複雑・ファジー小説
- ある暗殺者と錬金術師の物語 ( No.1 )
- 日時: 2014/08/24 22:27
- 名前: 鮭 (ID: BOBXw5Wb)
第1話
中世の西洋を思わせるレンガ造りの建物がいくつも並ぶ町。今は夜ということもあり、街灯がレンガ造りの建物をうっすらと映していた。そんな中に明らかに周りの建物よりも大きい豪邸があった。
「警備の方は問題ないのか?」
「はい。屋敷の中から外まで警備は完璧です」
中年でやや小太り気味な男が黒いスーツにサングラスの男に確認し、男も問題がないことを答えた。
その様子を見ようと部屋の窓に近づき、広い庭に何人も配置された警備の男たちを確認した。
その瞬間、中年の男は何かの衝撃を受けるようにして仰向けに倒れた。胸元には撃たれたような跡があり、すぐに中年の男に駆け寄った。
「ターゲット…ロスト…」
豪邸から数百メートル離れた一軒家の屋根の上で、一人小さく呟くように青年は右手に持つ黒いリボルバー式の銃を腰に納め、遠くに見える豪邸の様子を伺った。
青年は黒髪で前髪を眉まで延ばし短髪のぼさぼさ頭。黒いジャケットにズボンを身につけ足まで延びた黒いコートを羽織っていた。年齢は20歳前後で赤い瞳はじっと豪邸を見据えていた。
「誰かいるの?」
不意に聞こえる声に青年は反射的に振り向く。
そこには月明かりに照らされベランダに立つ人物がいた。黒い長髪が特徴的で、大きく青い瞳が青年を見据えている。
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まったく予想していなかった背後からの声に、咄嗟に銃を抜こうとして俺は手を止めた。
声をかけたのは、自分と年が変わらない女性だった。もし見られたのならと考えた時
「今…大きな音がしたけどもしかして花火?」
一瞬何を言っているか分からなかった。
見ず知らずの男が自分の家の、しかも屋根の上にいる状況で問いかけるような質問ではない。銃声を聞かれたかと思ったが、まさか花火と間違えているのか?
「いや…今はそんなものはやってない。邪魔したな…」
「あなた…」
「ん?」
面倒なことになる前に離れようとした時、呼び止められ咄嗟に目の前の相手を殺す必要があるかを考えた。
「あなたの瞳…なんだか…悲しそう…」
唐突な相手の言葉を俺は理解できなかった。
時間にしてほんの数秒、俺は相手から目を離せずにいた。
悲しい?俺が?
自問自答のくり返しは、実際の数秒を何分もその場にいたように感じさせた。
「じゃあな。」
踵を返しすぐ隣の屋根に跳躍し、すぐに次の家の屋根に飛び移ってその場を離れた。
彼女の視線が感じなくなるまで…