複雑・ファジー小説

Re: 竜装機甲ドラグーン ( No.46 )
日時: 2014/04/08 20:06
名前: Frill ◆2t0t7TXjQI (ID: FTPBoNWE)

 眼腔を上空に見上げて強靱な獅子のごとき体躯を震わせ、脈動させるワイバーン。

 蝙蝠の邪悪な巨翼を大きく広げ、ゆっくりと力強く大空へと舞い上がり飛翔する。
 
 それはまさに空の狩人の風格だ。




 

 漆黒のドラグーンのコックピットで黒衣の少女は、猛禽の眼光で射竦められ、絶対的な力量の差を理解した。

 勝てる道理など無い、と。今、目の前に存在する異形はすべてに於いて比肩し得るもののない天空の支配者だ。

 だが、それでもやらなければならない。

 「・・・ワイアームが怯えている。オリジナルにもっとも近いこの機体がこれほど嫌がるなんて・・・。まさか、『ドラグ・バーラー』を手に入れたと言うの?『エキドナ』は・・・」

 黒色の双剣を鋭く構え、蒼い竜機と向かい合う。
 
 全力だ。

 出し惜しみはしない。

 すべての力を凝縮させる。

 この一撃に。

 「ワイアーム!ジェネレーター出力全開!!爆竜モード起動!!!」

 漆黒のドラグーン、ワイアームの機体の各所が反転、展開し鋭角な外装に換装する。

 「黒龍剣・拘束解放!!エネルギー充填開始!!!」

 両腕の双剣の刃が拡張、展開し、エネルギーの波動が流れ込む。波動は双剣を覆い、長大な黒いエネルギーのブレードを形成する。

 「チャージ完了!!出力200%!! ・・・お願い、ワイアーム。あの子を救ってあげて・・・!!」

 そして二対の黒色の双刃をかかげ、斬り込んだ。

 「必殺!!!黒龍光塵剣・断!!!!」

 ワイアームは黒い波動に包まれ、超々加速度の漆黒の流星となる。

 亜音速を超え、隕石衝突に等しい力場干渉で瞬時に撃滅させる。

 その超爆熱が蒼い竜機へと直撃した。









 筈だった。







 何も起きない。


 




 両腕が無かった。

 双剣を携えていた腕が消滅していた。


 「!!?」


 いつの間にか、眼前に蒼い竜機が密着するほどの距離で佇んでいた。

 振り下ろされる剛腕。

 胴を薙ぐ鉤爪。

 それはほんの少し、撫でるだけの感触だった。











 漆黒のドラグーンの半身が分断された。











 

 なにが起きたのか。

 それは一瞬のことだった。



 飛び散る装甲、機体の破片。

 上半を残し、下半は粉砕、細断され散った。

 蒼い腕が両腕の無い残骸となった半身を掴みあげる。

 蒼竜の巨大な顎が開き、むきだしの歯牙が覗く。






 そして、喰らい付いた。





 メキメキと胸部がひしゃげ、潰れる。

 バキバキと装甲が砕かれ、弾ける。

 





 喰っていた。

 文字通り、喰らっていた。












 
 それはもはや戦いでは無かった。

 一匹の暴竜がただ、貪っていただけだった。