複雑・ファジー小説

Re: 英雄伝説-Last story- ( No.3 )
日時: 2014/03/13 18:35
名前: キコリ (ID: gOBbXtG8)

 パタン、と本が閉じられ、その音が一瞬だけこの部屋の静寂を破った。
 窓から差し込む月明かりを頼りに読書をしていた少女『リィナ・ノクターン』は、読んでいたその本を丁寧に本棚に戻した。
 開け放たれた窓から、心地よい秋風が吹き込んでくる。その風が丁度、リィナの白皙の頬を撫でてゆく。

 彼女が先ほどまで読んでいた本は、歴史上に名を残す英雄達の軌跡を描いた本の創刊号だった。
 その創刊号には発売予定である本のあらすじが全て載っており、彼女は既に本を全巻買い揃えていた。
 最も、その創刊号は五年前に発売されたものであるため、それなりに古いものとなる。
 全てで十巻。歴史好きな人にとっては、どれも魅力的な話ばかりである。

 本を読み終えたリィナは、青白い月を眺めながらベッドに横になった。
 現在深夜の12時。特にこれといってやることはない。
 階下のリビングでテレビでも見ようか。そう思い立って起き上がった時だった。

「———お姉ちゃん」

 ほぼ同時に扉の向こうで、リィナを呼ぶ妹の声がした。

「入っておいで」

 リィナは扉の向こうで待っている妹を部屋に入れることにした。
 17の彼女より8つ年下の妹のことなので、部屋を訪ねてくることは別段珍しいわけではない。
 また眠れないとでも言うのだろうか。そう思ったリィナだが、それは違うとすぐに思い直した。
 何故なら、言われるがままに入ってきた彼女の妹『エステル』が、酷く怯えた様子で飛び込んできたからだ。

「何、どうしたの?」

 飛び込んできたそんなエステルの頭を撫でつつ、リィナは明らかに普通ではない表情をしている彼女に問うた。

「部屋に、何かいるの……」
「えっ、何か……いるの?」
「うん……助けて、お姉ちゃん……」

 気付けばいつの間にか、外では濃霧が発生している。
 泣きそうで震えた声のエステルと重ねてそれを心配し、リィナはとにかくエステルの部屋へ向かうことにした。
 彼女の部屋にいるという何か。それを確かめるために。
 リィナは念のため、自分の得物である刀を帯剣してから部屋を出た。