複雑・ファジー小説

Re: 竜装機甲ドラグーン ( No.112 )
日時: 2014/04/20 23:18
名前: Frill ◆2t0t7TXjQI (ID: UcSW/zmZ)


 ジナは候補生として過ごすうちに少しずつドラグーンパイロットとしての在り方を学んでいった。

 己の命を賭けても守りたいものがある事に気付く。

 家族、友達、人々の暮らし、自分の帰る場所。

 そして日々の厳しい訓練をこなすうちに、強くなる想い。

 最前線で戦う先輩たちの後ろ姿を追いかけて、いつか自分もと、あの人の隣で並び、共に戦いたいと。

 同時に、自分が本当になすべき事、その方法を模索していた。












 
 それは突然にやってきた。

 ドラグーンパイロットのひとりが原因不明の昏睡状態に陥り、尚且つそれをまるで察知し、狙ったかごとく竜種の群れが艦を襲撃してきたのだ。

 残る二人のパイロットの戦力を補うべく、選抜された候補生数人。

 その中にジナたちも含まれていた。

 予想だにしない、いきなりの実戦。

 「えっ・・・私たちが?・・・竜種と・・・?」

 「訓練、じゃない、ですよね・・・?」

 混乱する同期の候補生たち。それもそのはず、これから恐ろしい怪物と戦うと言うのだ。

 シュミレーションではない。

 本当の戦場、命のやり取り。

 死んでしまうかもしれない。




 皆、震え、怯える。

 恐怖で泣き出してしまう者もいる。

 ジナはまずいと思った。

 今この状況で、この精神状態では彼女たちは出撃できない。

 それでも無理に出撃したら確実に死に至るだろう。


 「みんなっ!アタシたち今まで、この日のために頑張って来たんだよ!!・・・そりゃ、実際に戦うのは初めてで、不安だけど。・・・怖いよね、アタシも凄く怖い、震えが止まらない。・・・だけど、竜種なんかに絶対に負けないよ」

 ジナは不安に押し潰され、戸惑う同期の少女たちに語りかける。

 己の心が想うままに。

 「・・・だって、今、戦えるのは自分たちだけなんでしょ?・・・もし、みんなが嫌ならアタシだけでも戦うから。アタシは守りたい人達がいるから・・・」

 ジナの言葉にハッとする少女たち。

 「ジナ・・・」

 己を蝕む恐怖感に苛まれていたケイも、ジナの必死の決意の現れに心動かされる。

 「でも、アタシは死なない。死んでなんかやらない。生きて帰るよ、絶対に・・・」

 満面の笑顔で微笑むジナ。

 これから命を落とすかもしれない死闘に身を投じるというのに、なんて屈託のない表情をするのだろうか。

 死ぬのが怖くないのか?あまりの緊張で精神がどうかしてしまったのか?
 
 そんな事は無い、現にその華奢な身体が震えている。

 懸命に耐えているのだ。

 この重圧の中で、自分たちに架せられた使命の重さと、襲い来る未知の恐怖と。

 それはとても儚かくも、しかし凛々しく強い意志の力が垣間見えた瞬間だった。










 ジナ・ジャスティン。

 後に、この少女が次世代を担うドラグーンパイロットに成長する事になるのだが、それはまた別の物語である。