複雑・ファジー小説

Re: シークレットガーデン 〜小さな箱庭〜【勇気の試練編】 ( No.185 )
日時: 2017/10/17 09:21
名前: 姫凛 ◆x7fHh6PldI (ID: Xhss9HRk)

「そんな……みんなとリオンさんのどちらか片方を選ばないといけなんなて……」落胆する。
ルシアはその場に膝から崩れ落ちた。選べるわけがないのだ。ここまで苦楽を共にしてきた仲間たちか海の国では大変にお世話になったリオンのどちらの命を救うかなんて……選べるわけがないのだ。
こうしてルシアが悩んでいる間にも水嵩はどんどん増えてゆきもう喉仏にまで迫っているようだ。背が低いランファ達は必死に浮上して空気を確保している状況だ。……もう片方の鳥籠を見ればリオンの体は完全に浸水している。……あれではもう、おそらく無理だろう。
ルシアは立ち上がりすぅーはーと大きく深呼吸をして、シュヴァルツァーを真っ直ぐキッと睨み付けたがシュヴァルツァーの余裕の笑みは変わらない。

「——お決まりになりましたか?」

その言葉にルシアはこんくんと大きく頷く。

「おい、ルシア……」
「た、助けてくれるのよねっねっ!?」

蒼白した表情で必死に口をぱくぱくさせているリアとリティ。彼らにとっては大事な、家族も同然の幼馴染の命が無意識に残酷なゲーム如きで奪い去られようとしているのだ。許容できるわけがない。リアにとってはこれが二度目。目の前にいながら何もできなくて、ただ見ていることしか出来なくて、友が消えゆく瞬間を見届けるのは、歯がゆい思いをするのはこれで二度目。
二人の想いは痛い程分かる。痛い程感じられる。ルシアもまた大切な家族を奪われた者だから——それでもルシアは選択する。たとえ救いたかった仲間たちから憎まれ疎まれようとも、ルシアは選択する。


-[仲間]の命を救い [リオン]の命を犠牲とする。


「ルシアアアアアアアアアアアアアアァッァァァァァッァァァッァァァァァァッァ!!!!」

最期に聞いた声はリアの悲痛の叫び声だったか……もはそんなことは……どうでもいい。
「世界を救うために個を犠牲としますか。仲間を救うために友人を見捨てましたか」ニヤリとシュヴァルツァーはルシアの選択に拍手。

「とても美しい! 正しい選択をしましたルシア様」
「……どうゆう意味ですか」
「全を救うために一を捧げる行為が正しいことは古の時代から行われている"生贄”文化が物語っています。
 それを抜きにしても貴方様は素晴らしい洞察力をおもちのようで……」

何が言いたいのか分からないと首を傾げているとシュヴァルツァーはスゥっとルシアの元へ歩み寄りそっと耳元で囁くように「——もうあの青年は死んでいましたから」甘く甘い果実のように誘惑する蛇のように。
——パチンッとシュヴァルツァーがもう一度、指を擦り音を鳴らすと仲間たちが閉じ込められていた鳥籠を繋ぐ鎖がからくりによって引き上げられ、ほぼ沈みかけていた水面から引きずり上げられたかわりに鳥籠がのっていたものはなんだ、そう天秤の受け皿だ。ちょんちょんの丁度いいバランスを保っていた天秤は片方の重りを無くなったせいで、残った重りの方へと大きく——沈んだ水の中に。

終わったなにもかもが終わった。ルシアのたった一言で。ルシアのひとつの選択で。
全てが終わり、仲間たちの元へ駆け寄るルシアを出迎えたのは、感謝の言葉でも、熱い抱擁でもなく、罵倒でも、罵詈雑言は浴びせられるわけでもなくただ——パァンッ!!! 一発の銃声だった。
「うっ」胸が熱い。さすがリティ狙いは正確で百発百中のガンナーだ。「あんたが悪いんだから」吐き捨てるように蔑んだ瞳で言うリティ。そうだ、大切な家族を殺した僕が悪いんだ、だから、だからそんな悲しそうな顔をしないでください……どうかそんな……後悔の念に囚われた顔をしないで……。
「そんな……ルシアァァァァ」遠くから仲間たちの悲痛の叫び声が聞こえるような気がする。でも……もう……そんなこと……どうでもいい……。






































勇気の試練-終 生贄end