複雑・ファジー小説
- -スキップ物語-上(第七章 賢者たちの隠れ里) ( No.164 )
- 日時: 2017/09/24 10:27
- 名前: 姫凛 ◆x7fHh6PldI (ID: xGY5.0e4)
ドルファフィーリング本社、社長室でバーナードから自らの出自の真実を知らされたルシア。
自分はもっとも平均的な能力でもっとも多くの数がいると言われるヒュムノスだと、ずっと信じ込んでいた、信じ込まされていたのに本当は違った。それは大嘘だった。
本当の種族は、厄災の子、メシアだったのだ。世界を自分のものにしようと、自分を生み出した女神、共に戦った仲間達、全てを裏切った、罪深きメシアの一族。
裏切った張本人とされるのはまさかのルシアの父親だった。幼い頃のおぼろげに残る父の大きな背中。あれは…なんだったのだろう。こんな父が欲しかったという願望が映し出した幻だったのだろうか—?
父も死に、バーナードに完敗し逃げ帰った来た、今のルシアに真実の裏に隠された真実を知るすでなどない__。
ヨナが行った咄嗟の判断のおかげでバーナード達から逃げのびることが出来たルシア達御一行。
彼ら今いる場所。仮面の国の地下に広がる巨大な地下水道。
ろくに手入れもされていない此処は苔が大繁殖したドブネズミの聖地とでもいいいそうな場所だった。
泥水が歩み邪魔する。沼地のような足元では歩きずらく、一歩踏み出すたびに鳴るペチャッペチャッという音が凄く気持が悪い。
もう何時間。いや何日間も歩き続けて皆疲労困憊だ。喋る気力もない。ただ黙々と先にあるのが出口とも分からない一本を真っ直ぐ歩き続ける。
「ねぇ、これからどーするの」
「………」
最初に沈黙を破ったのはランファだった。
始めの頃は空気の読めない発言ばかりしていた、ランファだったがルシア達との冒険で大きく精神的に成長し今では空気が読めるようになれるまで成長したのだ。
これをきっかけにリア、シル、ヒスイが順番に文句を言い始める。
でもルシアの心は止まったまま。
足は皆と同じ方向を向き、一応歩いている。だが、心は。ルシアの心は死んでいる。瞳に生気が感じられない、死人と同じ瞳をしたルシアに
バチンッ!!
「わぁ〜お……」
「あちゃ〜」
「あれは痛い」
「すごい音…なにが?」
仲間達もドン引きするようなキツ〜イお灸を据える。叩かれた頬にはくっきりと綺麗な紅葉が。
「な…なにするの…シレーナ」
叩かれた頬をさすりながらルシアはシレーナを睨つけるが、彼女は無言で彼を見つめたまま
「ルシアは逃げてる」
「逃げてるッ? 僕がっなにから!?」
図星を突かれて自然と声が荒ぶる。物静かで大人しいシレーナが怒った姿を見るのは初めての事だ。
どうすることが正解なのか、どうすればいいのか分からない仲間たちはただオロオロしながら二人の様子を見守る事しか出来ない。
「ヨナちゃんから…現実から…」
「僕は逃げてなんかないっ!」
ドルファフィーリング本社での出来事を思い出すと、怒りで我を忘れそうになる。自分の中にいる黒い邪悪な黒い感情が爆発してしまいそうになる。
爪が食い込み血が流れるくらいに力強く拳を握りしめ、壁を殴り付ける。まだ少し残る理性がそうさせるのだ。間違っても、この怒りをシレーナに向けないように。
「やっと…やっと会えたのに! あともう少しだったのに! あともう少しでヨナを助けだすことが出来たのに! あともう少しでっ!」
バチンッ!!
血塗れの拳で壁を殴り続けるルシアの頬をもう一度、シレーナは平手打ちした。今度は先程よりもずっと強く。
「それが逃げてる」
「……どうゆう意味だよ。シレーナの言いたいことが解らないよ」
「あの時…ルシアが自分と引き換えにしてヨナちゃんを助けたとしても……ヨナちゃんは喜ばない」
「どうして…? だって、あんなところにいるよりもずっと!」
「……ルシアがいないから」
「ッ!」
早くに両親を亡くし、兄と妹の二人で貧しくとも協力し合って楽しく暮らしていたあの日々の思い出がよみがえってくる。
大量に狩れた日なんかは、ヨナの大好物のメロンを買って帰り二人でささやかなパーティーを開いて楽しんだり、隣町にある本屋に新しい本が入ったと聞けばヨナの為に新しい絵本を買いに行く。
いつもヨナの為にヨナの為にと頑張っていたら、ある日ヨナがいつもありがとう。大好きなお兄ちゃんへと手紙をくれた日があった。貰った手紙は今でも肌身離さず持っている。僕の宝物だから。
僕にとってヨナは命に代えても守りたい存在。大切な家族だから。
「…でもっ僕は災厄の種族でっ!」
守りたい大切な家族。でもその家族の大黒柱であった父親は子供達に嘘をつき、世界を裏切った大悪党だった。
もう何が嘘で何が真実なのか分からなくなってきた。もう誰もかも信じられない。
「ん〜〜〜」
「ッリアさん?」
言い争うルシアとシレーナの間に、難しそうな顔をしたリアが素通り。
普段おちゃらけた顔をしているお調子者が難しい顔をしていたら、逆に心配になって来るのは何故だろう…?
何をそんなに難しく考えているのかと聞いてみたところ、バーナードが語った過去の歴史はリアが幼い頃とある遺跡で見た歴史とは別物でバーナードは嘘をついていると言うのだ。
それはないっと他の仲間たちは否定する。あの歴史は昔から言い伝えられていて、この世界の住人なら例え幼子でも知っている事実だ。
でも、もし本当に誰も知らない真実の裏に隠された真実があるのだとしたら…?
「それでも僕は知りたいです。自分の事。父さんの事。そして僕達メシアの一族の真実。
もう自分だけ知らずに生きるのはごめんです! 教えてくださいリアさんっ!」
たとえどんなに残酷な真実であったとしても、もう目を逸らし逃げたりなんてしない。
受け入れてみせる。ルシアの中に新たに宿る覚悟の炎だったが
「見た場所は思い出したんだけどな〜……内容は忘れちった、テヘペロッ」
と、全てを台無しにする一言。
「「「えええええぇぇぇぇぇぇぇ!!!」」」
「テメェよく偉そうなこと言ってたなコンニャロウメー」
地下水道にルシア達の驚愕した叫び声とリアに襲い掛かったはいいけど逆にやられたランファの悲鳴がこだましたとか、しなかったとか……。
- スキップ物語-下(第七章 賢者たちの隠れ里) ( No.165 )
- 日時: 2017/09/25 08:44
- 名前: 姫凛 ◆x7fHh6PldI (ID: xGY5.0e4)
山の国には古くから言い伝えられている噂話がありました。
山々が連なる場所のどこかにあると言われている禁忌の森。一年中常に霧が立ち込め、薄暗く生命の息吹を感じない死の森。
森の奥深くには化け物の集落があると恐れる者。
森の奥深くには全知全能の神を奉る賢者達の隠れ里があり強大な力を授けてくれると語る者。
森の奥深くにある洞窟には膨大に寿命を延ばす泉があり、その水を飲むと永遠の命を得られるという者。
様々な噂が飛び交っていました。欲に目をくらませた愚か者たちは森の奥へと吸い込まれていきました。
そして誰一人として森から出てくることはありませんでした。
森の化け物に食べられたのだと言う者。
全知全能の神に極楽浄土へ連れていかれ汚れた現世には帰ってこないのだろうと言う者。
賢者の里に住んでいると噂されるリリアン達に食い殺されたのではないかと思考する者。
皆様々な憶測をたてるがどれが本当で真実なのかは誰にも分からない。
—だって。生きて帰って来た者なんて誰も居なかったのだから。
「賢者の里は化け物が住まう森にあるぞーってリアが言うからどんな森なのかと構えてたのに〜
なんてことないただの森じゃんっ!!」
頬をトラフグの様に膨らませ、ぷんぷんと自分で言いながら怒っているランファ。
そう。一年中常に霧が立ち込め、薄暗く生命の息吹を感じない死の森。と、言うのはあくまでも噂。
本当の森の姿は天からそそがれる太陽の陽射しを川の水が反射し木々が光り輝き、吹く風ははっとするほど新鮮であたりには静寂が満ちていた。
誰かが言った
—此処は神々の住まう森だと。
確かにそうかもしれない。神々しくも厳かな空気が鼻の穴からおなかの底まで、ずーっとしみわたって、まるで全身が透明人間になってしまいそうな感じだから。
昔々、太古の昔。壊楽族とドラゴンネレイド達の間で勃発した世界最強戦争の最大の犠牲者である最弱の種族リリアン。
壊楽族の人々の助けがあってなんとか山の国へ逃げて来た彼らは、追手のドラゴンネレイドたちから身を隠すため、この森に賢者の隠れ里を造りどの国ともどの種族とも関係を断ち、自分達だけで厳かに暮らしていたのだが、世間は彼らを放ってはくれなかった。
リリアンの毛皮は高級品として高値で取引され、この森に住まう女神の使いとも呼ばれる白い神獣の心臓を食べれば永遠の命が得られると、根も葉もない噂話が独り歩き、密猟者達が後を絶たなかったという。
そこで彼らは自分たちの身を守るため、そしてこの森に住まう女神の使い白き体の神獣達を密猟者から守るために、この森は化け物達の森、入ればたちまち化け物に食われ死んでしまうだろうと嘘をつき続けたのだ。
それはこれからも変わらない。世間がリリアンを認め、受け入れてくれるまで__。
ドラゴンネレイドの娘であるヒスイは賢者の里には近づけない。彼女が、里の者達が、望む望まない構わず争いが起こるから。
誰かの血が流れ、誰かが泣くことになるから_。
ヒスイには悪いが賢者の里へ向かう途中にあった広い草原に生える一本の巨木の下で待っていてもらうことにした。
事情を知らない仲間たちからは「なんでなんで」と苦情が出たが、ヒスイ自身がが此処に残りたいっといった為渋々皆には了承してもらったのだった。
「あっれー!? 誰もいないよー!!?」
干しっぱなしになっている洗濯物、火をかけたままになっている鍋、中には今晩のご飯だろか? 美味しそうなシチューがコトコト煮込まれていた。
集落には全く人がいるような気配が感じられない。
なのに里の中には数分前まで人が生活していた痕跡が残っている。
「リアさん…。ここの人達は…」
「だから言ったろ? ここの連中はみんな臆病者なんだって」
臆病者と言ったってこの不自然な静けさはなんだろう、とルシアは首を傾げた。はぁ、しかたないな〜と、頭をかきめんどくさそうに言うとリアは懐から一丁の拳銃を取り出し、銃口を空へ向けて
——パンパンパンッ
撃った。普通に撃った。
—ーパンパンパンッ
「ッ!?」
撃ち返された。リアに向けて三発の銃声が鳴り響いた。
「リ〜〜ア〜〜〜!!」
「よ、リティ! 久しぶりだなっ」
銃声の犯人はリリアンのリティという女性だった。
リアとは幼馴染であり腐れ縁でライバルといった関係で、幼い頃から顔を合わせればこんな風に言い争いの喧嘩をしていたそうだ。
ルシア達はリティに案内され、里の長が住まう家へ向かうことに_。
「よくぞ……来ましたな」
さすが賢者の里の長。
神々しいオーラに威圧されてしまいそうなそのお姿はふわもこアンゴラウサギに瓜二つだ。
「長。アンコールワットに行く許可をください」
「……アンコールワット。ですかな」
光の女神"ナーガ”が誕生した場所と言い伝えられている、神聖の遺跡"アンコールワット”
元々アンコールワットを管理していたのは、山の国のフォレスト王だった。だが今は賢者の里に住むリリアン達が管理者となり、長が張った強力な結世で立入禁止の禁断の地とされ、長の許可なしでは誰も入れないことになっているのだ。
だからリアはまず長に許可を貰いにここ、賢者の里に行こうと言ったのだ。
長が結界を解く条件として提示したのはドラゴンネレイドの娘をアンコールワットに近づけないこと。
そして里にも近づけず他のリリアン達と一切の関係を持たない事、だった。
これはしょうがないこと。無益な争いをしないためには互いに干渉し合わないのが一番の最善の方法なのだ。
「………分かりました」
言いかけた言葉を飲み込み、肯定するしかなかった。
巨木の下で待つヒスイにはもう少しだけ待っててね、と伝え。
リティの案内の元。アンコールワットを目指すことにした。