複雑・ファジー小説

Re: 竜装機甲ドラグーン ( No.119 )
日時: 2014/04/23 08:35
名前: Frill ◆2t0t7TXjQI (ID: D486Goe5)

 ティアマト・アルヴァΩが繰り出した暗黒球が至近距離でユグドラシルに直撃し呑み込み、荒れ狂う。

 暗黒の乱流と磁気嵐が吹き荒れ、光さえも喰らい啜る次元の虚無が口を開け、白光の機体を貪ろうと噛り付く。

 「うわぁあああああああああっっっっ!!!!!!!」

 「きゃああああああああああっっっっ!!!!!!!」

 「いやああああああああああっっっっ!!!!!!!」


 無慈悲なまでの暴虐の嵐。

 装甲は瞬く間に解体細断され、超重力の力場がユグドラシルの腕を足を砕き、へし曲げ、機体を押し潰そうと一層破壊力が増す。

 絶体絶命。

 間近に迫る冥府の入り口。

 闇の大穴がすべてを消し去るべく、ドミネアたちを待ち構える。

 死だ。

 皆等しく訪れる安息の刻。

 脳裏に浮かぶ様々な過去の幻想。

 これが走馬灯なのか。

 


 













 中近東、荒涼とした大地。

 碌に作物も育たない痩せた土地が延々と広がる貧しい街。

 人々はいつ来るだろう竜種に怯え、細々と暮らしていた。

 街の一角、外れに古びた教会が乾いた砂塵に晒され、その姿を寂しく佇まわせる。

 この教会は孤児院としての役割も持ち、若いシスターがひとりで切り盛りし、なんとか数人の子供たちを養っていた。

 だが、それも一昨日で終わってしまった。

 シスターが亡くなってしまったのだ。

 優しかったシスター。

 病を患いながらも皆の為に働いた。

 街の住民も見兼ねて、僅かばかりの金銭や作物を届けてくれた。

 皆が食べるのもやっとだったが、楽しかった。

 


 葬儀は実に呆気なかった。

 とても簡素なものだった。



 
 ドミネアは知っていた。

 シスターは自らを身売りして、生活費を得ていたことを。

 それでも貧しいこの街では幾らにもならない。

 それでも子供たちを養おうとした。

 街の住民たちはそんな彼女を憐れに思いながらも、影で淫売と罵っていた。

 ドミネアは幼心にもそいつらを殺してやろうと思った。

 だが、それを感づいたシスターはきつく叱った。

 力に振るわれるのではなく、自らが力を振るうのだと。

 己の行動に責任をもて、と。

 何を信じ、どうするのか、自分が判断し、決めなければならない。

 悪とするのか、善とするのか。

 邪とするのか、正義とするのか。

 己が認め、そうあろうとすること。

 そして最後に淋しく笑ったのを今でも忘れない。














 教会の入り口でボーッとしていた。

 ドミネアに近寄るふたりの少女、ペルーシカとその手を握るセラフィナ。

 三人ともこの教会で知り合い、友達になった。

 少ない食べ物を分け合い共に遊び、学び、過ごした。

 しかし、これからどうなるのか、どうすればいいのか、三人の少女は悩んだ。

 今の自分たち何ができるのか。

 犯罪や身を売るのは極力避けたいが、生きるには仕方ない。

 それは本当に最終手段だ。

 他の子供たちはどうか知らないが自分たちだけでもシスターの意志は貫き通したかった。

 そんな時、教会にひとりの妙齢の女性がやってきた。

 眼帯をした強面だが、とても綺麗な人だった。

 なんでも生き残った人々を巨大な船で助け集めているそうだ。

 そして年若い少女たちに、竜種と戦うための兵器と適合するかどうかも調べているそうだ。

 決して強制ではなく、受けるかどうかも自由だ。

 不適合だとしても問題無く、生活は保障されるという。



 ドミネアたちは適合試験を望み、そして三人とも高い適合率を示した。





 己が決めた事。

 それはドラグーンパイロットとして人々を竜種の脅威から守る事。