複雑・ファジー小説

Re: シークレットガーデン 〜小さな箱庭〜【知恵の試練編】 ( No.181 )
日時: 2017/10/10 13:47
名前: 姫凛 ◆x7fHh6PldI (ID: KACJfN4D)

『殺された。あなたにはもう愛するは家族はいない』

——そんなこと急に言われても分からないわよ。


リティの頭の中は真っ白だった。何も考えられない。頭に押し付けていた銃口を頭から離しリボルバーを持っていた右腕を下してしまった。

「それはコタエル意思がナイトとってイイノかな〜?」

声からでも分かる謎の幼女はたぶん今悪い笑みを浮かべているのだろう。それは悪戯好きな幼子のように。少しずつ弱って行く獲物を見つめ楽しんでから丸のみにして食べる蛇のように。

「リティ」

絶望に打ち震え何もできないでいるリティに近づきリアは後ろから首に腕を回し優しく抱きしめた。リティの不安そうな声。震え小さな声しか出せない。よく見ると体も小刻みに震えているようだ。
リアは抱きしめたまま優しい口調で静かに

「もうわかっているんだろ?」

とリティの耳元で囁くように言った。

——嗚呼そうか。そうだよね。私達ずっと一緒に居たものね。
  リオンとリアと私の三人。年齢もバラバラで性格もバラバラで顔を合わせればいっつも喧嘩になっちゃう。そんな私達だったのに何故かいつも息ピッタリで一緒に行動していたわよね。話すことは喧嘩ばかりだったけど。
  楽しかった…。すっごく。嫌な事全部忘れられる暮らしにずっこく楽しかった。楽しいからこそこの時間が終わるのが怖かった。
  大きくなるにつれて少しずつ思い出されていく記憶。亡くしたはずの恐怖。封印したはずの忌まわしい過去。
   それを大好きな人たちに知られるのがすごく怖かった。だから私は逃げたの。リリアン達の隠れ里へ。あそこならもう怖い思いをしなくていいから、みんな同類だから。
  でも、もうそれもお終いね。前を向いて歩き始めなければいけない時が来たんだね。
  ありがとう——リア。


振り返ったリティはニコリと失ったパズルのピースが揃いパズルが完成した時のそうな満足そうな顔をすると右腕をあげもう一度、リボルバーの銃口を自身の頭に押し当て引き金に指をかける。

——[本当]引き金を引かない


「………」

重たい沈黙が流れる。
ルシア達後方でリティを選択を見守っていた者達は何がどうなって、今はどうなっているのか全く分からずお互いの顔を何度も何度も見合わせる。
そのおまぬけな姿を背にしてる為見えないリアは小声で「よく頑張ったな」と耳元で囁き頭をポンポンと軽く叩き抱きしめていた腕を放しリティから離れた。その行動にリティは振り返らず恥ずかしがりながらも「こんな時ばっかり年上ぶんなアホッ」と頬を赤く染め呟いた。

「………」

あははと笑う幼馴染二人の光景を見て胸を痛める少女が一人居たことは誰も知らない事実。


"よくぞ受け入れましたね"

「ッ!?」

突然頭の中に直接謎の声が語り掛けてきた。この優しい母親のような温かい声は、知恵の試練と呼ばれていた此処へ入る前に聞いたあの女性の声だ。
仲間達の顔を見てみるとどうやらみんなにもこの声が聞こえているようだ。みんな驚いた顔をしているから。

"リティごめんなさい。辛い過去を思い出させてしまって”

「いえ。むしろお礼を言わせてください。
 きっとこんな機会を持たせてもらわなかったら私はずっと逃げていたままでした。
 辛く忌まわしい過去から逃げて、現実も見ようとはしない。過去も未来もない地獄から救っていただいてありがとうございました」

リティは深々と頭を下げた。

"私は試練を与えただけ。それを乗り越えたのは紛れもないあなたの心の力。そして仲間の協力合ってのもの”

リティは振り返りルシア達の顔を一人一人見つめ、安心したように微笑む。その笑みにつられてこちらまで自然と笑みをこぼす。

"あなた方は試練を乗り越えました。
 目を背きたくなるような真実を受け入れることが出来たあなた方こそが世界の命運を託すに値する者”

ギギギと何か重い物が引きずられ動かされている音が祠堂内に響き渡る。
目の前にある第六の扉がゆっくりと開かれようとしているのだ。

"さあ_道は開かれました。あなた方が欲した真実はすぐ目の前に"

「新しい明日の始まりか」
「これが終わったらどうするんですかリティさん?」

前を歩くリティにルシアが聞いてみた。リティはニカッととびっきりの笑顔で

「罪を償ってくるよっ」

——と言った。

扉が少しずつ開かれていき薄暗い祠堂外の光が差し込みます。

「眩しいっ」

その眩しさに思わずルシアは瞼を閉じ、目を隠す様に腕をクロスさせ光を遮る。

"目を開けてみなさい_ルシア"

優しくまるで母親のように頭の中に語り掛けてくる謎の声。母親の声に従う子供の様にルシアは声に従い、閉じた瞼を少しだけ開いた視界に入ってきたものは——















「ア〜ア。せっかく考えたゲームが終わっちゃったぁ〜」

道端に落ちている小石でも蹴るかのように謎の幼女は言う。不機嫌そうに。つまらなそうに。

「シュヴァルツァーならなんとかイイ感じ殺ってくれるかな?? きゃははっ♪」

ソウダヨ。あいつならキットもっと面白い殺し方をしてくれるはずダヨ! と声は独り言のように喜びのダンスでも踊っているように言っている。

「そうと決まればこんな世界軸とはオサラバダネ♪」

そう言った後。プツリと謎の幼女の声は聞こえなくなった。まるで最初からそんな者なんて存在していなかったかったかのように、静かに綺麗さっぱりと消えて無くなった。





ある女性の物語。

彼女の愛する家族はもうこの世界の何処にも存在しない。そして血で汚れてしまった彼女の手はもう綺麗にはならない。

幼い頃、父親と自分と妹を捨てて家を出て行った母親。

幼い頃、突然現れた人攫いの屈強の男達。幼子にはどうする事も出来ず攫われてしまった。

幼い頃、自分を攫って行った犯人のボスはまさかの母親だった。マフィアのボスと再婚し地に落ちた母。

幼い頃、再開した母親は別人になっていた。護るため。自分の身を護り此処から逃げる為

幼い頃、初めて握ったナイフで料理をしました。肉料理です。

幼い頃、お肉は何度も刺すことで柔らかくなると誰かから聞いた事がありました。

幼い頃、初めてやった料理は失敗してしまいました。出来たのは肉塊。お肉の塊でした。

幼い頃、雪白の騎士だったリオンの父親に拾われました。

—そして今日まで至るそうです。オワリ。















知恵の試練-終