複雑・ファジー小説
- Re: シークレットガーデン 〜小さな箱庭〜【隠された真実編】 ( No.190 )
- 日時: 2017/10/24 17:56
- 名前: 姫凛 ◆x7fHh6PldI (ID: PGYIXEPS)
第八章 からくり遺跡-隠された真実編-
"瞼をお開けなさい ルシア”
眩い光に包まれ閉じた瞼を謎の声に言われるがまま、薄っすらと開く、まだ世界は光輝き眩くて疎ましく少し思った数秒後、眩い光にも慣れた瞳が映し出したものは——「よぉ」と皮肉そうに口元を歪める白い包帯で体をぐるぐるに巻かれた青年、そして彼に誰よりも会いたいと思い願っていた、青年と女性が口を開き「リオンッ!!」彼らが名を呼んだ青年の元へ駆け寄った。誰よりも早く、一番に。その声は嬉しさに震え、その瞳からは大粒の雫が零れ落ちた、光景だった。
「リオンさんっ!!」
「死んでなかったんだっ」
「……ランファ……不謹慎」
「ごめんなちゃい」
先に走って行ったリアとリティを追いかけるように、ルシア達も青年の元へ駆け寄る。ただ一人シルだけは良く分からないと首を傾げ、とぼとぼと歩いて近寄る。
体中白い包帯でぐるぐるに巻かれていた青年と言うのは、海の国で起きた事件で死んだと思われていた、リアとリティの腐れ縁の幼馴染であり、親友であり、家族の皮肉屋リオンのことだ。事件で負った怪我だろうか、彼の右目は包帯で巻かれ眼帯の役割をしている。
「お前っ生きてるなら連絡の一つくらいよこせよなっ」
このこのっとリオンの肩に腕を回し、頭を摺り寄せるリア。そんな彼を疎ましそうに睨み付け
「ここで待ってればお前たちが来るって言われたんだよ、いい加減離れろっ男女!」
自分の体から離れさせようとするリオンとその攻撃をかわし、さらにきつく抱きしめようとするリア。仲良しの二人のじゃれ合いを見守りつつ、
「あの……ここで待ってれば僕達がくるって、誰に言われたんですか?」
気になった事を聞いてみた。リオンは言っていた。ここで待っていればルシア達が来ると"言われた”と。ということは第三者に言われたという事になる、ではその第三者とは——いったい何者?
”それは私のことでしょう”
また。謎の声が頭の中直接語りかけてきた。ルシア達に三つの試練を与え、此処へ来るように誘導したあの母のような温かさと厳しさを感じさせる声が聞こえたのだ。ルシアだけではなく、仲間全員に、同時に。
此処は祠堂の中ではない場所。かといって外でもない、おそらく遺跡の何処かだ。
崩れ緑の苔が覆いつくした崩れた壁に囲まれ、外だと思われる森からは小鳥達の歌声が聞こえる、緑の空間——改めて認識してみると感じる、此処は何処だ?
"安心なさい ここにはもう 危険なものはありませんよ”
ルシア達の心の中を見透かしたように謎の声は唱える。
「……あそこ」シレーナが腕を伸ばし驚愕した表情で固まる。彼女が指さす方向に自然と皆視線を動かすと、
「————っ」
言葉を失った。思考の先を失った。頭の中が真っ白だ。雑念というものが全て綺麗に消え去ってしまうような"人”がそこに、いました。
神々しく伸ばした緑色の髪が風に揺らめき、空中に浮いたその体は光り輝いているように見え、一言で言うなら美しい——まるで「女神様」と、誰かかが口を開いた。
女神と呼ばれた女はニッコリと優しく微笑み
"よくぞ試練を乗り越え 此処まで来ましたね ルシア そしてその仲間たちよ”
その声はガラス玉のように繊細で綺麗で、美しい旋律の声でした。おそらくこの世界にいるどんな演奏者でも出すことのできない音色だろう。もしこの音色を出すことが出来る者がいるとすれば、それは神しかしないのだろう。
「貴方は……貴方様は女神ナーガ様ですか」
目の前に突然現れた空中に浮かぶ謎の女性にルシアは恐る恐る話しかけた。女性はこくりと小さく頷き、人の子らからはそう呼ばれていますね、と頭の中に直接返答した。
「……マジかよ」初めて見る女神にリアも驚きの声を零す。「だろうな、俺も初めてみた時は驚いた」とうんうん頷きながら噛みしめるようにして言った。それにしても女神本人を前になんとも失礼な青年二人だ。
そんな二人を見て女神ナーガはふふふと微笑む。
「あのっ、女神様! 僕はっ」
"歴史の真実を知りたいのですね”
ルシアが言う前に女神が答えた。ルシアはゴクリと唾を飲みこみ大きく頷いた。子を憐れむ母のような顔をする女神は、
"真実というのは何時だって残酷なもの”
天井のない何処までも広がる青空を見上げ、独り言のように、己の信じたい真実を信じたいように歪め曲た愚かな男の話を語り始めた——
- Re: シークレットガーデン 〜小さな箱庭〜【隠された真実編】 ( No.191 )
- 日時: 2017/10/27 10:57
- 名前: 姫凛 ◆x7fHh6PldI (ID: mKkzEdnm)
"この世界は創造主???様が作り出した、世界樹呼ばれる巨大な樹に生えた枝葉のような物。無数に、無限に、存在する世界の一つなのです。
創造主様は小さな世界ミトラスフィリアを創り出しました。そして光から誕生と繁栄を司る役目を担った私 ナーガを創りました。同時に闇から死去と混沌を司る ギムレーを創りました。
私は創造主様の命に従い、命溢れる豊かな世界にしようと沢山の子供達を生みました——ですが、ギムレーは私の可愛い子供達を次々と殺していったのです。創造主様の命に従い、増え過ぎた命は消去すると。
……なんて酷いことを。永遠に皆で仲良く生きて暮らすことはそんなにもいけないことなのでしょうか。
私はギムレーと戦う事を決意致しました。可愛い我が子達を護るために。それは想像以上の熾烈な戦いでした。
人々の負の感情を力のエネルギーとしているギムレーにとって、人が死ぬ戦場は絶好の食事場でした。代わりに人々の生の感情を力のエネルギーとしていた私にはとても不利な戦いでした。
無意味に消耗されてゆく力。無意味散ってゆく愛しい我が子達。
ああ……このままではいけない——私が最期の力を振り絞り新たに強靭なる六つの種族を生み出しました。
それはフュムノス、ドラゴンネレイド、壊楽族(かいらくぞく)、リリアン、ユダ、メシア、彼らは私の願いを聞き入れ、ギムレーと共に戦ってくれました愛しい我が子達なのに"
ここで一度女神の言葉が途切れた。女神は俯き唇をかみしめ悲し気な表情をしている。
「裏切られたんですよね」
声をかけたのはルシア。自分の父が裏切り者なんですよね……と俯き女神に申し訳なさそうな顔をして言ったのだが、ルシアの頬へ手を添えて女神は顔を上げ優しく微笑みまるで母親が泣きぐずる子供を諭すかのような優しい声で、
”いいえ。あなたの父ではありませんよ、ルシア”
「え」
”あなたの父はとても勇敢な男でした。誰よりも勇ましく、優しく、そして誰よりもあなたの事を思っていました。
あの者ははめられたのです、真の裏切り者に”
「真の裏切り者……ですか? それって……」
”あなた方もよく知っている者。古の時代から変わらず王位に君臨し続けているユダの王——バーナードです”
「————ッ!!!」
その場にいた全員に衝撃が走った。バーナード。また奴の名を聞くことになろうとは。
ドルファフィーリング社長であると同時に世界に何らかのあくどいことを働こうとしている男、ルシア達の憎き倒す相手、バーナードの名前をまさかこんなところでもう一度聞くことになろうとは誰も想像してなかった事態だ。
皆、驚きと困惑した表情で固まっている。
”昔から野心が強かった、彼は考えたのでしょう。神ですら倒すことの出来ないほどの力をもった邪神をこのまま世界の底へ封じ込めるのは惜しいと、だからその力を逆に自分のものとして世界を支配しようと考えたのでしょう。
その策略に気が付かづ、まんまとはめられた私はこの遺跡に封じ込められました”
女神は好きでこの遺跡にいた訳ではなかったようだ。邪神との戦いで披露し疲弊していた隙を突かれこの場に封じ込まれ身動きが取れなくなっていたそうだ。
次にバーナードが立てた策略は、共に戦った種族の王達を始末すること。口封じをすることだった。
”ですがそのことに誰よりも早くに気が付いたものがいました。それがあなたの父です、ルシア”
「……父さんが?」
”バーナードの策略に気が付いたあなたの父は邪神を世界の底へ封じるのではなく、邪神の体を五つに分解し、五つの種族の王たちのシークレットガーデンへ封じ込めることにしたのです。
頭はドラゴンネレイドが。
胴体はフュムノスが。
腕は壊楽族(かいらくぞく)が。
脚はリリアンが。
一番厄介な邪神の心 心臓部はメシアの王だったあなたの父が請け負い、このことは私とそれぞれの王しか知らない事実として隠し通そうとしました……それは愚かなことでした。
王達が殺されてしまったのです。バーナードの手によって。何処からか知ってしまったバーナードは激怒し、何も知らないユダ族の民たちに嘘をつきました。
メシアの王が世界を我が物にしようと王達を殺し邪神を奪ったと——噂は瞬く間に広がってゆきメシア狩りが始まったのです。女子供も誰もかも関係なく、メシアというだけで殺されていったのです。
争いでも、戦争でもなにもない、あれは……只の虐殺です”
女神は顔を手のひらで覆い隠し大粒の涙を流し訴えた。ごめんなさい、ごめんなさい、私が至らなかったばかりに、あなたの家族は……と。
- Re: シークレットガーデン 〜小さな箱庭〜【隠された真実編】 ( No.192 )
- 日時: 2017/10/31 12:40
- 名前: 姫凛 ◆x7fHh6PldI (ID: jAa55n87)
「……女神様」
"ルシア。バーナードまだ諦めていません。
あなたの父が施した五つの封印を解き放ち、邪神を復活させようとしているのです”
「な、なんだって!?」
「諦めの悪いオッサンだな」
やれやれと息を吐くリアとリオン。
”もう既に四つの封印が解き放たれています。残るはメシアの封印のみ”
「……まさかっそれって!!?」
”そうです。あなたの想像通り、もう一人のメシアの生き残りであるあなたの妹 ヨナが最後の封印の鍵なのです。
彼女の封印を解かれたら最後。世界は邪神の力に飲まれ混沌が支配する暗黒の世界となりましょう”
——そんなの許せない! させて堪るかっ! と次々に仲間達から怒りの声があがる。だがしかし女神の表情は浮かないままだ。伏せた顔を上げない。伏せたまま女神は答えた。
”今のままでは駄目なのです”
と。どうして駄目なのかと尋ねると女神は顔を上げ悲し気な瞳で、
”かつての英雄たちですら封じることでやっとだった邪神。今のあなた方では封じることは愚か、邪神に傷一つ付ける事すら無理でしょう”
静かに諭すように言った。
自然と握りしめた拳に力が入り小刻みに震える。敵が分かり、敵の目的も分かった、でも倒すことも封じ直すことも出来ないなんて、なんて歯痒いのだろうか。
此処に来て色々知ることが出来た。やっと前へ進めるようになった、なのに真っ直ぐに続く道は封じられたまま、勧めない。
絶望に打ちひしがれるルシア達に女神は優しく微笑み、
”ですが手がないわけでもありません”
一筋の光を見せた。
”かつての英雄たちはこうなることを予期していたのかもしれません。自らの死期を悟っていたのかもしれません。
死の前に彼らは自らの力を子孫たちに残す為五つの遺跡に封じ込めたのです”
「……温かい」
一筋の光はシレーナの体を包み込み淡く輝きを放ち消え去るそれは、シレーナの体の中に何かが舞い降りたような……そんな印象を受ける光景だった。なんと神秘的なものなのだろうか——この瞬間だけ時が止まったかのようだった。
”それはシレーナ。あなたの祖先があなたのために残した癒しの力です。
その力を使い皆の傷を癒してあげなさい”
「……はい。女神様」
ヒュムノスの加護を受けたことによりシレーナは過去に失われた究極魔法を取得した。
『ルシア』
先程とは違う。頭なの中に直接語りかけてくるというよりも、心の中に直接語りかけられているような感じ、ルシア本人も良く分からない微妙な違い、違和感を感じる伝え方で女神は語りかけた。
『もう既にあなたも気が付いているでしょう。あなたの中に眠る黒き邪悪な獣の存在を——それはあなたの父がその身に封じた邪神の心の欠片です。
体の封印が解けているのが原因です。そのせいであなたの精神をも奪おうとしているのです』
そんなどうすればいいのっと心の中で不安に思っていると、
『邪神の心の精神支配を食い止めるための唯一の対抗手段は、邪神を抑え込むほどの強い精神力、それしかないのです。
強気力を手にすればあなたの精神力は弱まり、邪神があなたの精神を飲み込み支配する事でしょう。あなたは決して力を受け継いではなりません。あなたの父はあなたのために力を残したのではないのです。邪神を自由にさせないために捨てたのです。強すぎる力を』
邪神を倒すにはルシアの精神力が全て。ならばもしルシア達がかつての英雄達から力を受け継ぐ前にバーナードが邪神を復活させてしまったら、どうなってしまうのだろうか。邪神の心本体を封じ込めているのは妹のヨナの方。ルシアでどうにか出来るのだろうか。
『あなたが飲み込まれない限り、邪神は完全復活を果たせません』
と女神は答えた。一部でも体が欠けていれば完全に復活することは出来ないらしい。
パーツが全てそろわない限り、完全復活できない邪神を倒す方法、それは力どうのこうのなんて関係ない、結局はただの精神の強さ、それだけなのだ。
「ルーシーア」
「えっなにっ!?」
心の中で女神と会話をしている間、傍から見ればルシアは遠くを見つめ棒立ちしている変な人状態。心配したランファが腕を掴んで大きく揺らし、体も一緒に名って大きく揺れたことでやっと意識がこっちに戻ってきた。
「何々?」と辺りを見回すルシア。「もお」と頬を膨らますランファとその横でクスクス笑っているその他の仲間達と不機嫌そうなリオンの姿を見てルシアは恥ずかしそうに片手で後頭部をかきながらえへへと苦笑い。
”かつての英雄たちが封じ込めた神殿はあと、海の国、和の国、仮面の国、山の国にそれぞれ一つずつあります。
邪神が復活してしまえば、世界は混沌と化し新たな生命は生まれず死だけの絶望が支配した暗黒の世界となりましょう——どうかお願いします”
そう言い終わると女神は音もなく消え去った。女神が消え去ったその場には静寂な空気が辺り一帯を包み込んだそうだ。
暫く沈黙が続いた後、
「さてっと」
皆が沈黙し重たい空気になった時いつも一番に口を開くのはリアだ。この中では最年長の彼。普段はお調子者でふざけてばかりだが、頼りになる時は凄く頼りになり役に立つのだ。
大きな岩に腰を付けていた体を立ち上がらせ、横に座っていたリオンの方を向き、
「リオン、お前はどうする?」
「……どこへでも好きに行けばいい」
これは彼なりの気遣いだ。いや皮肉か? 本当は久々に再開した友人と楽しくこれまであったことを酒のつまみに話したりしたい。昔のように三人で馬鹿やって騒いだり、冒険などしたい、だがそれも今は無理な話。こんな傷だらけでボロボロの体の自分が一緒に行けば、確実に足手纏いになる。足手纏いだけはごめんだ。そんなのは彼のプライドが許さないのだ。……だから。
「く。ふふっもー素直じゃないんだからーリオンちゃんはっ」
「なっ!?」
「可愛いなぁっこのこのっ」
「やめろっ馬鹿!!」
まあそんな照れ隠し幼馴染には通用しないのだがな。
リアはリオンの肩に腕を回しぐりぐりと髪をぐしゃぐしゃにしてじゃれ合う。嫌だ止めろと口では言っているリオンもその表情は嬉しそうに歪んでいる。
……その姿を見て頬を染め、うっ羨ましくなんてないんだからっと膨れている、
「リティさん、顔赤いですよ? 風邪ですか」
「あ、赤くなんてないわよ!?」
女性がいたことは別の話。
「俺は俺のやり方でお前らの旅の手助けをしてやるよ」
「ありがとうございます、リオンさん!!」
「ふんっ」
リアとのじゃれ合いが終わったリオンは立ち上がり、そっぽに向いて答えた。
このままではリオンとまた離れ離れになってしまうかもしれないと焦ったリティは、
「わ、私も手伝うわっリオン!」
「はっ。邪魔だからいい」
「ハァァアア!?」
「あっははっ可哀想なリティー」
「うっさいわよ! 手伝うって言ったら手伝うんだからね!!」
「……チッ」
「そこ! ものすっごく嫌そうに舌打ちしない!」
「あははっ」
「笑わない!」
「だってお前らオモロ過ぎるだろっ」
「「「アハハハッ!!!」」」
久々に再開した幼馴染組は笑う。
笑い過ぎて涙が流れるまで笑った。もしかしたらまた離れ離れになってしまうかもしれないから。もう公開の無いように喉が枯れるまで大きな声で笑い合った。
アンコールワットを出て来たところで両者の行く道は分かれる。
片方は別れた仲間と合流する為に時渡りの樹が生えた広場へ。
片方はまずは傷を癒す為に賢者の隠れ里へ。
「——死ぬなよ」
「——そっちこそ」
「レオが命懸けで救ってくれた命なんだ。無駄にして堪るかよ」
「そうかい」
二人の青年に別れの挨拶などいらない。かわす言葉はこれだけで十分だ。
背を向け二人は一度も振り返らずに、それぞれの行く道を真っ直ぐに進んで行くのだった。
第八章 からくり遺跡-終-