複雑・ファジー小説
- Re: 竜装機甲ドラグーン ( No.39 )
- 日時: 2014/04/03 23:19
- 名前: Frill ◆2t0t7TXjQI (ID: syyiHjY.)
コックピットを破壊し、迫る巨大な黒い竜機の手。
そして凄まじい衝撃が身体を走り抜けた。
そこで記憶が途絶えた。
意識が落ちる刹那、浮かんだ。
このまま死ぬのか。
もう、竜種を滅ぼすことができなくなる。
姉の仇を取る事ができなくなる。
それは、『嫌』だ——————
白いリノリウムの部屋。
セツナは知らない部屋で眼が覚めた。
無機質で空虚なところが自分の部屋に似ていて、どこか落ち着く。
「ここは・・・」
起き上がろうとするが身体中に鈍い激痛が走りベッドに倒れてしまう。
「くうっ・・・! わたしは・・・生きてる・・・?」
痛む腕を動かし、まだ生があることを確認する。
「・・・無理はするな。全身を衝撃が受けた。細胞の治癒がまだ追い付いていない」
部屋の入り口から声がした。まだ若い女性の声だ。セツナは警戒心を全開にし無理に起きようとする。
だが激痛でそのままベッドから落ちてしまう。
「うぐっ!! はあっ、はあっ・・・」
ベッドの脇に背をもたれ、脂汗を流しながら女を見るセツナ。
セミロングの黒髪。齢は17、18前後ほど、自分より幾つか年上の少女に視える。全身黒いパイロットスーツを着用している。ただその顔は黒いバイザーが覆っており、口元以外に素顔を窺い知ることは出来ない。
唯一分かるのはこの者が漆黒のドラグーンのパイロットであるということだけだ。
「加減はしたつもりだが。あの程度の腕で竜種と戦おうなどとは、とんだ思い上がりだな」
声質はバイザーによって改変されているのか、無機質なものに聞こえる。
「!? なん・・・だ、と・・・!!」
セツナは自身を不定され、反射的に食って掛かろうとするが身体が動かない。
「貴様も思い知っただろう。己の力ではもはや太刀打ち出来ない領域に来てしまったと」
セツナは視線で射殺さんばかりに睨みあげる。
「・・・お前に!わたしの何が・・・!!」
黒衣の少女はその無機質な声と冷たいバイザーの奥の瞳で無慈悲に告げる。
「貴様は、ドラグーンを降りろ」
セツナは眼を見開き、黒衣の女を視る。なにを言っているんだ、この女は?わたしに、ドラグーンに乗る事をやめろと?
「ふざけるな!!わたしは戦う!!すべての竜種を消し去るまで・・・!!!」
黒衣の少女は激昂するセツナに問う。
「・・・貴様を駆りたてるものは何だ?何のために戦う?」
セツナはその問いに静かに、だが怒りに満ちて答える。
「・・・復讐だ。竜種に姉さんを、姉を殺された。だから・・・!!」
セツナの返事に一瞬硬直する黒衣の少女。バイザー越しからでも動揺しているのが解る。
「・・・?」
セツナは訝しんだ。
少し間を置いた後、黒衣の少女は強い口調で、そして冷徹に残酷に言い放つ。
「・・・貴様のドラグーンは破壊した。もう起動することはない」
それはセツナにとって死したも同然、死刑宣告の言葉だった。
「・・・嘘だ、ワイバーンが・・・」
愕然とする。
頭がクラクラとする。
何を言ってるのか、理解できない、したくない。
黒衣の少女は告げる。
「復讐はあきらめろ。ドラグーンなど人が関わるべきものでは無い・・・」
放心しベッドに寄り掛かるセツナを一別し、部屋を出ていく黒衣の少女。
ワイバーンを破壊した?どうやって竜種と戦う?無理だ、竜機がなければ対抗できない。
替えは効かないのだ。同じ竜種細胞でシンクロし、起動させる。他機では駄目なのだ、自分の竜機でなければならない。ある程度の破損なら修復できる。
だが、完全に破壊されたら?
・・・もう、戦うことが出来ない。
姉の仇を取る事が出来ない。
それはセツナの心を折るには十分すぎた。
剣を折られたのだ。
心の剣も一緒に。