複雑・ファジー小説

Re: 竜装機甲ドラグーン ( No.156 )
日時: 2014/05/15 16:44
名前: Frill ◆2t0t7TXjQI (ID: hRfhS.m/)

 肉の空間に包まれた虚龍のコア内部。


 打ち込まれた蒼竜の拳撃。

 空洞内に反響する鈍い打撃音。

 振動する漆黒の外殻、しかし、頑強に覆う甲殻は一切揺るがない。

 だが、外殻は無傷では無かったのだ。

 殻の甲殻に僅かな、ほんの僅かな、歪みが、傷を生じさせていた。

 蒼剣の剣痕。

 その小さな傷跡から、拳が与えた衝撃の波動が空洞内に木霊した固有振動波と一致し、内部空間に激しい共鳴を引き起こした。

 そしてそれは、殻の内側のほんの小さな傷一点に振動エネルギーを集中させた。


 ————その結果。


 幾重にも亀裂が、疾り抜ける。


 次の瞬間、漆黒の卵殻は粉々に砕け散った。













 








 少女がひとり、藍色の髪の少女が膝を抱くように座り込んでた。

 ワイバーンから降りたセツナがその少女に歩み寄る。


 「・・・こんな所まで来たのか・・・セツナ・・・本当に規格外だな・・・わたしとは違う・・・」

 顔を上げず、囁くミカエラ。


 「ミカエラ。聞かせてほしい、わたしのことをどう思っているのか」

 セツナはミカエラの前に膝を降ろし、問う。


 「憎い————いや、憎んでいた、お前のことを。だが・・・もう、それもどうでもいい・・・」

 答えるミカエラ。

 「憎しみ・・・それも大事なひとつの感情。決して間違いだなんて、わたしは思わない。今のわたしを形造ったから」

 肯定するセツナ。


 「羨ましかった————お前が、わたしを超える才能を見せた時、わたしも、ああなりたいと・・・お前のようになりたいと・・・」

 己の内を吐露するミカエラ。


 「それは素直に嬉しい・・・でも、あなたはわたしにはなれない」

 否定するセツナ。

 顔を上げるミカエラ。光の無い暗い感情が宿っている。


 「あなたはあなた。わたしはわたし。あなたは何者でもない、紛れもないあなた自身。わたしがあなたになれないように、あなたはわたしにはなれない。それが本当の自分だから」

 セツナは静かに話す。


 「わたしは・・・わたし自身・・・何者でもない本当の自分・・・」
 
 ミカエラは呟く。


 「探そう、本当の自分を。わたしも探してる、自分を」

 セツナはうずくまるミカエラの手を取る。


 「それにひとりじゃない。みんながいる、助けてくれる仲間が。あなたにもいるはず」

 ミカエラは握られた手を見る。

 伝わる温もり。 暖かい感情。 自身の中に浮かぶ想い。

 過去、傍に居た仲間たち。

 現在いま、共にいてくれた仲間。

 スフィーダ、リヴァネ。


 力が欲しかった。

 何ものをも寄せ付けない力が。

 拒絶していた。

 力にのめり込むあまり、否定していたのだ。

 自分自身さえも。

 拒絶していたのは、世界では無い。

 己だったのだ。


 ミカエラはいつしか己の心にかけがえのないものに満たされていることに気付いた。

 そこには、もう彼女が閉じこもる堅い殻はないのだ。

 セツナの手を握り返した、その時。

 虚龍、そしてその内部が激しく振動し始めた。

 













 虚龍は己の半制御下に置いた少女の意識が剥離したことで、自身の膨大なエネルギーのコントール失ってしまったのだ。