複雑・ファジー小説

Re: 竜装機甲ドラグーン ( No.133 )
日時: 2014/04/28 22:08
名前: Frill ◆2t0t7TXjQI (ID: 2rVK2fl9)


 どことも知れぬ大陸、荒野の果て。

 遠く木霊する竜の咆哮と生き残った人々の祈りとすすり泣く声が惨壊した街に響く。

 竜種との戦闘の最中、巻き添えになってしまった小さな街。

 紅緋色のドラグーンから降りた茜色の髪とパイロットスーツの凛々しい少女の胸を居た堪れない痛みと悲しみが苛ませる。

 それでも彼女は戦い続けねばならない。

 それが、己の使命だから。

 守るべき命。

 その命を狩るものを屠る。



 最小の犠牲で押さえられたと、胸を撫で下ろすべきか?


 竜種に抗するため、与えられた力。

 ドラグーン。

 しかし、それも人の創り出したもの。

 命を奪う力。

 自分の足元に横たわり並ぶ、幾多の亡骸こそ自分が守りたかったものではないか。

 葛藤と後悔、憤慨と懺悔。

 降りしきる雨の中、込み上げる虚しさと共に曇天の空を見上げた。
 
















 軍艦のデッキ甲板。

 瓦礫を渡る風、鳴り止まない雨音。

 やや離れた船内へと続く扉が開き、中から灰色の髪の少女が顔を覗かせる。


 「あっ! こんな所にいたっ!! もう、ロゼ先輩ったら〜!!」

 その髪と同じグレーのボディスーツを身に付けた少女が小走りに駆け寄ってくる。

 「先輩っ!? びしょ濡れじゃないですか!! 風邪引いちゃいますよ!!!」

 ロゼと呼ばれた少女が振り向く。

 「アリーザ」

 「早く艦内に入りましょう。エースパイロットが体調不良で出撃できないなんて洒落になりませんから!! 直ぐにお風呂の準備をします!!」

 アリーザはロゼの手を引く。

 「それぐらい自分で出来るよ」

 「いいえ! 先輩はどうせシャワーだけ浴びてカラスの行水でしょう? 風邪を引かないよう、私が監視します!」

 ロゼは苦笑いをしつつ艦内に連れて行かれた。

 

 













 熱いシャワーの水滴が少女の瑞々しい肢体を曲線に沿って流れる。

 雨で冷えた身体を温め、暗澹とした思考を拭い払う。

 

 「・・・あ、あの、先輩? わ、私も濡れちゃって・・・。一緒に入って、いいですか・・・?」

 アリーザがバスタオル一枚でおずおずと、聞いてくる。

 「・・・うん、いいよ。おいで、アリーザ」

 ロゼが快く受け入れる。

 「やった♪ お邪魔しま〜す!」

 アリーザが仕切りから裸身で飛び出し、シャワーを浴びているロゼに抱き付く。

 「えへへ♪ ロゼ先輩、いい匂い、柔らか〜い!」

 「こらこら、身体を洗ってる最中だぞ」

 困った様に、しかし優しい眼差しで甘える後輩に微笑み、頭を撫でるロゼ。

 姉のように慕ってくる可愛い後輩。

 戦いでは、まだおぼつかなく、いつもヒヤヒヤさせられるが、場を和ませるムードメーカー。


 自分も本当の妹のように接する。


 守りたいと想う。
 

 命を賭しても救いたい大切なものたち。


 生ける者の宿命、生きるが故に背負う業。


 その意味を探り、共に生きていくのだ。

 
 ネガティブな考えを追い払い、ロゼは胸の中の少女を強く抱きしめる。


 「・・・先輩?」


 「・・・誰も欠けさせはしない。私が守る・・・」

 







 この先、何が待っているのか、それはまだわからない。

 だが、決して歩みは止めない。

 例え、手足が折れ、五感のすべてを失っても、





 その意味を知るまでは・・・。