場所は思い出したと言っていた。
そっちからせめていくことにしよう。近道ではないがリアが思い出すのを待つより、そっちの方が確実だ。

「アンコールワット!」

アンコール・ワット? 皆の頭に上にクエスチョンマークが浮かび上がる。
見たことも聞いた事もない名前の遺跡だ。

「でもあそこはリリアンの管理区域だから、まずは賢者の里に行かないとなー」
「にゃー!!」

…あ、捕まった。ランファが捕まり、リアにぽこぽこにされた話はまたの機会にでも。
森の国の何処かにあると言われるリリアンたちの隠里。何処かにあるということは、噂話で皆知っている事。だがしかし実際に辿り着いたものは誰一人としていない幻の里。
何故、リアが賢者の里の場所を知っているのかとても不思議な話しだが、今回に限ってはとても助かる話だ。ここは甘えて連れて行ってもらうことにしました。

Re: シークレットガーデン 〜小さな箱庭〜【賢者たちの隠れ里】 ( No.160 )
日時: 2017/09/18 07:41
名前: 姫凛 ◆x7fHh6PldI (ID: 344/XKJR)

山の国には古くから言い伝えられている噂話がありました。
山々が連なる場所のどこかにあると言われている禁忌の森。一年中常に霧が立ち込め、薄暗く生命の息吹を感じない死の森。
森の奥深くには化け物の集落があると恐れる者。森の奥深くには全知全能の神を奉る賢者達の隠れ里があり強大な力を授けてくれると語る者。森の奥深くにある洞窟には膨大に寿命を延ばす泉があり、その水を飲むと永遠の命を得られるという者。
様々な噂が飛び交っていました。欲に目をくらませた愚か者たちは森の奥へと吸い込まれていきました。
そして誰一人として森から出てくることはありませんでした。
森の化け物に食べられたのだと言う者。全知全能の神に極楽浄土へ連れていかれ汚れた現世には帰ってこないのだろうと言う者。賢者の里に住んでいると噂されるリリアン達に食い殺されたのではないかと思考する者。
皆様々な憶測をたてるがどれが本当で真実なのかは誰にも分からない。

—だって。生きて帰って来た者なんて誰も居なかったのだから。



Re: シークレットガーデン 〜小さな箱庭〜【賢者たちの隠れ里】 ( No.161 )
日時: 2017/09/19 11:56
名前: 姫凛 ◆x7fHh6PldI (ID: eK41k92p)

「賢者の里は化け物が住まう森にあるぞーってリアが言うからどんな森なのかと構えてたのに〜
 なんてことないただの森じゃんっ!!」

頬をトラフグの様に膨らませ、ぷんぷんと自分で言いながら怒っているランファ。
そう。一年中常に霧が立ち込め、薄暗く生命の息吹を感じない死の森。と、言うのはあくまでも噂。
本当の森の姿は天からそそがれる太陽の陽射しを川の水が反射し木々が光り輝き、吹く風ははっとするほど新鮮であたりには静寂が満ちている。
誰かが言った
—此処は神々の住まう森だと。
確かにそうかもしれない。神々しくも厳かな空気が鼻の穴からおなかの底まで、ずーっとしみわたって、まるで全身が透明人間になってしまいそうな感じだから。
昔々、太古の昔。壊楽族とドラゴンネレイド達の間で勃発した世界最強戦争の最大の犠牲者である最弱の種族リリアン。
壊楽族の人々の助けがあってなんとか山の国へ逃げて来た彼らは、追手のドラゴンネレイドたちから身を隠すため、この森に賢者の隠れ里を造りどの国ともどの種族とも関係を断ち、自分達だけで厳かに暮らしていたのだが、世間は彼らを放ってはくれなかった。
リリアンの毛皮は高級品として高値で取引され、この森に住まう女神の使いとも呼ばれる白い神獣の心臓を食べれば永遠の命が得られると、根も葉もない噂話が独り歩き、密猟者達が後を絶たなかったという。
そこで彼らは自分たちの身を守るため、そしてこの森に住まう女神の使い白き体の神獣達を密猟者から守るために、この森は化け物達の森、入ればたちまち化け物に食われ死んでしまうだろうと嘘をつき続けたのだ。
それはこれからも変わらない。世間がリリアンを認め、受け入れてくれるまで…。

Re: シークレットガーデン 〜小さな箱庭〜 ( No.162 )
日時: 2017/09/20 10:04
名前: 姫凛 (ID: FFRec9Wj)

「まだまだお子様なランファちゃんはビビッちゃったかな〜?」
「んにゃー! そんなことないもん!!」

肩に腕を回しリアは自分の方へ引き寄せ頭をくしゃくしゃと撫で繰り回す。髪型がぐしゃぐしゃになってむくれるランファだがその表情はとっても幸せそう。はたから見れば仲のいい兄妹のようだ。
微笑ましいその光景を仲間たちは温かい目で見守ってあげる。
ランファの髪がぐっしゃぐしゃのぼっさぼさになったところで「じゃ、俺の勝ちだね」とリアが言い開放したところで兄妹の戯れは終わった。
いつの間に勝ち負けの勝負事になっていたのだろう…と見守っていた仲間たちは皆、首を傾げて頭の上にクエスチョンマークが浮き上がっていた。

「賢者の里はこの道を真っ直ぐ行った先にある」

眼前に広がるリアが指差す先にあるという道らしきもの。それは道なのでしょうか? と聞き返したくなるような獣道でした。
何百年もの間、他種族たちを拒み続けた森は来訪者を歓迎しない。

「イッタ!」
「大丈夫っシル!?」
「だ、大丈夫。葉っぱでちょっと切っただけだから、痛たた…」

自由に伸びた草花はその葉もって来訪者の皮膚を切り血を吸って生きる知恵を得た。血を吸うことで植物たちは栄養補給し、さらに大きく成長し食虫植物なら人をぱくりと丸呑みにするくらい朝飯前となる。
来訪者を拒む森の洗礼に悪戦苦闘しながらも、先頭を歩き案内するリアの背中を見失わないように必死に追いかけること五時間弱。

「ここは…?」
「つ、ついたー?」
「はぁ…はぁ…」
「疲れたよ。さすがに…」
「………」

人の手入れが入った広い空間へと辿り着いた。円系で直径三十メートルはありそうだ。
円の中の綺麗に生え揃えられた草は誰かが刈り取ったものだろう。草原の広場の中央には巨大な樹が一本。
巨木の前に立てばおのずと合掌してしまう神々しさ、静寂で厳かな空気に息をするのも忘れてしまいそうだ。

「聖樹さまだよ」

訊く前にリアが教えてくれた。この巨木は女神と邪心が誕生するよりも前、遥か昔からこの世界を見守り記録している“時渡りの樹”聖樹さまと呼ばれている聖なる樹らしい。
具体的に、聖樹さまはいつから生えているのか。そもそも聖樹さまとはなんなのか。昔各国の学者が調べてみたそうだが、誰一人として詳細はわからなかったそうだ。

「聖樹さまがあるってことは…あともうんばりだなっ」
「えぇ〜〜〜〜〜まだ歩くの〜〜〜〜」
「頑張れ。里に着いたらなんかおごってやるから」
「ホントッ!? リアのふとっぱら〜」
「……現金な奴」

美味しいものが食べられると聞いて元気百倍のランファをくすりと笑い、あともう少し……がどれくらいかは分からないが、だと言う賢者の里を目指してもうひとふんばり。

「私はここで待ってるよ」

しようと思ったがヒスイの一言で皆立ち止まった。

「えーなんでーなんでー??」
「ヒスイ、さん?」
「ふーん」

一緒に行こうよーとヒスイの腕を掴み子供のように駄々をこねるランファにちょっと迷惑そうな顔で苦笑い。
掴んでいる腕を少々強引に自分の腕から放させ

「私が一緒にいると迷惑をかけてしまうと思うから。……ごめんね、ランファちゃん」

申し訳なさそうに言うヒスイの顔を見て思い出した、ヒスイはドラゴンネレイド。世界最強戦争にてリリアン達を絶滅寸前にまで追いやった種族。
賢者の隠れ里に住むリリアン達はきっといい顔はしないだろう。むしろ自分がいるせいで、平和的に解決できることが敵視され襲い掛かってきて仲間たちを傷つけることになってしまうかもしれない。
そういったことを考慮してヒスイはここに残ると言い出したのだろう。悲しそうな表情がそれを物語っている。

「えー……なんで」
「わかった。じゃあ少しだけ待ってて、すぐに戻ってくるから」
「ルシア?」

ヒスイの思いを汲み取りここは、彼女の言うとおりにしよう。無益な争いをしたくないのはルシアも同じだから……。
ヒスイには聖樹さまの下で待っていてもらうとして、ルシア達はまた長くなりそうな獣道を進むことにした。

そして二時間半後…。

「こ、今度こそついたー」

森の中にひっそりと赤い鳥居が現れ、それを潜り抜けると美味しそうな食べ物匂いがする集落が見えてきた。慣れない獣道を歩き続けたせいで皆、お腹ぺこぺこのお疲れモードだ。
あたしっ一番乗り〜とご飯目指して走っていくランファの背中を精一杯のスピードで追いかけ、集落の中へと入って行ってみると…

「あっれー!? 誰もいないよー!!?」

集落には全く人がいるような気配が感じられなかった。
でも少し前までは人がいたような、生活感がある。洗濯物が干してある家、除いて見ると火を焚きぱなしにされているお鍋の中には美味しそうなシチュー。他の民家も除いて見てもどこも、数分前まで人が暮らしていたような形跡が残っている。

「リアさん…。ここの人達は…」
「だから言ったろ? ここの連中はみんな臆病者なんだって」

臆病者と言ったってこの不自然な静けさはなんだろう、とルシアは首を傾げた。はぁ、しかたないな〜と、頭をかきめんどくさそうに言うとリアは懐から一丁の拳銃を取り出し、銃口を空へ向けて

——パンパンパンッ

「ッ!!?」

撃った。なにをしてるのっと止めに入ろうとすると

—ーパンパンパンッ

「えぇぇーー!!?」

撃たれた。リアとは違う銃声が鳴り響き

「リ〜〜ア〜〜〜!!」
「よ、リティ! 久しぶりだなっ」
「久しぶりだなっじゃないわよ!! あんたね〜〜〜!!」

民家の物陰から白いウサ耳が特徴的な金髪で腰まである長い髪にエメラルド色の瞳。おへそ出しのミニスカで紫陽花の模様が描かれた着物、足元は黒に近い紫のニーハイブーツ(ヒール高め)、腰には二つのホルスターと手には二丁の拳銃が握り締められている。

「見てっルシア! あの人ウサ耳だよっ! バニーカールだよ!!」

どこでそんな知識を手に入れたのか初めて見たバニーガールに大興奮のランファさんにルシアは人に指をさしたらだめでしょっと普通に怒っている。
いまいちまだ状況を飲み込めないでいる、シレーナとシルはおいてぼこりにされ

「また派手にぶちかましちゃって〜〜〜!! 里のみんなに当たったらどうしてくれるのよ!」
「撃ったのはお前もだろ。俺の可愛い衣装が汚れたらどうしてくれるんだよっ」
「うっさい! 男女!!」
「うるさいのはそっちだろ! 女男!!」

きぃ〜〜〜と睨み合い、言い争いを始めたリアとバニーガールさん。
大興奮の大感動のランファのことはもう放っておいてもいいかな、とゆうより放っておこうめんどくさいから。
とりあえず先に処理しなければいけないのは、あのバニーカールさんのことだ。リアとは話を聞く限り古くからの知り合いのようだが……二人はどんな関係なのだろう。

「…あのリアさん?」

盛大に言い争っているので、すっごく入りずらかったが勇気を振り絞って二人中を割って話に入った。

「だから〜〜って、あなたは?」
「お前がなあ〜〜〜って、ルシア君?」

よかった、二人ともすぐに気づいてくれた。
一旦、言い争うは中断してもらい状況を説明してもらった。バニーガールさんこと、リティはリアの幼馴染らしいで喧嘩仲間だそうだ。
幼いころからいつも顔を合わせればこんな風に言い争いの喧嘩になっていたそうだ。
故郷の海の国から離れて今は、リリアン達の故郷で年老いてあまり動けなくなった長を補助する仕事を手伝っているそうだ。
里ではナンバースリーくらいに偉い地位の人らしいのだ。こういってはなんだが、あまり偉そうは見えない…。

「リティ。長は」
「長ならいつもの場所にいるわよ。今度は他の人たちを巻き込んでなに企んでるのよ?」
「長以外には言えませーん」
「ムカッ」
「あはは……まあまあ」

また喧嘩が始まりそうだったのでここは、適当に抑えつつ長のいる場所。
一段ごと、階段のように段違いで並んだ民家の一番上に建っている少し大きめの家が長の家らしい。
階段を上がっていると、隠れていた他の里の住人たちがルシア達を品定めするように顔を除かせている。笑顔で手を振ると驚いた顔をしてすぐに家の中へ隠れてしまった。本当に臆病な種族なのだ。


Re: シークレットガーデン 〜小さな箱庭〜【賢者たちの隠れ里】 ( No.163 )
日時: 2017/09/22 10:48
名前: 姫凛 ◆x7fHh6PldI (ID: pgLDnHgI)

先頭を歩くリティに続けて家の中へ入る。
藁で出来た民族風の部屋。よく分からない魔よけの怖いお面や槍、骨董品なんかが部屋のあちこちに飾られていた。

「長。お客様です」

部屋の奥。リティと同じくウサ耳の男達が数名正座で一列に座っている。

「……よくきたのぉ」

その先。上座には

「アンゴラウサギだー!!」

と、ランファも思わず叫んでしまう程のもこもこアンゴラウサギ似のご老人が鎮座していた。
さすがは賢者の里の長と呼ばれる人物。神々しいオーラで威圧されてしまいそうだ。
全身ふわもこの白い毛で覆われていてどこが目で口なのか見ただけじゃ全く分からない。

「ご無沙汰しております。長」
「お久しぶりでしゃ、リア殿」

もこもこの下の方が微かに動いている。あそこが口なのだろうか?
正座し深々と頭を下げるリア。初めて見るリアの一面に驚きつつも、真似をするようにルシア達も正座し頭を下げた。
長はうむうむ…と、上下に軽く頭を動かしルシアの方へと視線を向ける。

「そちらにいらっしゃる若人。其方がメシアのせがれですかな?」
「ぁ……はいっ」
「そうですか。……父君に似て良い目をしておられる」
「父さんの事。知っておられるんですかっ!?」
「はい。其方の父君とワタシは古くからの友人なんですじゃ」

思ってもみなかった収穫だった。まさか長がルシアの父と旧友だったとは……。
是非とも亡き父の話を詳しく訊きたいところだったが、今はそれよりも最優先しなければいけないことがある。

「長。アンコールワットに行く許可をください」
「……アンコールワット。ですかな」

光の女神"ナーガ”が誕生した場所と言い伝えられている、神聖の遺跡"アンコールワット”
元々アンコールワットを管理していたのは、山の国のフォレスト王だった。だが今は賢者の里に住むリリアン達が管理者となり、長が張った強力な結世で立入禁止の禁断の地とされ、長の許可なしでは誰も入れないことになっているのだ。
だからリアはまず長に許可を貰いにここ、賢者の里に行こうと言ったのだ。

「ルシアに歴史の真実ってやつをみせてあげたくて…」
「うむ」
「お願いします」

皆で頭を下げて長にお願いする。
長は顎と思われる部分に手を持っていき暫く考え込み

「リア殿壊楽族の皆様には戦争時、大変お世話になりました。
 貴方様の頼みでしたら喜んで引き受けましょう」
「じゃあ!!」
「……ですがじゃ、ルシア殿」
「え…?」

はい。そうですか。と、事は簡単には進まない。長は一つルシア達に条件を提示した。

「あのドラゴンネレイドの娘さんをアンコールワットに近づけない。
 そしてワタシ達とも一切の関係をもたないと約束してくれるのなら、一時的に結界を解きましょう」

ドラゴンネレイドの娘と言うのはヒスイのことだろう。
リリアン達は戦争時、そして今もなお、ドラゴンネレイド達への怒り、恐怖で眠れぬ夜を過ごしている。
たとえ戦争があったのが百年も前の事であっても、受けた傷は一生癒えない、失った家族は帰っては来ないのだ。

「あの娘さんがワタシ達になにかをしたわけではない。あの娘さんは悪くないのは分かっているですじゃ。
 ですがあの娘さんの仲間。ドラゴンネレイド達がワタシ達にした所業は決して忘れたりなんてできんのですじゃ」

憎しみの業火は決して消えない。永久に消えることはなく燃え続けるだろう。

「………」

ここまで出かかっている言葉がある。でも言えない。言いたいけど言えないのだ。
長の辛そうな顔。周りにいる男達、リティの悲しそうな顔を見ていると、出かかった言葉に躊躇する。


「ワタシ達はもう、無駄な争いで家族を失いたくないんですじゃ。
 ただここで皆仲良く、静かに暮らしていたいだけなんでしじゃ……分かってくだされルシア殿」
「………分かりました」

ひねり出した言葉はこの一言だった。
本当に言いたかった、ヒスイは僕達の大切な仲間だ! という、たった一言がどうしても言えなかった…。
長の計らいでアンコールワットへは、リティが案内してくれることになった。リアが案内役じゃなんだか不安だからね、とリティ曰く。
賢者の里を出たルシアはまず、ヒスイと別れれた場所。聖樹さまの元へ駆け走った。
早くヒスイの顔が見たかったから、色々モヤモヤしたこの気持ちをヒスイに伝えぶつけたかったから。

「おかえり、みんな」

聖樹さまの所へ到着すると、樹の下でまったりと本を読んでいたヒスイの姿が。
読んでいる本はどうやら子供向けの絵本のようだ。

「許可貰ってきたよー」
「そっか。よかったね」
「えへへ〜」

ヒスイに頭を撫でてもらってランファはご機嫌だ。顔がとろけている。

「あの…」

言わなきゃ。言わなきゃっ。という思い、プレッシャーで押しつぶされてしまいそう。
アンコールワットへ君は一緒に行けない。ここでもう少しだけ待っていて欲しい。とストレートに伝えれればいいのだがそれが一番難しい。
どうしよう、どうしよう、とあっちに行ったり、こっちへ行ったり、ウロウロ……。
目の見えないヒスイには、そんな不自然極まりないルシアの姿は見えていないはずだが

「まだこの本途中なの。最後まで読みたいから、ここでもう少し読んでるね」

自分の種族、置かれている立場が分かっている。皆の空気を読んでの一言なのだろう。
ニコリと笑った表情が、逆にとても痛々しく感じる。

「…ヒスイさん」
「わかった。すぐに帰って来るからっ」

あとちょっとだけ待っててね。と、言いまた聖樹さまの下にヒスイを残しルシア達はアンコールワットへ向かうことにした。

「さあー、私について来てー!」
「お前について行ったら地獄に連れていかれそうでやだなー」

—パンッ。

「誰が地獄の閻魔大王よっ!!

—パンッパンッ。

「わぁああ!! リティさんっ、落ち着いてぇぇええ!!!」

銃を乱射する鬼のリティに追いかけられ、死にたくないので死ぬ物狂いで駆け走るルシア達御一行なのであった—。













-第七章 賢者たちの隠れ里-終