複雑・ファジー小説

Re: 竜装機甲ドラグーン ( No.165 )
日時: 2014/08/24 01:53
名前: Frill ◆2t0t7TXjQI (ID: 0voqWvLL)



 広がるのは蒼だった。

 空を舞う青。

 先程までの激しい戦闘など微塵も感じさせない流麗な機体を、伸びやかに羽根を、その翼を羽ばたかせ一機のドラグーンがつい今まで其処に竜種が存在した痕を一点に見詰めていた。

 「どうやらそっちは片付いたようだな、セツナ」

 蒼い竜機の傍らに飛翔して寄る藍色のドラグーン。

 その声を掛けられた方に機体の首を向けるワイバーン

 「うん。此方は特に問題なく片付いた。・・・そっちも終わり? ミカエラ」

 蒼い竜戦士を駆るコックピット内のリアシート。操縦席にはセツナと名を呼ばれた黒髪の少女。

 「ああ。多少は手応えがある奴が何匹かいたが所詮、私の敵では無かったな」

 藍染めの外色装甲のティアマトの腕をぐるっと廻しミカエラはモニター越しにニヤリと笑って見せた。

 「・・・じゃあ次は隔絶地域の竜種掃討。新種とおぼしき個体が相当数確認されている。速やかにこれを殲滅する」

 セツナは現地図情報を素早くトレースし次目標地点を割り出すとワイバーンの両翼を大きく広げた。

 「次は歯応えがある奴を期待だな」

 ティアマトの長刀を振り不敵に嘯くミカエラ。

 そして二体の狩人はスラスターを加速させ瞬時に虚空の彼方へと消え去って行った。
 











 ここは地球。

 人間が営む世界。

 だが今は存在すらあやふや。

 観測者が存在しない場所。すべてが朧で曖昧で、人と竜が入り乱れるカオスな領域、world lineの最終地点、事象の地平線、因果地平。

 因果律が存在して存在しない、可能性と結末が同時に存在する領域。

 死か生か…。

 思想も、意思も。言葉も、魂も。

 そんな概念が、理論が、全てが貪られてしまう『惑星ほし』に彼女らは居る。

 自分たちが誰で、何者なのかすら判らない、定義されない世界。

 意志が形を保てない世界。

 生命が飽和する世界の果て。

 ただ、今までの歴史が砕けたガラスの欠片の様に、跡形も無く粉砂される、そんな世界。

 個として、宇宙から見てちっぽけな生命ではこの世界は余りにも無慈悲。


 欠片には、今まで遍く全ての命が歩んだ過去が。

 そして之から歩むであろう命の未来が。


 隔絶された宇宙。終わりも始まりも存在して存在しない宇宙。

 何処までもが地平で、何処までもが彼岸。

 その孤独で、孤独すら無い世界で、彼女たちは戦い続ける。

 傷だらけの体で、背には罅割れた十字架を背負って。

 彼女たちが纏う鎧の名はドラグーン。

 人々の明日の為に、彼女たちは今日も翔け抜け疾る。

 一人でも多くの願いの為に、彼女たちは何処までも傷つきながらも。

 気の遠くなるような彷徨の果て。

 様々な思いと巡り合い、数え切れないほどの仲間の助けと、絆を得て抗い続けるだろう。


 宇宙の始まり。


 ヒト、そしてリュウ。


 天なる元へ。


 遍く未曾有が存在する原始、すべからく悠久の階梯へと。