複雑・ファジー小説
- Re: 竜装機甲ドラグーン ( No.157 )
- 日時: 2014/05/16 19:56
- 名前: Frill ◆2t0t7TXjQI (ID: /gz88uq5)
星を臨む蒼空の成層。
そびえる虚龍は大きく巨翼を広げ、咆哮する。
『それ』は生き延びたかった。
『それ』は還りたかった。
銀河の彼方へ。
遠き宇宙の果てへ。
いつの日か、己を蘇えらせる知的生命体がこの星に誕生することを予期し、分体を分け放った。
下等な人類を蹂躙し、利用するための踏み台として。
共存するつもりなどない、星ごと喰らう。
その筈だったのだが————。
歪にボコボコと膨張する虚龍の内部。
大量の肉の触手が無茶苦茶に動き出し、伸びてくる。
「!! このままここにいるのは危険だ! ミカエラ、さあ一緒に行こう!!」
セツナはミカエラの手を引き立ち上がらせ、ワイバーンに乗り込もうとするが肉腫の塊が機体を飲み込み引き離す。
「くっ!?」
うねる肉壁が迫る、後ずさりするセツナたち。脱出手段が失われてしまった。
「・・・何も考えず、こんな場所まで来るからだ・・・」
ミカエラは片手を肉腫に突き刺すと、強く念じる。
「来い! ティアマト!!」
瞬間、肉の壁をぶち破り、藍色のドラグーンが飛び込んできた。
そして、蠢く触手を機体から複数展開した竜蛇のアームが咬み断ち、ワイバーンを危機一髪救い出す。
「さあ、早く乗れ!」
ミカエラに促されようにセツナは直ぐにコックピットに乗り込みワイバーンを起動させる。
無数の悍ましい触手がわらわらと押し寄せるが、ティアマトが複頭の竜蛇から黒い光線を放ち、斬り伏せ、道を作り上げる。
「ミカエラ! あなたも早くドラグーンに!!」
セツナが振り返る。
だが、ミカエラの身体は半身肉腫に覆われ無惨な姿を晒していた。
「・・・往け、セツナ。お前は、こんな所で終わる器じゃない・・・」
驚愕するセツナ。
「ミカエラ!?」
「まだ、わたしの制御圏内だな・・・やれっ!!! ティアマト!!!! 喰い過ぎた間抜けな化け物のドテッ腹に風穴ぶちあけてやれぇええええええっっっ!!!!!」
ティアマトの蛇頭が一斉に口を開け、巨大な漆黒の光球を形成、解き放った。
————閃光。
虚龍の異様に膨らんだ中心核が張り裂け、暗黒の光りが漏れ出すと闇色の柱が貫いた。
絶叫を轟かせる虚龍。
「くぅうううっ!! ミカエラ!!!」
閃光の余波に耐えながらセツナは呼ぶ。
コア内部は巨大な大穴が穿たれ、宇宙の星々を覗かせた。
「往け! 往けよ!! 穴が塞がる前に!!! さっさと脱出しろぉおおっ!!!!」
ミカエラが肉腫に蝕まれながら叫び、訴える。
「駄目だ! そんなのは駄目だ!! 助ける!!! 絶対に!!!!だから、一緒に帰ろう!!!!!」
セツナは逃げずにミカエラの元に向かおうとワイバーンを構える。
「チィィイイッ! ティアマト!!」
突然ティアマトがワイバーンに体当たりをし、その四肢をアームで掴み、外へと連れ出そうとする。
「ぐぅうううっ!? 駄目だ! 諦めるな!! ミカエラ!!!」
押し返すワイバーン。
穴は蠢く肉塊で徐々に塞がってしまう。
「・・・分からず屋が・・・くそっ・・・力が、もう・・・」
ミカエラの身体がぐったりと傾きだす。
ここまでなのか・・・。
こんな結末で終えてしまうのか・・・。
薄れゆく意識の中、こちらに懸命に手を差し伸べる少女。
もし・・・もしも・・・この少女ともっと早く出会えていたら、自分は今と異なる道を歩んでいたかもしれない。
『友』として。
『仲間』として。
共に傍らを、共に肩を並べ、笑いあい、語り合い・・・
生きたかもしれない・・・。