複雑・ファジー小説

Re: 竜装機甲ドラグーン ( No.25 )
日時: 2014/03/28 13:13
名前: Frill ◆2t0t7TXjQI (ID: k2zz/GQt)


 エリーゼル・ヴァン・ハイム。

 今は無き、名家の貴族、ハイム家の正当後継者。

 亡き両親はともに巨大生化学企業『エキドナ』の重役幹部のホストを務めていた。

 幼い頃より貴族社会の礼節を学び触れ、自らも父母の期待に応えるべく心身ともに高めようと努力してきた。

 かしずく多くの使用人。たくさんの上流貴族の大人。なんとか取り入ろうと接する必死な態度が幼いながらも滑稽に映った。

 ほとんど顔を合わせない両親。顔色を窺う周りの者たち。与えられる大量の贈り物。自分は着飾られるだけの人形。

 それで良かった。

 自分はそう望まれているのだから。

 人形は綺麗であるべき。優美であるべき。

 だからあの日も両親の望むままに研究施設に連れて来られて実験を受けさせられていた。

 何も知らずに。

 知らずにいればどれほど幸せだったか。

 何故、父も母もいつも自分に冷たい視線を送るのか。

 まるで人形を視るように。

 いつもなかなか会えない両親に逢える機会の検査の日。少し悪戯心で研究施設を探索した。そして見てしまった。知ってしまった。

 呼ばれた様な気がしたのだ。

 いつもここに来ると感じる不思議な感覚。

 だから向かった。どうやって厳重なセキュリティを抜けたのか、わからない。最初から無かったのかもしれない。

 薄暗い実験機材が立ち並ぶ室内。

 大量のカプセルポッド。

 溶液に浮かぶ何人もの、少女。

 それは自分。

 カプセルに記載された数字を見る。

 No.8

 自分の腕の小さな痣を見る。

 No.7

 ああ、そうか。

 本当に人形だった。

 そして彼女は本当の意味で人形になった。

 受け継がれる記憶。経験。すべての情報。

 クローン。

 最初のエリーゼルは病気だった。遺伝子の難病だった。普通の方法では助からない。だから創られた。完全に治療法が見つかる時まで。

 彼女は創り続けられた。

 竜種細胞を取り入れるまで。

 倒壊する施設。逃げ惑う職員。驚愕する父と母。見下ろす自分。巨大な新しい自分の体。紅の装甲。人形。

 己を染める赤。


 







 




 目覚めると其処は機械の竜の胎。

 大勢の大人が慌ただしく、自分を抱きかかえる。

 新しい『エリーゼル』がまた、生まれた。