複雑・ファジー小説
- Re: 竜装機甲ドラグーン ( No.154 )
- 日時: 2014/05/12 00:36
- 名前: Frill ◆2t0t7TXjQI (ID: UXIe.98c)
虚龍に取り込まれたドラグーンを見つけたセツナは両極剣をかざし、すぐさま斬り込んだ。
「シャオ先生!!!」
蒼刃がヴァリトラに癒着する肉腫を刻むが、分厚い肉壁がたちまち再生してしまい、切り離せない。
それどころか密着するワイバーンを無数の触手が襲い機体に絡みついてくる始末だ。
「くっ!!」
何度も切り払うが触手は数を増し、武器さえも取り押さえられ、全身を肉の中へ取り込まもうと蠢く。
肉壁からミカエラの人型をしたのっぺらとした塊が浮き出る。
『セツナ・・・貴様モ取り込んデ、ワタシたちの一部にしてやろうカ・・・ククク』
ワイバーンを覗き込むように伸びてくる不気味な肉塊。
「ミカエラ・・・!!」
機体が徐々に埋没していってしまう。
このまま飲み込まれてしまうのか・・・。
下方で戦うドミネアたち。
倒しても倒しても後から湧いてくる竜種、キリが無い状況に陥ってしまっていた。ジリ貧が続けば、こちらがスタミナ切れを起こすのは明白だ。
その時、マリアが上空を視る。
「感じる・・・今、あの巨大龍が少し弱まっている・・・そのおかげで、星の意志が強く表面に出てきた・・・今なら私の代行者としてのパワーを全力で行使できる」
イリアとしての意識を全面に表出し、ハイドラが並み居る竜種に向かって両手を大きくかざし構えると、機体全体から波動片が滲み出る。
「お父さん、今こそハイドラの真の力を見せるよ」
金色の波動が包み込む。
「キルリアン・パルサーゲノムエフェクト!!!!!」
瞬時に黄金の波光が周囲に発せられ、その波がさらに広がり、ドラグーンたちを、竜種の軍勢を、艦隊を、そして上空の虚龍をも広大に覆う。
空間に煌めく燐光の幻幕。
キラキラと虚空を舞う。
「綺麗・・・」
ルウミンが手をかざす。
「これは一体・・・」
フェンが見上げる。
「ん!? おい、竜種の様子が変だぞ!!」
ドミネアが気付き、皆に呼びかける。
黒く埋め尽くす竜種、原竜種。それらが一様に動きが鈍り、苦しみだす様は、あきらかに弱体化している。異変はそれだけではない、ドラグーンとそのパイロットたちにも変化が訪れた。
「何て、暖かい光り・・・身体から力が湧いてくきますわ・・・」
エリーゼルが身体を抱く。
「これは・・・私達の中の竜種抗体細胞が活性化してる・・・?」
ペルーシカがほのかに輝く身体に触れる。
「一緒にドラグーンも強くなってる」
セラフィナが頷く。
「皆さん! 今なら竜種の力が極限まで弱体化しています!! そして、皆さんの細胞が活性化しドラグーンも強化されています!!」
ハイドラのコックピットでイリアが光のオーラを放ちながら皆に告げた。
みんなが頷き合う。
これなら勝てると、確信した。
光りのヴェールは上空にも届き、波動の波が虚龍を包み込んだ。
『がっ・・・! ・・・こ、れ、は・・・! 星の・・・意志、の・・・!!』
悶えだす龍の巨体、ミカエラの形をした肉塊も苦しみだすと触手と肉壁に囚われたワイバーンの拘束力が弱まり出す。
「この光は・・・! 今ならイケる! ハァアアッッ!!」
振るう蒼刃が絡みつく触手を断ち斬り、ワイバーンが肉の中から抜け出て、捕らわれたヴァリトラを包む肉腫をも大きく切り落とした。
脇に抱え離脱し、飛ぶワイバーン。空中で滞空しながら自身の操縦席の扉を開け、身を乗り出し、ヴァリトラに飛び乗るセツナ。
ヴァリトラは手足が大きく欠損していて外装はボロボロだが、胸部装甲が無事なのを確かめ直ぐにハッチを開口する。
「シャオ先生!」
コックピットの中は血だらけで力無くシートにもたれるシャオの姿があった。
セツナの呼び掛けに薄っすらと目を開けるシャオ。
「・・・お・・・お・・・なん、じゃ・・・光り、が・・・気力が、流れ込んで、きおる・・・これは・・・」
燐光が揺らめいて、シャオの傷付いた肉体をほんのりと包むと急速に輝き出し、その身体が小さくなっていく。
光りの輝きが緩やかになると、シャオは以前の幼女体に戻っていた。
「これは・・・! 失われた気が満ち溢れておるぞ!!」
ぶかぶかのスーツの袖を振るシャオ。傷も完治していた。
「先生! 御無事ですか!」
セツナが手を貸し助け起こす。
「セツナ! お主が助けてくれたのか、しかしこの不思議な光は・・・」
「マリアたちが力を貸してくれたようで、竜種細胞が強化されています」
「そうか、僅かだがヴァリトラも機能を回復したぞ。これならブースターで飛行できる」
コンソールを操作するシャオ。するとブースターが噴射され、機体が浮上する。
「先生、今ならこの光りで巨大竜も弱体化しています・・・だから、倒せます・・・倒して見せます・・・」
セツナは力強い視線で眼下の虚龍を視て、シャオを見る。
「わたしにやらせてください。いえ、これはわたしにしか出来ないと感じるんです。ワイバーンとわたしにしか・・・」
シャオはセツナの心に燈る固い意志の灯火を感じ取り、頷く。
「・・・そうか、これも因果か・・・だが、セツナ・・・約束じゃぞ、必ず生きて帰ってこい。これが儂が教えてやれる最後の修行じゃ」
目の前の少女の瞳を真っ直ぐに見据えるシャオ。
「はい、その試練、絶対に乗り越えて見せます」
そう言ってセツナは微笑み、ワイバーンに乗り込んだ。
そして滞空するヴァリトラを残し、眼下の虚龍に蒼い軌跡を描いて向かって行った。