複雑・ファジー小説
- Re: 竜装機甲ドラグーン ( No.104 )
- 日時: 2014/04/19 01:21
- 名前: Frill ◆2t0t7TXjQI (ID: 6Ex1ut5r)
深々と降る雪。
色褪せた瓦礫の打ち捨てられたスラム街。
白の世界に閉ざされた極寒の地。
夥しい量の血が雪の上に大輪の赤い花を咲かせていた。
倒れ伏す複数の男たち。
冷たい骸が並ぶ中央にボロきれを纏った少女が、錆びたナイフを手に佇んでいた。
鮮血が滴り、ポツポツとあかぎれた素足の足元を穿ち、染める。
少女は震えている。
それは北方の身を切る寒さからではなく、己の中の慟哭がもたらした凄惨の結末に心の底から震えていた。
ネズミのように走り回り、食い扶持を稼ぐ日々。
物を盗み、財布をスって、己の痩せ細った肉も男の獣欲に晒す。
その僅かに手にした金銭さえもをこの者たちは自分から奪おうとした。
のしかかる男、必死に抵抗するが、力で敵うはずも無く組み伏せられてしまう。
下卑た笑い声、痩せた躰を弄る汚らしい節くれ立った手。
奪われる。
理不尽に。
許さない。
少女は護身用に持ち歩いていた、刃の欠けた錆びついたナイフを取り出し、無我夢中で男に突き立てた。
何度も。
何度も。
何度も。
奪わせない。
奪われるのは、
お前らだ。
少女は初めて、人を殺した。
世界は竜種という化け物に蹂躙されている。
一部の者たちは巨大な要塞の安全な檻の中に逃げ込んでいる。
地位のある人間、金がある人間、教養がある人間。
自分たちは?
何も持たない者たちは、今も地上に取り残されているのだ。
現実。
ただ怯え、ひっそりと待つ。
己の死を。
命を奪われるのを。
真実。
ただ嘆き、世界に絶望する。
己の無力を。
力無き者は、何も手にすることが出来ない。
ヘマをした。
銃で撃たれた。
腹から黒い血が流れる。
内臓をヤられたようだ。
雪が積もる薄汚い路地裏の壁に蹲る少女。
報復をした。
少し派手に殺し過ぎたかもしれない。
自分たちのアジトが敵対していたグループに襲撃されたのだ。
次々と仲間は殺され、広場に吊るされていった。
それを目撃した時は既に自制が効かなかった。
相手はゴロツキだが、組織。
勝てる訳がない。
だが、殺ってやった。
たくさん殺してやった。
奪ってやった。
少女は己の身体が氷のように固く冷たくなるのを感じた。
「あら?こんなとこにネズミが死にかけているわね」
背の高い灰色の長髪の女が軍服のようなカッチリとした制服を纏い、己を見下ろしている。
「街の騒ぎは貴女の仕業かしら。随分暴れたみたいだけど」
女はしゃがみ込み、瀕死の少女の顔を覗き込む。
「・・・ふ〜ん、素材としてはいいかもしれない。なにより目が貪欲さに満ち満ちているわ。今にも死にそうなのに・・・」
そして女は後方に合図をすると、何人もの制服を着た者たちが少女を毛布に包み、運び出す。
「あっ。まだ、聞いてないわね。喋れる?貴女の名前は?」
女が手当てを受ける少女に問いかける。
「・・・ミカエラ・・・」
小さく弱々しいが、ハッキリと聞こえた。
女は満足に、薄く笑みを浮かべる。
「そう、ミカエラね。私はアリーザよ」
ミカエラは物々しい軍用車両の中に搬送されながら、アリーザの氷の様な微笑みを見つめていた。
そこで意識は暗い闇の底へと、落ちていった。