複雑・ファジー小説

Re: シークレットガーデン 〜小さな箱庭〜【隠された真実編】 ( No.193 )
日時: 2017/11/05 22:30
名前: 姫凛 ◆x7fHh6PldI (ID: 344/XKJR)

スキップ物語(第八章 からくり遺跡-隠された真実編-)



”目をお開けなさい ルシア”

そう言われるがままにルシアが瞼を開けると眩い真っ白い光が視界の全て奪い少し疎ましく感じたがそれも数秒のこと、すぐに光になれ、その先に見えてきた光景は
「よぉ。久しぶりだな」
巨大な石碑にもたれかかるようにして座っている全身白い包帯で巻かれたミイラ男のような黒髪の青年。あの青年の事を知っていいる。あの青年は——ルシアが青年のことを思い出そうとしていると、傍に居た仲間達が驚きと喜びの声で青年の名前を叫んだ。
「「リオンッ!!」」
叫んだのはリアとリティの二人だ。一目散にリオンの元に駆けよると、リオンを抱きしめ大粒の涙を流し再会を喜び合う、離れ離れになった幼馴染組三人。
海の国で起きた事件で死んだものだと、思われていたリオン。だが彼は生きていた。ある者の手助けあって生き永らえたらしい。そしてその者にここ"アンコールワット最深部”で待っているとルシア達が来ると言われたそうだ。
「ある者とは誰ですか」とルシアが訪ねると、
”それは私のことでしょう”
ルシア達を此処まで導いてきたあの謎の声がリオンの代わりに答えた。
謎の声の主はついにその姿をルシア達の前に表した。白薔薇のドレスに瞳と同じエメラルドグリーンの緩やかなウェーブの腰まで伸ばした長い髪の女性。その姿はまるで「——女神様」と誰かが言った。全てを慈悲深く許す母のような微笑み、息をするのも忘れてしまう神々しいその見た目はまさに”女神”
女神は語った——ルシアが知りたかった真実を 己が過去に犯した過ちを。

世界とは。世界樹を中心となり、その枝葉として無数の大小様々な世界が存在しているのだという。
別名無限の選択の世界。分かれ道で右か左、どちらに進むかで世界樹の枝は二つに分かれ、また世界も二つに分かれる。
右に進んだ世界と左に進んだ世界にだ、そうして世界は無数に分裂し増えてゆき、同じ時間/人が存在していても少しずつ違う世界、それを世界軸と呼ばれている。

前半部分はバーナードが語った内容と同じものだった。
創造主???が生み出した女神ナーガと邪神ギムレーは互いを理解し合えず、小さな争いはやがて世界を巻き込む大戦争へと発展してゆき、女神の子供達である、フュムノス、ドラゴンネレイド、壊楽族(かいらくぞく)、リリアン、ユダ、メシアの六つの種族は協力し闘い邪神を弱体化させることに成功した——かのように見えた。
裏切り者がいた。己の野心を叶える為に邪神を我が物にしようと企んだ者がいた。
バーナードはそれはルシアの父である、メシアの王だと言った。だがそれは違った。真実ではなかった、真相はこうだ。
裏切りを企てたのは他でもないバーナード本人。邪神と闘い、その力に魅入られたバーナードは、手始めに邪魔となる女神を弱体化させこのアンコールワットから動けないように封じ込め、そして口封じにと他の五種族の王達を虐殺しようと計画を立てていたのだ。
その計画にいち早く気づいたメシアの王は、バーナードに気づかれる前に邪神の体をバラバラにそれぞれの王のシークレットガーデンへ封じ込める事に。
頭はドラゴンネレイド。
胴体はフュムノス。
腕は壊楽族(かいらくぞく)。
脚はリリアン。
そして一番厄介な邪神の魂 心臓部はメシアの王。

これは女神と四種族しか知らない事実。バーナードはこれを知らずに五種族を殺してしまった為に邪神を復活する手段を失ったのように思われたのだが、実は一つだけ邪神を復活させる方法があった。
それは王達の子供達・子孫達に受け継がれた邪神の体を封じ込めたシークレットガーデンを一度怪汚し、そして浄化させることでシークレットガーデンは汚される前の清浄な姿を取り戻そうと異物をすべて排除する、その際に邪神体は異物として排除され封印が解けてしまうのだ。
そこに目を付けたバーナードは、まず裏切り者としてメシアの一族を抹殺し、メシアの特殊な血で作り出した、シークレットガーデンを汚す菌(ウイルス)を作り出し、不治の病、闇病を流行らせたのだ。
無意味だった。ルシアが今まで行ってきたことは全てバーナードの計画通り、手のひらで踊らされていただけだったのだ。その事実を知り愕然とする。膝から崩れ落ちる。
ルシアの手伝いのかいあって既に四つの封印を解くことに成功している。底るはヨナが持っている邪神の心臓部のみ。この封印が解かれてしまえば、邪神が復活し人が住めない混沌の世界と化すことになるでしょうと女神言う。

邪神なんて復活させて堪るかと仲間達が怒り立つが、女神は俯せ首を横に振るう。
まだルシア達の実力ではバーナードに傷一つとして与えることは出来ないでしょう、邪神を封印し直すことも無理でしょう、と言うのだ。
じゃあどうしろと? と聞くと女神はかつての英雄たちから力を受け継ぐのです、と答えた。
自らの死期を悟っていた五種族の王達は自らの力を子供・子孫達にへと、己の力を五つ遺跡に封じ込めたのだ。

”アンコールワットに封じ込められたのは癒しの力 全ての傷を癒し闘う力を力を与える究極魔法 シレーナ 貴方の祖先が残した力です”

天から白い光がシレーナを照らし眩う光が彼女の体を包み込んだ。
ヒュムノスの王の加護を得たシレーナは究極魔法 天光治癒(エンジェルブレス)を習得した。
残るはドラゴンネレイド、壊楽族(かいらくぞく)、リリアン、メシアの四種族と四つの遺跡だ、となったところで女神はルシアだけに語りかけてきた——ルシアは力を授かるべきではないと。
ルシアの心には邪神の心も同時に存在しているのだ。時折出てきたルシアではない黒い感情のナニカ、それはルシアの精神を乗っ取り表に出てこようとする邪神の心。
強すぎる力は心強いと同時に強気者を引き寄せてしまう。今ルシアが父の残した力を受け継いでしまうと同居している邪神の心までもが力を得て表に出て来てしまう恐れがあるのだ。
邪神は全ての体が揃わないと完全に復活は出来ない。心という不確定なものが書けるだけでも復活することは出来ないらしい。
決してルシアは父が残した力を受け継がない、これは秘かに交わされた女神とルシアの約束事。

女神は消え去り、アンコールワットを出たところで別れの時だ。
ルシア達はヒスイと合流する為に時渡りの樹の元へ
リオンとついでのリティは傷を癒す為にまずは賢者の隠れ里へ
「——死ぬなよ」
「——そっちこそ」
「レオが命懸けで救ってくれた命なんだ。無駄にして堪るかよ」
「そうかい」
二人に別れの挨拶なんていらない、交わす言葉はこれだけで十分なのだ。
背を向けリアとリオンはそれぞれの行く道を真っ直ぐに見据えて進んで行く、振り返らずにただ真っ直ぐに進んでゆくのだ、自身が選んだその道を——。