複雑・ファジー小説

ある暗殺者と錬金術師の物語 ( No.13 )
日時: 2014/06/24 22:49
名前: 鮭 (ID: bcCpS5uI)

第12話

本日のターゲット。

ああ…問題ない。

K…詰まらなそうね。

ああ…つまらないな…簡単で気分も悪い…

そんなの変…任務にそんな感情いらない。

俺はそう考えるのは無理だ…。いずれ俺もRと同じになるだろ。

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目の前にいるドラゴンは7〜8メートルはある巨体、後ろにはカグヤとリーネ。
状況的にも俺にとって不利以外のなにものでもなかった。

「とりあえずこの状況は良くないよな。」

小さく呟き、同時に跳躍してドラゴンの顔の前で握り拳を作り、そのまま横に殴り巨体を倒した。

「ちょっとあんた!今…」
「ん?ああ…お前の技とは違う。ただの素手だ。」

カグヤの言いたいことを何となく察し簡単に答えた。

ドラゴンは怒号を上げながら立ち上がったが、その隙に銃弾を3発腹部に発砲した。
しかし衝撃で後ずさりするが、傷自体はまったく受けていなかった。

「こいつは思ったより頑丈だな」

ドラゴンはそのまま大きな爪を振り下ろし、それを横に避けつつ銃弾を3発反対の腕に打ち込み、連続攻撃を妨害しながら距離を取った。

「ちょっと!大丈夫なわけ?」
「まあな。とりあえず単純な攻撃では無理だな」

銃弾、打撃共に殆ど効果がない様子の魔物を前にしているにも関わらず、俺は不思議と恐怖はなかった。

今まで同様に命を奪うあるいはその手前にするのは簡単。
正直ターゲットを無事なまま動きを止めるというのは初めてで、任務としてはある意味最も困難だった。
それでも今までのような気分の悪さはなかった。

「さて…そろそろ任務を遂行するか」

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「変わった…」
「えっ?」

リーネの呟きにカグヤは振り向いた。
近くにいたウルフもリーネの近くで落ち着いた様子で寄り添っていた。

「変わったって?」
「キルの目の色…それに…何か…今までと違う。」 

目を凝らしてキルに視線を向け、カグヤもようやく異変に気付いた

「目が…青になっている?」

キルは銃のシリンダーを開き銃弾を込める。
すでにその瞳は何かを見通しているようにさえ見えた。
弾を込め終えたキルはドラゴンに対して銃を構える。

「あいつ!何をする気!?それじゃあさっきと…」

カグヤが言葉を発する途中でキルは銃弾を4発ドラゴンの両手両足に一発ずつ発砲し、その衝撃で一瞬怯んだところでそのまま銃弾を2発発砲した。

「外れた?」
「えっ?外れたわけ?」

銃弾がドラゴンの顔の横をギリギリ走る形で外れていく弾道を確認したリーネの言葉に、カグヤは視線をドラゴンに向ける。
その瞬間ドラゴンは地響きをたて倒れた。

「ターゲット・バインド」

銃を納めるキルに対してリーネはドラゴンにすぐに歩み寄った。

「この子…死んじゃったの?」
「一時的な硬直だ。人間で言う軽い脳震盪だ。」

ドラゴン自体は意識があるようだが身動きが取れないようだった。

「あんた…さっき銃弾外れていたの?」
「ああ。正確には外したんだ。銃弾が頭をかすめることでその時の衝撃で脳を刺激させるって奴だ。」
「でも相手はドラゴンよ?それに銃弾の衝撃って…人間ならまだしも!」

カグヤの問いかけに対してキルは2種類の弾丸を取りだした。
一つは一般的な銃弾に対し、もう一つは緑の銃弾だった。

「こっちの緑色の弾は魔法弾だ。属性は風。衝撃波を撃てる弾丸だ。後は同じ生き物だからどこに撃つと効果的なのかは簡単だ」

キルの赤い瞳がドラゴンに向けられ、生きていることが分かったリーネは安心したように座り込んだ。

「さっさと戻るぞ。もう少しでこいつ動けるようになるぞ。」

キルは銃を納めてカグヤとリーネもその場を去ろうとした時、リーネの隣にいたウルフが倒れた。

「キル!この子怪我している」
「緊張が解けたのか。しかし初めて見る種類だな。突然変異か?」

倒れたウルフを見たキルは今まで見たことがない魔物を見てジッと体を確認していった。

「キル?あんた分かるの?」
「基本的な生物は全部同じだからな。こいつ…怪我しているな…骨か…」

キルはウルフに視線を向けていき異変に気付いた。
緊張は解けたことにより痛みから倒れたと考えられた。

「早くこの子を病院に!」
「無理よ…魔物を見てくれる病院なんかないわよ」

街には動物病院自体はあるものの魔物の面倒を見てくれるような病院は当然なかった。

「…じゃあ…私が…」
「リーネ?あんた…魔法なんて全然使えないじゃない」
「魔法は使わないよ…」

リーネはジッとウルフに視線を向け、そっと手を怪我していると思われる箇所に触れさせた。

「リーネ?あんた何を…」
「リーネにまかせてやれ」

瞳を閉じて集中をしているような様子のリーネに対して声を掛けようとする様子のカグヤをキルは制止した。

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私はウルフから感じる体温、肌の感触だけを感じとるために瞳を閉じて集中した。

(この子を助けるには…今は…)

私はこの何日かだけ読んだ本を思い出していた。様々な専門書の中にあった魔物に関する内容を頭に描く。

(魔物の骨格は頭に入っている…直すための材料になる骨もこの子の中にある…)

頭に練成の内容を浮かべ、幸い材料も揃っている。後は私が出来るかという点だけだった。

意識をさらに集中させていき、本に書いてあった術を発動させた。その瞬間倒れたウルフが光に包まれ始めた。

「光?」
「錬金術だな…」

二人の声が聞こえる中、頭の中で少しずつウルフの骨が再生していくイメージをしていった。
生物練成は本来、禁忌で初心者の私には無謀なのは分かっていた。

(でも…この子を…私は助けたいから…)

光が徐々に収まり、さっきまで苦しんでいた様子のウルフの呼吸が落ち着いて来たように見えた。
ボロボロの体が見た目では回復できているようで私はキルに視線を向けた。

「キル…大丈夫かな?」
「…心音は安定している…骨格もおかしくない…頑張ったな。」

キルの言葉を聞いて成功したことが分かった。同時に意識がそのまま暗転した。

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「リーネ!」
「大丈夫だ…いきなりのこんな練成で疲れたんだな。」

リーネとウルフは落ち着いたような様子で眠っていた。俺は一度倒れたままのドラゴンに視線を向けた。

「カグヤ。少し調べたいことがあるから先に帰っていてくれ。リーネが助けたこいつも連れて行ってやれよ。後で泣かれると困るからよ」
「まあ別にいいけど…重いからさっさと来なさいよ」

カグヤはリーネを背中におぶりウルフを抱き上げて街へと戻って行った。
カグヤ達の姿が見えなくなってから、いつまでも倒れているドラゴンに再び視線を向けて辺りを見回した。

「いいかげん出てこいよ」

森の茂みに視線を向け、茂みから現れたのは10代前半くらいの少女。
長髪の銀髪を黒のリボンでツインテールにし黒のローブで膝丈までの長さのスカートと一対になっている。ローブの上には肩パット付きの黒衣のマントを身につけている。そして背中には少女よりもはるかに大きい大鎌を背負っていた。

「K…久しぶり…」
「Rか…何の用だ?」
「この子の回収。それとあなたへの呼び出しの伝言」

Rは俺の所属している組織の中で上位ランクに位置する存在で、実力も5本の指に入る。
Rが背中の鎌を片手に持ち倒れているドラゴンを軽く叩き、ゆっくりと起き上がるドラゴンに跨った。

俺は目の能力が特化しているのに対しRが特化しているのは腕力。
その気になれば、今跨っているドラゴンも片手で運べる。また生き物と会話もでき、ドラゴンとともに戦闘をこなす。ある国では竜騎士とも呼ばれている。

「お前のドラゴンだったのか。ずいぶん凄いのを見つけたな。」
「…あなた…本当にK?普段のあなたならこの子くらい簡単に止められるはず…。とりあえず明日…集合。用件は伝えた…」

俺の言葉に対して、Rは全く表情を変えずに一度俺に視線を向けてから用件だけ伝えて背中に鎌を戻し、そのまま飛び去って行った。

「明日か…いよいよこことも別れの時だな…」

いつの間にか当たり前のようになっていた日常を思い出しながら、俺はいつもよりも赤く見える夕焼けを眺め続けた。