複雑・ファジー小説

Re: 竜装機甲ドラグーン ( No.122 )
日時: 2014/04/23 22:33
名前: Frill ◆2t0t7TXjQI (ID: IFeSvdbW)


 魔竜の凶刃がファブニルのコックピットを抉り出そうと迫る。

 だが、ヴェロニカは動かない。

 いや、動くことさえできなかった。

 「・・・すまない、ファブニル。こんな形でお前を目覚めさせてしまって・・・」

 ヴェロニカは全身を血に染めていたのだった。

 操縦席は夥しいほどの赤い鮮血で満たされていた。

 既に限界なのだ。

 ドラグーンを起動させるだけでも無理があった。

 ましてや、戦闘など望むべくもなかった。

 それは、苦楽を共にした愛機、ファブニルも同じだった。

 この機体に宿るオリジナルは強すぎた、暴走し、ヴェロニカ自身の肉体をも蝕み、朽ちさせた。

 代償に多くの者を救った。

 しかし、救えぬ者もいた。

 故に想う、何のために得た力だったのか。

 アリーザの言葉が痛烈に胸に響く。

 見殺しにした。

 そうだ、その通りだ。

 助けられなかった。

 大切な友を。

 その手をすり抜けたのを掴めなかった。


 俯く口元から紅の雫が零れる。

 「・・・ロゼ・・・。お前は笑うだろうが、私は自分を許せそうにない・・・」

 霞む瞳は、とうになにも映していない。眼帯は落ち、爛れた肉が覆う傷痕の眼腔が、虚しく虚空を見つめる。

 「ああ・・・もう一度あの頃に・・・」



 鋭利な爪が通り過ぎた。


















 ファブニルの胸部から上半部が貫き薙ぎ払われた。

 霧散する機片、粉砕する機体。

 砂糖菓子のように木端微塵に砕け散った。

 




 それを視ていたドミネアはすべてが空白になった。

 なにも考えられなかった。

 考えたくなかった。

 ただ呆然と視ていた。















 それはヨルムガントの皆も目撃していた。

 なんとか援護しようとしたが、艦体が機能不全に陥ってしまっていた。

 それは、言い訳に過ぎないかもしれないだろう。

 恐怖でまったく動けなかった者が大半だった。

 だが、この結末はあまりにも・・・。
















 半身を細断されたドラグーンの残骸は巨大な音を立てて、崩れ落ちた。

 勝ち誇る様に、高々と咆哮を響かせる魔竜。







 遠くからヘリが接近し、ティアマトに向かって来る。

 「ご苦労様、ミカエラ。ちゃんと生かしてるわよね?折角の適合者を見す見す手放したく無いもの」

 アリーザが意味深な発言をすると、ティアマトは頷き、巨大な掌をゆっくりと開く。

 そこには小さな人影が血濡れで横たわっていた。

 「ふふふ、そう簡単に殺すわけないじゃない、ヴェロニカ。貴方には、もっとちゃんとした役割が有るのよ。・・・実験材料としてね・・・」






 



 瞬間。











 ティアマトの巨腕を断ち切る黒い彗星のドラグーン、ワイアーム。瞬時に赤銅のドラグーン、ダハーカが炎弾を放ち、青白のドラグーン、ザハークが追撃し、氷塊を撃ち込む。








 掌から放られたヴェロニカを受け止める白亜のドラグーン、ヴァリトラ。








 すぐさま奪還するべく魔竜が腕を再生させ、かざすと、濃紺のドラグーン、ショクインが長大な弓から連続して矢を放ち、薄朱のドラグーン、ペクヨンが幾重にも分割した根で殴打の連撃を繰り出す。








 魔竜が背部から無尽蔵の黒蛇の波を沸き立たせ、周囲の竜機たちに襲い掛からせるが、明黄のドラグーン、ヒュドラが現れ、ロケットとミサイルの弾幕を撃ち込み大爆発を発生させ、遮断する。








 逆巻く爆煙の中から、咆哮する魔竜が暗黒球を創り出し、放とうとすると上空から極大の赤い閃光を浴びせて蒸発させ、阻止する紅のドラグーン、ペンドラゴン。








 そして、魔竜の正面に神速で斬り込こんで両極剣を薙ぎ払い、その巨躯を弾き飛ばす蒼い流星のドラグーン、ワイバーンD.R。


 








 アリーザは驚きとともに感嘆する。

 「・・・これは・・・。・・・私も予想外ね・・・」











 そこには、それぞれ武器を構え、ティアマト・アルヴァΩと対峙する九体のドラグーンの姿があった。