複雑・ファジー小説
- Re: シークレットガーデン 〜小さな箱庭〜 ( No.97 )
- 日時: 2014/04/26 17:09
- 名前: 姫凛 (ID: y68rktPl)
「「ハイヤー!!ワレら、カンフー兄弟!」」
リングの中央でド派手に決めポーズを決める男達。
二メートル越えの弟、フー
一メートル以内の兄、カン
の凸凹兄弟。巷では有名なカンフーの達人でありプロの殺し屋でもある。
兄弟の仲は良く息はピッタリで口にせずともお互いの考えている事がわかり、二人の協力技の破壊力は街一つ軽々と壊せる程だと言われている。
「おいっ、あれっ、カンフー兄弟じゃねぇーか?」
「マジかよっ、なんで兄弟で同じブロックにいんだよっ」
「金だろ?コロシアムの連中に賄賂して同じブロックにしてもらったんだよ」
「ま…マジかよ…じゃもう俺らに勝ち目ねぇーじゃねぇーか…」
カンフー兄弟を見てリング場にいる者達は皆震え上がり、戦意喪失し恐れ棄権をする事を考え始めている。…ただ一人を除いて。
「………」
ヒスイはポツンと独り立ち、周りの声、音、を聞いている。観客たちの歓声、猛者達の震える声、カンフー兄弟の威圧、すべてを静かに耳を澄まし聞いている。
「リング場より死ねば失格、リングより落ちれば失格、生き残れるのは、たった一人!今開戦の……」
睨み合う猛者達は武器を構え戦闘態勢へと入る。だがヒスイ何故か武器を構えず、立ったまま何かを聞いている。
「…ゴングーーー!!」
「「ワァァァァァ!!」」
と同時に水着の美女がゴングを鳴らし、会場は一気に盛り上がり猛者達による殺し合いが始まった。
当然皆、カンフー兄弟には近寄らず他の弱そうな者から片づけてゆく。
「うわぁぁ!!」
「ハイヤー!」
「兄弟だなんて…卑怯な…」
「アチョー!!」
がカンフー兄弟達もボケッと突っ立ていてくれるわけでもない。次々と見境なく周りにいる者達を蹴り、殴り、殺してゆく。殺された者は皆、無念そうな表情で死んでゆく。
「Bブロックはカンフー兄弟で決まりでしょうか?」
特別席からリングを見ていた執事のような出で立ちの男が、ユウに尋ねた。ユウははぁと深く息を吐いた後、
「君は馬鹿か?」
と言った。執事は首を傾げ
「と、言いますと?」
「あれを見な」
ユウが顎で指す方向を見ると、誰にも相手にされずポツンと立ち続けているヒスイの姿があった。
「あれは…盲目の娘でございますか?…ひとひねりで殺られそうですが」
と執事が言うとユウはまたはぁと大きく息を吐いた後
「やっぱり馬鹿だね、君は」
と不機嫌そうに言った。執事はユウの隣にしゃがみ込み
「申し訳ございません、ユウ様」
「あの女は、他の連中がカンフー兄弟を見て恐れおののき、ビビっているのにも関わらず、全く動じてない」
「た、確かに…。ですが、見えないからカンフー兄弟の恐ろしさがわからない、だけでは?」
この執事の答えにユウは鼻で笑った後
「ハァ、目では見えなくても耳では聞こえるだろ?奴らの強さを分かっていながら動じていないんだ、つまりどうゆうことかわかるよな?」
「ゴクリッ」
ユウが言っている事から推測し出た答えに、執事は言葉を失い唾を飲み込んだ。
コツコツ。コツコツ。
リング場に不思議な音が響く。何かで地面を叩いているような音が響く、
殺し合っていた者達は、不思議と殺し合いを止め音の鳴る方へと視線を向ける。
そして猛者達が殺し合いを止めてしまったため、その他の連中も音の鳴る方へと視線が集まる。
「お、おい…」
「正気か…あいつ…」
「………」
コツコツ。
音を出していたのはヒスイだった。棒切れの様な物で地面を叩き、何もないか確認しながら慎重に歩いている。
だが歩いている先にいる人物が問題なのだ。
「「ンッンー?」」
ヒスイが真っ直ぐ歩いている先には、皆が恐れおののいているカンフー兄弟が待ち構えているのだ。
皆、言葉を失い無言でヒスイを見守っている。
「えっ、なんでヒスイ、あの兄弟の方へ行っているのっ!?」
見物席からヒスイの様子を見ていたルシアは身を乗り出し、ヒスイの事を心配そうな目で見つめている。
「(あの女…やはり……)」
ムラクモはヒスイのこの行動で何かに気づいたようだ。
ヒスイは一歩一歩、丁寧に少しずつカンフー兄弟へと近づいた行く。そして…
「あの」
カンフー兄弟の目の前で止まり、兄弟に声をかけた。皆ハァーと血の気が引いていった。誰しもが、あの娘は終わった、と直感的にそう思った。