複雑・ファジー小説
- ある暗殺者と錬金術師の物語 ( No.11 )
- 日時: 2014/06/24 21:49
- 名前: 鮭 (ID: bcCpS5uI)
第10話
「ごちそうさま!」
リーネは昼食のチャーハンを食べ終えて大きな声で食事の終了を大きな声で宣言し、食器を流しに置いた。
「確か今日はキルが当番だよね?」
「ああ。そういえばカグヤと変わったな」
先日カグヤと皿洗いの当番を変わったことを思い出したキルは面倒そうにため息をした。
「それで…あんたはいつまでいるのよ?」
「ん?」
カグヤの睨みの対象になったのは何事もないようにチャーハンを食べるジンだった。
カグヤと組み手をしてから3日になるがジンはそのまま居座り続けていた。
「あはは。ここがあまりに居心地がいいからつい居座ったよ」
「もうカグヤちゃんったら。好きなだけいていいからね?」
サクヤがにっこりとしたまま話をする中、リーネが部屋を出ようとしている様子に気づいたカグヤは普段と違うリーネに首を傾げた。
「リーネ?あんたまたお昼寝?」
「違うよ!えっと…ちょっと用事があるの!夕食までには戻るから!」
カグヤの言葉に答え、リーネはそそくさと部屋を出ていってしまった。
「夕食には来るのかよ…」
「あら?リーネちゃんが来ないと夕ご飯は食べられないわよ?」
キルの呆れた様な呟きに対しサクヤはにこやかに夕食に影響のある言葉を発して、すぐさま慌てるキルに3人は笑っていた。
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家に帰った私はすぐに地下室に向かった。
この部屋を私が見つけたのはちょうど数日前。夕食のために出かけようとして廊下で転んでしまい、その時に床が抜けて偶然見つけた地下室。
梯子を下りて行くと中は石造りで、広さは6畳ほどの部屋になっていた。私がここに優先してくるようになったのは本棚に置いてあった一冊の本だった。
(お父さん…ここでいつも勉強していたんだ…)
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「そういえばリーネは一人暮らしみたいだけど家族とかいないのか?」
昼食を終えてジンは早々にいなくなったリーネについて椅子に座ったまま、事情を知っていると見られるサクヤに問いかけた。
忘れていたが実際、俺は身寄りがないからという名目で食事の世話になっていることを考えれば、リーネも同じ境遇だと予測はできる。
「えっと…リーネちゃんの家族はリーネちゃんが小さいころに亡くなっちゃったの。でもお父さんはすごく有名な錬金術師だって話は聞いていたことあるなぁ…」
「ん?もしかしてそれってクロム・アニミスって錬金術師か?」
話を聞いているうちに俺は以前にとある人物から聞いた名前を思い出した。
「あら?まさかキルがそういうことに詳しいと思わなかったわね」
カグヤの意外そうな口ぶりに思わず苦笑いをしてしまった。
こいつの中で俺はどんな扱いになっているんだ…。
「一時期は錬金術師としては五本の指に入るとか言われていたからな。」
「そんなすごい人なのに亡くなったのか?」
ジンの言葉を聞き、カグヤは小さなため息を漏らしてから椅子に寄り掛り天井にゆっくりと視線を向けた。
「リーネの家族はね。普通に死んだわけじゃないの…」
「カグヤちゃんだめよ!」
カグヤの言葉に対してサクヤは制止を掛けた。
サクヤが大きい声で制止を掛けることはそうはないことからよほどのことがあったと考えられた。
「サクヤ姉ちゃんがそんな声出すなんて余程だな…」
「何があった?あいつの家族に…」
ジンの言葉もあり俺も気になった。
興味本位に聞いたわけではなかった。遠い記憶にあるやり取りを思い出したからだ。
「リーネの家族は殺されたの。しかも二人とも体から魔力が残らずなくなっていたらしいわ」
説明をしたのはカグヤだった。サクヤは俯いたまま黙っていた。
「魔力って所謂体力とかそういうものじゃないのか?」
「それ以前に物質を構成するためのものでしょ?だから遺体は触った瞬間に砂みたいになったわ…」
カグヤは説明をしていく中、体を震わせていた。
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私はお父さんが残してくれていた本を読んで少しずつ確実に頭に入れていった。
錬金術は何もないところから物を生み出すものではない。
材料の構成を作り替え別の物を生み出す力であること
その力を使えるのは素養があるものであること
体の魔力を自在に操れる、具体的に魔力を一時的になくすことで行える術であること。
(前にフランって人が見せたのは何だったんだろう)
考えを巡らせたが今の私には分からなかった。ふと本の間から一枚のメモが落ち、拾ったメモに視線を向け書かれていた内容に視線を向けた。
「えっ?」
メモに書かれていた内容に私は思わず声をあげてしまった。
そこに書かれていたのは私の名前とある文章、図面だった。
「う…うそ…じゃあ…私が魔法を使えないのって…」
無意識に錬金術でメモを燃やして投げ捨てた。
錬金術で空気中の酸素に刺激を与えメモを燃やしたんだと理解した頃には私は家を飛び出していた。
「あら?リーネちゃん?」
サクヤお姉ちゃんの声が聞こえた気がした。
でも私は走った。
今走るのをやめたらどうにかなりそうだったから…。
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「あっ!お姉ちゃん。どうかしたの?」
「カグヤちゃん?えっと…いまリーネちゃんが街の外に向かって走っていったから…」
庭で商品となる花の手入れをしながらサクヤはカグヤに今あったことを説明していった。
「えっ?ちょっとそれまずいわよ!今外に魔物が出ているらしいから気をつけるようにって回覧が来たから注意しに来たのに…」
「えっ?大変!早く呼び戻さないと!」
サクヤはリーネが走って行った方向に視線を向け、呼び戻そうとするがすでに姿は見えなかった。
同時に飛び出したカグヤはローラーブレードで街の外に走って行った。