複雑・ファジー小説

Re: 竜装機甲ドラグーン ( No.66 )
日時: 2014/04/07 20:56
名前: Frill ◆2t0t7TXjQI (ID: XLYzVf2W)


 風が静寂を運ぶ荒野の大地。

 対峙するワイバーンとヴァリトラ。

 二対のドラグーンを照らす斜陽が濃厚な影法師を切り取り、そこだけ別世界さながらの空間を創り出す。


 「セツナよ、お主がワイバーンの力を御しきれないのは、お主自身の心に原因の根本があるようじゃ」

 シャオが駆るヴァリトラがワイバーンの胸を、コックピットのセツナをあたかも見透かす如く指を指す。

 「・・・わたしの心?」

 「そうじゃ。確かにお主の竜機は強力じゃろう、その分扱いも難しい。じゃが、果たしてそれだけか?本当はお主自身が力を押さえてしまっているからではないか?『恐怖』という枷でな・・・」

 セツナはシャオの言葉に心臓の動悸が激しくなったのを感じた。

 ワイバーンは何によって変質したのか。

 正義感や使命感などの高尚なものではない。

 怒りだ。

 それも凶悪な。

 竜種に対し、懐いた負の感情。

 憎悪。

 そして殺意。

 すべてを滅ぼそうと、力のみを求めた。

 それが、無意識だとしても己が望んだものなのだ。

 全身から汗が噴き出した。

 手が震える。

 怖い。

 あれは駄目だ。

 再び、あの状態になってしまったら?

 セツナは周りを見渡す。

 自分を見守る、シャオ、ルウミン、フェン。

 奪ってしまうかもしれない。

 命を。

 彼女たちだけではない、シェンロンの人々も、バハムートのみんなも、ヨルムガントのみんなも。

 世界中の人々を。

 あの夢のとおりに。

 蒼い暴竜が貪る赤い世界。

 

 
 「大丈夫じゃ、セツナよ。お主はひとりではない。皆がついておる。恐れるでない、自らの力を。その可能性を」

 シャオが静かに、優しく、落ち着いた声で語りかける。

 「もしお主が再び暗闇に落ちたとしても、儂らが必ず拾い上げて見せよう。信じるのだ、仲間を。己の中の力を信じろ」


 「大丈夫だから、セツナさん。僕たちが受け止めてあげてみせる」

 「思い切って解放しちゃいなよ、自分の気持ちをさ。全部吐き出させばスッキリするよ」

 フェンとルウミンが力強く励ます。


 「・・・みんな」

 震えていた手が納まる。心臓の鼓動が緩やかなリズムを打つ。あれほど身を覆った恐怖の幕が晴れやかに上がる。

 そうだ、自分はひとりではない。

 あの時も手を差し伸べてくれた人がいた。

 とても暖かな温もりの光が注いだ。

 大丈夫。

 わたしはやれる。

 もう、道を違えたりはしない。

 わたしの心はわたしのもの、怒りや憎しみには渡さない。



 コックピットでセツナは己の愛機を労うように優しく機体を撫でる。

 「・・・ごめん、ワイバーン。わたしの代わりに怒ってくれて。でももう大丈夫。わたしも一緒に頑張るから」

 そう、ひとりではない。

 この子も一緒なのだから。




 ともに戦う仲間なのだ。