複雑・ファジー小説

Re: 英雄伝説-Last story- ( No.8 )
日時: 2014/03/17 22:56
名前: キコリ (ID: gOBbXtG8)

「……それで、何でここに来た訳?」

 リィナはエステルを探すべく、旅に出ることを決意した。
 するとその後、ジョルジュがそんなリィナとシヴァを伴い、この国『レミン王国』の図書館の前までやってきた。
 因みにジョルジュはギルドに入ったのがリィナと同期で、リィナにとっては最も付き合いが長い相手となる。
 そんなリィナの盟友ジョルジュは、彼の後ろでそうぼやいた彼女を振り返った。

「い、いや……ほら、エステルちゃんに取り憑いた生霊と戦うなら、事前の知識は多いほうがいいかなって」
「何でそうする必要があるの? そんなの、シヴァに聞けばどうとでもなるでしょ」

 その戦士とは思えない細い腕を組んだリィナは、ジョルジュの混じりけのない黒い瞳に続いてシヴァを蒼い瞳を見た。
 何かを期待するような目線を彼女に送っていたリィナだが、そんな期待は見事、シヴァの一言で粉微塵に打ち砕かれる。

「私にも知らないことはあるわ」
「え゛っ」

 頼りにしてたのに。そういいかけたリィナを見て、ジョルジュは腹を抱えて笑い出した。

「アヒャヒャヒャ! ほら見ろリィナ、俺は間違ってない!」
「こ、この……」

 からかうジョルジュにリィナは思わず太刀の柄を引っつかんで抜刀しかけた。が、ここは仮にも国立図書館の前。
 迂闊に得物を手にすれば、いくらギルドの関係者でも怪しまれてしまい、国家権力にお世話になってしまうのが関の山である。

 因みにアリサや、ジョルジュと同じくリィナと同期のフロンは、ギルドの仕事もあるので支部内に残っている。
 他のメンバーも同じで、旅に出るのはリィナとジョルジュ、別行動でシヴァ。この三人だけだ。
 困ったときは駆けつけるとのことだが、リィナは若干心配している。

「知らないことがあるから、私は別行動で情報収集するのよ。分かるかしら?」
「は、はい……」

 少しだけしょ気るリィナ。
 そんな様子が先生に謝っている生徒のように見えたジョルジュが、再び腹を抱えて笑い出した。

「あーヒャヒャ! や、やっぱりおか……へぶっ!」

 途端、リィナの拳がジョルジュの腹にクリーンヒットする。
 殴られて呻く彼を他所に、リィナは殴った拍子に肩にかかった、その長くしなやかな銀髪を手で払いのける。
 再び腕を組むと、玲瓏たる金の瞳でジョルジュを睨み、彼のボサボサな黒髪の生えている頭を踏みつけた。
 そしてリィナは可愛らしく小首を傾げ、太刀の柄を握って宣告する。

「次言ったら、バラしてあげるねっ」

 これ以上ないほど誰もがうっとりとしてしまいそうな笑顔で、歌うように告げられた解体宣言。

「ごめんなさい、もういいません!!」

 ジョルジュは地面に顔を向けた状態で頭を踏まれていたために見えないが、横でそんな光景を見ていたシヴァや通りすがった通行人は冷や汗を流しながら苦笑を浮かべている。
 七百年の時を生きた氷の精霊に冷や汗を流させたのだ。
 ジョルジュは仕方ないので、結果的にそうやって反省の色を示すしかなかった。

「ふん!」

 それほどにまで強烈だった光景とリィナの覇気。それはやがて、彼女の荒い鼻息と共に消えた。
 足をどけた彼女は、痛い痛いと泣きそうになっているジョルジュに回復魔法をかける。

「全く、ギルドの戦士がその程度の怪我で泣いてどうするの」

 呆れているリィナの言うことは尤もらしいが、この場に至ってはそうではない。
 察したシヴァが、何か言いたくても何も言えないらしい状況に置かれたジョルジュに助け舟を出した。

「リィナ、それは違うわよ」
「ふぇ?」

 間の抜けたような様子でシヴァを見上げるリィナ。
 どういうことですか。そんな疑問が誰にでも分かるくらいしっかりと顔に書かれていたので、シヴァは心底呆れた。

「あのね、女の子に蹴られた男の子は誰でも泣きそうになるものよ。ましてや好きな子だったらね」

 だがシヴァなりの解釈は、どうやらジョルジュの言いたい事とは少し違っていたようだ。

「へ、変態!!どっかいって!!」

 結果ジョルジュは、その解釈を真に受けた様子のリィナによって繰り出されたアッパーをアゴと腹に食らってしまった。
 そんな予感が何となくしたので予め歯を食いしばってはいたが、それでもアゴの骨にはいくつかの亀裂が入ったらしい。
 俺の言いたいことはそうじゃない。強烈なアッパーを食らった後、一メートルほど浮いてから地面に落ちたジョルジュの口からはそう漏れていたが、不幸にも誰にも聞こえていなかったとか。