複雑・ファジー小説

Re: 竜装機甲ドラグーン ( No.142 )
日時: 2014/05/11 17:15
名前: Frill ◆2t0t7TXjQI (ID: UcSW/zmZ)

 シェンロン格納庫。

 シャオが神妙な顔で最奥の一角に佇む。

 「・・・再び、これを使う日が来るとわのう・・・」

 パネルを操作すると何重にもブロックされた隔壁が解放され、その奥から巨大な剣が出現する。

 剣は禍々しくも、神々しい奉剣の威風を放ち、縛鎖の封印が施されていた。

 鍔元には生物の『眼』を思わせる肉塊が不気味に形造られ、静かに瞳を閉じていた。

 「オリジナル『ガウロウ』の半身から削り出された『クリカラ』・・・。今の仙気を失った儂にはこれに頼らざる得ない・・・。しかし、道を違えた友を正すため、明日の未来を守るために、今一度、力を貸してもらうぞ・・・」

 そう言って決意を新たにするシャオ。

 後ろからふたりの少女ルウミンとフェンが声をかける。

 「・・・師匠」

 「・・・老師」

 振り返るシャオ。

 頭ひとつ分背丈が変わり、前とは逆に見下ろす形になる。

 「どうした、そんな辛気臭い顔をして。明日は出撃じゃぞ、今はゆっくりと体を休めるが良い」

 そこで言葉を切るシャオ。

 「・・・本来なら、儂ら先人が決着を付けねばならんのに、お前たちを付き合わせてしまい・・・すまん・・・」

 頭を下げるシャオ。

 「・・・いいんだよ、師匠。あたしたちいつも三人一緒でしょ? だから明日もこの三人で行こうよっ! ね?」

 ルウミンが笑顔で言う。

 「老師には感謝してる。身寄りのない僕らを拾ってくれて・・・。最初は何でこんな小さい女の子が?って思ったけど、あ、今は大人になっちゃたけど。・・・老師が、メイメイ老師がいてくれたから僕たちはここまでやってこれたんだ・・・」

 フェンが優しく語る。

 「・・・お前たち・・・」

 シャオは、顔を上げるとルウミンとフェンを自分の胸に抱き寄せる。

 「・・・儂もまだまだじゃな、愛弟子に諭されるとは・・・」

 「・・・生きる事、それすなわち修行なり、でしょ? 師匠」

 「ここで使う格言なの、それ? ルウミンてば」

 顔を合わせ、くすくすと笑う三人。

 共に歩む。

 そう、仲間だから。 























 ヨルムガント艦内。

 月の明りだけが照らす病室の窓。

 ベッドから半身を起こし星空を見上げるヴェロニカ。

 「眠れませんか? ヴェロニカ先輩」

 入り口にミヅキが佇む。

 「・・・考えていた。自分の選択が正しかったのか、間違っていたのか。もっと最良の選択があったのではないか、とな・・・」

 肩口から外された右腕の義手接痕を見やるヴェロニカ。

 「・・・掴んだのだ。確かにあの時、この手で・・・! あいつのドラグーンの腕を・・・!! だけど、私は、私は・・・!!!」

 涙が流れていた。

 残った片目から止め処なく。

 フワリと抱きしめられる。

 ミヅキがヴェロニカを抱き抱える。

 「・・・先輩は間違っていない。最善の行動をしました。それは、誰の所為でも無いです・・・。誰の所為でも・・・」

 「・・・」

 「人は後悔する生き物です。立ち止まり過去を振り返り、嘆き悲しむ。でも、振り返るのは悲しみだけじゃない。楽しかったこと、嬉しかったこともあるんです。そして新たな道を模索し、進むんです。本当の幸せの形を求めて・・・」

 ヴェロニカはミヅキの腕の中で瞳を閉じ、想いを馳せる。

 遠いあの頃の舷窓を。

 苦しい戦いの中でも共に生き抜き、笑いあった仲間達。

 輝いていた。

 だが、それは最早過去の産物。

 自分は今を生きている。

 いや、生かされているのだ。

 あの時、託された。

 命の灯火。

 今度は、自分が託す番だ。

 今を生きる若者たちに・・・。

 ヴェロニカは心に再び熱い灯りが宿った。

 「・・・もう私は、後悔はしない。私は常に私が想う最善の選択を突き進む・・・。お前はどうだ、ミヅキ?」

 「私も自分の選択に後悔はしたくありません。ですが、絶対の自信がある訳ではありません。何が正しいのか、何を成せばいいのか、いつも迷っています。・・・それでも前には進みたいと、立ち止まっても、一歩踏む出したいです」

 ミヅキは己の中に抱いたヴェロニカに微笑む。

 ヴェロニカも一緒に微笑み、窓辺を照らす夜空を見上げた。





 病室の通路の壁にエウロペアが優しく微笑み立ち、そして静かに去って行った。