複雑・ファジー小説

Re: 英雄伝説-Last story- ( No.7 )
日時: 2014/03/16 13:11
名前: キコリ (ID: gOBbXtG8)

「え?死霊?」

 険悪そうな表情を浮かべているシヴァから発せられた言葉は「成仏されずに存在している死霊」だった。

「そう。その死霊が肉体に宿ると、どうしてか取り憑かれた肉体は不死になるわ。今まで人間の間で語られてきた英雄伝説では、一切の例外なくその不死の肉体——正確に言えば死霊と戦ってきたのよ」

 そして世間の表に出ていない話は、何らかの理由で犠牲者を伴ったとされている。

「ふうん。さっすが、おばあちゃんの知恵ね」
「っ!?」
「ま、まあまあ」

 アリサの余計な一言にシヴァの発する冷気が一瞬増したが、腕に触れたリィナによって何とか抑えることが出来た。
 精霊たるものこの程度の、しかも人間のからかいで感情を無闇に動かしてはならない。
 これは精霊の掟でもあった。だがリィナがいなければ、アリサは今頃氷付けにされているだろう。

 因みに精霊は、千歳前後から子供を産むことができなくなる。同時に、年齢に執着しなくなることが多い。
 だが、何時までも気にする者もいるし、最初から気にしない者もいる。
 シヴァはどちらかというと後者だが、流石に七百歳で『おばあちゃん』と呼ばれるのには抵抗があったらしい。

 因みにリィナは後に、シヴァの肌はやはり、すべすべでひんやりとして気持ちよかったと語っている。

 気を取り直して、シヴァは続けた。

「でもって、その死霊は青白く光る火の玉のような形を取っているわ」
「!?」

 反応したのはリィナだった。

「まさか、エステルと一緒に消えたその何かって……」
「えぇ、死霊という可能性が近いわ。重ねて言えることは、エステルちゃんは死霊に取り憑かれたでしょうね」

 その言葉が発せられると同時に、その場の空気が一気に凍りつく。当然だ。
 実際、宿った肉体を不死にして悪さをするその死霊は国際的に問題になっている。
 リィナたちが知らないのは、各国の政府がその情報を操作して世間の表に出していないのが理由に当たる。

 死霊は出現する度に英雄が肉体と一緒に闇に葬ることで解決してきたが、今回はリィナにとって、肉親を殺さねばならない事態にある。もしも彼女が英雄となるのだったら、の話だが。
 そもそもまず、国際問題に発展している時点で死霊の話はどこかで出ている。
 その時点でエステルは、まわす気もなしに世界を敵にまわしたことにもなる。

「世界の各国を回って、情報を集めればエステルちゃんには会えるでしょうね。でも——」
「エステルそのものが、無事に私の元へ帰ってきてくれるとも限らない。でしょ?」
「そうよ」

 さあどうする。皆の視線がリィナに集まり、そう言っている。
 だが、彼女の答えはある意味予想内で、それでいて皆が本気かと疑った。

「エステルに会うわ。そうすればきっと、何とかする方法もあるはずよ」

 それでも、一同は頷いた。
 が、シヴァだけ悲しげな目で、窓の向こうの空を流れる雲を見ていた。

(助かる術なんて、ないのよ。リィナ……)