複雑・ファジー小説
- Re: 竜装機甲ドラグーン ( No.32 )
- 日時: 2014/03/29 22:51
- 名前: Frill ◆2t0t7TXjQI (ID: LJWVvIF8)
穏やかにそよぐ風がカーテンを撫でる。
病室のベッドの上で女性が自分の腹を愛おしそうに触れる。
その部屋に白衣の男が大慌てで入ってきた。
「エイミー!!無事か!?怪我は!?子供たちは!?」
大慌ての男に女性は落ち着いた声で言う。
「大丈夫ですよ、あなた。それより、そんな大声出して。ここは病院ですよ?」
男はたしなめられ、女性が無事なのを確認し、ようやく落ち着く。
「君の実家がある街が竜種に襲われたと聞いて飛んで来たんだが・・・」
「襲われったて、そんな大げさな。街の上を通り過ぎただけよ?風圧でよろけた拍子に掠り傷はしたけど」
そう言って右手に小さく捲かれた包帯を見せる。
男は溜息を吐いて、がっくり膝をつく。
「・・・ジョナサンめ。騙しやがったな、何が緊急事態だ」
「ふふふっ、いつも研究が忙しくて逢えないって言ってたから、気を利かせたんじゃない?」
男、竜種研究及びドラグーン工学の権威、ラーク・アースカードは己の伴侶、エイミー・アースカードの傍に寄ると、大きなお腹を壊れ物のように恐る恐る触れる。
「あいつのことは後でとっちめる。それより、どうだい?調子は」
「ええ、凄く元気よ。私たちの可愛い双子の天使ちゃん」
エイミーの返事に心底嬉しそうにするラーク。
「僕もついに父親か。しかも女の子ふたり、ああ、パパは君たちの未来の旦那が憎い・・・!」
「ふふふっ、まだ生まれてもいないのに。気が早すぎよ、あなた」
そう言って笑いあうふたり。
「名前は決めたのかい?エイミー」
「ええ、姉がマリア、妹はイリアよ」
エイミーの決めた名前にラークは目を瞑り、少し間を置いた後、満足したように満面の笑顔になる。
「マリアにイリアか。実に良い名前だ」
そして二人は未来の娘たちに思いを馳せる。
エイミーは無意識に己の腕に捲かれた包帯を掻く。
その傷がこの夫婦、その胎内の少女たちの運命を大きく変える事になるとはこの時、誰も思いもしなかった。
僅かな傷の隙間から竜種の細胞片が入り込み胎内を侵食するとは。