複雑・ファジー小説

Re: 竜装機甲ドラグーン ( No.67 )
日時: 2014/04/08 00:44
名前: Frill ◆2t0t7TXjQI (ID: zc76bp3U)


 ワイバーンのコックピット。

 皆が見守る中、セツナは瞳を閉じ、精神を集中する。

 己に内にたゆたう眠る力の奔流を静かに手繰り寄せる。

 心の海に浮かぶ、様々な感情。

 時として、矢となり刃となり、深くセツナを抉り傷つける。

 過去から巡る深い憎しみ。

 竜種への飽くなき怒り。

 それらが大きな口を開け、負の波間に身体を沈み込ませようとする。

















 微動だにしない蒼い竜機。

 固唾を飲んで見守るシャオ、ルウミン、フェン。

 ワイバーンの身体が僅かに身震いした。












 瞬間。













 口角が全開し、ゾロリと連なる牙が覗く。

 格納されていた巨翼が大きく展開し、禍々しさを伴い、はためかせる。

 奈落の底とも思える暗い口腔から、呻き立つ咆哮を放つ。

 漲る激しい怒気。

 溢れる恐ろしい殺気。

 すべての命あるものを脅かす存在に変貌する。









 




 「・・・ふむ、やはり根は深いか。ここまでは予想どおりじゃな。さて、少し揉んでやるとするかの。フェン、ルウミン。お前たちは決して前に出るな。儂のサポートに徹するんじゃぞ」

 シャオは後ろに控える弟子たちに振り替える事無く、落ち着いた口調で話す。

 「はい、老師。ここからでも嫌と言うほど解ります。セツナさんの心に巣食う『闇』がどれほど大きいのかを・・・」

 フェンがコックピットで浴びせられかける重圧に、伝う汗をぬぐう。

 「悔しいけど、アタシたちじゃ太刀打ちできない・・・。セツナさんの心の痛みが伝わってきて苦しい。そして凄く悲しい気持ちが、これは寂しさ・・・?」

 ルウミンが苦しそうに自分の胸を押さえる。












 蒼い暴竜が己の前に立つ三機のドラグーンに視線を向ける。

 白い呼気を吐きながら、身の毛を粟立だせる双眸でこれから喰らう獲物を見定めるように。

 






 その強靱な猛獣の前肢を一歩踏み出した。

 誰もがそう思った。

 瞬時に身構える、ヴァリトラ、ショクイン、ペクヨン。だが、















 ルウミンのペクヨンの眼前にワイバーンが密着していた。
 

 「「!!?」」

 機体の両肩を万力のごとく掴み上げ、暴竜の巨大な顎部が噛み砕くため開く。

 
 砕ける外装、弾ける装甲。

 














 顔部に打ち込まれた正拳。

 機片を散らし、仰け反る蒼い暴竜。

 繰り出される白亜のドラグーンの連撃。

 ワイバーンの胸部に添えられる掌底。

 「機功・芯破掌」

 シャオの凜声が木霊する。

 大地を穿ち、吹き飛ぶワイバーン。
 
 














 一瞬だった。

 今のは何だ。

 停止した思考を鋭い叱責が呼び覚ます。

 「構えろっ!!フェン!!ルウミン!!来るぞっ!!!」


 抉れた大地の先にワイバーンがユラリと四肢を四足獣のごとく立て、咆哮を上げると、姿が掻き消えた。


 「むっ!?上か!!!」 

 すかさず上空を見上げるヴァリトラ。

 刹那、蒼い躯体が降り、衝撃が大地を呑み込む。