複雑・ファジー小説

Re: 竜装機甲ドラグーン ( No.129 )
日時: 2014/04/25 18:50
名前: Frill ◆2t0t7TXjQI (ID: TV9sr51/)

 日が落ち窪み、夜の闇に紛れる砂の海。


 延々と白薄さのみを映し取る月明かりだけが照らす砂丘の一角、漆黒のドラグーン、ワイアームのコックピットに乗り込み、起動させる黒衣の少女シズク。

 その後ろでリーシェ、リーファもそれぞれダハーカとザハークを稼働させる。


 「・・・あれは・・・」


 シズクがハッチを閉めようとした時、月光が染める砂の丘から、蒼いパイロットスーツの少女がこちらを見ていた。


 「・・・」



 互いに無言。

 シズクはバイザーを外し、玲瓏と月の光りを帯びる蒼衣の少女セツナを見やる。


 セツナも滑らかに輝きを浴びる漆黒のドラグーンに搭乗する黒衣の少女を見つめる。


 それだけで、ふたりの間には大切な、言語では言い表されない何かが交わされた。




 言葉は必要ない。



 今はまだその時ではないから。


 すべてが終わった時、それは成されるだろう。


 だから・・・。






 バイザーを装着し、ワイアームのコックピットハッチを閉ざすシズク。

 そして、ゆっくりと砂塵を波立たせ、機体を上昇させる。

 背後の二機のドラグーンも、それに合わせて、次々と飛び立つ。


 漆黒の竜機は大きく左右に両翼を広げ、最後に、仰ぎ見る少女を一別し、夜闇の彼方へと飛翔して行った。






 静寂を残し、夜の帳へと去りゆく機影を眺めていたセツナは、踵を返し砂丘を降り、その場を後にする。



 その先にエリーゼルとマリアが待っている。


 「・・・よろしいのですか? ミス・セツナ。せっかく逢えたのに何も話さなくて・・・。あの方が貴女の・・・」

 エリーゼルが何か言いたそうに話す。

 「言葉が無くても通じ合うことはできるよ、家族ってそういうものだと思うな・・・」

 マリアが胸に手を当てる。


 「・・・わたしは大丈夫。離れていても伝わってくる気がするから、あの人の気持ちが・・・」


 セツナは砂地に定置するワイバーンを見上げる。



 本当は今すぐにでも追いかけたい。
 
 だけど後ろは振り返らない。

 己のやるべき事があるから。







 
 篝火のように浮かぶ朧月が荒涼とした大砂海をどこまでも映えさせる。






 その明りに照らし出されるたる竜騎士がいつまでも蒼く輝きを放っていた。