複雑・ファジー小説

ある暗殺者と錬金術師の物語 ( No.12 )
日時: 2014/06/24 18:08
名前: 鮭 (ID: bcCpS5uI)

第11話

私は街を出て森の中に入った。
無意識のままに走り続け、不意に木の根に引っかかって視界が一瞬暗転した。

「いたた…」

ゆっくりと体を反転させて、仰向けになった私の目の前には、森の木々とその間からは青空が見えていた。肌に感じるのは今の時期的にやや肌寒い風。

(私…何をしているのかな…)

頭の中が真っ白になり勢いで飛び出してしまった。
そういえば途中でサクヤお姉ちゃんに声を掛けられた気がした。

(帰ろうかな…でも…)

頭の中で葛藤している時、不意に獣の鳴き声が耳に入った。
大型の魔物ではなく小さな獣の声だった。

「誰?誰かいるの?」

ガサガサと茂みが揺れる中、緊張しながら少しずつ距離を置いて正体を伺う。
ジッと茂みの中から現れたのは、あちこちに怪我をした蒼い毛並みのウルフだった。大きさは子犬と変わらないから多分、子どもだと思う。

「ボロボロ…大丈夫?おいで…」

フラフラとした足取りでありながらも私に対して威嚇するように小さな唸り声を上げ震えている。

「大丈夫…私は何もしないよ…」

ゆっくりと私は小さいウルフに歩み寄った。
その瞬間、今まで聞いたことがないような鳴き声が辺りに響いた。
その声に驚いた様子のウルフもビクッとして体を震わせている。
今度は恐怖の表情のように感じた。
大きな木々をなぎ倒して近づいてくる足音に、私自身も体が震えたから。

「グリズリー?」

真っ先に姿を見せたのは私よりも大きい熊の魔物だった。ぞろぞろと現れた魔物に後ずさりし、何匹もいる魔物の内何匹かはウルフを狙っているようだった。

「あっ!だめ!」

ウルフを狙おうとする様子を見た私は、咄嗟にウルフを抱き走りだした。

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リーネはウルフを抱いたまま魔物たちから逃げ続けた。本来魔物はここまで町の近くまで来ることもなく、さらに集団で群れをなすのは一部だけだった。

「何で…急に…それに…」

リーネが気にしていたのはもう一つの要因だった。木々をなぎ倒していたのは明らかに今見たグリズリーよりも巨大だった。
しかしこの周辺で一番大きい魔物は今見たグリズリーであった。

走りながら思考を巡らせ続ける中、新しく現れた魔物に足を止めた。
現れたのは黒いウルフの集団だった。その瞬間、抱いていたウルフがビクリとした。
ウルフ達の様子からリーネは状況を理解した。

「もしかして…君…皆に苛められたの?」

この周辺にいるウルフの魔物は黒いものが普通であり、蒼い毛並みの魔物は本来存在しなかった。
そのことから同族から虐げられたと思われた。

(この子は絶対…守らないと…)

リーネはウルフをしっかりと抱きしめて逃げようとするが、すっかり辺りは魔物達に囲まれてしまっていた。
リーネが辺りに神経を巡らせている間にウルフの一匹が飛びかかってきた。
それに気付くのが遅れて反応出来ずにいた瞬間、黒い影が目の前を通り抜け同時にウルフは地面に叩きつけられた。

「この!バカ!!心配したでしょ!」
「カグヤ…ちゃん…」

驚いて座り込んだ状態のリーネを見降ろすのはカグヤ。今までに見せたことがない程の怒りの表情を浮かべていた。

「あんたに対する説教は後!とりあえず…まずはここから逃げないとね。」

周りにいる魔物は2種類。狼と熊がそれぞれ5,6体ずつ集まっていた。

「やっぱり危ないよ。早く逃げないと」
「問題ないわよ。そ・れ・と・も!私がやられると思っているわけ?」

リーネの視線には顔を近づけて問いかけるカグヤとその後ろから熊の魔物が爪を煌かせて迫る姿だった。

「カグヤちゃん!」
「うるさいわね!どいつもこいつも!」

すぐに魔物に視線を向け、振り下ろされる腕をローラーブレードに魔力を込めたまま蹴りあげ、怯んだ所に拳を入れ魔物は重力を感じさせないように吹き飛び木に叩きつけられた。
それと共に腰からサブマシンガンを取り出しウルフの集団に乱射して牽制した。

「それにしても何でこんなに出てきているのよ!」

次々と迫る魔物たちに対して、細い手足からは信じられないほどの攻撃で次々と魔物をなぎ倒していき、最後の一匹に対して横蹴りで倒し軽く息を整えた。

「カグヤちゃん…。私…」
「何よ?言い訳?一応聞いてあげるわよ」

座ったままのリーネはウルフを抱きしめたまま瞳に涙を溜めており、さすがのカグヤもリーネの前にしゃがむ。

「私ね…お父さんとお母さんの本当の子供じゃないの…。それどころか…」
「何よ?遺伝子操作でもされていたとか?」
「えっ?」

カグヤは立ち上がり、腰に手を当ててため息を見せつけるようにしてからポンとリーネの頭に手を乗せた。

「あんた…まさかそんなことで私達があんたを嫌いになるとか思ったんじゃないわよね?」
「で…でも…私…」

今にも泣きだしそうなリーネにカグヤは肩に手を当てて視線を重ねる。

「あんたが何であろうといいわよ。…その…あんたが何であろうと私の友達なのよ!分かった!」
「カグヤちゃん…」

涙を流すリーネにカグヤは視線を外して頬を掻き赤くなる中、不意に地響きが辺りに響いた。

「えっ?今の奴らだけじゃないわけ!?」
「うん…なんかすごく大きいのがいそう…」

同時にリーネに抱かれたウルフは地面に下り一点を見つめている。
その先からは7〜8メートルはある黒い巨体に背中には翼、いかなるものも砕くことが出来そうな牙を持つ爬虫類が姿を現した。。

「えっと…リーネ?私の勘違いかしら?私にはドラゴンに見えるけど?」
「うん…私にもドラゴンに見えるよ…」

足が竦んでしまいそうなほどの怒号が辺りに響き渡り、ウルフとともにカグヤとリーネも身動きが取れなくなった。

「何でドラゴンがこんな場所にいるのよ…。この辺にこんな魔物いなかったじゃない…」

すでに魔物の処理のせいでサブマシンガンが弾切れの上に移動のために魔力を大幅に使い、残りの魔力も魔物との戦闘により完全に尽きたカグヤ、戦闘能力が皆無のリーネのみでは到底倒せそうにない相手だった。

「ちょっとまずいわね…」
「カグヤちゃん!早く逃げて」

リーネの言葉と同時か少し遅れてドラゴンは火炎のブレスを吐き、その炎で二人と一匹が焼かれそうとしていた。その瞬間、目の前で突風が吹き炎を消し去った。

「えっ?今の…何?カグヤちゃん?」
「違うわよ。魔法?でも魔力なんて感じなかった。」

二人が困惑している間にさらにドラゴンが何かの衝撃を頭に受けて後ずさりする。

「何だ?この辺りはドラゴンが出るのか?」

背後からの声に驚き、振り向く二人にはすでに見知った人物が立っていた。

「キル?今のあんたがやった訳!?」
「話は後だ。それで…こいつはどうした方がいい?」

銃を片手に持ったキルは、怯みながらもドラゴンの敵意を自分に向けさせた。
銃を持ったまま見せる冷徹ささえ見える笑みにカグヤは一瞬恐怖を感じた。
今までに見たことのないその表情は普段とは全く違っていた。その様子に気づきながらもリーネは視線をキルに向けた。

「キル…」
「何だ?」
「あの子は倒さないで…多分訳があってここにいるから…だから…」

リーネに一度視線を向けるキルはドラゴンに視線を戻してから大きく深呼吸し、そのまま今度はいつものような笑みを浮かべた。

「つまり…こいつの命を奪わずに戦闘不能にするんだな。なかなか難しいな」
「キルならできるでしょ?お願い。」
「…分かった。この依頼の報酬は高いからな?」

ドラゴンを前にしたキルの表情には恐怖がまったく感じられなかった。
むしろ先ほどと違い、楽しげな表情を浮かべていた。それがドラゴンを目の前にしたリーネとカグヤに安心感を与えた。