複雑・ファジー小説

Re: 竜装機甲ドラグーン ( No.167 )
日時: 2014/12/04 19:52
名前: Frill ◆2t0t7TXjQI (ID: hRfhS.m/)

 『竜装機甲ドラグーン』スカーレッド・クリムゾン









 赫い、何処までも空を走駆する紅の機影。

 その前方を飛翔する黒い物体は、その朱い追撃者から逃れようと必死に両翼を羽ばたかせるが、一向に距離は離れるどころか徐々に狭まれていた。

 逃げ続けることに飽いたのか、痺れを切らしたのか、黒い物体、異形の生物『竜種』は巨体を反転させ単眼の瞳から強力な閃光波を放つ。

 雲を切り裂き奔るレーザー攻撃。

 怪物が放った光線が瞬時に紅の追撃者を貫いた。

 筈だった。

 途端繰り出される赤い閃光の応酬、羽ばたく左翼を撃ち抜かれた竜種。

 突然の反撃に横転するも何とか踏み止まる。戸惑いつつ、己が放った攻撃は確実に『敵』を仕留めたと確信していたのだが・・・。

 何故?

 何事も無く追撃する赤い機影。

 単眼の原竜種『ヴィーヴィル』はもう一度光線を撃ち込もうと体勢を整えようとした時、頭上から再びあの赤い光線が射出され、今度は己の躰を突き抜けた。

 苦痛の叫びを木霊させる竜種。反射的に攻撃された頭上に光線を解き放つ。

 真上を薙ぐ閃光がもう一つの機影を穿つ。

 しかし何故か擦り抜けるレーザー光線。

 しかも同じ姿形の、あの赤い『敵』。

 いつの間に増えた?

 『敵』は他にも存在していたのか?

 混乱する竜種。
 
 刹那、上下左右、それこそ縦横無尽に叩き込まれる赤いビームの嵐。瞬時に身体中を余す所無く貫かれる。

 絶叫を上げ、滅茶苦茶に血濡れの体躯を翻して手当たり次第光線を乱射する。

 無数の光線が起ちこめる雲間を蒸発霧散させ、蒼穹を露わにまろび覗かせた。

 竜種に喜怒哀楽の表情を構築する筋組織というものが存在するならば、まさにそれに当て嵌まろう。

 驚愕。

 自身を取り巻くように囲い込む十機以上の真紅の機体。

 そのどれもが瓜二つのコピーされたような姿。

 そのどれかしらからか、怜悧かつ飄々とした少女の声が轟いた。

 「あら? とうとう見付かってしまいましたわね。でも貴方に本物の私が探し出せるかしら。まあ、どちらにしてもこれでチェックメイトですけれども」

 少女の宣言と同時に多勢の機体はまるで空中を優雅にダンスするかのように飛翔し、舞う。

 交差しながら周囲を高速旋回する敵に傷付きながらも光線を撃つ竜種。
 
 しかし幻影のごとく、ことごとく躱されてしまう。

 「フフフッ。 何処を狙っているのかしら? 攻撃とは確実に的確かつ美しくなければなりませんことよ。このように・・・!」

 翻弄するように入り乱れる真紅の機体群が一斉にその構えたライフルの銃口を一点に集中させる。

 竜種という狩るべき対象に。

 「狙い撃つっ! 見敵必殺っっ!! イリュージョン・ダンスマカブルッッッ!!!」

 蒼空に迸る無尽の紅に染まる閃き。

 真紅の舞踏者が繰り出し奏でる旋律のコンチェルト。

 その舞台の直中に縫い止められた異形の怪物は己の断末魔さえも穿たれる煉獄の嵐針に阻まれ、消滅せしめられた。

 塵芥残さずに。

 















 雲が晴れた蒼い空を静寂が包む。

 長躯のライフルを優雅に肩に掛け佇む真紅の狩人。

 そのコックピット内で赤いボディスーツを纏った流れるブロンドの美少女が眼前のコンソールモニターに反応する物体をキャッチする。

 ほくそ笑む金髪の少女エリーゼル・ヴァン・ハイム。

 「・・・はぐれ竜種を追って遠出した甲斐がありましたわね。思わぬ獲物が食い付いたようですわ」

 レーダーに索敵された無数の影はすべて竜種の反応。

 その中でもとりわけ巨大なエネルギー質量を観測する存在がある。

 今しがた駆逐した原竜種よりも高ランク。

 恐らくは『異竜種』。 








 「さあ、もう一仕事と行きましょうか。すべてを喰らい尽くしますわ、ペンドラゴン」




 エリーゼルは美しくも獰猛な微笑を浮かべると愛機のドラグーン、ペンドラゴンを一気に目標地点へと向かうべく、バーニアを加速させた。