複雑・ファジー小説

Re: シークレットガーデン 〜小さな箱庭〜 ( No.43 )
日時: 2014/03/20 18:05
名前: 姫凛 (ID: BLmVP1GO)

第二章 汚された草競馬大会








「じゃあ行ってくるね」
「あぁ…元気でのぉ」
「うん」
次の日の朝。鶏が鳴いたと同時に家の前で見送られる。
「ふぁー。……なんでこんな朝早くから」
「早起きは三文の得って言うでしょ?だから」
「三文って…なんもん?」
「……えっと、それじゃあ」
「あー!わっかんないのに使ってるんだぁー」
プスプス頬を膨らませ足踏みしながら怒るランファの事はほうっておいて、次の町へと歩き出す。
「頑張るんじゃのぉー!」
「はーい」
「ジェームズお爺さんもお元気でー」
「長生きするんじゃぞークソジジィー」
「こらっ」
「言われんでもするわいのぉー」
お爺さんの最後の一言で皆。「あははっ」と笑いながら、笑顔で隣町を出て行った。


……から数刻後。行先を決めずに町を出てきてしまった事を思い出し、ランファが適当に歩いて行けばそのうち何処かに着くだろうという案に乗っかり色々な方角に歩いて歩いて……。
迷って迷って…絶対人が通る道じゃない獣道などを何本も通って通って、やっと人の見にたどり着き泥にはまって抜け出せなくなっている馬車を発見。
困っていたのでルシア一人で頑張り助けてあげた。馬車のおじさんは助けてくれた御礼に何処か行きたい所まで連れってあげるよと言ってくれたのだが、そもそも行きたい場所がまだ決まっていなかったため何度も断ったのだが以外におじさんもしつこく根負けし、今は馬車の中。

「ねぇーねぇーどこに行くのー?」
能天気でマイペースなランファは、目をキラキラ輝かせワクワク顔でルシアに聞いている。
「ここの近くに人が沢山いそうな所ってない?」
困ったな…と言う表情をした後シレーナに助けを求める。
「……馬の町?」
「「うまー!?」」
「…うん」
シレーナが言う馬の町とは主に牧場主たちが暮らす街で年に数回、草競馬大会が開かれて沢山の人たちが来ているらしい…。
「今年の大会はドルファが主催。だからいつも以上に盛大で、各国の有名人が来るらしい…」
「王様とか!?」
「…たぶん」
王様が来るかもと聞いて何故か握りこぶしを作ってくぅ〜と喜ぶランファの事はいつもの事だとしてほおって置いて


「ドルファ?」
「あれ…知らない?世界的権力を持った大企業」
「泣く子も黙るドルファフィーリング!」
「へぇ……知らなかった」
「ルシアも少しはニュースとか新聞とか見た方がいいよ」
「うっ」
ランファにだけは言われたくなかった思うルシアであった…。
「えっと…それだけ沢山の人が集まるって事はなにかヨナに関する情報が得られるかな?」
「……だといいね」
「いいねー」
「うん」
「坊ちゃん達ーそろそろ馬の町に着くよー」
「あっはーい」
「…どうも」
「うまうま〜馬〜」
内心少しドキドキしながらルシアは窓の外を見ていた…。
家と隣町と近くの森以外の遠くに行くのは今回が初めてだったからだ。だから正直言うと能天気なランファとしっかり者のシレーナがいてくれてほっこり安心なのだ。こっそり心の中で秘かに二人と一緒に旅ができて本当に良かったと思うルシアであった。




Re: シークレットガーデン 〜小さな箱庭〜 ( No.44 )
日時: 2014/03/20 14:01
名前: 姫凛 (ID: WZc7rJV3)






馬の町。牧場主たちが主に集まって暮らし酪農や農業で生計を立てている町。
隣町とは友好関係でいつもこの町で取れた副産物や作物を隣町で他の国の商人に売って貰い隣町を通して色々な食料や物を仕入れている。
「ここが…馬の町。わぁ……」
「本当に馬ばっかりーだー!」
やはり馬の町というだけあって町中に馬の銅像や馬の鬣を使った製品を取り扱った店や移動手段は馬車だったりとどこもかしこも馬、馬、馬ばかり。
ルシアの村にも一応、馬は居たがこんなにも沢山の馬を見るのは初めてな為興奮の色を隠せない。
「……宿あっち」
冷静なシレーナの指示の元。とりあえずまずは宿を確保して荷物を置いて一休みしてから、ヨナをさらった犯人の情報を集めすることにした。
「シレーナは前にもこの町に来たことあるの?」
宿へ向かう道の途中、少し気になりシレーナに質問してみると
「……うん。昔、お父さんと」
「…そっか」
「うん…」
少し寂しそうに悲しそうにシレーナは言った。
来たのはシレーナの父親がシレーナをお爺さんの家へ捨てた時にだろう…それを察したルシアは静かにあいずちをうった。


宿は町の入口からほど近い場所にあり、オーナーのおばさんは気さくな人でシレーナの事を覚えており格安で眺めの良い部屋を貸してくれた。
みんな同じ部屋だったが少し広いためベットは二部屋にあり、別に困ることはなかった。今は荷物を置いて一休みしている。
「わ〜い、ベットふかふかだ〜」
ぴょんぴょんとベットの上で弾みながらはしゃぎ遊んでいるランファに、父親みたいに厳しく
「こらっランファ!ベットの上ではしゃいじゃ駄目だよ」
「えぇーーーブゥー」
頬をフグのように膨らませて不機嫌そうな顔で、言うと渋々ベットから降りて部屋の端っこで嫌みたらしく部屋の端っこでいじいじする。
「……チラシ貰った」
ガチャリと扉を開けシレーナが紙を持って入って来た。
紙には大きく「草競馬大会」と書かれていた。
「草競馬大会の?」
「うん」
「おーどれどれー!?」
先ほどまでいじいじしていたランファは急に元気になりシレーナが持っていたチラシを奪い取りじっくり眺め口に出して読んだ。


[第五十八回 チキチキ草競馬大会ー!!
 優勝者には巨大農地と——牧草百年分プレゼントー!!
 飛び入り参加OK−! 参加賞もあるよ! さぁ、みんなどんどん参加して競馬王になっちゃおう!
 (もしかしたら……ドルファフィーリングのお偉いさんに気に入られちゃってスカウトされちゃうかも!)]

チラシにはと書かれていた。
「牧草百年分!?すげー!出よう!これは出るかねぇーよ!」
「牧草百年分なんていらない…」
「それに馬もいないし…ね」
「えぇーーーそんなぁー!?」
何故か牧草百年分に釣られたランファを何とか宥め止めていると部屋の外の廊下の方から
「はぁ〜……困ったねぇ〜」
「……?」
ため息まじりの声が聞こえてきた。どうしたのだろうと廊下に出てみると、頬に手を添え腕を組んではぁ…と大きなため息をついている宿のオーナーのおばさんが居た。


「どったのおばちゃん?」
「あっランファちゃん……」
おばさんに近づきランファは普通におばさんに尋ねる。いつの間に仲良くなったんだ…と思いながらもルシアも聞いてみる。
「なにかあったんですか?」
「いやね…実は…」
重たそうにおばさんは口を開いた。
「実はねぇ…実家の牧場が危ないらしいのよ」
「あぶない?」
「スパイかっ!」
「いや。そううゆ危ないじゃなくてね…」
またとんちんかんな事を言い出したランファに小声で話が進まないから黙っててと叱りつけおばさんの話の続きを聞く。
「…経営が危ないらしいのよ」
「赤字?」
「うーん…どうもそうみたいなのよねぇ。謝金取りに追い回されて挙句の果てには農地を全部没収されそうなんだよ」
「それは…大変ですね」
また重たいため息をついた後、おばさんは宿の壁に貼られている草競馬大会のビラを物欲しそうな顔で眺めながら


「はぁー今回の草競馬大会の優勝商品の農地があれば……なんとかなるんだけどね…」
「んー?なら出ればいいじゃんっ」
「そんな簡単な話じゃないんだよ…」
「えぇーーーなんでぇ」
「あたしはこんな歳だし…。親は去年の大会で無理して腰痛めてから馬に乗れなくなっちゃったし…」
「あれま」
「だからどうする事も出来ないのかねぇ…」
またはぁ……と重たいため息をつくおばさんが可哀そうに思えてきたルシアは意を決して
「……あの」
「ん…なんだい?」
「僕に馬を貸してくださいっ!」
「え…いいけど……いったい何に使うんだい?」
「…おばさんの代わりに僕が草競馬大会に出場します!」
「「えぇーーー!!?」」
衝撃的なルシアの一言に皆驚き、その声は宿の外にまで響いていたらしい。

Re: シークレットガーデン 〜小さな箱庭〜 ( No.45 )
日時: 2014/03/21 12:52
名前: 姫凛 (ID: 8MLsWoCW)






「それっ本当かい!?」
「はい」
おばさんの問いにルシアはしっかりとした口調で答えた。
「馬…乗ったことある?」
「いや…ないけど……。やればきっと出来る!」
「なんじゃそりゃ」
確かに故郷の村には馬は居た。でも自分の家で馬を飼っていたというわけではなく、知り合いの人が飼っていたというだけなので、見たことはあっても触ったことやましてや乗ったことなんて一度もない。
…が、気合と根性さえあればなんとかなるとだろうと思うルシアであった。
「ありがとねぇ。ありがとねぇ」
「いえいえ」
ルシアの手を握りしめひたすら御礼を言い続けるおばさんに優しくいう。
その後。宿近くのおばさんの実家の牧場へ案内してもらい、貸してもらう馬を紹介してもらった。


「この子がフレアだよ。ルシアちゃんと同じ男の子だよ」
おばさんが連れてきた馬は、黒く筋肉質で立派な鬣が生えたカッコイイ感じの馬だった。
「よろしくね。フレア」
「フッ」
「……っ」
「わー。第一印象で嫌われたー」
優しく話しかけ顔の前に人間でいう握手感覚で手を出したところ、鼻で笑われた。
どうやら性格に問題あるらしい…。
おばさんによるとプライドが高く負けず嫌いで、自分より下だと判断した者の命令は絶対に聞かないらしい…。
こんな馬であと数時間後にせまる草競馬大会に間に合うのか、チェンジで!と頼んでみたものの、あいにくこの牧場には若くて元気で足が速い馬はフレアしかいないらしい…。
仕方ないのでフレアで我慢し練習をしようと準備をしていると


「こんにちは。おばちゃん。今日も練習場所借りていい?」
真っ白く美しい毛並みの白馬に跨った、濃紫の長い髪に灼眼が印象的な美少女がやって来た。
あまりにも彼女と白馬が絵になっていたため皆、言葉を失い呆然としていた。
「あっあぁ…。シルちゃん。こんにちは」
誰よりも先に我に返ったおばさんが、白馬の美少女に話しかけた。
どうやら白馬の美少女の名前は、シルと言うらしい。
「今日の練習は、ルシアちゃんと合同練習でいいかねぇ?」
「……ルシア…君?」
きょとんとした顔でルシア、ランファ、シレーナの顔をゆっくり眺める。今日初めて会ったばかりのシルには誰がルシアなのかわからないからだ。
「どっ、どうも…」
「あっ、どうも…」
目が合い、二人はぎこちない挨拶をかわす。
ういういしい二人のやり取りを見たおばさんはちゃかすように


「じゃあ…あとは若い二人に任せて…」
「あたし達はお暇しますか。ねっ、シレーナさん」
「………うん」
おばさんの言葉に乗っかりランファもちゃかすように言った。
シレーナはルシアとシルが知らない間に恋人関係になってなってしまうんじゃないかと、気が気ではなかったがランファが耳元で「ルシアは鈍感バカだから大丈夫だよっ」と言ったのでそれもそうかと安心しおばさんと一緒に宿へ帰った。
「えっ!?あっおばさんっ!二人ともっ!?」
「「…………」」
みんな帰ってしまい二人の間に気まずい空気が流れる。
しばしの沈黙の後、さすがに何か話さないといけないと思った二人はとりあえず
「えっと…シルです」
「ルシアです。よろしく…」
自己紹介をした。やはりなんかぎこちのないものになってしまったが…。


「君も大会に…?」
「…うん。おばさんの代わりにね」
「そうなんですか」
「君も出るの?」
「はい」
「そっか。じゃあライバルだね」
「そうですね」
「「……………」」
なんとか紬だした会話もすぐに終わってしまった。
とにかくこの場をなんとかしないと、会話を続けないと、の一心で頭をフル回転させて次の話題を考える。
「あの…君の馬かわいいね。なんて名前なの?」
「…シルビア」
「シルビアか。…良い名前だね」
「ありがとう」
「「……………」」
ここでまた会話が途切れる。
もう自爆ネタでもいいからとにかくシルさんと会話を続けよう!ということでルシアはあのネタを切り出した。


「実は僕……馬に乗るの今日が初めてで…。あの…良かったら教えてくれないかな?」
「え……?」
少し驚いた表情をしシルは考え込んでしまった。あっやっぱり引かせちゃったかなと後悔するルシアだったが
「…いいですよ」
「あ、ありがとう!」
「いえいえ…」
シルは初心者のルシアに解りやすく丁寧に馬の基礎から教えてくれた。
最初は鼻でルシアのことを笑っていたフレアも少しずつ、懸命に頑張るルシアの姿をみて見直し始め遂にはルシアを嫌がらずに背に乗せて相棒として認めてくれたのだった。
そんな光景を見て最初は気品高く高飛車だったシルビアも、ルシアとフレアのコンビを自分に相応しいライバルと認めたのであった。
ちなみに、ルシアとシルの二人はおばさんの策略どうりに一気に恋人に!……とまではさすがにいかなかったが、友達にまではなれた。
この知らせを聞いてランファもシレーナもほっと胸をなでおろすのだった。






Re: シークレットガーデン 〜小さな箱庭〜 ( No.46 )
日時: 2014/03/21 11:07
名前: 姫凛 (ID: TdwH/e73)









シルと二人三脚で練習してから数刻後…。大会の時間が迫り、様子を見に来るとパカラッパカラッと颯爽と乗りこなすルシアの姿が。
「おぉっ小バカにされてたのに、颯爽と乗りこなしてるっ」
「……王子」
「いっいやぁ〜〜あはは」
ルシアは少し照れながら片手で頭をかく。
「じゃあ、頼むね。ルシアちゃん」
「はいっ」
そして競馬大会が始まる…。


「さーて今年も来ました、草競馬大会!
今年はあの天下のドルファフィーリング主催で今までよりも大盛況だよ〜!
さぁー今年の優勝賞品は誰の手に——!?」
準備が終わり。皆位置に着く。
テン
テン
テン
ゴー!!
ゲートが開き一気に皆飛び出して行く。
「やっぱりシルは早いな…。もう先頭になってる。僕らも負けてられないね、フレア!」
「ヒヒーン!」
シル&シルビアのコンビはスタートダッシュが良くすぐに先頭になり、それから後ろの中盤辺りにルシアとフレアのコンビは走っている。
「ぎひひひ…」
「…?」
とある灰色の馬に乗った人がルシアを抜かして行った。ルシアはその時、なにか嫌な予感がした。
灰色の馬は次々に抜かしてゆき、遂にはシルとシルビアのコンビと接戦のところまで追い上げて行ったその時!
「えっ?」
「……きゃっ!」
「ヒヒーン……」
シルビアが何かに足を取られて転倒してしまった。シルも一緒に転倒し、シルビアの下敷きになってしまった。
シルビアの足元を見てみると、マキビシの様な物がいくつも転がっていた。
「まさかっあいつ、わざとマキビシをまいたのかっ!?」
灰色の馬の後ろを走っていた馬たちは次々に転倒し、乗っていた人たちも骨を折るケガまでした者まで出た。…のにも関わらず大会は続けられた。


「許せないっ!」
ルシアとフレアは協力してマキビシを避けて走り、灰色の馬に追いついた。
「おいっ。なんで勝負の邪魔をするんだ!?」
「ハァ?しょうぶぅ〜?ぎひひひ」
男は薄気味悪い笑い声で笑っている。灰色の馬も一緒に笑っているように見える。
「な、なにがおかしい…?」
「こんなのはなぁ、最初からおれっちが勝つって決まってんだよっ!オラッオラッ!!」
「うわっ!」
「ヒヒンッ!」
灰色の馬がフレアの足を蹴り飛ばしてきたのだ。ルシアは落ちそうになるが必死に体を建て直し、フレアもまたルシアを落とさないように灰色の馬の攻撃をかわす。
「(くそうっ。…でもっここで諦めたら駄目だ。絶対にこんな奴に負けたら駄目なんだ!
おばさんの為にも…。シルとシルビアの為にも)」
うおおおとルシアとフレアは一心同体。気持ちを一つにしゴールを目指す。


「おぉーーー!!接戦だぁーーー!!さーーーゴールテープを最初に切るのはどっちだーーーーー!!」
「ちっ。しつけぇガキだなぁ…。ほらよっ」
「うわっ!」
「ヒヒーンッ!」
男はまたマキビシの様な物をフレアの足元に巻いた。フレアも一瞬、驚いて足を取られそうになったが
「頑張れーフレアー!」
「プルルル……」
体制を建て直し
「なっなにっ!?」
最後の力を振り絞って全力疾走で駆け抜ける。
それを見た男と灰色の馬の馬も慌てて、全力疾走する。
パンパンと両者一歩も譲らすほぼ同時にゴール!果たして判定はいかにー?
「おっおぉ……判定は。写真判定にゆだねられたー!」
巨大スクリーンに写真が出てきてコマ送りで映像が流れる。ぴしぴしぴしと一枚一枚、映像が動き…そして!
「お、おぉぉぉーーーーー!!ゆ、優勝者は無名の飛び入り参加 ルシアだーー!!あの悪逆王 パルスを抜いたーーー!!」
「おぉぉぉぉーーーー!!」
「「やったー!」」
一気に会場から歓喜の声があがる。観客席から見ていたランファとシレーナも抱き合って喜びを分かち合う。
ルシアとパルスの勝敗は、ほんの数ミリの差だった。少しフレアの足が他の馬よりも長かった為に先にゴールテープを切れたのであった。
「かっ…勝ったぁ…」
安心して肩の力が抜けルシアは、フレアから降りて地面にしゃがみ込んだ。
「プルル…」
「おつかれさま。フレア」
顔を摺り寄せてくるフレアに優しく言い顔をなでてあげここまで頑張った事を褒めてあげるのであった。
こうして、ルシアの初めての草競馬大会は幕を閉じたのであった——


Re: シークレットガーデン 〜小さな箱庭〜 ( No.47 )
日時: 2014/03/21 12:55
名前: 姫凛 (ID: z5NfRYAW)





競馬大会が終わり、フレアと共に宿へ帰って来たルシアをみんなで手厚くもてなす。
「おめでと—!ルシアー!」
「…おめでとう」
「おめでとう。ルシアちゃん」
「ありががとう。みんな」
宿は誕生日パーティのように色々な飾り付けがしてあり、豪華な料理がテーブルに並んでいる。
ほかの宿のお客さんまでも、おめでとうとルシアをもてなす。少し恥ずかしがりながらも皆にありがとうと言って回る。
すると、シルの姿がないことに気が付いた。
「あれ?シルは?」
何気ないルシアの質問に皆のテンションが一気に下がり、空気が重くなる。
「……?」
「シルちゃんはね…。シルビアの傍にいるよ」
重たい口調でおばさんは言う。
じゃあちょっと料理を届けてきますよとルシアが言いかけるとおばさんが続けて
「すまないけど、今はそっとしておいてあげて…」
「…わかりました」
とおばさんは寂しそうな目で静かに言った。
その時はなんでそんなにおばさんが寂しそうだったのか、わからなかったのだが、後々宿のお客さんから聞いたところ。


あのパルスと言う男が巻いたマキビシの様な物には猛毒が含まれていて、あれに足を取られた馬たちは大会が終了後、次々に体中に毒が回って死んでしまったそうだ。もちろんシルビアも。
シルはシルビアの埋葬を独りでやっていたらしい。本当はみんなで手伝いたかったが本人が独りになりたいと言っため、そっとしておいたみたいだ。
それを聞いてルシアは何かしようと思ったが、何をしていいのか、何を言えばいいのかわからず、結局何もできなかった……。


そして次の日の朝。ルシアとシレーナは朝の紅茶を飲んでまったりのんびりリラックスしていると
「たいへんー!たいへんーー!へんたいーーー!」
「変態!?」
「あっ、間違えた…」
「………」
またおかしなことを言いながらランファが部屋に飛び入って来た。
手には手紙の様な物がクシャクシャに握りしめられている。
「大変なのっ!」
「…どうしたの?」
両腕を上下に振り回し暴れるランファをシレーナが優しく問いかけ、落ち着かせる。
ランファはすぅーはぁーと深呼吸して落ち着ちついた後。
「あのねっ。あのねっ!ドルファから招待状が来たのっ!!」
「えっ?ドルファから…?」
「うんっ。うんうん、これっ!あーウンコって言っちゃったーーー!!」
またパニックって暴れ出しているランファはほっておいて、クシャクシャになった招待状を見てみる。


クシャクシャになりすぐぎていてなんて書いてあるかよくはわからなかったが、かいつまんで必要ようなところだけ読むと確かにドルファからの招待状のようだ。
「…ほんとだ」
「ほらねっ。ほらねっ!」
「……でも、なんでドルファが僕に?」
それは…と皆で考えているとランファが閃いた!といった表情し
「競馬大会で優勝したからだよっ!」
「そ、そうなのかな…?」
「絶対そうだって。ねっ?」
「……ん?」
ルシアもシレーナも頭の上にクエスチョンマークが浮かんでいたが、強引で自己なランファの押しに負けて競馬大会に優勝したから招待されたと言うことになってしまった…。
だがこの時ルシアは何故かドルファに対しただなる不安を抱えていた。なにか善くないことが起こるのでないかと……。

その不安は当たらからずも遠からず。












第二章 汚された草競馬大会 終