複雑・ファジー小説
- Re: シークレットガーデン 〜小さな箱庭〜 ( No.54 )
- 日時: 2014/03/27 15:57
- 名前: 姫凛 (ID: k67I83SS)
夜中。
「……眠れない」
昼間に死体の話を聞いたからだろうか?目がさえて全く眠れない。隣を見るとシレーナがスヤスヤと気持ちよさそうに寝ている。
「少し夜風でもあたってこようかな…」
シレーナを起こさぬようゆっくりベットから起き上がり部屋を出る。すると
「…あれ?あのこにいるのは…ランファ?こんな時間に何処へ行くんだろう」
真夜中の廊下、明かりは点いているが従業員の姿も他の客の姿もない。ランファとルシア 以外誰もいない…おや?
「あれ、外で待機してるって言ってたムラクモさんもいないや…どうしたんだろう」
この時ルシアの頭の中には二つの選択肢があった。
-後をついて行く-
「よし。後をついてってみよう。こんな時間に女の子が一人で出歩くのは危険だしね」
ルシアは色々考えた結果、破天荒で頑丈なランファでも一応はか弱い?女の子なため後をつけてみる事にした。
誰かを尾行するのは初めての経験だが慎重にばれないように、抜き足差し足忍び足で後をついていく。
ランファは階段を上って行く。上の階になにかあったけ?と思いながら後をつけて行く。すると
「えっ、屋上!?」
宿の最上階まで上がりランファは屋上へ出るドアを出て行った。
「ランファに限って…いやもしもって…事も…」
ルシアの中では女の子が夜中一人で屋上に上がるのは、自殺するためだと偏った思考あるため、もしかしたらランファもと心配している。
「ドアの隙間から見ればばれないよ…ね?」
自分で自分に言い聞かせながら、ドアを少しだけ開けて屋上を覗いてみる。そこには
「………」
「あれはムラクモさんっ!?」
屋上で一人、満月を眺めているムラクモの姿があった。
その表情は何処か物悲しそうだった。
「なんでこんな時間にこんな場所に、ムラクモさんまで……」
不思議に思いながらも様子を見続けていると、ランファが来たことに気が付いたムラクモが話しかける。
「あっ、ランファさん。どうしたんですか?こんな真夜中に屋上に来てだなんて……」
「………」
話の流れ的にランファが屋上にムラクモを呼びだしたみたいだ。
ムラクモの問いにランファは目をそらして何かを考えている。手には何かが握りしめられている。
「ランファがムラクモさんを呼びだした…?なんのために?」
ルシアも不思議に思い二人をじっと観察する。
ランファは大きく深呼吸した後、今まで見たことないような真剣な表情をしハッキリとした口調で
「すみません、叢さん。こんな場所に呼び出しちゃって」
「……ッ!?」
「……えっ!?」
ムラクモの事をあの、ヨナをさらった犯人 叢と呼んだのだ。
ルシアは淡い恋心を抱きかけている相手、ムラクモがまさかあの宿敵なわけないと自分に言い聞かせながら二人の様子をみる。
ムラクモはハッとした表情をした後、キリリとした目つきでランファを睨みつけ
「…叢?誰の事ですか。私はムラクモですよ」
「……やっぱりとぼけるんですね」
「…あのですからどうゆう」
ムラクモは本当に困っているような表情で答えている。
ルシアもまさかまさかと思いながら、目をそらさず二人の様子を見続けている。
「これを見てもとぼけていられますか?」
そう言うとランファは屋上に来るずっと前から大事に握りしめていた、ピンク色のリボンを取り出しムラクモに見せつけた。
そのリボンは南の森で迷子になったさいに使ったリボンと同じ物だ。
「そっ、それは……」
リボンを見たムラクモは驚愕し思わず後ずさる。
そしてすべてが分かったと言いたげな表情をし笑い出した。
「ふっははは…そうか、貴様か」
「ムラクモさん…まさか彼女がヨナをさらった。…そんなまさかっ」
ルシアの思いとは裏腹にムラクモは羽織っていたポンチョを脱ぎ去ると、そこにはあの般若の面をつけた紅き鎧の騎士が立っていた。
まさにヨナをさらった奴だ。
「バーナード様の言っていた特異点と言うのは」
「…とくいてん?」
正体を現した叢は低い声でランファの事を特異点と呼び睨みつける。
ランファは強気の表情で言い返す。
「そうだとしたらどうだって言うんですか」
「決まっているだろう……」
叢は背に隠していた槍と包丁を取り出し装備する。
「我らの王の野望を邪魔するものは皆殺しだ!」
ランファに包丁の先を向け、恐ろしい声で言い戦闘準備に入る。
「あたしだって…お父さんを助ける為だったらたとえ…貴女相手でも…刺し違えてでも倒すっ!」
突発的にこのまま戦いが始まれはランファは一撃で叢に殺されてしまうと思った瞬間、ルシアはドアを飛び開けランファの元へ駆け寄る。
それはあの日。石の神殿で叢に挑み負けそうになったルシアを助けに来たランファと全く同じ流れだった。
「「……っ!!」」
「…うっ!」
「お父さんっ!?」
叢の攻撃は、ルシアに直撃しルシアはランファの目の前で倒れこんだ。
ルシアが命懸けで守った為ランファは無傷。
泣きながらルシアに駆け寄り体を何度も揺すり「お父さんお父さん」と声をかける。だがもうルシアの目が開くことはなかった。
「ふっ、バカな男だ」
叢は泣きながらルシアとの別れを惜しむランファを鼻で笑い、高く包丁を振り上げ
「安心しろ。貴様もすぐに父の元へ行かしてやる」
と言った後
「キャアァァァァ」
叢にランファは一振りで斬り殺された。一切の痛みも苦しみもなく瞬殺だった。
ルシアとランファを殺した後、叢は階段をゆっくり下りながら通信端末を取り出し誰かと連絡をとる。
「…我だ。特異点及ぼびメシアの男を消した。これからヒュムノスの娘を消す。…すべては我らの王の命ずるままに——」
次の日の朝、宿の従業員が屋上で仲良く寄り添い亡くなっている少年少女の死体と部屋で眠るように一突きで死んでいる少女の死体を発見した。
こうしてルシアの旅は終わった——
ヨナを救えないまま。無残にも散っていった。
君はどこで選択を間違えたのだろうか——?
-正体END-