複雑・ファジー小説
- Re: シークレットガーデン 〜小さな箱庭〜 ( No.55 )
- 日時: 2014/04/10 14:13
- 名前: 姫凛 (ID: wNoYLNMT)
夜中。
「……眠れない」
昼間に死体の話を聞いたからだろうか?目がさえて全く眠れない。隣を見るとシレーナがスヤスヤと気持ちよさそうに寝ている。
「少し夜風でもあたってこようかな…」
シレーナを起こさぬようゆっくりベットから起き上がり部屋を出る。すると
「…あれ?あのこにいるのは…ランファ?こんな時間に何処へ行くんだろう」
真夜中の廊下、明かりは点いているが従業員の姿も他の客の姿もない。ランファとルシア 以外誰もいない…おや?
「あれ、外で待機してるって言ってたムラクモさんもいないや…どうしたんだろう」
この時ルシアの頭の中には二つの選択肢があった。
−ムラクモを探す-
「ムラクモさんを探してみようかな。ランファは丈夫だしきっと大丈夫だよね」
色々考えた結果。ランファはほっといてもきっと大丈夫だろうというとことにし、可憐で非力なムラクモを探すことにした。
「あれは…ムラクモさん?こんな場所でなにしているんだろ」
一階一階隅々丁寧に探しているとエントランスで、物憂げに満月を見上げているムラクモの姿があった。その姿はまるでかぐや姫が月を恋しく見ているような。幻想的だった。
「ムラクモさん…?」
「へ……?ひゃぁぁあ!?」
「わっ!」
声をかけてみるとムラクモはビクッと体を動かし目をまん丸に驚いた。それにルシアも驚いた。
「ぁ…ご、ごめんなさいっ!驚かすつもりはなかったんです」
慌てて誤るとムラクモは頬を赤く染め
「いっいえ…。ぁ…あのっ別にさぼっていたわけじゃないですよっ?月が綺麗だったから…つい…見入ってしまって…」
恥ずかしそうにもじもじしながら言っている。
ムラクモにそう言われて改めてルシアは月を眺めてみる。
「わぁ…満月だ。綺麗…」
「…はぃ」
今日の月はまん丸な満月で、美しく輝いていた。
二人で静かに寄り添いしばらく月を眺める。するとムラクモが優しい声でルシアに聞いてきた。
「知っていますか?」
「…えっ?」
「月には闇を浄化する力が込められていると言われているんですよ」
「へぇー。確かに月を見ているとなんだか心が洗われるような気持ちになりますね」
「ふふっ、そうですね。心がポカポカです」
他愛のない話をしながら二人で仲良く月を眺める。第三者から見れば二人はお似合いのカップルだ。
「はぁ…」
ムラクモが急にため息をついた。悲しそうな表情で月を眺めている。
「…どうかしたんですか?」
心配になりムラクモに聞いて見ると、しばらく黙り込んだ後
「…ルシアさんは知っていますか?」
質問に質問で答えてきた。
ルシアは困った表情をしていると続けて
「世界最強戦争を」
「せかいさいきょうせんそう?」
さっぱりわからないと言った表情をしているとムラクモは先ほどよりももっと落ち込んだ表情をする。
「やっぱりわからないですよね…」
「す、すみませんっ」
自分のせいでもっと落ち込ませてしまったと思ったルシアは慌てて謝るが
「いえ、いいんですよ」
ムラクモは優しい笑みで答える。そして世界最強戦争の事を教えてくれた。
「世界最強戦争とは、ドラゴンネレイドと壊楽族の間で行われた戦いの事です。
どちらの戦力も互角で勝敗は中々尽きませんでした。無益に、互いの兵を消費するだけで…」
「…でも今はもうやってないですよね?」
「はい。勝敗はついたんです一応。
今から百年前の事です。私達ドラゴンネレイドの王が和解をしようと一人無抵抗でやって来た壊楽族の王の首を打ち取ったんです」
「…私達?もしかしてムラクモさんは僕と同じフュムノスじゃ、なくて…ドラゴンネレイド?」
「えっ…?あっ…はい。私は世界最強の異名を持つドラゴンネレイドなんです。
王は壊楽族の王を打ち取った後、なんの罪もない壊楽族の民を追い出し自分たちの国 仮面の国を立ち上げたのです。
追い出された壊楽族の民は、気が遠くなるような長旅をしやっと見つけた新天地に身を置き国を立ち上げたのです。それが…ここ。海の国です」
「だから…仮面の国と海の国は北と南真逆の方角にあるのか」
「はい…。今もなおドラゴンネレイドと壊楽族の仲は最悪。ドラゴンネレイドは、多くの犠牲を払って世界最強の異名を手に入れました。でもそのせいで…」
申し訳なさそうに辺りを見ながら言うムラクモにつられ辺りを見渡すと、宿の従業員が白い目でムラクモを睨みつけ陰口をたたいている。
「すみません。ルシア様にまで嫌な思いをさせてしまって…」
「いっいやっ」
そんなことはないと言おうとしたルシアだったが
「私の事はどうか気にしないでください。それではおやすみくださいませ」
「あっ!ムラクモさんっ!」
ムラクモはぺこりとお辞儀をした後、逃げるようにその場を去って行った。
従業員たちもムラクモが去ったのを確認すると、それぞれの持ち場に戻って行った。
ただ呆然とすべてを見ていたルシアは
「……そろそろ寝よう」
彼女になにもしてあげられない自分をはがいいと思いながらも、部屋に戻り深い眠りについた。
-宿での選択肢-終