複雑・ファジー小説
- 第九章 荒くれ者の最期 ( No.207 )
- 日時: 2017/11/25 21:34
- 名前: 姫凛 ◆x7fHh6PldI (ID: 6/JY12oM)
スキップ物語-第九章 荒くれ者の最期-
山の国の何処かにあると言い伝えられている女神が誕生した遺跡 アンコールワットで見事試練を乗り越え真実の歴史を知ったルシア達は遺跡を出てリオン、リティと別れ時渡の樹が生えた広場でヒスイと合流を果たした。
新たに出来た旅の目的。四つの国にある四つの遺跡を巡りかつて女神と共に邪神と戦った王達の力を受け継ぐ旅の始まり。
——さてどこの国の遺跡から行こうか?
ルシア達が選んだのは山の国から国境大橋を通る列車に乗って行く海の国大都市ゼルウィンズ。
リアの故郷であり彼と初めて出会った街である。
ここにある遺跡。それは海に沈んだ王国アトランティス。
沈んだ理由は未だ解明されていない。何千、何億、何年前から海の中にあるのか詳しいことは何もわかっていない不思議な王国。
行くには王の許可が必要ということでルシア達は海の国の現国王であるブルースノウ王に謁見する。
リアに向けられる畏敬の目。
ヒスイに向けられる軽蔑の目。
そしてブルースノウ王がルシア達にアトランティスへ行く許可を出す条件として狂犬退治を依頼した。
海の中でなのに哺乳類である犬が暴れている? と少し疑問に思ったが騎士に誘導されるがまま城近くの港に泊められている潜水艦へと乗り込んだ。
暫く海中の美しい景色に目を奪われていると、古代に失われた魔法(ロストマジック)によって作られた結界に水圧から守られているアトランティスへと到着した。
アトランティスは円形のドーナツ型。街の中心に広場があり、そこから外壁に向けて細い道(水路)がまるで迷路のように伸びている。
建物は皆朽ち果て緑色の苔だらけだ。
潜水艦を運転していた雪白の騎士が言った。五時間だけ待つ、と。それ以上かかれば自力で地上まで帰って来いということだろう。
細い通路を通り中央広場へ訪れるとそこでは
血飛沫がまい
肉が躍り
楽しそうに 愉快そうに 嗤っている
玩具というなの餌で遊んでいる狂犬がいた。
「——ギャハハハハッ!!」
狂犬の名はザンク。ドルファ四天王の一人にして、南の森でヒュムノスの娘達を虐殺した張本人、シレーナの怨敵。
恐怖に震え怖気づくシレーナ、でもこの敵だけは倒さなければならない、絶対に許してはいけない、杖を握る手に自然と力が入る。
ザンクはもう一度ルシアと戦えることに喜びを感じそして
「グオオオオオオ……グォォォン!!」
人型生物だったザンクの身体は何百メートルもある巨大なものとへと変化し、ワニやトカゲに似ている頭部、ひたいには二本の鋭く尖った角、背には悪魔のような大きな四枚の翼、鋼色の鱗で覆われた生物、この世界では存在しないはずの最強生物ドラゴンへと姿を変えた。
——血解(けっかい)
異世界に存在するドラゴンをベースにして創られたドラゴンネレイド。
彼らは命の灯(魂)を対価として支払うことで本来の姿、ドラゴンへと変化することが出来る。
世界で最強の生物ドラゴンに生身の人が勝てるわけがなかった。
闘いは劣勢のものとなり、闘いというよりそれはドラゴンのお遊びへと変化してゆく。
——このままでは負ける。また負けてしまうの? 二度目の敗北は死を意味するのに。
ヒスイの中に過るある想い。もう誰も失いたくないという心からの願い。
「ヤメテェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!!」
その願いに答えるかのようにヒスイを照らす一筋の光。
"よくぞ叫んだ我の血を引く弱き者よ。貴様のその願い聞き届けたり——我を呼ぶのだ弱きものよ”
心の中に直接語りかけてきた傲慢で偉そうな謎の男の声。
その声に従いヒスイは叫ぶ。
彼の名は——
「来て——英知の園全てを得るが為に大地の全てを支配した破壊者の王ルティーヤー!!」
獣の咆哮を上げその者は現れた。
空間を破り、世界を砕き、黒い大きな翼を羽ばたかせ現れたのは漆黒のドラゴン「ルティーヤー=バハムート」
仲間をここではない何処か遠くへ逃がした後ヒスイはザンクを閉じた瞳で見つめこう言うのだ。
「ああ——なんて可哀想な人なんだろう」と。
そして静かに命じるのだ。ルティーアーよ。
「帝竜の息(カイザードラッヘアーテム)」
その命答えるが如く、ルティーヤー=バハムートはあぎとにため込んだ膨大な魔力(マナ)を強烈な光の束として放射した。
ザンクも狂犬竜の咆哮(黒炎のブレス)吐いて応戦したが、その結果は刹那の如く一瞬のことだった。
ザンクはヒスイの前から消え去った。
全てを焼き尽くす閃光のあとに残ったのはぼっかりと抉られ中身がむき出しとなった地層と朽ちた建物の内部だけだった。