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複雑・ファジー小説
- Re: シークレットガーデン 〜小さな箱庭〜 ( No.85 )
- 日時: 2014/04/15 13:54
- 名前: 姫凛 (ID: SQ5s5iz7)
ルシアは急いで、ベットの近くに置いてあった着慣れない和服を試行錯誤しなんとか着替え、部屋を出て階段を下りると、
「ムラクモさんっ!」
「あっ、お先に失礼してまふっ」
モグモグと朝ごはんを食べているムラクモの姿があった。ムラクモが元気そうで取り敢えず、ルシアはほっと安心した。
テーブルの上には見たことのない料理が三人前並んでいた。おや?三人前?
「早く座ったら?ご飯が冷めてしまうわ」
「えっ?あ…ごめんっ」
目の前にあった椅子に座りいただきますと小さく言って一口。
「おいしい…」
その味は素朴で家庭的なお袋の味といった感じのなんだか懐かしい気持ちになった。
「そ、そう」
エリスはそっぽを向いて素っ気なく答える。うまいうまいっ!とガツガツ食べているとムラクモが、
「怪我の方はどうですか?」
と聞いてきた。ルシアはケガした場所をさすり確かめながら
「えっ?あぁ…もう…なんともない?です」
少し疑問形で答えた。どうして疑問形で答えたかと言うと、ケガした場所が完全に完治し、むしろケガなんてしてなかったようになっていたからである。
「そうですか。良かった…」
ムラクモはポッと胸をなでおろした。
「あの…ムラクモさん。ここは…?」
「ここは、和の国にあるエリスさんの家です」
「和の国…?」
たしか海の国にいたはずなのに、なぜ今は和の国にいるんだろう?いつのまに国境を超えたんだろう?と考えていると
「あの椿の牢獄を脱出した後、しばらく歩いた先にエリスさんの家を発見したんです」
「最初、見たときはビックリしたわ。貴方達、ボロボロだったから」
「あ、だからこの服を…」
今、自分が来ている和服を眺めているとエリスが
「違うわ。それはリフルって旅商人からよ」
「リフル…さん?」
「何処かで会ったらお礼、言うのね」
「うんっ、そうだね」
旅商人のリフルさんか…何処かで会ったらちゃんとお礼言わないとな。と考えていると食べ終わったムラクモが口を拭きながら
「これからどうするんですか…?」
「そ、そうで…すね」
と聞いてきた。
これからの事を具体的に考えていなかったルシアは、えっと…と言葉に詰まる。
「貴方達、確か人が大勢集まる所に行きたいんだったのよね?」
「あ、うん」
エリスにそう聞かれてそうだと答えた。
今やらなくては行けない事は仲間たちとの合流だ。その為に情報収集をせねば。
「…貴方達、腕に自信は?」
「…え?」
「…あります」
突然の質問にルシアは首をかしげる。ムラクモはすぐに真剣な眼差しで答えた。
「ここから北に行った先にコロシアムがあるわ」
「…コロシアム?」
よくわからないと首をかしげていると、続けて
「お金持ちと血を見るのが大好きな変態たちのたまり場よ。でもなんだか今回は、ビックな景品が出るとかで世界中の色々な猛者や著名人が集まってるって噂だよ」
「ビックな…景品?」
「……」
「沢山の見物客と出場者が来るんだし、なにかしらの情報は得られるんじゃない?」
「そ、そうだね…」
確かにコロシアムに行けば何か情報を得られるのかもしれない。だけど…と悩んでいると
「わかりました。行ってみます」
「えっ?ムラクモさん?」
真剣な表情でルシアの代わりにムラクモがキッパリと答えた。
「コロシアムに出場するしないは貴方達の勝手だけど、命が惜しいならしないことね」
「…忠告どうも」
「じゃあね、エリス。いろいろありがとう!」
「ふんっ」
最後までそっけのなかったエリスと別れ、ルシアとムラクモはコロシアムへと向かう。
朝ごはんにと用意された料理が、三人前しかなかった事が心残りだがそれを聞くにはルシアとエリスの絆の強さが足りなさすぎる。
今はまだ他人に心を開けないでいるエリスの闇を浄化する事は出来ない——
- Re: シークレットガーデン 〜小さな箱庭〜 ( No.86 )
- 日時: 2014/04/16 13:39
- 名前: 姫凛 (ID: pkc9E6uP)
「わぁ…みんな不思議な恰好…」
一歩、外に出てみればそこは不思議な世界。
和の国、別名サムライの国。他の国と決別し独自の文化を築き上げて来た。
国民は皆、着物と呼ばれる衣装を身にまとい、ちょんまげと呼ばれる不思議な髪形をしている。
日本刀と呼ばれる武器を扱う者をサムライと呼ばれている。
「ここでは、この服装が普通なんですよ」
「へぇー」
ルシアは視界に入る物すべてが初めて見る物で辺りをキョロキョロ見まわしている。
「山の国と海の国は近いからあまり文化の違いがありませんが、和の国にまで離れるとだいぶ文化が違うんですよ」
「ほぉー」
「この国では剣士の事をサムライと呼ぶんです」
「…さむらい?」
「独自の剣術を使い、中々に強いと噂です」
「へぇー、そうなんですか」
「やはり剣士なら、一度は手合わせをしてみたいですよねっ!?」
「えっ!?」
目をランランに輝かせて聞いてくるムラクモにルシアは戸惑う。
「あれ?思いませんか?」
「すみません…。僕、剣士じゃないから…」
「そ、そうだったんですかっ!?…剣を腰に下げているからついっ」
「あはは…」
ルシアは愛想笑いしながらふと考えた。あれ?って事はムラクモさんは剣士?と。
「……読めぬ男だ」
「えっ?何か言いました?」
「いえ、なにも」
「……?」
ボソッとムラクモが何かを言ったように聞こえたが、本人が何も言っていないと言うため、ルシアは納得しそれ以上は何も聞かなかった。
「(なんの音だろう?)」
しばらく和の国を探索しながらコロシアムへ向かって歩いていると、コツコツと言った何かを叩く音が聞こえて来た。
音はだんだん近づき…大きくなってゆく。音がする方に振り返ると
「…ぁ」
翡翠色の美しい髪で若草色の蝶の模様が入った着物を着ている少女が、棒切れのような物でコツコツと地面を叩き何もないか確かめながら一歩ずつ歩いていた。
「(…目をつぶってる…あの子、目が見えないのかな?)」
ルシアは少女が目をつむり不思議な歩き方をしているのが気になり
「(あの女…只者ではないな)」
ムラクモは少女から感じるただならぬ気配を感じ取り警戒している。
「…あの」
「あっ、はいっ!?」
少女はルシア達の真横まで来ると立ち止まり声をかけた。まさか声をかけられると思っていなかったルシアは慌てて返事をする。その声は緊張のあまり裏返っていた。
「コロシアムへ行きたいんだ、知らない?」
「えっあ…コロシアムですか?…えっと」
えっとえっと…と口ごもるルシアに代わりムラクモが
「出場なされるんですか?」
と逆に少女に聞いた。
「ううん、見るだけ、私は弱いから」
「そうですか」
と言った後、ボソッと「我の勘が外れたか?」と言っていたのは誰の耳にも入らなかった。
「実は私達もコロシアムへ向かっている最中だったんです。よろしければ一緒に行きませんか?」
「え…?いいの?」
「えぇ。いいですよね?ルシア様」
「え…あっ、うん!もちろんっ」
「ありがとう。私はヒスイ、よろしくね」
「僕はルシア。こちらは…」
「ムラクモです。宜しくお願いします」
ムラクモはヒスイの前に手を出すが、目が見えないためヒスイがん?と言いたそうな表情をすると、今度は両手でヒスイの手を包み込み握手した。
- Re: シークレットガーデン 〜小さな箱庭〜 ( No.87 )
- 日時: 2014/04/17 15:36
- 名前: 姫凛 (ID: rrGGtC6v)
「コロシアムってどんな所なんだろう…?」
コロシアムに向かって歩いていると、ふとルシアが独り言の様に言った。
するとヒスイが首を傾げ
「ルシアは初めて?」
と聞いてきた、ルシアはうんっと答える。
それを聞いたヒスイは優しく丁寧に、コロシアムの事を教えてくれた。
「コロシアムはね。腕に自信がある、猛者達が自分の強さを見せ合う所なんだよ」
「へぇー。強い人が集まる…」
なんだか怖そうな所だな…と思っているとムラクモがボソッと
「…そんな綺麗な所じゃない」
「「えっ?」」
と言っていた。どうゆう意味かと聞き返そうとしたが、
「着きましたよ」
と言われ見てみると、
「わぁ…」
そこには巨大な円形の建物があった。
「ここが…アリーナコロシアム」
「ワァァァ!!」
「オォォォ!!」
中からは観客たちの歓声が聞こえ、熱気が伝わってくる。
「すごいね」
「そうだね。コロシアムって大人気なんだ」
熱気の凄さにルシアとヒスイは感心している。その隣でムラクモは
「此処アリーナコロシアムは、ドルファが経営しているのでそれなりのVIPな客も来るんですよ」
と教えてくれた。
「「ドルファがっ!?」」
それを聞いてルシアとヒスイは驚き
「ドルファって本当に何でもやっているんだね」
「ふふっ、なんでも屋みたいですよね」
ドルファが本当に色んな事業をやっていることに少し頬が緩む。
だけどルシアは少しわからなくなっていた。
ドルファは悪い企業なのか、それとも良い企業なのか、と言うことが…。
「そういえば、エリスがビックな景品が出るって言っていたけど…、ビックな景品ってなんだろ?」
三人で首を傾げてんーーーと考えていると
「てやんでぇー!てやんでぇー!」
元気よくチラシを配っている青年が三人の前を横切った。
「あ、チラシ配ってる、みたい」
「僕貰ってくるよっ。すみませーん」
「おっ、どうぞっどうぞっ!」
「ありがとうございます」
チラシ配りの青年からチラシを貰うと、すぐに二人の元に戻り三人で仲良くチラシの内容を読んでみる。
「えっと…本日のコロシアムの…目玉は……えっ?…うそ……そんなまさか…」
チラシにはそんなまさかと俄かには信じられないような、内容が記載されていた。
- Re: シークレットガーデン 〜小さな箱庭〜 ( No.88 )
- 日時: 2014/04/25 21:00
- 名前: 姫凛 (ID: 9ffIlNB/)
アリーナコロシアム。
ドルファの経営する世界最大規模の闘技場。各国の王御用達で毎日沢山の参加者と観客が訪れる。
いつもコロシアムは観客たちの声援と熱気に包まれている。
もはやコロシアムは和の国の名物。シンボルとも言える存在になっているのだ。
「「オォォォオォォォ!!!」」
「お集まりの紳士淑女の皆様。本日のイベントはーーーもはやっ」
「「オォォォーーーワァァァーー!!」」
「…事件であるっ!」
コロシアムの真ん中に立った司会者が観客たちを盛り上げる。
司会者の隣にはほぼ水着姿の美女が二人左右に並び、その後ろには赤いクロスがかけられた大きな箱が置かれている。
「王は我らの為に驚愕の逸品をお授けにくださったーーー!!」
「「オォォォーー!!」」
観客たちのボルテージは一気に上がりコロシアム上空では熱風が吹いている。
「十年前、パクホー伯爵暗殺事件にて齢六にして、三億の賞金が懸けられた娘」
「えっ?それってもしかして…??」
観客たちがざわめく。この事件は世界的にも有名で、小さな子供でも知っている事件だ。
「人々からは美しき雌豚と呼ばれた」
「美しき雌豚って…」
「おいっ、マジかよ」
「悪魔の娘、シルは今ここに捉えられたーーー!!」
司会者は大きな箱にかけられたクロスを掴み思いっきり引っ張り剥ぎ取る。
するとそこにはっ
「「オォォォ!!」」
「………」
ムチでしばかれた痕や火傷の跡が痛々しく体中に残っているシルが鎖で繋がれ囚われていた。
口には猿轡をしていて、喋りたくても喋れないようになっている。
「闘いの勝者には、この悪魔の娘が与えられる。悪魔の家畜シルだぁぁぁーーーー!!!」
「「オォォォ!!!」」
「すげー!!」
「凄すぎるーーー!!」
観客たちは大きな雄叫びや歓声を上げ大いに盛り上がり喜び熱気に包まれ、中には興奮しすぎて貧血を起こし倒れる者まで出てき始めた。
それでも観客たちは大いに盛り上がり、コロシアムで行われる猛者たちの殺し合いを楽しみに待つ。
場面は変わり、コロシアムの参加者控室に移る。
ここでは誰かを殺したくて殺したくてウズウズしている血の気の多い猛者たちが自主トレをしている。
その中に場違いな感じだがルシア達は、混ざり込んでいる。
「ごめんね、ヒスイまで巻き込んでしまって」
「ううん、困った時はお互い様、それに友達が景品されてるのは、許せない」
「………」
武器・鎧・貸し出し所の手前でルシアとヒスイは話している。
あのチラシ配りの青年から貰ったチラシに、草競馬大会で知り合ったシルがコロシアムの景品にされていることを知り、急きょコロシアムへの参加を決めたのだ。
自分たちが優勝してシルを助ける為に…。
「危ないと感じたら絶対に無理せず棄権してね?」
コロシアムには特別ルールで棄権システムがあるのだ。
基本は死ぬまで戦うのがルールだが、たまにいる臆病者のために特別枠で失格にはなるが命だけは助けてやると言うことになったのだ。
「うん、ルシアも無理しないでね」
「うん。とにかく誰か一人でも優勝出来ればいいんだから…」
ルシアの考えはこうだ。コロシアムは殺し合いの世界。殺し合いこそがすべて。だから殺されても文句は言えない。
でもだからと言って関係のない、ヒスイやムラクモを巻き込みたくない。
だから三人の内誰か一人でも優勝できれば…と考えているのだ。戦う相手に当たってしまっても、棄権し逃げればそれでいいと。
- Re: シークレットガーデン 〜小さな箱庭〜 ( No.89 )
- 日時: 2014/04/25 21:04
- 名前: 姫凛 (ID: 9ffIlNB/)
「そう、簡単な事ですか…ね?」
「あ…ムラクモ…さん?」
声がした方に振り返ると、そこにはガッチリ鎧を着こみフンーと鼻息荒く自信満々なムラクモの姿があった。
ルシアはその姿を見てあんぐりと口を開けた。ヒスイにはその姿は見えていないが、なんとなく場の空気的な物で状況を察した。
「ムラクモさん…やる気満々ですね」
思った事を正直にそのまま言ってみるとムラクモは顔を真っ赤に染め
「べ、べべべつに、そんなわけでは。別にぃ、コロシアムに出場することが夢だったとか、そんなことないんですからっ!!各国の猛者たちと戦えるとソワソワもしてないんですからっ!!」
と聞いてもいないことをべらべらと話し出した。
ルシアとヒスイはうんうんと頷きながら黙ってその話を聞いてあげる。
「うぅー、武器や鎧を見てると此処が熱くなるんですぅー!!」
最後には、胸を押さえて少し半泣きになりながら言った。
こんなちょっと可愛らしいムラクモを見てルシアは
「(ムラクモさんにもあんな可愛いところがあるんだ…)」
と思っていた。
そして場面はコロシアム会場に戻り。
司会者がコロシアムの真ん中で観客達を盛り上げている所から始まる。
「本日このコロシアムには我らが王によってすでに呼び集められていた、各国の猛者共。そして腕に覚えのある一般参加の強者が集まっている。
彼らは各ブロックで戦い、勝ち上がった者だけが挑戦権を得る。
ただし!こちらも易々とこの逸品を渡しはしないっ!!」
「「ワァァァ!!」」
「奪えるものなら奪って貰おう!いつもの剣闘士達とは格が違う、挑戦者を迎え撃つはーーー
かのドルファ四天王よりーーー」
観客たちの視線は一気にコロシアムに一つだけ用意された特別席にへと集まる。そこには一人の青年の姿が。
「コロシアムの王、ユウ様だーーー!!」
「「ワァァァ!!」」
「「ユウ様ーーー、キャーキャー、素敵ー」」
特別席に座り、ユウ様と呼ばれるこの青年は、そう、ドルファ主催の立食パーティーでルシアにカクテルの様な睡眠薬入りのジュースを飲ませたあのウサ耳の青年だ。
「やぁやぁ」
ユウは椅子から立ち上がり作り笑いで観客たちに手を振る。
観客たち達はそれだけでキャーと嬉しそうに声をあげている。この姿を見てユウは、人ってバカだよね、だから僕は人が嫌いなんだ、毛皮らしいと思っていた。
「「あー、待ちきれねぇー!!早く試合をーーー!!」」
「「早く始めろーーー殺し合いをーーー!!」」
観客達は多いに盛り上がっている。その声援を背に受けながら司会者と両脇にいた水着の美人はシルが囚われた箱の乗った滑車を押し奥へと入っていった。それが、コロシアムが開始する合図だ。
- Re: シークレットガーデン 〜小さな箱庭〜 ( No.90 )
- 日時: 2014/04/23 10:50
- 名前: 姫凛 (ID: 4VUepeYc)
そして場面はコロシアム参加者の控え室へと戻る。
ムラクモがガッチリ鎧を着こんでやる気満々で少しルシアとヒスイが引くと、顔を真っ赤にして聞いてもいないことをべらべらと話だし、弁解をしたムラクモを少し可愛いと思っているルシアに、少し引いたヒスイだったが気を取り直して本題に話を戻した所から始まる。
「そんな簡単な事じゃないって?」
ルシアはムラクモに聞いてみた。ムラクモは、はいと答えた後続けて
「このコロシアムで棄権する事、即ち、負け犬と言うレッテルを張られると言う事です。
それは死よりも重い障害となりましょう」
「ま、負け犬…」
ルシアはそんな事でと思ったが、剣士にとって負け犬と言うレッテルを一度張られたらもう二度と撮ることが出来ない、生涯ずっと背負い続けねばならない重みなのだ。
「コロシアムに来る観客たちは皆、無様に殺し合う猛者達が見たいんです。沢山飛び散る血が見たいんですよ」
「「………」」
「無様に戦場から逃げ出す愚か者なんて誰も見たくないんですよ」
「でも、だからと言って二人を危険な目に合わせるよな事出来ないよっ」
ルシアはムラクモとヒスイの事を心の底から心配し言ったつもりだったのだが、ムラクモは小声で独り言のようにボソッと
「なめられたものだな」
「えっ?」
と言った。ルシアはよく聞こえなかったもう一度言ってと言おうとしたにだがムラクモはそれを遮るような形で
「とにかく、棄権は決勝戦に残るまで使わないでください。では」
「あ、ムラクモさんっ!!」
「…………」
と言い終わるとムラクモはくるりと周り、戦場の舞台へと歩き出し行ってしまった。
ルシアは止めようとしたのだが、その声はムラクモには届かなかった。
ヒスイはずっと黙り込んだまま、見えない目でムラクモの背をずっと見つめ続けていた。その行いが何を意味するのかは今はわからない。
Aブロックの戦いが幕を開けた——
場面はコロシアムへと移り、中央のリングにはアリのように沢山群がった猛者達が互いを睨み合っている。
その中でポツンとムラクモは独り、立っている。
「……ん、なんであの人がここに?」
特別席座り顔に肘をついた体制でリングを見ていたユウがムラクモを発見しボソッと言った。
「どうかなされましたか?ユウ様」
ユウの隣に立っていた執事の様な恰好出で立ちの男が、ユウに尋ねる。ユウは不機嫌そうに
「いやなんでも」
と答え心の中でまぁ、奴がいればコロシアムが盛り上がるだろし、ま、いっか。と思っていた。どうやらユウとムラクモは、知り合いのようだ。
「みなさん、待たせしましたー!それではここで、バトルの説明をしよう!」
司会者の声に観客たち達は待ってましたと声を上げる。
「一回戦は四つのブロックに分かれた、バトルロイヤルで、あーる。
バトルロイヤルとは、自分以外はすべて敵という状況で、参加者全員で一斉に戦い、失格にならずに最後まで立っているか、生き残っていた者が勝者となる、試合方式だーー!!
リングより落ちれば失格、リング上で死ねば失格!
なおコロシアム場外には、コロシアム名物のリトル闘魚の群れが待ち構えているーー!!」
リングと観客席の間には水が流れていて、そこには角が生えた、闘牛の様な見た目の巨大で狂暴そうな魚が泳いでいる。
だがこれでも子供だ。大人はもっと強く大きく和の国では第一級危険生物とされている。
「リングの中も外も地獄のアリーナコロシアム!いよいよ、開始ーーー!!」
「「おおおおおおーーーー!!」」
観客たちが一気に盛り上がり、立ち上がり大きな声で叫んでいる者までいる。
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