複雑・ファジー小説

Re: シークレットガーデン 〜小さな箱庭〜【勇気の試練編】 ( No.183 )
日時: 2017/10/16 08:19
名前: 姫凛 ◆x7fHh6PldI (ID: O62Gt2t7)

第八章 からくり遺跡-女神の試練編-


-勇気の試練






仲間達とも話し合い、ルシアが選んだ試練は[勇気の試練]


"あなた方はその試練を選びましたか”


謎の声は言う


"では向かいなさい中央へある祠堂へ 進みなさい”


謎の声の指示に従い五つある祠堂の中でも一番大きな祠堂に向かって歩き出した。目の前には大きな扉が一つ。扉の中央には大きな雫のような水色の模様が描かれている。この模様には何の意味があるのだろうと何気なく見つめていると、ギィィと誰も手を振れていないにも拘わらず、ひとりでに扉が内側へ開き始め「す、吸い込まれるっ」ブラックホールのような吸引力をもった黒と白と藍と色々な色が混ざったような、漆黒の宇宙のような渦がルシア達を飲み込もうと、祠堂の中へと吸い込もうするのだ。吸い込まれまいと踏ん張り手近いにあった岩を掴み耐えていたが「うわああ」それも虚しく渦の中へと吸い込まれてしまった。

「——ここは?」目を覚ましたルシアがいたのは暗闇。闇が支配する世界。光も音もない静寂な世界。何処かシレーナのプリンセシナへ初めて入った時に似ているような気がする。あの時もこんな風な真っ暗闇の世界で自分以外何も見えなかった。ではここは誰かのプリンセシナ?——いや違う。なんとなくだったがそう納得した時だった「——ようこそ終焉の世界へ」男の声が聞こえたのは。物腰柔らかそうな男の声、ルシアは声が何処から聞こえるのか辺りを見回してみたが声の主を発見することは出来なかった。「——ここですよ」また声が聞こえた。今度ははっきりと。聞こえた。ルシアの頭上から。見上げればそこに男がいた。姿勢正しく真っ直ぐにたった、火山灰を頭から被ったような黒に近い灰色の髪を肩まで伸ばし銀色の四角い眼鏡をかけた執事風のスーツを着込んだ男。見た目から歳は二十代後半から三十代前半といったところだろうか。男は微笑みを崩さないまま、ゆっくりと直立した姿勢のまま降りてきた、ルシアの目の前に。

「そんなに警戒しなくても大丈夫ですよ。ルシア様」
「どうして僕の名前を?」

いつでも抜けるように手をかけていた剣柄から手を放し男に聞いてみる。男は苦笑すると「私は神の使いをしております、シュヴァルツァーと申します。神からは貴方様のこと、色々聞いて存じ上げていますよ」ゾクリと背筋が凍った。何故か。シュバルツァーと名乗った男が見せた不敵な笑みの所為だ。口調は朗らか表情も微笑んだまま、優男といった見た目。でもその瞳の奥底にある禍々しい殺意だけは隠しきれていなかった。鋭くルシアを貫く眼光。初対面でこんなに強い殺意を向けられたのは、南の森で狂犬ザンクと相対した時以来だ。ルシアは油断し放していた剣柄を握り直し、剣を抜き取り剣先をシュヴァルツァーへと向ける。

「おやルシア様が私に剣を向けるなど他のどの世界軸でもなかったこと。それが起こるとはやはりこの世界軸は特別なのですね」

言葉は驚いたように言っているがシュヴァルツァーの表情は勝利することが解っている者の余裕の笑み。少々、思っていたのとは違うイレギュラーなことが起きて楽しんでいるといった顔。無言でシュヴァルツァーと真っ直ぐ見つめ合い睨みあう。一秒、二秒………重苦しい静寂が辺りを支配する。

Re: シークレットガーデン 〜小さな箱庭〜【勇気の試練編】 ( No.184 )
日時: 2017/10/16 08:25
名前: 姫凛 ◆x7fHh6PldI (ID: O62Gt2t7)

重たい沈黙、静寂が支配した空気、睨み合い続ける蛇と蛙。蛙の首筋にすぅと冷や汗が流れ落ちる、「フッ」以外にも睨み合いに終止符をうったのは蛇の方だった。蛇は失笑しこう言う「私に貴方様と戦う意思はありません」腕を高く上げて意思がないことをアピールしているのか。だがしかしシュヴァルツァーから殺意の猛火は消えていない。熱く燃えたぎり蛙一匹など簡単に丸焦げにしてしまいそうだ。ルシアは剣を構えた体制を止めない姿を見た後シュヴァルツァーは「はぁ」と大きくため息をつくと。

「分かりました。ではここはひとつゲームをしましょう」

なにが分かったのかわからない。きょとんとした表情で首を傾げるルシアを見てシュヴァルツァーは微笑み、パチンッと左指を擦り音を鳴らしたのを合図にそれまで深淵の宇宙のような暗闇の空間だった場所に眩い程の光が何処から差し込み照らす。あまりの眩しさにルシアは思わず瞼を閉じた。「目を開けてください。ルシア様」耳元で囁かれるシュヴァルツァーの声。恐る恐る瞼を開けてみる……見えた光景は。

「みんなぁぁぁああああ!!?」
「ルシアか!?」
「ルーシーアー、あたし達はここだよーー!!」

ルシアが立っていた場所は高い位置にある見張り台。眼前に広がるのは大きな溝の中に置かれた巨大な天秤。左右にある天秤の受け皿の上にはそれぞれ一つずつ巨大な鳥籠がありその中には、囚われの身となっている仲間たちの姿が、もうひとつの鳥籠には鎖で頑丈に縛られ、その身体はボロボロで血まみれの

「リオンさんっ!!」の姿があった。気を失っているのか声をかけても反応がない。早くみんなをたすけないとっと見張り台から身を乗り出し天秤へ飛び移ろうとするルシアを「まあそう急がずに」シュヴァルツァーが止めた。不敵な笑みを浮かべたまま。

「……なにが目的なんですか」

恐る恐る。絞りだすような声で聞いてみる。分かっている。この男が望むことなんて容易に想像できた、でも聞かずにはいられなかった、仲間たちをリオンをみんなを救いたかったから——もう二度と誰も失いたくなかったから。

「簡単なことですよ」とシュヴァルツァーは壁を指さす「一分後。あの場所から大量の水が流れ出ます。そうですね……一時間もすればこの天秤は水の中に沈むでしょう」笑みを崩さないまま淡々と語るシュヴァルツァーとは正反対に焦りの色を隠せないルシアは「それじゃあみんな死んじゃうじゃないかっ!!」相手の意のままに言動してしまう。予測通りの言葉に勝ち誇った笑みを浮かべるシュヴァルツァーは「選べばいいのですよ。救う命を。見捨てる命を……ね」その場の空気が一気に下がり冷たくなったのは言うまでもない。冷気のように冷たいまなざし。そうこうしている間にどこからともなく流れ溢れ出る大量の水。

「うわっ水がーーー!!」
「く、流れるペースが速いな……これじゃあ本当に一時間でおじゃんだな」
「はぁ!? なに呑気に観察なんてしてるのよっ!?」
「私達は水嵩が増えても上へ逃げられるけど……リオンさんは?」
「……気を失っているみたいだから……難しいかも……」

物凄い勢いで流れ出る水はものの数分で足首まで到達している。このままのペースで増えて行けば一時間もかからずに浸水する可能性だってある。「こんなこと……やめてくださいっ」とシュヴァルツァーを睨み付けてみたが無意味だった。シュヴァルツァーは余裕の笑みを変えないまま

「世界を"救った"英雄の貴方様に聞きましょう。救うべき命はどちらなのか。犠牲にすべき命はどちらなのか。
 世界に住まう全ての人々を助ける為に一人を犠牲にするのか。
 たった一人を救うために全人類を犠牲とするのか、さあ——答えてください」


どんどん溢れ出る水はもうすでに腰の辺りまでに到達している。鳥籠の床に横たわっていたリオンの頭は完全に水の中へ沈んでしまっている。早く助け出さねば手遅れになってしまう。だがリオンを助ければ、ここまで苦楽を共にしてきた仲間たちの命が「そう難しく悩まなくていいのですよ」蛇はのそ胴体を巻き付けゆっくりと縛り上げる蛙の耳元で甘く囁く「——無理に選ばなくたっていいんです。だって——選ばなければ両方が死ぬだけですから」不敵な笑みを崩さないままに。




どちらの命を助け どちらの命を見捨て 犠牲としますか?







[仲間]の命を救い [リオン]の命を犠牲とする






[リオン]の命を救い [仲間]の命を救い犠牲とする







どちらを救うも殺すも貴方様しだい。

Re: シークレットガーデン 〜小さな箱庭〜【勇気の試練編】 ( No.185 )
日時: 2017/10/17 09:21
名前: 姫凛 ◆x7fHh6PldI (ID: Xhss9HRk)

「そんな……みんなとリオンさんのどちらか片方を選ばないといけなんなて……」落胆する。
ルシアはその場に膝から崩れ落ちた。選べるわけがないのだ。ここまで苦楽を共にしてきた仲間たちか海の国では大変にお世話になったリオンのどちらの命を救うかなんて……選べるわけがないのだ。
こうしてルシアが悩んでいる間にも水嵩はどんどん増えてゆきもう喉仏にまで迫っているようだ。背が低いランファ達は必死に浮上して空気を確保している状況だ。……もう片方の鳥籠を見ればリオンの体は完全に浸水している。……あれではもう、おそらく無理だろう。
ルシアは立ち上がりすぅーはーと大きく深呼吸をして、シュヴァルツァーを真っ直ぐキッと睨み付けたがシュヴァルツァーの余裕の笑みは変わらない。

「——お決まりになりましたか?」

その言葉にルシアはこんくんと大きく頷く。

「おい、ルシア……」
「た、助けてくれるのよねっねっ!?」

蒼白した表情で必死に口をぱくぱくさせているリアとリティ。彼らにとっては大事な、家族も同然の幼馴染の命が無意識に残酷なゲーム如きで奪い去られようとしているのだ。許容できるわけがない。リアにとってはこれが二度目。目の前にいながら何もできなくて、ただ見ていることしか出来なくて、友が消えゆく瞬間を見届けるのは、歯がゆい思いをするのはこれで二度目。
二人の想いは痛い程分かる。痛い程感じられる。ルシアもまた大切な家族を奪われた者だから——それでもルシアは選択する。たとえ救いたかった仲間たちから憎まれ疎まれようとも、ルシアは選択する。


-[仲間]の命を救い [リオン]の命を犠牲とする。


「ルシアアアアアアアアアアアアアアァッァァァァァッァァァッァァァァァァッァ!!!!」

最期に聞いた声はリアの悲痛の叫び声だったか……もはそんなことは……どうでもいい。
「世界を救うために個を犠牲としますか。仲間を救うために友人を見捨てましたか」ニヤリとシュヴァルツァーはルシアの選択に拍手。

「とても美しい! 正しい選択をしましたルシア様」
「……どうゆう意味ですか」
「全を救うために一を捧げる行為が正しいことは古の時代から行われている"生贄”文化が物語っています。
 それを抜きにしても貴方様は素晴らしい洞察力をおもちのようで……」

何が言いたいのか分からないと首を傾げているとシュヴァルツァーはスゥっとルシアの元へ歩み寄りそっと耳元で囁くように「——もうあの青年は死んでいましたから」甘く甘い果実のように誘惑する蛇のように。
——パチンッとシュヴァルツァーがもう一度、指を擦り音を鳴らすと仲間たちが閉じ込められていた鳥籠を繋ぐ鎖がからくりによって引き上げられ、ほぼ沈みかけていた水面から引きずり上げられたかわりに鳥籠がのっていたものはなんだ、そう天秤の受け皿だ。ちょんちょんの丁度いいバランスを保っていた天秤は片方の重りを無くなったせいで、残った重りの方へと大きく——沈んだ水の中に。

終わったなにもかもが終わった。ルシアのたった一言で。ルシアのひとつの選択で。
全てが終わり、仲間たちの元へ駆け寄るルシアを出迎えたのは、感謝の言葉でも、熱い抱擁でもなく、罵倒でも、罵詈雑言は浴びせられるわけでもなくただ——パァンッ!!! 一発の銃声だった。
「うっ」胸が熱い。さすがリティ狙いは正確で百発百中のガンナーだ。「あんたが悪いんだから」吐き捨てるように蔑んだ瞳で言うリティ。そうだ、大切な家族を殺した僕が悪いんだ、だから、だからそんな悲しそうな顔をしないでください……どうかそんな……後悔の念に囚われた顔をしないで……。
「そんな……ルシアァァァァ」遠くから仲間たちの悲痛の叫び声が聞こえるような気がする。でも……もう……そんなこと……どうでもいい……。






































勇気の試練-終 生贄end

Re: シークレットガーデン 〜小さな箱庭〜【勇気の試練編】 ( No.186 )
日時: 2017/10/17 09:20
名前: 姫凛 ◆x7fHh6PldI (ID: Xhss9HRk)

「どうすればいいんだよ……」呆然とその場に立ち尽くす。
ここまで苦楽を共にしてきた仲間たちを見捨てることなんで当然出来るわけがない。そして海の国で起こった事件、リオンの城であり家であった本屋が爆破された事件。雪白の騎士団は店主であるリオンは死んだと報告し発表した、遺体がまだ見つかってなかったのにもかかわらず。でも今となってはそちらの方が良かったのかもしれない。遺体が見つかっていればもうこんな形ではあるが、再会を望めなかっただろうから。
「それでお決まりになりましたか」選択を催促するシュヴァルツァー。確かにそろそろ決断しなければならない。こうしてルシアが悩み考えている間にも水嵩はどんどん増えてゆき、鳥籠は完全に水の中に沈み終わりそうだ。
——考えろ。考えろ考えろ。考えろ考えろ考えろ。考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろといくら考えたところでなにも浮かばない。いい案なんてそもそもないのだから浮かぶわけがないのだ。

「リオンを助けてくれっルシア!」
「ぁ……リアさん」

水の中に沈みゆく鳥籠の中で仲間たちは自分達に出来る精一杯の作り笑顔で「あたしたちならだいじょーぶだから! 逃げ出して見せるから!」と言い「だからリオンを助けてあげて!!」とルシアに全てを託した。ルシアは「……わかった」小さく呟き頷いた。

「お決まりになりましたかルシア様?」
「ええ——僕は」

-[リオン]の命を救い [仲間]の命を救い犠牲とする。

「ありがとう」不意に誰かから何かを言われた気がした、でも気のせいだろう。
——パチンッとシュヴァルツァーがもう一度、指を擦り音を鳴らすと、リオンが入っていた鳥籠を繋ぐ鎖がからくりによって引きずり上げられ、かわりに天秤の反対側にのっていた仲間たちが囚われていた鳥籠は物凄い勢いで水の中へと沈んでいくその光景を見てルシアは「……大丈夫……大丈夫……みんなならきっと大丈夫」だと物々呟きながら自分に言い聞かせ精神を安定させようと、自分は悪くないと正当化させようと。

「自己暗示など情けない」
「……」
「そんなにお気になるのでしたらお見せしましょう」
「……え」

さらにもう一度シュヴァルツァーが指を擦り音を鳴らすと、仲間たちが囚われていた鳥籠がゆっくりと引きずり上げられた。
鳥籠が自分の元に運び込まれる前に駆け寄りルシアは鳥籠の扉を開けた。

「……う……そ……でしょう?」

ごろりと転がり出て来た大きな物体。大きな黒い塊は仲間たちの



                            ——死体でした。










「特異点を殺してしまうなんて貴方にはガッカリですよ」

振り返えらなくてもわかる。頭の後ろに突き付けられた丸い筒状のもの、そしてカチャリと安全装置が解除された音はいつでも発射できる準備が整った証拠。でもいい。もうそんなことどうだっていいのだ、大切な仲間を殺したルシアにとってそんなこと——パァン!!! 一発の銃弾が頭蓋骨を突き抜け貫通していった。

「またやり直しですか……そういえばエンリの方はどうでしょうか。まだまだ遊ぶ事にしか興味のないお子様ですが、少しは役にやってくれているといいのですけどね。
 また別の世界軸を探すのは骨の折れる作業ですからね」

男は消えた。その存在した痕跡すら残さず、彼が此処に存在したという記録すら残さずに一瞬で消え去った。





























勇気の試練-終 見損ないend