複雑・ファジー小説

Re: シークレットガーデン 〜小さな箱庭〜【隠された真実編】 ( No.194 )
日時: 2017/11/06 12:17
名前: 姫凛 ◆x7fHh6PldI (ID: O62Gt2t7)

第八章 からくり遺跡-隠された真実編-

薄暗い空間に閉じ込められていたルシア達を眩い白き光が包み込み、その眩しさにルシアは瞼を閉じた。

"目をお開けなさい ルシア”

そう謎の声に従い閉じた瞼を開けると、まず最初に見えたのは真っ白い光の世界「うっ」と少し光を疎ましくも思ったがすぐに目は光になれ

「よお——久しぶりだな」

巨大な石碑にもたれかかるようにして座っている全身を白い包帯で巻かれた黒髪の青年が皮肉そうに口元を歪めている。
あの青年のことをルシアは知っている。あの青年の名は——とルシアが思い出す前に

「「リオンッ!!」」

この場に居る誰よりもその青年に会いたいと願っていた二人が先に青年の名前を叫んだ。
彼の名前はリオン。海の国にある本屋の若き店主であり、皮肉屋で照れ屋なリアとリティの大切家族同然の幼馴染で、とある事件に巻き込まれ今の今まで死んだと思われていた青年。
真っ先にリオン駆け寄るリアとリティの二人はリオンを抱きしめ、何度も何度も「リオン」「リオン」と彼の名前を呼んだ。その声は再会の嬉しさに震え、その瞳からは大粒の雫が零れ落ちる。

「リオンさんっ!!」
「死んでなかったんだっ」
「……ランファ……不謹慎」
「ごめんなちゃい」

先に走って行ったリアとリティの二人の後を追いかけるような形でルシア達もリオンの元へ駆け寄った。ただ、事情を知らないシルだけは首を傾げ、良く分からなと言った表情でとぼとぼと歩いて近寄った。彼女とリオンは今回が初対面だから仕方ないのだ。

「お前っ生きてるなら連絡の一つくらいよこせよなっ」

このこのっとリオンの肩に腕を回し、頭を摺り寄せるリアを疎ましそうに睨み付け

「ある奴に助けられて、ここに連れて来られたんだよ。
 ここで待っていればお前らが来るからと言われたから……っていい加減離れろっ男女!」

自分の体から離れさせようとするリオンだったが、怪我を負っているためあまり派手に動けないのだろう、その攻撃は弱々しくいとも簡単にリアにはかわされ、さらにきつく抱きしめられている。
かなり嫌がっているように見えるが、これも仲の良い幼馴染のスキンシップというもの。二人のじゃれ合いが終わるった頃を見計らい、

「あの……ここで待ってれば僕達がくるって、誰に言われたんですか?」

気になっていた事を尋ねてみる。
先程リオンはこう言っていた「ある者に助けられ、ここに連れて来られ、ここで待っているとルシア達がやって来る」そう言われたと。誰が何のためにリオンを此処へ連れて来たのだろうか? 何故ルシア達がここへ来ることを知っていたのだろうか? と色々思考を巡らせ考えていると、

”それは私のことでしょう”

また謎の声が頭の中に直接語りかけけてきたのだ。三つの試練をルシア達に与え、ここへ来るように誘導したあの母のような温かさと厳しさを感じさせるあの声が聞こえてきたのだ。
ルシアは改めて辺りを見回してみることにした。
アンコールワットの外に出たというわけではなさそうだ。周りは崩れ崩壊し苔まみれの壁で囲まれており、外だと思われる森からは小鳥達の歌声が聞こえ、目の前にある石碑には古代人が描き残した物だろうか? 光の輝く女性とその下にいる無数の人々が黒くうごめく大きな陰と闘っている様子が描かれている。

「ここはどこなの」

と誰かともなく口を開いたのと同時だった。

"安心なさい ここにはもう 危険なものはありませんよ”

脳内に秘儀渡る謎の声が耳から聞こえてきたのは。
「……あそこ」シレーナが上空を指さしを驚愕した表情で固まっている。ルシア達は彼女が指さす方向に自然と視線を動かす、

「————っ」

その瞬間時が止まったような感覚に陥り皆言葉を失った。思考の先を失った。雑念というものが全て綺麗に消え去ってしまうような"人の人智を超えた存在”がそこに、いた。
白い薔薇を装飾した純白のドレスに瞳と同じ色の緩やかにウェーブのかかったエメラルドグリーンの髪が風に揺らめき、空中に浮いたその体は光り輝いているように見える、この存在を言葉で言い表すのならば、これはまるで「——女神様」と、誰かかが呟いた。
女神と呼ばれた女はニッコリと優しく微笑み

"よくぞ試練を乗り越え 此処まで来ましたね ルシア そしてその仲間たちよ”

その声はガラスのように繊細で一言一言を発言するたびに美しい音色を奏でる。おそらくこの世界にいるどの演奏者でも、この音色を再現することは出来ないだろう。この音色はきっと、神にしか出せないものなのだから。
突如目の前に現れた不思議な印象を受ける謎の女性。空中に浮いたまま微笑みを崩さない彼女にルシアは、後退りしつつ恐る恐る訪ねてみる。

「貴方は……貴方様は女神ナーガ様ですか」と。

そうですとこくりと頷き、

”私は生み出した子供達(人の子ら)から、女神ナーガと呼ばれている存在です”

「……マジかよ」
「本当に女神様なんだ」
「女神さまって実在したのね」
「……この人が女神様」

女神は存在すると信じられ、言い伝えられているが実際に見た者は誰もいない、なので皆おとぎ話の世界にだけ存在すると思っていた女神がこうして目の前に現れ驚きの言葉を零す仲間達にリオンも「だろうな、俺も初めてみた時は驚いた」と頷き同意している。

「あのっ、女神様! 僕はっ」

"歴史の真実を知りたいのですね”

ルシアが言う前に女神が答えた。その問いにルシアは唾を飲みこみ大きく頷いき、真っ直ぐな瞳で女神を見つめる。その姿を女神は子を憐れむ母のような表情で

"真実というのは何時だって残酷なもの”

天井のない何処までも広がる青空を見上げ、まるで独り言をつぶやくかのように、己が過去に犯した大罪、己の野望を叶える為に全てを犠牲とした男の話を語り始めたのだった。

Re: シークレットガーデン 〜小さな箱庭〜【隠された真実編】 ( No.195 )
日時: 2017/11/07 13:04
名前: 姫凛 ◆x7fHh6PldI (ID: 0j2IFgnm)

世界とは。創造主???さまが創り出した世界樹と呼ばれる巨大な一本の巨木に無数に生い茂る枝葉なのです。この世界ミトラスフィリアもまた、無数に存在する世界の一つでしかないのです。
それぞれの世界は個々に存在し互いに干渉することはあまりありません。ですが、風に吹かれ揺らめく枝葉の如く、ある世界で大きな出来事があるとその振動は世界軸と呼ばれる枝を通じて他の世界にも良からぬ影響与えてしまい、最悪その世界は地面へと舞い落ちる木の葉の如く、落ちて消滅(ロスト)してしまうのです。その世界に生きる無限の生命と共に消えて無くなってしまうのです。神々の記録からも、記憶からも、何もかもから消えて無くなり、なにもなかったことにされてしまうのです。
消滅は(ロスト)は不慮の事故だけから起きる者ではありません。
生命に寿命という命の終わりがあるのと同じように、世界にも寿命と言う者が存在するのです。寿命を迎えた世界は、その世界に住む住人もろとも創造主さまによって消去(デリート)されてしまうのです。
無数に存在する命の声。消されたくないと泣き叫ぶ生命の声。死にたくないと悲願する子供達の声。
この悲痛の叫びを見て見ぬふり出来るほど私は残忍にはなれなかった。光から生み出され、命を生み出し繁栄へと導く使命を授かった私が、無意味に死にゆく子供達の声を無視することなんて出来ないのです。
これは創造主さまの意思に背くこと。反逆罪として滅せられても可笑しくない行為。それでも私は、寿命を迎え創造主さまに消去されるのを待つ世界に住む子供達を、まだ誕生したばかりでなにもなかった無の世界ミトラスフィリアに招き入れたのです。
「ここで一から皆でやり直しましょう」と。最初は皆戸惑い不満の声を上げていましたが徐々にその声はなくなり始め、皆で協力し合いなにもなかった世界は緑あふれる豊かな世界へと生まれ変わったのです。異種様々な世界からやってきた者達が協力して作り上げたミトラスフィリアに栄光を——とこの世界に生きる誰もが思い願っていました。なのにそれを良しとしないものが現れたのです。
私と対をなす存在でありながら、破壊と死去と混沌を司る神 邪神ギムレーが、世界誕生時からずっと行っていた沈黙を破り動き出したのです。

「ごきげんよう人の子らよ」

彼は音もなくなんのまいぶれもなく、子供達が住む町村に降り立ちました。
全身を黒き鎧で覆った巨大な神の登場で子供達は慌てふためき哀しみの声を上げるのです。その声はとても嫌な気持ちにさせ心を締め付け痛ませるのです。
その痛みの声が聞こえていないのでしょう、ギムレーはニッコリと似合わない優しい微笑みをすると「さあ選べ人の子らよ」とあくまでも微笑みを崩さないままに、何処から出している声なのか分からない甲高く相手の緊張をほぐすように優しく丁寧な口調で尋ねるのです。

「リーブ オア ライフ」

ああ……なんて……なんて残忍で残虐な質問なのでしょう。
この問いの意味が分かっていない子供達は、問いに答えてしまいます。

「り、リーブ!」

「そうか。貴様はそちらを選んだか。フハハハハハ」

「か、か、身体が熱い! 燃えるように熱い!! アツイアツイアツイアツイ!! アツイアツイアツイアツイアツイアツイアツイアツイアツイアツイアツイアツイアツイアツイアツイアツイアツイアツイアツイアツイ熱い……ッ」

リーブと答えた、答えてしまった子供達は突如もがき苦しみ始め、目を見開き天へ、私へ助けを求めながら、消去(デリート)さたのです。
リーブ。すなわちこの世界ミトラスフィリアから去るという事。この世界に住むあの子達は元々寿命を迎え死にゆく世界に住んでいた住人達だったあの子達にはもう帰るべき世界も次に行くべき世界も存在しないのです。
行き場のない住人は——ただその世界から消去されるのみ

「ライフ!」

「そうか。貴様はそちらを選んだか。フハハハハハ」

「あ……? アアアアァァッァァアアアアアアアアアアアアアア……ウウウウウ……グググググギャアアアアアアアアアアアアア……ッ!!!」

ライフと答えた、答えてしまった子供達の身体はギムレーの黒い靄の吐息包まれ、吸い込むと体内にある臓器物は全て腐り始め肉や脳、その他のものまで腐りやがて黒い靄が消えた頃に残ったのは意思も自我もないギムレーに忠実なアンデッド(動く腐った死体)となってしまったのです。

「リーブ オア ライフ」

この世界を去るか。我に魂を捧げるか。
そのどちらを選んでも迎えるものは同じ死。
なんて残忍で残虐な光景なのでしょう。見たくないと目をつむり、聞きたくないと耳を塞いでも、子供達の悲痛な叫び声は私の心を縛り痛めつけるのです。
子供達の温かい生の感情が力の源としている私の力はどんどん弱まっていきました。その代わりに子供達の哀しみ恐怖といった負の感情を力の源としているギムレーはどんどん力を付けて行き、ミトラスフィリアを自分だけの者にしようと、生み出した死者の軍団(アンデッドアルメ)を引き連れて私に迫って来たのです。

あんなに緑豊かなで美しかった世界はもう見る影もないアンデッドたち魔物の死の世界と成り果ててしまいました。もう私が招き入れた他の世界の子供達は皆ギムレーによって亡き者とされてしまいました。
ギムレーに消されるくらいなら自らの手でとも考えました、ですがそれでは……先に死んで逝ったあの子達に顔向けができないじゃないですか。
私は残された最後の力を振り絞り、ギムレーと闘うためにフュムノス、ドラゴンネレイド、壊楽族(かいらくぞく)、リリアン、ユダ、メシアの六つの種族で構成された勇敢なる兵士を生み出したのです。
それぞれの種族の代表者を種族の王とし、彼らに残り僅かとなった女神の加護を授けギムレーを倒す指揮官に命じました。
彼らは私思っていた以上の働きを見せました。死者の軍団(アンデッドアルメ)聖なる光の一撃で灰とし、希望の光でギムレーを弱体化させ封じることに成功し光は闇に勝ったのです、世界はまた光に照らされ、全て私の願い通り、全て上手くいったと安心して長き眠りにつこうとしたその時でした。

「——寝るにはまだお早いですよ。女神ナーガ様」

「あ、あなたはっ!?」

油断していました。まさかギムレーを倒すための兵士として生み出した我が子に、不意を突かれ依り代としていた遺跡に封じ込められてしまうなんて。力を枯渇していたのが敗北の原因。いいえ。母でありながら、子供を憎き敵を倒すための兵士としか見なかったことでしょう。それが私の罪。ここアンコールワットに囚われの身となっている理由なのです。


Re: シークレットガーデン 〜小さな箱庭〜【隠された真実編】 ( No.196 )
日時: 2017/11/07 17:40
名前: 姫凛 ◆x7fHh6PldI (ID: 0j2IFgnm)

女神は俯き口を閉じた。

「裏切り者……僕の父さんのことですよね」

胸元をギュッと握りしめてルシアは答える。苦しそうに震え腹の底から絞りだすような声で自分の父親こそが、女神をアンコールワットに封じ、世界を我が物にしようと他の種族の王達を虐殺して周りそして失敗したメシアの王だという事を歯を食いしばり、吐き出すように言い放った。
苦しむルシアの頬をそっと撫で女神は微笑み、

"安心なさい ルシア”

耳元で囁くように、過去に起きた歴史の続きを語り始めた——。


生み出した子供達からの裏切りに合った私。
アンコールワットに囚われの身となった私にはただ世界で起きた出来事を観る事しか出来ましてんでした。目の前で起きる惨劇を第三者として世界の外から見守る事しか出来なかった。

「さあ——始めましょうか」

ユダの王として先の戦争で活躍したバーナード。ですがそれは偽りの姿でした。
本当の彼は貪欲で野心の塊のような男。この世界に誕生した時から彼はこの世界の支配者になろうと計画を立てていたようなのです。
彼の計画がこう。表向きは他の種族の王達と協力し、ギムレーを弱体化させ弱らせたところでギムレーの持つ力を奪いそしてこの事実を知る王達を皆殺しにし、自分に都合の良い歴史を語り民を騙し世界を自分の好きなようにするというものでした。

「ああ……なんて恐ろしい子を生み出してしまったのでしょう」

これは母である私の責任、ですが力を失い、囚われの身になっている私にはなにもなす手段がありませんでした。
このままでは世界はまた暗雲に包まれ希望の無い混沌が支配する絶望の世界となってしまいます。それだけは……それだけは絶対に許すわけにはいきません。
もう残された手段は一つしかありませんでした。

「これはあなたにしか頼めない事。頼みましたよ——ソヴァール」

「承知いたしました。女神ナーガさま」

六種族の王達の中で最も信頼における人物。メシアの王、ソヴァールに全てを託しました。

ソヴァールはすぐに動いてくれました。
他四種族の王達を集め弱体化させ動けなくさせていたギムレーの身体を五つの部位に切断し、それを王達のシークレットガーデンへと封じ込めたのです。ここならでならいくら聡明な知性を持ったバーナードでも気づくことはないだろう、というソヴァールが出した考え。

頭はドラゴンネレイド。
胴体はフュムノス。
腕は壊楽族(かいらくぞく)。
脚はリリアン。
そして一番厄介な邪神の魂 心臓部はメシアの王ソヴァールが請け負いました。

この事は私と五種族の王達の間だけの秘密とし、例え家族で会っても、誰であって口にしてはいけない禁忌とし、硬く口を閉ざしました。
その事実を知らぬままバーナードは、奪う前にギムレーを奪われたとして怒り狂い、五種族の王達皆を虐殺しました。
口に出すのも恐ろしい方法で。
そのせいで壊楽族(かいらくぞく)とドラゴンクエストの間で勘違いによる小さな火種が起こり、やがてそれは大きな戦火の炎となり、沢山の命の炎を奪っていきました。

それでも力の欲望に溺れたバーナードの怒りは静まらず、世界中にいる全ての樹族の民に向けて

「メシアの王が女神ナーガさまを遺跡に封じ込め、邪神ギムレーを復活させようよしているぞ!」

と、嘘の演説をしたのです。そんなことはない。そんなのあり得ないとメシアの民は言いました。ですが何も知らない他の種族からしてみれば、他の四種族の王達を共に戦ったバーナードの言葉の方が信憑性が高く最も信頼できるものでした。

「さあ——武器を取れ! 女子供も関係ない! これは戦争だ。
 己が欲望に負け、世界を、女神を。我々を、裏切ったメシアの一族への復讐戦争だ——」

「おおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉ!!!」

世界は瞬く間に戦乱の火の渦となりました。
何も知らない無垢の魂は、力に溺れた魔王に騙され、同じ無垢の魂を虐殺していったのです。

これも全てバーナードの計画通り。

ギムレーの身体が五つの部位に別れ、五つの種族の王たちのシークレットガーデンへ封じ込まれていると何者かから聞いだバーナード。
彼は生きた捕らえ拷問にかけて殺したまだ幼いメシアの子供達の血を集め、メシアだけが持つ異常なる再生能力を遺伝子の研究、改造を重ね、長い月日をかけて遂に完成させました。

全種族共通、大小様々、罪を犯し、その罪意識、罪悪感で、畏れ、恐怖し、怯え、汚れ苦しむシークレットガーデンを持つ者達に投与すると、プリンセシナ内部に穢れと呼ばれる異物をまき散らし、やがてシークレットガーデンを破壊し、人ならざる者へと変化させる、ウイルスを開発したのです。

一度穢れたシークレットガーデンを治す方法はない。
……そう思われていました。
ですがランファ。あなたの持つ精霊石が全てを変えました。

治す手段のない不治と呼ばれた闇病を治す唯一の方法。精霊石を使い、直接患者となる者のプリンセシナ内部へと入り、ウイルスである穢れを倒し、シークレットガーデンを縛る過去の罪から患者を解放させること。
そうすることで闇病治ります。……治りますが。


また女神が顔を伏せ口を閉ざした。
その表情は悲しみと恐怖に震え、瞳にはうっすらと雫を浮かべいる。

”ルシア もう一度問います。
 あなたが訊きたいと言う真実とは いつでも貴方に優しいく微笑むものではありません。
 牙をむきあなたを絶望の淵に立たるものあります。
 聞かなければ良かった。聞かない方が良かった。そんな真実でもあなたは聞きますか?”

涙を浮かべ震える身体を押さえ必死そうに苦し気に女神はルシアに問う。
ルシアの答えは

「それでも僕の意思は変わりません。聞かせてください、女神さま」

変わらない。此処へ来る前、リアに問われた時からもう覚悟は決めていた。
例えどんなに目を逸らしたくなるような、辛く、惨い、尽日だったとしても受け入れ前に進むと、仲間達と約束したのだ。
それを今更変える事なんて、そっちの方があり得ない。
ルシアは真っ直ぐに女神を見つめ「僕は大丈夫です」と大きく頷く。それを見た女神も顔を上げまっぐにルシアの瞳を見つめ、

”わかりました。それでは話しましょう。話の続きを——”


女神は語る。
騙されていた方が良かった。
間違った歴史のままで良かった。
知らぬまま生きていた方が良い真実というものを——。



Re: シークレットガーデン 〜小さな箱庭〜【隠された真実編】 ( No.197 )
日時: 2017/11/08 10:20
名前: 姫凛 ◆x7fHh6PldI (ID: lvVUcFlt)

"封印とは呪いのようなもの。例え持ち主が死んだとしても、封印はその者の子へ孫へその先の子孫へと永遠に受け継がれてゆきます。子供だからと言っても全員が全員受け継ぐわけではありません。選ばれた者只一人だけ、いくら賢いバーナードであっても誰が受け継いだのか分からないはずと、ルシアあなたの父を始め四種族の王達、そして私も手出しできないものと高を括り過信し過ぎていました。

しかしバーナードは聡明でとてもずる賢い男、メシアの子供達の血で作り出したウイルスを気化させミトラスフィリア中にまき散らし、不治の病 闇病を流行らせ人々を混乱の渦に巻き込むのと同時にもう一つの意味を用意していたのです。

シークレットガーデンは一度穢れそして浄化されると元あった姿に戻ろうと、プリンセシナ内部にいる全ての異物を排除しようとします。そこにバーナードは狙いを付けたのです。
シークレットガーデンにとって、ギムレーは異物以外の何物でもありません。元の姿に再生するための邪魔な存在でしかないのです。
シークレットガーデンから排除される。それは同時にギムレーの封印が解けることを意味します。
賢いあなたならもうおわかりでしょう ルシア”

女神からの問いかけにルシアは何も答える事が出来なかった。
今語られた真実とは、ルシアが今まで命懸けでやってきたことは全てバーナードの思惑通りでただ奴の手のひらの上で踊らされていただけだという事実。
目の前にいる困っていた人を助けて回った旅は全て無意味だったという真実を突き付けられ、ルシアは驚愕しその場に崩れ落ちるように膝をついた。
虚ろをうつす瞳は絶望に染まり、開いた口は塞がらない。

「僕は……僕がいままでしたことは全部……無意味だったのですか」

今にも泣き出してしまいそうな、喚き散らし叫びたい、感情を押さえ至って平常心を偽り絞りだした声は怯え震えていた。
「そんなことはない」「ルシアがいなかったら」「貴方は命の恩人」だとルシアに助けられた少女たちは言う。だがその励ましの声は残念ながらルシアの心にまで届かない。

"フュムノスの封印。
 ドラゴンネレイドの封印
 リリアンの封印。
 あと残る封印は壊楽族とメシアの二つ”

「メシアの封印……まさかヨナ!?」

そう考えればバーナードがヨナを攫った理由、殺さないで生かしている理由に説明がつく。
まだ邪神の封印が施されたままのヨナを今死なせてしまえば、次の後継者が現れるまで邪神の復活が出来ない。
そして邪神の心臓を他の物に受け渡されでもしたらそれこそ面倒な事になる。邪神の心臓はそれだけでも強大な力を持つ代物で絶対に奪われたくない逸品。ならば自分の手のひらの中に収めてくのが一番安心ということだ。

「なんだか面倒な事になってきたなー」

苦笑いしながらリアがぼやいた。冗談っぽく言ってはいるが本音だろう。

「……邪神復活……駄目」

俯きシレーナは力のこもった口調で言った。

「そうだよねっ。邪神を復活させたら全てが終わってしまうものねっ」

小さくガッツポーズをし気合を入れ直すシル。

「ここからが正念場なんだ」

胸元強く握りしめ誰にも聞こえないように独り言を呟くランファ。

「……みんな」

今ここにヒスイはいないが、いればきっとここにいる仲間達と同じことを言っているだろう。
旅の目的、闘う理由は皆違うが敵は同じ——打倒邪神! 打倒バーナード! もう二度とあいつらの好きにさせて堪るか 怒りの気持ちはルシアを含めこの場に居る全員が同じ気持ちなのだ。

"今のままでは駄目なのです”

だが女神の表情は浮かないままだ。瞳から大粒の雫を流したままだ。
「どうしてっ」とルシアが訪ねると女神は頬を撫で

”六種族全ての王達ですら、弱体化させることだけで精一杯でギムレーを倒すことなんて出来ませんだ。
 ギムレーを弱らせることは愚か、バーナードに傷一つ付けることすら難しいでしょう。
 彼はミトラスフィリア最強の上級魔術師ソルシエールですから”

腐っても女神が生み出した兵隊の一人。
世界最強の魔術師はそう簡単には倒せそうにないらしい。……ならばどうすればいいと言うのだ。
今から修行しているようでは邪神復活に間に合わない。世界はバーナードのものとなってしまう。
頭を抱えどうすればいいんだと、皆で頭を悩ませていると女神はルシアから離れ高く宙に跳び上がり

”一つだけバーナードを倒す手段はあります”

一筋の希望の光が差し込む。

”こうなることを予測していたのでしょう。五種族の王達はミトラスフィリアにある五つの遺跡にそれぞれ自分達の力を封印し子孫達へ残したのです”

白く輝く光の柱は真っ直ぐにシレーナを照らし包み込む。

"アンコールワットに封じ込められたのは癒しの力 全ての傷を癒し闘う力を力を与える究極魔法 シレーナ 貴方の祖先が残した力です”

シレーナを包む眩く暖かい光は吸い込まれるように彼女の中へ消え、ヒュムノスの王の加護を得たシレーナは究極魔法 天光治癒(エンジェルブレス)を習得した。


『ルシア』

頭の中に直接語りかけていた今までとは明らかに違う感覚で女神はルシアに直接語りかけた。
この心に直接語りかけられているような感覚……どことなくプリンセシナの案内人パピコに現実世界で話しかけられた時の感覚に似ているような気がする。
周りの仲間達を見てみたが皆無反応。フュムノスの加護を受けたシレーナに「どんな感じだった?」「面白かった?」「なんか走馬灯みたいの見えた?」「お爺さんに会えた?」「今日の晩御飯なにかな?」など後半はどうでもいいような質問攻めをしているようだ。
いつもの通り愉快な仲間達に頬が緩むが今は大事な話の最中、頭を振って邪念を晴らしキリッとした真面目の表情で女神を見つめ直す。

『もう既にあなたも気が付いているでしょう——あなたの心の中に潜む黒き邪悪なる獣の存在を』

思い当たるふしはある。
最初にヤツの存在を知ったのは石の遺跡で般若の面を付けた紅き鎧の騎士が召喚したヘンゼルとグレーテルという名前の機械兵士との戦闘時のこと。
一度は敗れ気を失ったルシア。負けられない——こんなところで負けて堪るかという黒い感情に触発され、内に眠る黒き獣が目を覚まし、ルシアの精神と身体を乗っ取り機械兵士を破壊したあの化け物の事だろう。

『その黒き邪悪なる獣は、ギムレーの心です』

女神は語る。
邪神の心臓部は妹のヨナが受け継ぎ、邪神の魂——すなわち心はルシアが受け継ぎ、そのせいでルシアは表に出てこようとする邪神の心に何度も精神を乗っ取られようとしていたのだと。、

『ギムレーの精神支配を食い止めるための対抗手段は、邪神を抑え込むほどの強い精神力を持つことそれしかありません。
 まだ弱い精神力のあなたがをソヴァールの残した強大な力を手にすれば、ギムレーはその隙をついてあなたの精神を飲み込み支配し表世界へと完全に出て来てしまうでしょう。
 そうすれば世界は終わったも同然。ルシア、あなたは絶対にメシアの加護を受けてはいけません。
 ソヴァールはとても優秀で勇敢で信頼のおける男でした。ですが強大な力は人を狂わせることもあるのです、バーナードのように。
 あなたにはそうはなって欲しくない。どうか私の願いを聞き遂げてください』

これは女神とルシアの間だけで交わされた秘密の約束事。
邪神を完全復活させるにはどれか一つでも身体の部位が欠けてはいけない。それは魂——不確定要素の心もまた同じ。

『あなたが飲み込まれない限り、邪神は完全復活を果たせません』

万が一にもルシア達がバーナードとの戦いで負けたとしても、ルシアの精神が邪神に飲み込まれない限り邪神は完全なる復活が出来ない。
完全なる復活を遂げられないと、バーナードの野望を叶えることが出来ない。
全てはルシアの精神の強さにかかっているのだ。
重い十字架を背負いその重さに押しつぶされそうだ。

「ルーシーア」
「なにっ!?」

心の中で女神と会話をしている間、傍から見ればルシアは遠くを見つめ棒立ちしている変な人状態だったのだろう、心配したランファがルシアの肩を掴み身体を大きく揺らした。
そのせいで世界がぐるんぐるん、脳みそもぐるんぐるん、で気持ち悪い。
「何々?」と辺りを見回すルシアにランファは「もお」と頬を膨らませ、その横でクスクス笑っている仲間達と不機嫌そうなリオンの姿。
なんだか気恥ずかしくなってルシアは俯き片手で後頭部をかきながらえへへと苦笑い。

”残る四種族の王達が力を封じ込めた遺跡は海の国、和の国、仮面の国、山の国にそれぞれ一つずつ。
 ギムレーが復活してしまえば、世界は混沌と化し新たな生命は生まれず死だけの絶望が支配した暗黒の世界となりましょう——どうかお願いします”

最後にそう言い終わると女神は静かにルシア達の目の前から姿を消した。
女神が消えると小鳥達の歌声も風が揺らめく木々の伴奏もなくなり、一時的に静寂な間が訪れた。
暫く沈黙が続いた後。

「さてっと」

皆が沈黙し重たい空気になった時いつも一番に口を開くのはリア。この中では最年長の彼、普段はお調子者でふざけてばかりだが頼りになる時は凄く頼りになり役に立つのだ。
大きな岩に腰を付けていた体を立ち上がらせ、横に座っていたリオンの方を向き、

「リオン、お前はどうする?」
「……どこへでも好きに行けばいい」

これはリオンなりの気遣い、いや皮肉か? 本当は久々に再開した友人と楽しくこれまであったことを酒のつまみに話したりしたい。昔のように三人で馬鹿やって騒いだり、冒険などしたい、だがそれも今は無理な話。こんな傷だらけでボロボロの体の自分が一緒に行けば、確実に足手纏いになる。足手纏いだけはごめんだ。そんなのは彼のプライドが許さない……だから。

「く、ふふっもー、素直じゃないんだからー、リオンちゃんはっ」
「なっ!?」
「可愛いなぁっこのこのっ」
「やめろっ馬鹿!!」

まあそんな照れ隠し幼馴染には通用しないのだが。
リアはリオンの肩に腕を回しぐりぐりと髪をぐしゃぐしゃにしてじゃれ合う。嫌だ止めろと口では言っているリオンもその顔は嬉しそうに歪んでいる。
……その姿を見て頬を染め、うっ羨ましくなんてないんだからっと膨れている、

「リティさん、顔赤いですよ? 風邪ですか」
「あ、赤くなんてないわよ!?」

女性がいたことは別の話。

「俺は俺のやり方でお前らの旅の手助けをしてやるよ」
「ありがとうございます、リオンさん!!」
「ふんっ」

リアとのじゃれ合いが終わったリオンは立ち上がり、そっぽに向いて答える。
このままではリオンとまた離れ離れになってしまうかもしれないと焦ったリティは、

「わ、私も手伝うわっリオン!」
「ハッ、邪魔だからいい」
「ハァァアア!?」
「あっははっ。可哀想なリティー」
「うっさいわよ! 手伝うって言ったら手伝うんだからね!!」
「……チッ」
「そこ! ものすっごく嫌そうに舌打ちしない!」
「あははっ」
「笑わない!」
「だってお前らオモロ過ぎるだろっ」
「「「アハハハッ!!!」」」

様々な理由があって離れ離れになっていた幼馴染三人は涙が枯れるまで泣き、喉が枯れるまで笑い合った。
もしかしたらこれが最期となりもう二度と会えないかもしれないから、と、気が済むまで泣き笑った後悔などないように。

アンコールワットを出て来たところで、二つに道が分かれる。

片方は別れた仲間と合流する為に時渡りの樹が生えた広場へ。

片方は傷を癒す為に賢者の隠れ里へ。

「——死ぬなよ」
「——そっちこそ」

リアとリオンは互いに進むべき道を見つめ、背を向けたまま会話をする。

「レオが命懸けで救ってくれた命なんだ。無駄にして堪るかよ」
「そうかい」

二人の青年に別れの挨拶などいらない。かわす言葉はこれだけで十分。
たとえこれが今生の別れとなったとしても、もう後悔などない。
一度も振り返らず両者は己の道をただ真っ直ぐに進んで行くだけだ——。











第八章 からくり遺跡-終-