複雑・ファジー小説

Re: 竜装機甲ドラグーン ( No.83 )
日時: 2014/04/12 23:17
名前: Frill ◆2t0t7TXjQI (ID: 7lLc0QEy)

 Act.9 哀しみの遺産 父の形見


 マリア・アーカードは考えていた。

 格納ドッグでドラグーン、ヒュドラを見上げる。

 この機体を見ていると思いだす。

 父の事を。

 既にこの世にいない亡き父親。

 かつて竜種研究の第一人者であり、ドラグーン工学の権威として名が知れた科学者だった。

 人類のために素晴らしい偉業を立てた実績と経緯を持ち、誇らしく自慢の父親である。

 マリアはそんな父が大好きだった。

 たったひとりの家族でもあったから。

 だが、父はそうではなかった。

 自分を見る目は己の娘のを見るものでは無く、実験対象として冷酷に見ていた。


 仕方ないとマリアは思う。

 自分は妹と母を手に掛けたのだから。

 覚えているから、片割れを喰らい、母体の腹を裂き、鉄の味の産湯を浴びて誕生したことを鮮明に、細部まで。

 生まれながらの化け物。

 胎内で竜種細胞を取り込み変異した特殊適合体。

 憎まれ、蔑まれ、殺されても文句は言えないが、科学者だろうか父は研究の対象として生かしてくれた。

 以降は様々な実験を繰り返し、日々を過ごす。

 少しでも罪滅ぼしになればと、抵抗はせず、身を委ねた。

 そしてあの日、あの実験が行われた。

 ドラグーン、ヒュドラの起動実験が。

 それが父の最後となってしまった。







 「・・・あたしはどうすればいいのかな、イリア・・・?」 

 己の胸に手を当て問いかける。

 聞こえるのはトクトクと規則正しい鼓動のリズムだけ。

 でも感じるもうひとつの命の波動。

 それが優しく答える。

 自らの赴くままに進めと歩み続けろと。


 「・・・うん、そうだね。進んでみるよ、あたしはあたしの道を」


 それは暗闇を手探りで進む感覚だったが、不安はなかった。

 なぜなら黄金の道標が行く手を照らしていたから。

 
 「今度のバハムートの航行予定経路はアメリカ大陸だから、その時行ってみようと思う。お父さんの研究所に・・・」

 そう言ってヒュドラを見上げるマリア。

 「あー、でも竜種がわんさか出てきそうだから一緒にセツナっちとエリっちにも来てもらおうかな?」

 
 その時けたたましいサイレンが艦内に鳴り響くと共に艦内放送が聞こえる。

 「竜種接近警報が発令されました!!速やかに乗員は・・・」



 マリアは直ぐにヒュドラに乗り込む。

 その後、ドッグにセツナとエリーゼルもやって来るのが見えたが、マリアは一足先に格納ハッチを開閉し言う。

 「ふたりともー!あたしは先に行って暴れてくるからー!!」



 そしていつもの様に明黄のドラグーンの巨体を稼働させ、大空へと飛翔していった。