複雑・ファジー小説

Re: 竜装機甲ドラグーン ( No.128 )
日時: 2014/04/25 00:34
名前: Frill ◆2t0t7TXjQI (ID: zWzUF/vQ)

 Act.13 星が呼ぶ 遥か遠き、竜の楽園


 ヨルムガント艦内、メディカルセクター集中治療室。

 ヴェロニカが医療バイオポッドのカプセルの中で様々な治療器具に繋がれている。

 それを見守る医師と乗員、シャオ、ミヅキ、エウロペア。

 「・・・生きてはいるのだな、ヴェロニカは?」

 シャオが医師に聞く。

 「・・・はい、微弱な生体反応はあります。しかし、肉体は機能していますが、意識は戻るかどうかは・・・。竜種細胞のおかげで、かろうじて状態を維持していますが・・・」

 医師は歯切れが悪そうに言う。

 その時、怒声と押し止めるやり取りが聞こえた。

 「か、艦長は無事なのか!?おいっ、どうなんだよっ!!」

 ドミネアが身体を引きずり、治療室にやって来た。

 その後ろに不安そうなペルーシカとセラフィナもいた。

 三人とも満身創痍である。竜集細胞による治癒促進は飛躍的に高まるが、無理をしては意味を成さない。

 ヴェロニカを想い、いてもたってもいられず病室を飛び出してきたのだ。

 「落ち着け、お前たち。ヴェロニカは無事じゃ、儂も奴のしぶとさに舌を巻いておる所じゃ」

 シャオが安心させるようにドミネアたちと話す。

 「・・・生きてるのか、そうか、良かった・・・」

 ドミネアは壁に寄り掛かり力無くうずくまる。

 慌てて、スタッフが手を貸し、ペルーシカたちが付き添い戻って行った。


 それを見て、シャオは死んだように眠るヴェロニカに言う。

 「・・・まったく、お前はいつもそうやって皆に心配を掛けるのう?そんなに死に急ぎたいのか? ・・・ロゼが怒るのが目に見えるようじゃわ・・・」

 「そうですね、先輩はいつも無茶をしますからね・・・」

 ミヅキがしみじみと言う。

 「もう〜、早く起きなさい〜、ヴェロニカ〜!」

 エウロペアが憤慨するように言う。

 だが、カプセルのヴェロニカは蒼白のまま微動だにしない。

 その時、生体機能装置が激しくアラームが告げる。

 「「「!!?」」」

 慌てる医師たち。医療スタッフが忙しなく動く。



 「・・・うそ、ヴェロニカ、死んじゃうの・・・?」

 エウロペアが呆然とする。

 「・・・そんな、そんな、訳、が・・・」

 ミヅキも混乱する処置室をただ見ていた。

 「・・・」

 シャオだけは冷静に、静かに眼を閉じていた。

 けたたましく響くアラーム。

 三人には死を運ぶカウントダウンにしか聞こえない。

 何も出来ないのか?

 また、失うのか?

 あの時のように、あの時失った、命のように・・・。

 



 「・・・世話が焼けおるのう、若人たちは・・・」





 シャオが目を見開く。

 そして混沌とする処置室へとズンズンと入って行った。

 一体この幼女が何をしているのか理解でず、硬直するその場の全員。

 シャオは手早く、カプセルに近づくと、手をかざし、機材を操作もせずマシンのカバーを開け放った。

 驚く周囲の者たち、止めるべきなのに身体を動かすことができない。

 シャオは両手をかざし、静かに数回、深く呼吸をするとヴェロニカの胸に手を添える。

 「・・・あの時もそうじゃった。逝くなら儂のような年寄りだと、何度思った事か・・・。これ以上若いもんが逝くのは我慢ならんでのう・・・」

 シャオの身体が淡い、とても柔らかな光に包まれる。

 そのほのかに煌めきをたたえる光は、添えた掌に流れていきヴェロニカの身体へと、緩やかに移される。


 それはとても荘厳で、神聖な行為に思えた。

 命の輝きというものが、魂の光が視えるならば、それはまさにこれなのだろうと納得してしまうだろう幻想的な光景だった。






 数瞬の静寂。









 ピクリと動く、ヴェロニカの身体。






 アラームはいつの間にか止み、肌に赤みが戻っていた。






 そして、








 「・・・ん、ん・・・? ・・・こ、ここ、は・・・?」







 半死半生のヴェロニカが息を吹き返した。









 
 一同、起きた事象に、目を丸くさせる。








 「・・・ふうっ、やれやれ。流石の儂もくたびれたぞ・・・」





 そう言って、安心した様に笑うシャオ。






 
 その小さな身体が崩れ落ちた。