複雑・ファジー小説
- Re: 竜装機甲ドラグーン ( No.120 )
- 日時: 2014/04/23 10:51
- 名前: Frill ◆2t0t7TXjQI (ID: D486Goe5)
ヨルムガントに集められた適合者の少女たち。
その中でもズバ抜けて、適合率が高く戦闘のセンスが顕著だったドミネア、ペルーシカ、セラフィナ。
艦長ヴェロニカは、過去に竜種と最前線で戦った元パイロットでドラグーン乗りのエキスパートだった。
自ら直接、戦い方を指導し、ドラグーンの操縦法、竜種との立ち回り方を教導した。訓練は過酷で、その後訪れた実戦の数々は熾烈を極めた。
厳しくもあり、暖かな眼差しのヴェロニカ。
確固たる信念、想いをドミネアたちは感じた。
いつしかそれは家族の絆のような、仲間を慈しむかけがえのない大切なものが己の心に育まれていた。
亡きシスターの想い、ヴェロニカの意志。
それらは、ひとつに繋がっているのだ。
自分たちが進むべき道へと。
終りを誘う虚無が間近まで歩み寄る。
ユグドラシルは崩壊寸前だ。
なんとかしたい。
あきらめたくない。
だけど、どうすればいいのか。
そういえば、昔もこんな風に少ない頭をフル活動して悩んでいたな、とドミネアは朦朧とする意識の中で、自嘲気味に笑った。
ここまでなのか。
ごめん、みんな。
反重力が包み、コックピットに浮かぶ三人の少女。
既に意識がないのか、ペルーシカもセラフィナもただ、流れに身を任せるままだった。
終焉が訪れるのを待つことのみ。
そう思われた。
「諦めるなっっっ!!!!!馬鹿者っっっっ!!!!!!!」
突然ヨルムガントの搬入ドッグが勢いよく開き、瞬駆の巨体が神速で飛翔してすべてを飲み込む渦巻く暗黒の球体に突入すると、半壊したユグドラシルを抱え飛び出した。
対象を失った暗黒球はそのまま彼方の地平線に消え、その数瞬後黒い閃光が天に昇り、砂塵を撒く衝撃波が伝わってきた。
ユグドラシルを砂の海にそっと、横たえる巨躯のドラグーン。
前頭部に槍のごとき角を構え、鎧を纏う強健な胴から伸びる猛禽の腕爪、下半身は強靱な獅子のような四足がまるで、神話の生物を思わせる姿だった。
だが、その機体は歪な肉が覆い、不気味に脈動しており、神聖とは真逆の悍ましさを放っていた。
「・・・私は言った筈だぞ?何時如何なる時も、決して諦めるな、と。・・・まったく、世話が掛かる教え子たちだ・・・」
優しく語りかける良く知っている声。
「・・・ヴェロ、ニカ、艦長・・・?」
ドミネアは横たわったまま、画像が乱れるモニターを見つめる。
「・・・今は体を休めるがいい、後の事は私にまかせておけ」
そう言ってほほ笑むヴェロニカ。
そしてドラグーンの巨躯を、この状況を創り出した元凶に向ける。
相対する魔を体現する竜と、獅子の勇猛さを現すドラグーン。
一触触発の緊張感が流れる。
そこに場違いなヘリの駆動音が響き、上空に飛行してきた。
「・・・久しぶりね、ヴェロニカ。その機体、ファブニルを見るのは随分昔のことだけど良く覚えているわ」
ヘリから灰色の長髪をたなびかせ、アリーザが顔を覗かせる。
「・・・アリーザ!!やはりお前か、裏でエキドナと手を結び、暗躍していた者は!!!何故だ、何故、こんな事をする!!?」
ヴェロニカはドラグーン、ファブニルのコックピットで険しい表情をしてヘリを睨む。
「・・・こんな事?何を言ってるのかしら、私はいつでも理想の世界を創るために頑張ってるのよ?昔のように。・・・平和な世界を取り戻したくて、ね。貴方だって、そうでしょう、ヴェロニカ?」
アリーザの当たり前のような態度の言葉に、悲痛の顔をするヴェロニカ。
「・・・アリーザ。お前の気持ちは解る。だが、これでは『あの時』の繰り返しではないか?エキドナは信用してはならない。ロゼが命を賭けて守った世界を・・・」
ヴェロニカの発した台詞に即座に反応するアリーザ。
「貴様がっ!!!貴様らがっ!!!!、あの人を語るな!!!!!見殺しにしたくせにっ!!!!!見捨てたくせに!!!!!あの人は、あの人は・・・最後まで・・・!!!!!!」
美しい髪を振り乱し、鬼の形相で捲し立てる。
しかし、すぐに冷静な能面の表情に変わり、静かに話す。
「・・・私は世界を変える。そのためには、手段は選ばない。例えすべてを犠牲にしても、あの人が変えようとした、救おうとした世界を、今度は私が救って見せる・・・」
そして、氷のような微笑みを浮かべた。
「そのために、まずはヴェロニカ。あなたの中のオリジナル『スヴァラ』を貰うわ」