複雑・ファジー小説
- Re: 竜装機甲ドラグーン ( No.38 )
- 日時: 2014/05/01 13:42
- 名前: Frill ◆2t0t7TXjQI (ID: ar61Jzkp)
剣閃と剣閃が重なり合い打ち鳴らされる。
双剣の連撃と長剣の斬撃が互いに研磨し響きあう。それは流れるように型通りで見る者によっては優雅に映るだろう予定調和な戦いだった。
唐突にワイバーンの剣戟を止めるセツナ。
「・・・なんの真似?これが戦い?馬鹿にしないで」
セツナは数度剣を交わし理解した。手加減されていると。それは彼女の自尊心を痛く傷つけた忌むべき行為だった。
長剣の切っ先を漆黒のドラグーンに突き付け、言う。
「こんな戦いなんかじゃ私は強くなれない・・・。本気で・・・、本気でっ!かかってこいっ!!!」
そして猛スピードで突進し剣を斬りつける。横薙ぎ、袈裟切り、打ち下ろし、時にフェイントを混ぜて、縦横無尽に。
だがそれをすべて双剣で防ぎきる黒の竜機。吸い込まれる様に受け止められてしまう。
それぞれ竜機は翼を広げ、戦いは空へと移る。
強い。
竜種などとは比べるべきも無い強さ。
原竜種の剛鱗を容易く両断した剣の腕。決して機体の性能だけではない本物の強さがここにあるとセツナは思った。
自分もこれほどの手練れならば竜種を、より多くの竜種を殺すことができるのに。
憎い。
憎い竜種を。
憎い竜種をすべて殺す。
「はああああああっ!!!!」
怒重なる長剣の一撃が双剣を跳ね上げ、大きく機体を引き剥がし、距離を作った。
「今だ!!! 激竜モード!!!!」
ワイバーンの外装が瞬時に換装する。
かかげた長剣が、巨大なレーザーブレードへと変形される。
「もらったああああああっ!!! 必殺!!!! 飛龍剣・斬!!!!!」
怒涛の必殺剣を構え、蒼き流星と化し、斬り込む。
自分が繰り出せる最強の攻撃。
何者にも屈しない至高の一撃。
躱せるものなら躱してみろ。
天空を一筋の蒼穹が描き、駆け抜ける。
渾身の力を込めて突き刺す。
狙うはコックピット。
それは搭乗者を殺すこと意味するが自分にはどうでもいい事だ。思えば最近の自分はおかしかった。他人と馴れ合ってばかりいた。
必要ない。
他人など通過点にしか過ぎない。
いらない。
余計なものなど、邪魔なだけだ。
捨ててしまえ。重荷になる。
簡単な事だ。きっとそれで強くなれる。いままでもそれで強くなれた。
だから——————
轟々と迫る蒼き猛撃に漆黒のドラグーンは両手を広げる。
すると、機体全体に高エネルギーが集束され、各所の外装が次々と変形、鋭利な外観に換装されていく。
「なっ!? これはっ!!?」
かかげた黒色の双剣が拡張、展開されて、エネルギーが集約すると、黒いレーザーブレードが形成される。
その姿はまるで、ワイバーンを黒く模倣しているかのようだ。
そして、漲る波動を迸らせ、漆黒の彗星となり、ワイバーンに正面から激突する。
天空で蒼と黒の星が衝突し合う。
衝撃の光波が眩しく辺りを覆う。
火山岩の大地に剣を突き刺し、片膝を着く蒼い竜機。
その眼前に悠々と仁王立つ漆黒の竜機。
セツナは愕然とした。
打ち負けたのだ。
己の全力を払われた。
こんな、こんな事が・・・。
敗北である。
届かなかった。
己の力が・・・。
「う、うぁ、うぁああああぁあぁぁああああっっっ!!!!!!!!」
がむしゃらに剣を振る。
すでにそれは攻撃では無かった。
ただ、振り回していただけだった。
認めたくなかった。
在り得ない。
負けてはならないのだ。
自分は勝ち続けねば、ならないのだ。
戦わなければ。
戦って、勝ち続けなければ———————。
鈍い打撃音と金属を鋭く擦る嫌な音が響き轟く。
セツナの顔が驚愕したものになる。
ワイバーンの長剣は直撃寸前で止められていた。
漆黒のドラグーンの両手が、その切っ先を挟み込んでいた。
真剣白刃取りだ。
瞬間、機体を凄まじい蹴りが跳ね上げた。
「!!?」
一瞬宙に浮く躯体、黒の竜機が拳をゆるやかに構え、そして貫き放った。
蒼い機体の胸にめりこむ手刀。
装甲板を抉り、コックピットを破壊し、背部に突き抜ける。
黒い腕に貫通され、その衝撃でワイバーンは後方に勢いよく吹き飛び、岩壁盤に激突した。
粉塵を上げ、岩壁を破壊し埋まり、倒れるワイバーン。
胸部は破壊され、大きな穴が穿たれている。
静かに構えを解く黒い竜機。
その手には意識を失ったセツナが握られていた。