複雑・ファジー小説

Re: 竜装機甲ドラグーン ( No.30 )
日時: 2014/03/29 22:59
名前: Frill ◆2t0t7TXjQI (ID: LJWVvIF8)

 マリア・アースカードは胸の辺りを押さえてラウンジで首を傾げていた。

 それを隣でエリーゼルが心配そうに聞く。

 「ミス・マリア、どうしましたか?最近調子が悪そうですわね」

 「う〜ん、なんかこう、しっくりこないというか?自分が自分じゃない様な変な感じがするんだよ」

 「・・・メディカルチェック、受ければ?」

 セツナが言う。

 「それがね、何回か受けたんだけど、どこも異常は無いって。竜種細胞も落ち着いてるし、特にこれといって原因も思いつかないし・・・」

 マリアがテーブルに顎を乗せて言う。

 「・・・奇妙な感覚・・・細胞は安定・・・原因は不明・・・」

 エリーゼルが腕を組みブツブツと思考する。

 「少し休んだほうがいい。戦い疲れだと思う」

 セツナがしっかりとした口調でマリアに進言する。

 「・・・そうですわ。ここ最近竜種の大量発生で出ずっぱりでしたもの。精神的に負担が掛かってると思いますわ。休息が必要と判断いたしますわね」

  エリーゼルも同意する。

 「う〜ん、そうか。そうだね、出撃多かったもんね。少し疲れちゃったのかも。それじゃあ、お言葉に甘えて部屋で少し、休ん・・・で、く・・・」

 マリアが立ち上がり歩こうとした時、唐突に床に崩れ落ちた。

 「!? ミス・マリア!!?」

 「!! 医療班を!!!」

 喧騒的なラウンジが騒然となった。










 









 ノイズが走る。

 モノクロの世界。

 まるで大昔の映画のフィルムのようだ。

 大きな立派な病院が映る。

 広い個室のベッドに桜色の髪をした美しくも儚げな女性が優しい笑みで大きなお腹を撫でる。

 とても愛おしそうに。

 その隣で心配そうにする白衣の男性。

 女性は柔らかい微笑みで男性と話す。

 男性は女性のお腹に恐る恐る耳を当て眼を閉じる。

 それはとても幸せそうな光景だった。






















 場面が切り替わった。

 手術室だ。

 鮮血。

 一面の鮮血。

 驚愕する医師たち。

 女性は血にまみれ、手術台の上で震える手を伸ばす。

 腹の上に生まれたての赤ん坊が産声をひとつも上げず、ジっと血濡れの母親を見ている。

 
















 再び場面が切り替わる。

 ひとりの可愛らしいピンクの髪の幼い少女が様々な実験器具を取り付けられている。

 その機材を操作するのは、その少女の父親だ。

 その顔はまるで受験動物を見る様な感情の無いものだ。

 不安そうにする少女。

 その視線の先に巨大なドラグーンが拘束板で固定されている。
 


















 バハムートメディカルルーム集中治療室。

 コードとパイプに繋がれたカプセルの中、桜色の髪が解かれ裸体の少女マリアが納められている。

 大勢の医師、研究員がコンソールのパネルを操作し、互いに専門用語で話をしている。

 それを強化繊維板の防護壁向こうから見守るエリ−ゼル、セツナ。

 慌ただしく動き回る白衣の者たち。




 カプセルの中の少女に一滴の涙が流れたが、誰も気付く者はいなかった。